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『のだめカンタービレ』で玉木宏、『神童』で松山ケンイチの
吹き替え演奏を担当した人気ピアニスト清塚信也が俳優デビュー
『さよならドビュッシー』利重剛監督&清塚信也インタビュー

 第8回“このミステリーがすごい!”で大賞を受賞し、累計が55万部を突破した中山七里原作の同名小説を、橋本愛主演、利重剛監督で映画化した『さよならドビュッシー』が1月26日(土)より大阪ステーションシティシネマほかにて公開される。主人公は、ピアニストを目指す16歳の少女・遥(橋本愛)。遥は、従姉妹の片桐ルシアとピアニストを目指すがある日、火事に巻き込まれ、祖父とルシアを失い、自身も全身に大怪我をおってしまう。やけどの後遺症に苦しみながら、新しいピアノ教師の岬洋介(清塚信也)と猛レッスンを続けると同時に、遥の周囲で起こる不可解な事件と祖父が彼女に遺した莫大な遺産を狙う者の正体に迫っていくという物語。大ヒットドラマ『のだめカンタービレ』で玉木宏、映画『神童』で松山ケンイチの吹き替え演奏を担当した現役の人気ピアニスト清塚信也がピアノ教師役として出演、本格的な俳優デビューを飾っているところにも注目したい。そこで、来阪した利重剛監督と清塚信也に話を訊いた。

 

――まず最初に、原作のどういったところに惹かれましたか?
 
利重剛監督(以下、利重):演奏シーンの描写ですかね。でも、そこから映画にするにはどうしたらいいの? って話で(笑)。
 
――では、原作を読んだ段階からプロのピアニストの方への出演オファーを考えていたんですか?
 
利重:僕の気持ちとしてはそうですね。ただ、制作する上で最初からピアニストで、という話ではなく誰もが知っている俳優さんで行きましょうという話でした。まぁ、もちろんそうでしょうね。でも例えば、バレエで言うと熊川哲也さんのことは、みなさん知ってるじゃないですか? 彼の場合、名前が世に出てくるまでは、バレエを好きな方々は知っていても世間の人は知りませんでしたよね。でも一旦、知られると広がっていく。それで、ピアノだってそういう人いるだろうと思って調べたらいたんです(笑)! いるどころか『のだめカンタービレ』や『神童』で吹き替え出演していて。逆に言うとなぜ彼が役者やってないんだろうと思いましたね。
 
――清塚さんは、オファーを受けられた時どんなお気持ちだったんですか?
 
清塚信也(以下、清塚):映画や舞台が好きでたくさん観てきたし、音楽科でしたが演技のワークショップにひとりで参加することもありました。思い返してみると僕が通っていた学校は、すぐ隣が蜷川さんがやってる演劇科ですし、いつも近くに演技というものがありましたね。この作品に関しては、タイトルにドビュッシーと付いていたので、自分で買って読んでいたんですが、後から知り合いでもなかったんですが「是非、読んでください」と中山七里先生からダイレクトに送っていただいて。そうかと思っていたら、映画の話が来たのですごく縁があると感じています。
 
利重:最初は中山先生からの紹介と思ったんだよね。
 
清塚:そうなんですよ。裏でみんな繋がってるんだろなって(笑)。
 
――もともとピアノだけではなく演技にも興味をお持ちだったんですね。
 
清塚:映画や舞台などの演技が関連しているものの芸術性のようなものが好きです。ただ観るだけじゃなくて感動したらしたで、どうして感動したんだろうと考える為にまたゆっくり観直すということも好きで。そういうことをやってるうちに、この監督はこういうことをするから僕は気に入ったんだなと分かってくるじゃないですか。無意識から意識に変わっていくみたいなところが好きなんだと思います。だから実際に僕が演じるとなったら、監督は今こういうことを思ってこういう風に撮りたくて考えてるんじゃないかなと思ったりするのが好きでした。そういうのが楽しいし、実際やってみて楽しかったです。緊張やプレッシャーはまったくなく最高に楽しい時間でした。
 
――とは言え、演奏と演技、指導する側も大変だったんでは?
 
利重:演技レッスンみたいなことをするつもりで3日間用意してましたが、最初の2,3時間で掴んでもらえたので、そこからリハーサルに移って、どんどん相手役も入れてシーンを発展させる方法を試しました。実際、彼はピアノを教えるということも普段していますので「教える時に曲の解説をこういう風にするんですがやってみていいですか」「じゃあ、やってみて」という感じで。それを聞いて、次の日それを台本にして「昨日のまとめたんだけど」とか言ってね。脚本の最終段階では、もう清塚さんにも入ってもらいました。だから演奏と演技は別じゃなかったんですよね。
 
清塚:そうですね。
 
利重:弾きながら喋るというのも実際教える時にもやってるから、それの再現をしてほしいと。それを出来る限り本当にしているように見せるのが僕の仕事だから。僕はやっぱり「手首で呼吸する」なんて言葉、思いつきませんもん(笑)。
 
清塚:“手首で呼吸する”というのは実際にショパンが言っていた言葉なんです。僕も実際にレッスンで使う言葉ですし。
 
――では、演技をする上で何か気をつけたことはありますか?
 
