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ビクトル・エリセが“今のスペインで最も優れた映画作家“と
賛辞をおくったホセ・ルイス・ゲリン監督の幻の処女作
『ベルタのモチーフ』ホセ・ルイス・ゲリン監督会見レポート

 巨匠ビクトル・エリセが“今のスペインで最も優れた映画作家“と賛辞をおくったホセ・ルイス・ゲリン監督の幻の処女作『ベルタのモチーフ』も上映される《ホセ・ルイス・ゲリン映画祭》が、10月12日(金)まで第七藝術劇場にて上映中、10月13日(土)より26日(金)まで京都みなみ会館、その後神戸アートビレッジセンターでも公開される。中でも、透明感のある映像や逆光の使い方で、思春期の少女の不安定な内面を映し出した『ベルタのモチーフ』は、日本では公開されていないホセ・ルイス・ゲリン監督幻の処女作だ。本作の公開に先立ち、ホセ・ルイス・ゲリン監督が来阪し、会見を行った。

 

 父の農作業を手伝う無口な娘・ベルタはある日、草原で不思議な帽子をかぶった男と出会う。それ以来、普段の生活に波風が立ち始める…。思春期の少女の内面を映画の原風景として描いた衝撃のデビュー作である『ベルタのモチーフ』を監督が撮ったのは22歳で、約30年前のこと。処女作であるにも関わらず、その完成度の高さには驚かされる。特に、風の吹く様や木が揺れる様子など自然の情景は、モノクロ映像でありながら、まるで色彩を感じるかのように描かれている。まずは『ベルタのモチーフ』をモノクロで撮った意図について聞いてみるとー。

 

ホセ・ルイス・ゲリン監督(以下、監督):これは初めての長編作品だったのですが、若い私にとっては全てをコントロールすることが非常に重要でした。それで、地平線や道路、垂直に立った木などフレームの中の“ライン”を意識して構成しました。それらが統制される中でイメージが語り出すにはモノクロの方がより饒舌に語ることができると思ったからです。私は、絵画においては色彩が重要ですが、映画にとって重要なのは光だと思っています。ですから、ほとんどの場合はモノクロになってしまうのが私の癖かもしれませんし、私が一番慣れ親しんだのがモノクロ映画であると同時に、モノクロが最も基本的だと思っています。

 

 特に親しんだモノクロ映画は?

 

監督:『生まれてはみたけれど』(1932/小津安二郎監督作)、『東京物語』(1953/小津安二郎監督作)、『麦秋』(1951/小津安二郎監督作)、『雨月物語』(1953/溝口健二)やチャップリン、ジャン・ルノワールの作品などです。

 

 これだけ作品名が上がったように、ホセ・ルイス・ゲリン監督といえば、小津安二郎というぐらい、監督の小津安二郎への思いは強い。その理由を監督はどのように感じているのだろうか。

 

監督:私が映画を観ていて、登場人物を自分の家族のように感じたのは、小津安二郎監督の作品だけです。小津監督は、映画の中の登場人物を非常に丁寧に描く監督で、私はそこにとても奥ゆかしさを感じますし、謙虚に丁寧に映画を作られているからだと思います。それに加えて、フレームの決め方や構図に細心の注意を払われているので、日々の小さな物語を映画という物語にかえているんだと思います。例えば、父親がリンゴの皮をむくシーンなど、単純な仕草がフレームの中でとても大きな意味を持っていたり、後々起こる出来事の秘密を秘めているように、私は、そういう小さな出来事を映画の中で描ききることの大切さを小津監督の作品から学びました。小津作品を観ていくと、笠智衆も原節子も歳をとっていきます。そのように一緒に歳をとっていく感覚が私にとってはすごく新鮮でした。それが、私に家族だという感覚を与えてくれたんだと思います。だから、北鎌倉に行くたびにご高齢の女性をじっと見て、もしかしたら原節子かもしれないと思って探しています(笑)。ですから、全ての小津作品の中で原節子は、私の母であり娘であり姉でした。

 

 小津安二郎監督や原節子の話になると、まるで少年のように目を輝かせて語る姿が印象的だった。一昨年に公開されたホセ・ルイス・ゲリン監督作『シルビアの街で』で、監督の名を知った方も多いはず。《ホセ・ルイス・ゲリン映画祭》は、巨匠ビクトル・エリセが“今のスペインで最も優れた映画作家“と賛辞を贈った監督の処女作『ベルタのモチーフ』のほかにも、日本でなかなか観ることのできない監督の作品全8作品を上映する貴重な特集上映だ。




(2012年9月29日更新)


Check
ホセ=ルイス・ゲリン監督

Movie Data

『ベルタのモチーフ』

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/159848/


《ホセ・ルイス・ゲリン映画祭》

●9月29日(土)~10月12日(金)、
第七藝術劇場にて公開
●10月13日(土)~26日(金)、
京都みなみ会館にて公開
●近日、
神戸アートビレッジセンターにて公開

【公式サイト】
http://www.eiganokuni.com/jlg/