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「ニッチな世界で頑張るということに尊敬 
主人公の謙介はある意味、僕です。」
『僕の中のオトコの娘』窪田将治監督インタビュー

 性的な趣向ではなく、趣味で女装を楽しむ“女装娘(じょそこ)”になることで少しづつ自分を見い出していく主人公の姿を描いた青春ドラマ『僕の中のオトコの娘』が1月11日(金)まで十三・シアターセブン、1月5日(土)より神戸・元町映画館にて公開。就職するも社会になじむことができず、5年もの間、引きこもり生活を続けている謙介はある日、女装を純粋に楽しむ“女装娘”のサイトを発見する。そこにいる娘たちがなぜか気になる彼は繰り返しサイトを見るようになり、やがてカリスマ女装娘にメールで連絡を取り……。自身の作品が連続してモントリオール映画祭で紹介されるなど近年、注目を集めている窪田将治監督が来阪、インタビューを行った。

 
 
――撮影期間は12日程度とお伺いしましたが構想は?
 
「7年くらい前にこの女装という文化に出会って、当時はこの文化がまだ世の中に浸透していなくて映画化は出来なかったんです。男が好きなの?女がすきなの?どっちなの?みたいな、すごくあいまいな感じで。それで、映画化は実現出来ずに一定期間忘れていました。そしたら2年前くらいからテレビで女装家と名乗る人が出てきたり、お昼の番組で彼氏を女装してみましょうというコーナーがあったり。だんだん女装が話題になってきて、そろそろいけるんではないかとプロデューサーから連絡があって企画書を探して。それで動き出したのが2年前くらいです。」
 
――脚本を書く上でどういうリサーチをされましたか?
 
「まず取材をする前に脚本を書いたんです。情報を入れずに人間をいかに描けるかというのやってみました。謙介がどうやって女装に出会い、どういう風に成長していくのかというプロセスを自分なりに考えて書き、その脚本をジェンダーの方々に読んでもらうという形でリサーチしました。すると「わたしの友達も本当にこんな感じです」と言われたりして。大きな変更はせず微調整くらいでいけました。あと「あるあるネタがあって結構面白かった」とも言われましたね。女性の服を着て破れてしまうというところや、カットしたんですが女装した状態で男性トイレに入るか女性トイレに入るか悩むとか…、実際自分がやればこうなるだろうということを書いたんです。」
 
――トイレのシーンはカットしてしまったんですか。
 
「切りたがりなんです(笑)。それで伝わるんなら映画は省略の美学だと思ってるんで。」
 
――名言ですね! 観る側もコンパクトな方がいいですしね。この作品は完全オリジナルなんですよね。本当に面白い話ですし漫画にしても面白そうですね。何か参考にした作品などはありますか?
 
「誰にでも当てはまる普遍的なものをテーマにしたいというのもありましたしね。もともとそういう構成ではなかったので基本的にドギツイものは観ませんでしたが、感覚的に近いのは『真夜中のカーボーイ』などの、どっちなんだろうという感じのものです。」
 
――全体通してこの作品はさわやかな印象ですもんね。でも、冒頭の主人公のダメさ加減はひどいですね。
 
「考えられないですよね(笑)。最初にあのシーンをどのようにしようか考えた時に、考えられないくらいじゃないと面白くないなと思ったんです。知り合いの監督が、あのシーンの謙介に「本当に死ねと思った」と言ってました(笑)。あのオープニングもそうですし、内田朝陽演じる近所の嫌な男の恨みの内容とか。そんなこと? みたいなね(笑)。小さなことでイライラしてるような男であってほしいと。あぁいった部分はすごく考えましたね。」
 
――あの男は本当に嫌な男でしたね。彼もそうですがキャスティングが本当に最高でした。特にほうかさん! あのママ役のキャラクターはどのように生まれたんですか?
 
「でしょ(笑)?「僕にとってのほうかさんのベストワンは『竜二 FOREVER』なんですけど、それに次ぐ代表作ですよ」と言ったら、ほうかさん本人もすごく喜んでくれました。女性が特にママにはまるんですよ。ママに怒られたいって(笑)。ジェンダーの方々に聞くと昔は2丁目界隈とかに、こういうママがたくさんいたみたいです。ほうかさんに話したのは謙介の姿は昔の自分。自分も昔そうだったから怒れる。昔、肩身の狭い思いを周りにさせていたという設定だと話しました。だから店にも引き入れるし、叱るんですよね。」
 
――なるほど。謙介に昔の自分を見ていたんですね。謙介役の川野直輝さんも素敵でしたが彼を選んだポイントは?
 
