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次世代の日本映画界を引っ張っていく未来の巨匠との呼び声も
《濱口竜介プロスペクティヴ in Kansai》
大注目の監督、濱口竜介 超ロングインタビュー
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 異例と言ってよいであろう。京阪神5館の劇場で同時期に34歳の映画作家の大規模な特集上映が開催される。昨年夏に東京で行われた特集上映では2週間のレイトショーで1500人を動員した濱口竜介。数年前から関西でも劇場関係者、映画ファンの間でしばしば話題に上っていた名前だ。

 6月29日(土)より大阪と神戸、追って京都でスタートする《濱口竜介プロスペクティヴ in Kansai》。期待の高さ、作品のクオリティは多くを語らずともその開催規模が証明している。この春に活動拠点を神戸に移した濱口竜介監督に過去から現在、そして今後の映画作りについて、これもまた異例のロングインタビューを行った。なお、インタビューでタイトルの挙がった濱口監督作品はすべて今回のプロスペクティヴで観ることができる。

──まずは濱口監督の映画作りの分岐点、そのあたりから訊いていきたいのですが、1998年に大学入学後、映研に在籍して作品制作を始め、そして卒論のテーマがジョン・カサヴェテスだったんですよね?

 

「そうですね、カサヴェテス論が卒論でした。カサヴェテスの作品って、ごく普通の一般的な映画として考えると非常に変なんです。人がダラダラと物語を進めるでもなく呑んだくれて歌ったり、ありえないレベルの喧嘩がずっと続いたり。人によっては苦痛に感じると思うのですが、僕はとても好きだったんです。2000年に『ハズバンズ』を観て感動して、映画をちゃんと撮ろうと思ったのはそれからだと言っていいと思います」

 

──2000年といえば、特集上映《カサヴェテス2000》が開催された時期ですね。“変な映画”の一体どのあたりに惹かれたのでしょうか。

 

「普段、映画では観たことのない“感情”みたいなものが映っている気がしたんです。もちろん他の映画にも映っているかもしれませんが、彼の映画の中には人生の中の感情……もしかしたらそれをさらに越えた感情が映っている気がして「果たしてそういうものを映画に撮ることができるのだろうか?」という想いが湧きました。技術云々ではない、何がしか人の感情的なものが映せるのか? そんなことを考えながら撮ったのが『PASSION』(2008)だったと思いますね」

 

──『PASSION』はカサヴェテス色の濃い作品ですね。

 

「2006年に東京藝術大学大学院映像研究科に入って、修了制作の『PASSION』を作る時点で映画を撮り始めてほぼ10年。10年分の自分のしたいことを詰め込んだのがあの作品でした」

 

──そこで濱口竜介という名前を知った人も多いかと思います。少し乱暴に一言でいえば「面倒な男と女たちの物語」ですが(笑)、登場人物たちの関係性はどう作られました?

 

「男女5人、あるいは6人の物語がそもそも好きなんです。古くは90年代初頭のトレンディドラマをね、よく観ていたんです(笑)。新聞のテレビ欄にはだいたい5人か6人くらいまで出演者の名前が載っていて、彼たち彼女たちの関係性がシャッフルされながらドラマが12回展開するのを、案外息を詰めて観ていた気がします。後に映画を観始めるようになっても結局そういうものが好きなままで、でも映画にするのは何だか少し恥ずかしかった。ただあるとき、フランスの映画作家、ジャン・グレミヨンの『高原の情熱』や『白い足』を観て、映画として素晴らしいんだけども、ある意味5人程度の男女の関係性の話という点では同じで、「ああ、別に自分の好きなことをそのままやってもいいのかも知れない」と勇気を得ました。男女4人だとちょっと収まりがよすぎるんです。カップルが入れ替わっておしまいか元サヤかぐらいしか展開がないけど、5人だとあぶれる奴や自由な動きをする奴が出てきたりして少し含みが出るというか。元々のそうした恋愛ドラマの好みがそのまま『PASSION』に反映されている気がします」

 

──「関係性のシャッフル」というモチーフは『親密さ』(2012)など、濱口監督のその後の作品へ引き継がれています。それを具体化する手法がキレのあるカメラワークで、『PASSION』を撮影していた時に発見したり、気づいたことはあったのでしょうか?

