『横道世之介』
ヒロイン祥子を演じた吉高由里子インタビュー&
高良健吾と吉高由里子が登壇した舞台挨拶レポート
『悪人』や『パレード』などで知られる作家・吉田修一の同名小説を、高良健吾、吉高由里子をキャストに迎えて映画化した『横道世之介』が2月23日(土)より、大阪ステーションシティシネマほかにて公開。1980年代の東京を舞台に、嫌みのない図々しさを持ち、人の頼みは断れないお人好しの大学生・横道世之介の日常と彼を取り巻く人々の姿を描く。『南極料理人』、『キツツキと雨』で高評価を集めた沖田修一が監督を務め、彼の新たな代表作になること間違いなしの傑作に仕上がっている。そこで、とてもキュートなお嬢様ヒロイン祥子に扮した吉高由里子にインタビューを行った。
――今回演じられた祥子とはどんな女の子だと思って演じられましたか? また自分と似てる部分はありましたか?
「お嬢様なんだけど鼻につく感じはなく、突発的で瞬発力のある女の子。ひとつのことをおもいっきり感じて、おもいっきりリアクションして、馬鹿なくらい瞬間瞬間を満喫して生きてるなって感じました。突拍子も無いことに挑戦したくなるところはわたしも似てるかもしれないですね(笑)。」
――では、役作りは苦労しませんでしたか?
「お嬢様言葉が大変でした。台詞で“わたくし”って言わなければいけないところを“わたし”と言っていたらしくて、カットが掛かっても何がNGなのか分かってなかったんです。それで、これではダメだと思い、プライベートから“わたくし”と言うように努力をしたりしていました。」
――やりすぎると漫画っぽくなりそうなキャラクターですが、そのバランスで気をつけたところはありましたか?
「最初の登場シーンからずっと笑ってる役なんで「やりすぎたらサムイと思われるんでは?」とすごく悩みました。でも、今回の現場は、いつも何かしらのいいハプニングが起きて、本番中でも自然に笑うことも多く、狙いすぎないリアクションとして会話のキャッチボールが出来てたと思う。なので考えないで演じて良かったんだなと思いました。」
――いいハプニングとは、具体的にどんなことがあったんですか?
「撮影初日、まだどういうキャラクターで持っていったらいいか分からなくて緊張してたんですが、世之介との話が楽しくて、笑いすぎて壁に頭をぶつけてしまって(笑)。その時、頭にふわっと何かが乗って、壁に掛けていた帽子が落ちてきたんだなとすぐ気づきましたが、全然カットが掛からなくて。高良さんも世之介としてのリアクションを続けてるから、わたしもお嬢様だったら何て言うのかをその一瞬で考えて、とっさに出てきたのが「あらやだ」でした(笑)。それがそのまま本編で使われています。あと、クラッカーを鳴らすシーンでもテストで何回もやってたのに本番の時だけ世之介のクラッカーがこちら側の中に入って。何のひねりもない、その場のリアクションですけど「入りましたわ!」って(笑)。あと、スイカを分け合うシーンで最後に落としちゃうのとかもアクシデントなんですよ。」
――そうだったんですか! どれもその場で偶然起きたものだったんですね。
「他にもたくさんありますが、サンバのシーンも世之介が踊って、それに合わせて祥子が踊るというのは台本には無いことでした。本当に、高良さんとの再会がこういう映画ですごく嬉しく思っています。以前共演した『蛇にピアス』とは全く違うラブストーリーになったので。」
――高良さんとは5年ぶりの共演ですよね。
「『蛇…』の時は、まだ太陽が出ていない朝4時か5時に家を出て、終わるのが24時半ぐらいだったんです。ロケもほとんどなく、ずっとコンクリートに囲まれたスタジオの中で。しかも内容も明るい話ではないですから、ウロコが剥がれた魚のように息が少なくなっちゃってました。そんな時期に出会ったから、共演者というより兄妹や親戚のような感じです。若かったから言いたいこと言って、八つ当たりもしちゃったり。そういう部分も一緒に共鳴して戦ってくれた間柄だから、いい戦友でありライバルでもある親友です。今回、ちゃんと時代が進んでるのを確認しながら演じられたのは相手が高良さんだったからだなと感じました。」
――吉高さんから見て高良さんはどんな方ですか?
「こちらからどんな球を投げてもちゃんとキャッチしてくれる信頼感があります。それと、高良さんとわたしは少し気質に似てるところがあって、新しい現場へ向かう前はネガティブになりがちで、準備にすごい時間が掛かったりするんですが、本作では始まる前から楽しみにしてる高良さんを初めて見ましたね。」
――では、吉高さんから見た世之介は?
「器用じゃないし、立ち振る舞いが整ってるわけでもないんですけど、なんか愛おしくなる。憎めないなと思いますね。世之介と祥子のふたりでいる感じがすごく不恰好で。不器用なんだけど懸命に愛し合っているのが滑稽で可愛いと思ってました。なんというか世之介に対しては、落ちそうな物を必死で拾い上げるイメージを持っていました。落ちて壊れることはないけど、持ってる間も不安定な感じだなっていう。」
――なるほど。実際の吉高さんのタイプとは違いますか?