清塚:ピアノというのは、それまで培ってきた練習で準備してきたものを本番でいかにそのまま出せるか、忠実に再現できるかというのが大事なんですけど、演技というのは、ただ準備したものをそのまま出すだけではなく、本番のその場所でスタッフさんや相手の役者さんもいて、すべての人たちのハーモニーで出来上がる。決め込んだものを一点張りで演じるわけにはいかないんですよね。そういう点でもピアノとは違うと考えて気をつけたましたね。
 
――物語はミステリーではありますが、女の子の苦悩に立ち向かう話としても楽しめましたし、清塚さんの演技もとても新鮮でした。
 
利重:感情的にはやっぱり嘘をつきたくないので、本当にある話として受け取って欲しいと思っています。これは、肉体的にも精神的にも大変な試練を乗り越えていく女の子の話なんです。同じケースは、まずないでしょうけど世の中には大変な緊張状態の中で、すぐに解決できない問題を抱えながらギリギリの精神状態で生きてる人間はたくさんいると思うんです。出来ればそういう人たちへささやかな応援になるような映画が作れたらという思いが僕の中で大きくありました。ミステリーだからすごくロジカルになりがちなんだけど、そうじゃない説得力のある映画にしたいなと。実際にピアノを弾く方、ピアノを教える能力もある方が先生を演じることで説得力が増すといいと思っていたし、それが新鮮な魅力に繋がっていれば僕としては大成功です。
 
――では、主演の橋本愛さんについて伺えますか?
 
利重:今、日本映画界が一番注目してる女優ですからね。いいタイミングでがっつり一緒にお仕事出来て良かったですね。
 
清塚:最後まで誰だったんだろうという、どこか掴みどころのない印象が残っています。それが彼女の魅力でもあり、橋本愛さんが演じた遥の魅力にもなっていたんじゃないかなと思っています。
 
――彼女は、もともとピアノが弾けるんですか? ゆっくり弾くところが難しそうで、印象的ですね。
 
清塚:よく観てくれました(笑)!
 
利重:どう思いました(笑)? 仮に本当に弾けたとしてもあれを弾くのは難しいですよ。相当のことをやってくれてますね。
 
――清塚さんが実際に先生になって橋本さんに教えてらっしゃったんですか?
 
清塚:はい。
 
利重:今までキーボードを弾く役を2度やってるのでピアノを弾く素養は本人の中にあったんですけれど、そうやることによって実際にいい音が出るんですよね(笑)。
 
――ピアノを弾くシーンの撮影で難しかったところは?
 
利重:そういう質問すごく嬉しいです。実は、ものすごく難しいんですよ(笑)! ピアノって曲面を持っている鏡面なので、どこにいても誰かしら写ってしまうんですよ(笑)。映画にまず使えない(笑)。どうすんの? 写ったの全部CGで消すの? ってそんなお金も時間もないよって話だし(笑)。撮るの本当に難しいんです。ピアノ室のピアノは多少くすんだベヒシュタインというのを入れてますけども。
 
――それは撮影の為にその種類のピアノを選んだんですか?
 
利重:というのもあるし、あの家のおじいさんはヨーロッパからワインのトレードをしている人という設定でしたので、彼が「このピアノいいんじゃないか?」って買い付けてきたとしたら、どんなピアノを買ってきたと思う? と、清塚くんに聞いて。そしたら「ヨーロッパだったらエラールとかベヒシュタインとかですかね。」と言ってたんだよね。そこから実際、そんなピアノをどこかが貸してくれるんだろうかと中古屋に行って。あんまり古いものだと調律が狂いやすいものもあるだろうから、実際弾いてもらわないとな。俺が判断できないよなと思って、清塚くんに来てもらって弾いてもらったり。そしたら確かに全部音が違いました。とにかくピアノに関しては苦労しました。
 
清塚:そういう点もこの映画は何気にこだわってるんですよね。
 
利重:あのミスタッチのところもね。ミスタッチを一回録って、その音をもう一回演奏してもらうという。
 
清塚:それ、ものすごく難しいんです…。
 
利重:世界的にも正確に間違うことが出来る第一人者ではないでしょうか(笑)。なんとなく間違えるんでは間違いにならない。今までそれだけの経験があるので、ここの音がこう間違ったことによって、取り返そうとしてここも間違えるというようなミスタッチ用の楽譜を作ったんだよね(笑)。
 
清塚:ミスやらせたら右に出るものはいません(笑)!
 
――変な自慢ですね(笑)。
 
利重:実際にピアノを弾ける方になんとなくもつれてくださいと言ってもどこでもつれたらいいのか分からなくて、間違いようがないところで間違えたりするんです。それだと、素人でもわざと間違えてると分かるような感じになっちゃうんだけど、そこを確実に間違う。もうひと方、アラベスクの方で東條絵里子さんという方にもにもミスタッチをやってもらったんですけど、本当にミスタッチした瞬間に「すみません」と言っちゃって。今、見事なミスタッチだったのに! 
 
清塚:喋っちゃダメって(笑)。いざ、本当に間違っちゃうと引け目を感じちゃうんですよね(笑)。完璧に弾くよりもミスを故意的にするということは、ピアニストにとって生きていて一番ないシチュエーションなんです。なかなか自然に間違えてくださいと言っても無理で、間違い方というのがあるんです。
 
利重:それぐらい難しいことなんだってことが分かったし、ピアノの演奏に関してもかなりきちんとやっていますので是非注目してほしいですね。
 
 
 今回、このインタビューで俳優としての存在以上に映画に貢献していることが分かった清塚信也は、演技に関しても初めてとは思えないくらいの好演を見せてくれる。今まで知らなかった方々も要注目の新人俳優だ。また、利重剛監督と言えばガラス細工のように無垢で美しい恋愛ドラマ『クロエ』以来10年ぶりの監督作品となる。こだわりにこだわって出来上がった本作を是非劇場でご鑑賞いただきたい。



(2013年1月24日更新)


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Movie Data



(C)さよならドビュッシー製作委員会

『さよならドビュッシー』

●1月26日(土)より、
大阪ステーションシティシネマほかにて公開

【公式サイト】
http://good-bye-debussy.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/161130/