「“神が与えた舌たらず”
福くんが台詞を言えるか言えないか
ギリギリのところが可愛くてたまらないんですよね(笑)。」
『コドモ警察』福田雄一監督インタビュー
CM、ドラマ、バラエティ番組で絶大な人気を博す子役タレント、鈴木福の記念すべき映画主演デビュー作『コドモ警察』が3月20日(水・祝)より、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開に。鈴木福が演じるのは見た目は子供だが実はベテランの中年刑事という異色のキャラクター。堂本剛主演の『33分探偵』、山田孝之主演の『勇者ヨシヒコ』シリーズ、指原莉乃主演の『ミューズの鏡』などのドラマを手がけてきた福田雄一監督が公開を前に来阪、インタビューを行った。
――『コドモ警察』では『あぶない刑事』、『西部警察』、『太陽にほえろ!』などのテイストが混ざっていますが、出演した子どもたちには元ネタを見てもらってるんですか?
「(鈴木)福くんにだけ「(石原)裕次郎さんを見てみてください」とお父さんにも話したんですけど、撮影の初日に福くんに「裕次郎さん見てくれた?」と聞いたら、どうやらモノマネの裕次郎さんを見たらしくて(笑)。それは裕次郎さんじゃなくて、たぶんゆうたろうさんだなぁって(笑)。ブランデーグラスを持つしぐさとか表情とかゆうたろうさんを研究してくれて、モノマネが上手になってました(笑)。ま、それでもまいいかって(笑)。」
――ははは(笑)! 『コドモ警察』以外にも、監督が手がけたテレビドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズにも往年のテレビのパロディーネタが入ってたりしますよね。昔からかなりのテレビっ子だったんですか?
「テレビの中でも特に“お笑い”に関しては、親父がよく見てたのでその影響もあると思います。一時期、『8時だョ!全員集合』と『オレたちひょうきん族』の放送時間がかぶってましたよね? あの時に初めてビデオデッキを買う決断を親父が下したくらいですから、かなりのテレビ好きな親子だったかもしれないです。」
――確かにその時代、ドリフ派かひょうきん族派かって話しました(笑)!
「そこで僕は両方見てるから、どっち派でもない感じで(笑)。」
――作品からも“お笑い”好きであることは伝わってきますが、昔から人を笑わせるのがお好きだったんですか?
「小学生の頃からお楽しみ会のトリは譲ったことがない(笑)。基本的に5,6人のメンバーを集めて、僕がネタを書いてコントしたりして。先生からも「期待してるぞ」と言われたりして、期待値が年々上がっていくのを感じて。小さい頃から、そこは頑張ってましたね(笑)。」
――小学生の頃からですか! すごいですね。『コドモ警察』に関しては、笑いのためにあえて話はシンプルに?