「タイプとか言っても実際好きになる人はまた違いますからね。「あれ? わたしこういう人、めんどくさいって言ってなかったっけ?」という人に気が向いてしまったり。“何が好きか分からないけど、その人が好き”っていう理由が一番まともで一番素敵なのかなと思います。好きな理由を並べてしまったら、自分が好きなのはその並べた事柄であって、その人じゃないかもしれないって感じますし。」
――誰でも今までの恋愛を振り返ってみるとそうかもしれないですね。この映画はまさに振り返りの映画でもありますが、10年20年たってこの作品を振り返るとしたら、どう感じると思いますか?
「自分の出演した作品はあまり何度も観ませんが、どうでしょうね。10年後も女優をやってるとは限らないし。もしも自分に子供が出来たりしてたら「ママの若いころよ。パンパンでしょ。」と言って見せるかもしれないですね(笑)。実は、高良さんが前作(WOWOWドラマ『罪と罰』)の撮影で痩せすぎていたので、世之介では太ろうとして、いっぱい食べてたんです。それで、わたしも嬉しくなって一緒に食べてたら4キロぐらい太ってしまって(笑)。プールのシーンでの自分の背中を観て、丸すぎてびっくりしました(笑)。」
――ははは(笑)! でも、全然太ってるとは思いませんでしたよ(笑)。では、女優を続けていたとしたらどんな風になりたいと思いますか?
「ハイボールじゃないモノマネをされてるといいですね。別にあのモノマネが嫌というわけじゃないんですよ(笑)。ただ30歳40歳になってもアレだと「大丈夫かな」と思われますからね(笑)。ちょっとしっとりした艶やかな女性のモノマネをされてるといいと思います(笑)。」
関西弁のイントネーションと標準語の混じった独特の言語で、常に笑顔で気さくにインタビューに答えてくれた彼女。しかも、最後には自身からモノマネの話まで飛び出しこちらを笑わせ、関西、特に大阪人についての話には「憎まれない土足の人たち(笑)。靴を履いたまま寄って来られても嫌じゃなくて嬉しくなる。歩幅が他の地区の人より大きくて、大阪の人とは話せなかった会話も広がるような気がします。」と話してくれた。
(ヘアメイク:山口久勝(ROND.)/スタイリスト:福田春美)
★『横道世之介』舞台挨拶レポート★
主演の高良健吾&吉高由里子が登壇した
『横道世之介』舞台挨拶レポート
「これは過程の映画です。観てくださった方たちの中でこの映画は続いていくと思います。」(高良)
吉田修一の同名小説を映画化した注目作『横道世之介』の先行上映会が先日、大阪ステーションシティシネマで開催され、主演の高良健吾と吉高由里子が来阪し上映前に舞台挨拶を行った。
1980年代を舞台に、上京したての大学生である横道世之介という変わった名前の青年の日常と、彼を取り巻く個性的な面々の人生の軌跡を描く本作は、言葉では表しにくい不思議な温かさを観る者に与える傑作となっている。
主演を務めた高良は今回演じた世之介という役について「半径は狭くても、目の前の人や出来事、風景に世之介なりの関わり方をしている。(世之介は)普通の青年と言われるが、実はぼくはそう思っていなくて、こういう生き方が出来たらいいなと思った。」と語った。そして「劇場やカメラ、監督、お客さんに向かって芝居するわけではなく、世之介と祥子の会話などは、ふたりだけの狭い世界でいいと思った。だから笑ってくださいというような芝居はしていないんです。」と付け加え、本作の世界観について説明し「それをただスクリーンを通して観て、自由に感じていただくのがベスト。」とコメント。笑わせる芝居をしていないとしても、何故かこちらはいつの間にか笑ってしまう。それは、観ている側が無意識にスクリーンの中の世界へ入ってしまい、一緒に時を過ごしたような感覚を味わえるからかもしれない。また、ヒロインを務めた吉高は「2時間40分という長い作品だが、観終えたら身の周りのちょっとしたことがすごく好きになったり嬉しくなったり出来る映画になっていると思う。自分の出演した映画をもう一回観たいと思うことはあまり無いが、この作品は撮影中から携われて良かったとかみ締めていた。」と本作への愛を語った。『蛇にピアス』から5年ぶりの共演となるふたり。それに対して高良は「出会った時から変わった人だなと思っていたが、5年ぶりに会っても相変わらず吉高さんは吉高さんでした。」と笑顔を見せ、それを受けて吉高は「高良さんは自分の意見を持っていて、変に相手に合わせたりしない。そういった部分が変わってませんでした。」と堅い信頼関係を示した。そして、最後に吉高は「何度も取材を受けて、本作について語るうちにどんどん本作が好きになっていくのが実感出来ている。」と、再度本作への愛をアピール。高良も「登場人物と観ている景色は違えど、観客のみなさんが通ってきた懐かしい感情を撫でてくれるはず。これは過程の映画なので、観てくださった方たちの中でこの映画は続いていくと思います。自由にこの映画を育てていただけるととても嬉しいです。」と締めくくった。
(2013年2月22日更新)
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