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「腹に一物を持った演技が出来そうな人
裏があってもおかしくなさそうな人で、それが出来る人
個性が強いからこそ観てて注目したくなるような人」
佐藤江梨子、北村一輝、杉本哲太ら個性派俳優が競演
『ナイトピープル』門井肇監督インタビュー

 直木賞作家、逢坂剛の短編『都会の野獣』を、佐藤江梨子、北村一輝、杉本哲太らを迎えて映画化したクライム・サスペンス『ナイトピープル』が、シネマート心斎橋にて上映中。物語は、ワインバー“ナイトピープル”でマスターをしている木村信治(北村)のもとへ「働かせてほしい」と杉野萌子(佐藤)がやってくるところから始まる。信治は彼女を雇い、昔の恋人にも似ていることから彼女に惹かれ始める。そんなある日、店に刑事を名乗る曾根(杉本)がやってきて、萌子は3年前に2億円の金を強奪した過去がある前科者だと告げ……。強奪された2億円を巡って、過去に囚われた男、謎の美女、神出鬼没の刑事が息詰まる心理戦を繰り広げる。最後まで予測不可能でスリリングなドラマを描き出した新鋭・門井肇監督にインタビューを行った。

――まず、原作との出会いは?

 
「プロデューサーからの薦めで読みました。彼は昔の短編を映画化することを好むところがあって、逢坂さんのモノでも最近のではなく昔の短編をあえて持ってきて「現代に置き換えてみるとどうか」という提案があり、この映画は始まりました。」
 
――短編からの映画化に当たって、物語は脚本家の方と相談して話を膨らませていったんでしょうか?
 
「そうですね。脚本家の港(岳彦)さんという方は、最近だと『私の奴隷になりなさい』などで活躍されてる方なんですが、アクションがとてもお好きで随所に彼のこだわりが詰まっています。今回は銃撃戦を足したり、原作にはない登場人物を増やしたりしてるんですが、それは彼のアイデアでした。」
 
――騙し合いが続き、そして銃撃戦もあって日本映画ではあまり見ない展開でしたね。
 
「原作自体が、二転三転してキャラクターの立場がコロッと変わってしまうような物語で、それを踏まえた上でもう少し足した感じです。銃撃戦はもともとなかったんですが、派手なアクションのある映画を撮りたいと思い、低予算の映画ではあるんですが、あえて入れてみました。市街地での銃撃戦は日本映画ではなかなか観られないですよね。開通前の道路や工事現場などへ、わざわざ行ってカーチェイスや銃撃戦をするというのはありますがね。今回は、街中で撮りたいと思い、協力を求めたらOKが出たので撮影出来ました。撮影した場所が実際に暴力団の抗争があるような場所で「ここから先は縄張りが違うから危険と言われたり冷や冷やもしましたが、市街地での撮影は街が協力してくれないと本当に撮れないんで助かりました。」
 
――あのシーンで流れ弾に当たる人がいますよね。
 
「実際に街中でバンバンやったら周りに犠牲者が出ない方がおかしな話なので。銃を撃つ彼らは訓練されてるわけではないですからね、慣れない銃を使っているんだから巻き添えの人間が出たり、誤射で仲間を殺してしまったりもするでしょう。どこかの映画では何故か主人公だけ弾が当たらなかったり、当たってもかすり傷というのが多いけど、そこはリアルにしたくて企画の段階から脚本も相談して入れたものなんです。弾の装填をうまく出来なくてこぼしてしまうところなどもですね。」
 
――なるほど。市街地での撮影も大変そうですが、後半の雪山での撮影も大変だったんでは?
 
「ペンションでの撮影時はマイナス15度くらいで、道が凍りロケバスが入れず撮影が遅れたこともありました。雪の風景で撮るというのは映画を作る上でとても魅力なんですが、トラブルの元でもあるし難しいところもありましたね。ペンションに車が入ってくるというだけのシーンでも普通には撮影できず、スタッフ全員で雪かきをしました。雪があるように見せてるけど、削るところは削っています。プロデューサーまでスコップ持って長靴はいて雪かきしてました(笑)。」
 
――それでも雪の風景で撮りたいと思ったということですか?
 
「スケジュールの関係で雪のシーズンになってしまったというのもありますけど、実際撮ってみると画面的にとてもいいなと思いました。でもやっぱり、寒いのが辛かったですかね(笑)。あのペンションは冬季で休業中のところをお借りしたんですが、水も出ないし暖房もきかないところで。トイレに行きたくても歩いて15分くらいかかるところまで行かなければいけないような状態でした。画面的には温かな雰囲気なんですが実はキンキンに寒いという(笑)。」
 
――それはキャストもきついですね。今回、キャストのひとりひとりが何かを隠してるので、どこまでそれを明かしたかで演技が変わると思いますがその点で演出などは大変ではなかったですか?
 