「基本的に物語はシンプルにして劇中で笑っていただきたいと思っていますが、僕が手がけたドラマの中で『コドモ警察』は少し特殊かもしれません。ドラマの4話か5話辺りで、ナベさん(鏑木海智)が可愛がっていた情報屋が殺される話があるんですが、その時のネオン街に消えていく子ども(ナベさん)の後姿に哀愁を漂わせて撮るというのがめちゃくちゃ面白くて(笑)。それで、変に子どもに寄せた話にせず、普通の人間ドラマを子どもが演じるギャップを楽しむことが面白いんだなと気づいたんです。」
――確かにそのまま大人の刑事ドラマにもなりそうな話ですね。
「タイトルを知らずに台本だけ読んだら普通の刑事ドラマ。だけど「これ全部子どもが演じてるんですよ」と言ったら「嘘~!」となる(笑)。そういった方向に、ドラマの途中で変えていったんです。」
――だけど、子どもが大人を演じることで子どもらしさが際立ってますよね。
「特に、デカ長(鈴木福)とスマート(秋元黎)の台詞に関しては台本を書く時から言いづらい言い回しとか言いづらい言葉を選びました。福くんのことを“神が与えた舌たらず”と呼んでるんですが、福くんが言えるか言えないかギリギリのところが可愛くてたまらないんですよね(笑)。」
――ギリギリ言えてないところもありますよね(笑)。
「これはドラマの最初から割と意図的にやってるんです。ドラマを見てくださった方々も最初は「子役たちが下手」というリアクションだったんですが、それもわざとそう見せてるところがあって。「3話目ぐらいまで見たら、それを意図してやってることが分かってもらえるんじゃないですかね」と言ってたら、まさにそれくらいから「福くんのたどたどしいところがたまらん」という感想が出始めて(笑)。それを手に汗握りながら見るという見方が定着してきたんです。その感じが可愛くって、リピートして何度も見るという女性の方も急増していったらしいんですよ(笑)。」
――それが狙い通りなんですね。
「ありがたいことにね(笑)。ドラマが終わって映画の撮影が始まるまで6ヶ月あって、福くんが半年でスラスラ喋れるようになってたらどうしようとか、子どもたちの成長が正直不安だったんですけど、『勇者ヨシヒコ』シリーズの1話にゲストで出てもらった福くんが相変わらずの舌たらずだったんで良かったぁと(笑)。」
――ははは(笑)。安堵したんですね。
「ドラマが始まった当初は、事務所さんもご両親も「福が台詞を言えてない!」と相当心配してたみたいなんですよね。僕がわざと言いづらい台詞を書いて、言えてないのが嬉しくて「完璧完璧!」と喜んでるのに(笑)。それで、5話辺りの吉瀬さんとの会話のシーンで「あなたは子どもになったけど、わたしにとってはあの頃のあなたのままなのよ」と言われて、福くんが「いや、俺はこんな舌たらずじゃなかったぜ。」と言う台詞があって、そこで「これで良かったんだ」とホッと胸を撫で下ろしてました(笑)。」
――台詞が言えてないのがいいってのは事務所や両親にとっては複雑ですもんね(笑)。
「映画の中で、福くん演じるデカ長が川で遊ぶシーンがあるんですが「素手で魚を捕まえたいという野望すら抱きつつある」という大人でも言わないような台詞を言ってもらってて、まぁ狙い通りのたどたどしい感じになって、それを編集で見る度に爆笑してたんです(笑)。だけど、あのシーンは川の音が入ってしまってるのでアフレコになったんですが、アフレコの時は割とスルッと言えちゃって。その時は演出家として言っていいのか悩みましたが、でもやっぱり譲れなくて「ごめん。ここさぁ、福くんが若干言えてないのが面白くってずっと笑ってたんだよ。本当申し訳ないけど、たどたどしく言ってもらっていい?」とお願いしました(笑)。」
――ははは(笑)! 子役を選ぶポイント、一番重要視されたところは?