「本当に主役のキャスティングは難航したんです。2年前に企画を動かしてから1年間くらいかけて探していました。その最大の理由が引きこもりの男の子が社会復帰するという話なので、引きこもりっぽさが大事だったんですよね。ちょっと根暗な感じがする、それでいて女装すると見栄えがある子というのがポイントになりました。単なるイケメンではダメで、なかなか見つからず…。そんな時に知り合いのプロダクションの方から川野君を紹介されて、お会いして話してみても面白かったので決めました。本当に今回はキャストに恵まれました。自分で言うのもなんですが、すごいバランスが良かったんですよね(笑)。」
 
――中村ゆりさんを「幸薄い」と言ってしまってましたね。わたしも思ってましたけど(笑)映画の中で台詞で言ってしまうんだ! と驚きました(笑)。
 
「そういうタイプを探してキャスティングしましたしね。この中村ゆり評判いいんですよ。これ観て知り合いの監督が「中村ゆりと仕事したい」とみんな言い出してね。朝陽も評判いいし、みんないいんですよね。」
 
――本当にみなさん良かったです。ちょっと話は変わりますが、監督自身も女装してみたと伺いましたが…
 
「気持ちを知りたいと思って女装してみましたよ(笑)。鏡で見るとすごく可愛かったです(笑)。基本の歩き方は男のままなんですけど、なんとなく口調が女性っぽくなったり。不思議なもんでちょっとそうしたくなるんですよ。女装すると自分ではなくなって別人になる。役をあたえられた役者みたいな感じです。着ぐるみを着たりするとキャラクターっぽい楽しげな動きをしたくなる感じでしょうか。少なからず変身願望って誰にでもありますよね? 男なんて小さいころから仮面ライダーに憧れたりね。それでも、女装に対しては周りからやはり「気持ち悪い」と思われてしまうでしょうから大変なんですよね。ニッチな世界で頑張るということに尊敬の念がものすごくあります。マイノリティに対する応援歌として作りたいと思ったのが大きいですね。」
 
――確かに状況はちがっても誰しもが共感を呼ぶ映画だろうと感じました。
 
「謙介はある意味、僕ですからね。映画という狭い世界で最初は自主映画を撮ってて、周りからは「バカじゃないの?そんなんで食っていけるの?才能なんかあるの?」と言われてきて、最近ようやくそれがマシになってきた。ちやほやされてもイラッときますけどね。だけど好きだからやりつづけてきた。自慢じゃないけどモントリオール3年行ってるんですよ。すごいと思いません? これねスタッフ、キャスト誰も「すごい」って言ってくれないのよ(笑)。「それって簡単に行けるんですか?」とか言うの。ちょっとショックでした。」
 
――いや、すごいでしょ! すごいですよ!
 
「今年モントリオールに行ったのは『終の信託』『渾身』『かぞくのくに』そして『僕の中のオトコの娘』。この並びに入ってるのすごいよね。観客の反応が日本と全然違うのも面白かったな。モントリオールではドッカンドッカン笑いがおきても、日本ではクスクス程度なんですよね。カナダは同性愛の結婚を認めているのでマイノリティに対して明るいというのもあるかもしれないです。マイノリティのお客さんもすごく多かったみたいですしね。それで「女装バーの店内に貼られたインディアンのポスターには意味があるのか?」と質問された時には驚きました。実際はまったく知らなかったけど「そうだ」と答えておきましたけどね(笑)。あと「日本はマイノリティに対して蔑視があるのか?」とも聞かれましたね。そうですよね。日本は住みにくい生きにくい場所ですよね。」
 
――最近は少しマシにはなってきてる感じはしますけどね。
 
「単純に日本人はというか、自分の親、自分の子供、自分の親戚とか自分のことになると、しんどいんですよね。結局は、他人事は許せるんですよ。そういう寂しさってありますよね。「近所のあの人そっちらしいよ」という噂から広まっていたのが、いいのか悪いのか分からないけど、それすら他人事になってきている。それだけマイノリティに対する理解が浸透してると見るのか、それだけ他人に興味がなくなってきているのか。」
 
――そういう意味でも「生きてるということは人に迷惑をかけること」というのは名台詞ですね。
 
「どんなことがあっても胸を張って生きていって欲しいということが一番大事だったんです。その前に来る台詞とはなんだろうと思った時にあの台詞になりました。もともとこの映画は父親に「胸を張って生きろ」と言わせたかったというのがスタートなんです。最初は嫌がっていたけど結局受け入れて胸張ってちゃんとやれ! 最後まで諦めるなということを言わせたかった。それでそこから逆算していったんです。」
 
――この映画って謙介がやっと歩み始めた映画なんですよね。
 
「そう。はじまりの物語なんです。一歩踏み出るということももちろん大変なんですが、実際はそこからが大変。年を取れば取るほど新しいことを始めるのってすごく大変ですよね。まったく違うことを始めるとか、一歩踏み出す勇気というのはすごくパワーがいるんです。やっぱり、前回うまくいったからこれでいいやとなってしまう。女装というのはまだ新しい文化なのでそこから一歩踏み出て頑張ってる人たちってたくさんいるわけで、その勇気ってすごいな。そこを見せたかったんです。そして、それをバックアップする家族がいるっていうね。すごく幸せなことですよね。」
 
――これからもマイノリティ文化を題材に映画を撮りたいとお考えですか?
 
「そうですね。ニッチな世界が好きなんです。良くも悪くも狭い世界で奮闘するっていうね。うまくいくかは別の話というのが自分の中でテーマになってます。映画が好きだからやってるけど、うまくいくかは別の話っていうところ。本人がどうしていくのかが大事なんですね。」



(2012年12月30日更新)


Check
窪田将治 監督

Movie Data



(C)2012『僕の中のオトコの娘』製作委員会

『僕の中のオトコの娘』

●1月11日(金)まで、シアターセブンにて公開
●1月5日(土)より、元町映画館にて公開

【公式サイト】
http://www.boku-naka.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/160412/