「常に腹に一物を持ったような状態で人と駆け引きをするので、その時に出していい表情の限度があるんですよね。そこに関しては役者さんとぼくでテストを重ねて決めていきました。ただ、役者さんが手馴れた方々でしたし、脚本をありがたいことに気に入ってくださっていたので、役者さんの方からいろいろ提案してくれたりもしました。」
 
――具体的にはどんな提案があったのか教えていただけますか?
 
「例えば薬を飲まそうとするシーン。実は飲ませていないというところは北村(一輝)さんのアイデアです。もともとは薬を飲ませるけど、実はそれはただの風邪薬だったというようなものだったんですけど、「実はそれ自体も飲ませてないというのはどうだ?」という提案があって変えました。あと、杉本(哲太)さんは、ずっとマフラーを巻いている役なんですが、それも衣装合わせの時に提案があって。衣装のプランを用意してきてくれたりもしました。」
 
――そうなんですか。それにしても個性派揃いですよね(笑)。キャスティングのポイントは?
 
「腹に一物を持った演技が出来そうな人(笑)というところですかね。裏があってもおかしくなさそうな人で、それが出来る人。個性が強いからこそ、観てて注目したくなるような人の方が正体不明な役は合う気がしますね。」
 
――では、佐藤(江梨子)さんへはどんな演出を?
 
「佐藤さんって元気な感じの役が多いんですよね。でも、最初の本読みの段階から地味目でお願いしてて。本人は「こんなに地味で大丈夫かしら?」と思っていたかもしれないですけど、最後の銃撃戦に繋いだ時にはガラッと変わって激しく強い女性になっているので対照的で良かったと思います。あの佐藤さんが演じた役というのは、とある思いがあってやってくるけど、本当はそんなことする人ではないというところで、最初は控えめの演技も必要なんですよね。」
 
――あと、もうひとりの女性、若村(麻由美)さんがカッコイイですね。
 
「この映画ってはっきり言って漫画チックではあると思うんですが、ある程度の現実感が欲しいし、完全な絵空事にはしたくなかったんです。最初の顔合わせの段階から「どれくらいぶっ飛んでいいの?」と若村さんも言ってらしたんですけど、ぼくからは「あまり飛び過ぎないように」とお願いしました(笑)。なんか、猟銃を構える若村さんが男性になかなか人気なようですね(笑)。」
 
――そのシーンに登場するカツムラもかなり気になりました。彼に関しては特に説明もないですしね(笑)。
 
「一応、執事と言うか。手下と言うか。昔から何か悪いことを一緒にしていた仲間なのか。そういう人だと思うんですけど。ああいうのを従えてるところもまぁ漫画チックですよね(笑)。あんなの従えてる女の人なんていないと思いますけどね。」
 
――リアルさも入れながら漫画チックな部分も入れてるんですね。
 
「基本的にベタ過ぎるものは好きじゃないんですけど、ラストシーンなんかも結構ベタにしました。娯楽作品なんで後味を悪くすることだけは避けたくて。原作のラストとはまったく違うんですけどね。みんな悪い人たちだけど、どこか憎めない。最後は明るく終わりたいという思いもあったんです。」
 
――キャストの中でカサイ役の三元(雅芸)さんだけ少し異色なように感じました。
 
「そうですね。このカサイという役自体が原作にはない我々の創作で、彼と手下が追ってくるというのは映画の為に作った話です。原作は騙し合いのみの物語なんですが、物語を膨らませて面白くするために、彼はアクションの部分を担って、話を回していく役割として入れました。よく考えると一番気の毒な役なんですけどね。」
 
――カサイさんの登場に火を使ったパフォーマンスのシーンが入りますね。
 
「あれは山梨で活動している方たちで、紹介されたというのもあるんですが、暗い中での火がカサイの心情を表しています。激しい感情などをあのパフォーマンスで表せるんじゃないかなと。」
 
――そうだったんですか。それにしても、前作『休暇』(小林薫、西島秀俊主演)とテイストがガラッと変わりましたよね。
 
「内向的で暗い作品がふたつ続いたので、娯楽要素があるものを撮りたかったというのはありますね。ただ、基本ラインとしてはドラマを撮りたいといつも思っていて。今回も後半のアクションに入るまでは今まで撮ってきたものを踏まえて、心情を丁寧に撮りました。ふたりがだんだん惹かれていく様とか。単なるアクションのドタバタで終わらないようにしたかったので、そこは観てもらいたいところでもあります。これからもいろんなものを撮ってみたいですけど、人間のドラマを大事にしていきたいと思ってます。」
 



(2013年2月18日更新)


Check
門井肇 監督

Movie Data


(C)「ナイトピープル」製作委員会

『ナイトピープル』

●2月16日(土)より、シネマート心斎橋にて公開
●3月16日(土)より、元町映画館にて公開

【公式サイト】
http://www.u-picc.com/nightpeople/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/160971/