「子役っぽくないことが絶対条件。子役が“大人の役者顔負け”みたいなことが言われ始めて、それがどうもいいのか悪いのかどうなんだろうと思ってた時期だったんです。子どもは、子どもらしいそのものが1番可愛いし、さぁ泣いてって言われたらボロッと泣けることが果たして正解なのかなとずっと思ってて。いわゆる子役うまいよねと言われてることへの若干の挑戦状みたいなところはあったと思います。いわゆる普通の子どもが大人の台詞を言うという遊びを中心にしていこうと思ったので、ベテランですみたいな方々とやるよりは、本当に子どもらしい子どもと一緒にやるべきだと思って。」
――でも、福くんは名子役として有名でしたよね。
「当時、子役界のヒーローだった福くんと初めて会った時は本当に驚きました。福くん、本当に子どもなんですよ(笑)。はしゃいで学校の話を無邪気にしてくれたり。これだけの売れっ子なのにご両親がちゃんと学校に通わせて、友達とも遊んでという感じで育ててらっしゃるのが偉いですね。本作で集まってもらった子たちは健全な子どもばかりです。そこが全体の空気感を作ったし、成功した理由なんだろうなと思っています。」
――なるほど。
「でも、やっぱりデカ部屋にひとりは『太陽にほえろ!』でいうヤマさんやチョーさんみたいなベテランの伝えたい難しい台詞をちゃんと伝えられる子が必要だなと、でもそんな子いないだろうなと思ったらひとりだけいたんです! それがナベさん(鏑木海智)。ナベさんはオーディションの時から事務所が「100%の自信を持ってお送りします」と言われて送り込まれてきた子で、どんなだよ? と思ったら「さすがです! ありがとうございます。」という感じで、まぁすごかったです。だからデカ部屋は必ずふたり喋らしたら次はナベさん、ふたり喋らしたら次はナベさんっていうローテーションがあります。そのおかげで全体的にしまるんですよね。難しい台詞も簡単に言うし、表情や演技も確実に答えてくれる。あと、(本田)望結ちゃん色っぽくないですか? ドラマの時は子どもっぽかったのに映画で急に色っぽくなったんですよ。」
――女の子の成長はやっぱり早いんですね。子どもたちからアイデアをもらったりすることもありましたか?
「福くんからたくさんアイデアを貰ってますよ。7話で事件の捜査の報告会をしている場面があって、デカ長がメモしてると思ったらそれが落書きだったという。それは確か撮影中に福くんが「そういうの面白くないですか?」とアイデアを出してくれて、採用した覚えがあります。また別の話で、普通に街中を歩いていて、ついガチャガチャをやり始めてしまって止まらなくなる。見た目は子どもだけど中身は大人だからお金だけは持っててガンガンつぎこんじゃって(笑)。そのシーンも福くんのアイデアです。最近キャンペーンでずっと一緒にいるんで話してるんですけど、パート2に向けてのアイデアも貰ってて。本当、面白いこと言うなと思ったのがデカ長がショットガン持って出てくるんだけど1番最後の必殺技がカンチョーって面白くないですか? って(笑)。武器持ってるのに最終的なとどめがカンチョーって(笑)! すごく子どもっぽくて面白いですよね。それ、いただき。メモっとくわって(笑)。
――なんだかものすごく楽しそうですね(笑)。現場の雰囲気は大人ばかりのものとはやはり違いますか?
「普段の現場とは気を使うポイントが全然違います。例えば朝8時から撮影が始まって、子どもたちは午前中ものすごく元気なんです。制御を知らないので、休憩時間も遊びまくるから昼前にバテてくる。それで、昼ごはんを食べるとまた元気になって、夕方には確実にガス欠が起きてくるんです。そこら辺の時間になったら「あと何カット撮ったらご飯だから頑張ろう!」と言いながら頑張らせます。それで、晩御飯食べるじゃないですか? でもそれまでの消費量が半端ないんで晩御飯は1時間分のガソリンにしかならないんです。だいたい17時くらいから晩御飯を食べて18時くらいに撮影を始めるんですけど、20時までは出来るので、18時に再開しても2時間は出来るんですけど1時間しかもたない。残りの1時間はなんとかけし立てる状況で本当に大変。19時くらいになるとみんな眠くなってしまうんですよ。子どもなんで眠くなったら、眠くなった顔で芝居するんで(笑)。特にイノさん(青木勁都)なんですけど。イノさんは食べることへの執着もすごいし、食べた後の眠くなり方も半端ないです。本当に眠いですって顔をして(笑)。「イノさん、もうちょっと起きてる顔でお願いします。」って(笑)。」