 

「『PASSION』以前は自分の中の技術を磨く方向性で撮っていたところがあって。映画の技術のひとつに「役者さんに対してどういう風にカメラを置くか」ということがあります。置く位置によって編集のしやすさも変わってくる。昔はそういうことをとても厳密に行っていたんですよね。カメラが中心で役者はそれに奉仕する、役者がカメラに対してどう動くかという考えで進めていました。感情の面においても、役者個人の感情表現みたいなものはあまり許さなかったり、物語として必要のないものはおさえ込んでいた気がするんです。カメラによって映画を作る、という感覚ですね。でも、『PASSION』ではその主従関係を逆転させようと考えました。役者の動きにカメラを合わせてゆく、もしくはどれだけ動いてもそれを捕まえられる空間を作って、その中で“ここだ”と思うところにカメラを置いてみたり、役者が自分自身の感情を使って演技をできるように腐心しました。当時は明確にそう思っていたわけではないですが、そうしなければ自分の目指しているものから離れてしまう、このままだと上手くなっても本来自分が好きな映画からはどんどん離れてしまう、という想いがありました」

 

──『PASSION』でその狙いが成功したと実感されたシーンを教えていただけますか?

 

「ひとつはふたりで歩く朝焼けのシーン。それまでは自分の思うように役者さんに動いてもらって「描いていたイメージとは違うけど、まあこういうものか」と思って映画を撮っていたのが、あのシーンは映像から「そうそう、こういうシーン」と教えられる感じがしました。イメージ通り……いや、イメージを超えてくるというか、映画を撮っていて初めてそういうものに出会ったシーンでしたね。もうひとつは、渋川清彦さんが自分の本音をぶちまけるシーン。脚本の段階では、こんなに激しいシーンになると思っていなかったものが「ああ、こういうシーンになるのか」と。これも役者の側から教えられる感じというのがありました」

 

──あのシーンを好きだという人も多いですよね。濱口監督の作品を観ていると、アングルなども含めてカメラを意識する時がしばしばあります。わかりやすく、ショットに“張りがある”という言い方をしてもよいかもしれません。カメラの使い方についてもう少しきかせてください。

 

「『THE DEPTHS』(2010)主演の石田法嗣くん。『カナリア』に主演していた少年が今は立派な大人になっていますが(笑)、『THE DEPTHS』には彼をはじめキム・ミンジュンさんという韓流スターにも出ていただいて魅力的な顔が集まりました。ただ石田くんの役は、シナリオ上ではある種“絶世の美少年”じゃないと成立しない役だったんですよね。単なる見た目で言えば石田くんはそうではない。キャスティングの時に、韓国から来たカメラマンは「彼は演技がとてもいいのは理解できるけど、今回のシナリオに適したキャラクターじゃないんじゃないか?」と。でも僕は石田くんをとてもいいなと思ったので出てもらって撮っていきました。すると「カメラを向けていると、何だかとてもよくなる気がする」……こんな漠然としたことを言うなよとも思いますが(笑)」

 




(2013年6月24日更新)


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濱口竜介 監督 監督プロフィール(公式より)
はまぐち・りゅうすけ●1978年、神奈川県生。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され高い評価を得る。その後も日韓共同製作『THE DEPTHS』(2010)、東日本大震災の被災者へのインタビューから成る映画『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(2011~2013/共同監督:酒井耕)、4時間を越える長編『親密さ』(2012)を監督。精力的

Movie Data




《濱口竜介プロスペクティヴ》

●6/29(土)~7/12(金)、第七藝術劇場
※連日20:40~レイトショー、
6/29のみ23:15~オールナイト
6/30(日)、7/10(水)、12(金)イベントあり
●6/29(土)~7/8(月)、神戸映画資料館
※6/29(土)、7/7(日)イベントあり
●7/8(月)~19(金)、
元・立誠小学校 特設シアター
※7/9(火)、19(金)イベントあり
●7/13(土)~19(金)、京都シネマ
※連日19:00~、
7/13(土)、18(木)イベントあり
●7/13(土)、京都みなみ会館
※23:15~オールナイト

【《濱口竜介プロスペクティヴ》】
http://prospective.fictive.jp/

【濱口竜介即興演技ワークショップ in Kobe 】
http://kiito.jp/schedule/workshop/article/3526/

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