――キャラクターどおりですね(笑)。
「デカ部屋でドシッと構えてる役なんで、気づくと寝てたり(笑)。また、起こすと今起きましたって顔で芝居するんですよ(笑)。そこら辺のサイクルの作り方が大変なんです。そんなに遊びすぎたらバテるよって言っても無駄なんですよね。制御がきかないから。また、勝地(涼)くんが一緒になって遊んだりするから(笑)。勝地くんが本当にずっと一緒に遊んでくれて。この歳の役者さんだったらご飯とか自分の車に戻って食べたりしてもいいんですよ。だけど、必ず子どもたちと一緒に食べてずっと一緒に遊んでるんです。ずっと福くんといっしょにちん○の触り合いしてましたね(笑)。ちん○、うん○大好きですからね(笑)。」
――勝地さんも監督も子どもたちと友だちみたいな関係なんですね。
「子どもって、大人の区分として、こいつは舐めていいかどうかを察知するんですよね。初対面の頃からこの監督は舐めていいと見られてたと思います(笑)。エナメル(相澤侑我)に敬語使われたことないですからね。完全に友達感覚です。お母さんには「この現場で怒らないでください」と言ってるんです。僕にタメ口であることも「敬語使いなさい」みたいなことは言わないでくださいねと。ただ、他の現場では敬語使った方がいいかもしれないですけどね。」
――あと、スマート刑事の擬似両親を演じる上地春奈さんと本多力さんがめちゃくちゃ面白いですね。
「あれはうちの夫婦をコピーしてるんです(笑)。服装も嫁と同じなんですよ。ふかふかの素材(パイル地?)の部屋着の上下着てて、すごく言葉が乱暴で(笑)。うちの子どもが見てて「うわ~ママそっくりだね。」と言うくらい(笑)。週刊現代で毎週、妻の愚痴を言うっていう連載を実はやっています(笑)。」
――『コドモ警察』を奥さまはどう言ってらっしゃいますか?
「褒めてくれます。褒めるのは珍しいことなんですが『コドモ警察』はテレビで放送してる時から「よく出来てると思うよ」って言ってくれてます。ただ、僕、栃木出身なんですけど大阪来ると「自分、全然おもんないやん!」と思われてそうな感じがしてすごく緊張するんです(笑)。舞台で大阪に来ることが多いんですが死ぬほど緊張しますね(笑)。東京は慣れてきたんですけど、大阪でお笑いの舞台をする緊張感とか半端ないですよ。」
――関西のお客さんの反応って違うもんですか?
「大阪の方が笑ってくれる印象が強いです。大阪のお客さんって生まれながらにお笑いを見る作法が完璧に出来てる。大阪のお客さんってひと言に対して笑って、次があることを知ってるからか、笑った後にも面白いことを言うんじゃないかって待ってくれてる。だから笑いがドンときた後のリズムが壊れなくて済むという印象があります。笑いの次の台詞をちゃんと聞いてくれてる。やっぱりさすがだなぁって。そんな大阪で『コドモ警察』がどんな風に観られるのか気が気じゃないですね。」
(2013年3月19日更新)
Check
福田雄一 監督●劇団ブラボーカンパニー旗揚げ以来の座長。 '90年の旗揚げ以来、全作品の構成・演出担当。 放送作家として数多くの好視聴率番組を手がける一方、ドラマや映画の脚本やDVD作品の脚本・監督など、幅広いジャンルで活躍中。 また2007年よりマギーとの共同脚本・演出のユニット『U-1グランプリ』も立ち上げ好評を博す。『コドモ警察』以降は『HK/変態仮面』、『俺はまだ本気出してないだけ』が公開となる。 今、最も注目を集めている監督のひとり。
Movie Data
(C)2013映画「コドモ警察」製作委員会
『コドモ警察』
●3月20日(水・祝)より、
TOHOシネマズ梅田ほかにて公開
【公式サイト】
http://kodomokeisatsu.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/160848/
【STORY】
悪の組織レッドヴィーナスによって、子供に変えられてしまった神奈川県警・大黒署の特殊捜査課の刑事たち。やむなく彼らは、子供の姿のままでレッドヴィーナスの捜査を続けることに。そんななかレッドヴィーナスの犯行と思われる新たな殺人事件が発生し……。