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ホーム > インタビュー&レポート > 「この映画は、僕の今後の人生を一変させた出来事でした」 朝井リョウによる原作小説を吉田大八監督が大胆に映画化した 青春映画の傑作『桐島、部活やめるってよ』で キーパーソン・菊池を演じた東出昌大にインタビュー

「この映画は、僕の今後の人生を一変させた出来事でした」
朝井リョウによる原作小説を吉田大八監督が大胆に映画化した
青春映画の傑作『桐島、部活やめるってよ』で
キーパーソン・菊池を演じた東出昌大にインタビュー

 第22回小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウのデビュー作である同名小説を、『クヒオ大佐』『パーマネント野ばら』でメガホンを執った吉田大八が監督・脚本を手がけて映画化した『桐島、部活やめるってよ』が、8月11日(土)より梅田ブルク7ほかにて公開される。学校のスターでバレー部のキャプテン・桐島の退部のニュースに振り回される、神木隆之介演じる映画部員の前田や、橋本愛扮するバドミントン部のかすみ、映画初出演の東出昌大が演じた桐島の親友・菊池たち同級生たちの日常の変化が描かれる。本作の公開にあたり、600人を超えるオーディションから菊池役を勝ち取った東出昌大が来阪した。

 

 本作は、いつもと同じ金曜日に訪れた、学校一の人気者・桐島のバレー部退部のニュースに、学内ヒエラルキーの“上”に属す生徒たちはもちろん、桐島とは直接的には関係のない“下”に見られる生徒たちまでが振り回され、人間関係が変化していく様が描かれている。そんな本作で、東出が演じたのは、桐島の親友で、野球部に所属しながらも最近は帰宅部で、派手な友だちに囲まれ、可愛い彼女もいながらどこか陰のある菊池宏樹というキャラクター。東出は、菊地を演じるにあたってどのように考えながら演じたのだろうか。

 

東出昌大(以下、東出):もちろん、自分の中にある要素のひとつを表現しているので、高校時代の自分が抱えていた鬱屈した感情を思い出しながら演じていました。高校生の僕が読んでも理解できたかどうかはわからないですが、原作を読んだ時も、脚本を読んだ時も当時の自分の気持ちが書かれているように感じましたし、卒業してから時間も経っていたので、宏樹のキャラクターも客観的に受け入れることができました。高校時代の僕は、学年でもうるさいグループに属していましたし、部活もしていて、彼女もいて、おしゃれも好きだったし、宏樹に近い部分があったんですが、やっぱり色んなことにすごく悩んでいましたし、その感覚を思い出して演じていました。

 

 そんな菊地宏樹役を巡っては、今回の映画に登場する人物の中で最も多く、600人を超えるオーディションが行われたそうだ。モデル出身で、俳優のオーディション自体が初めてだった東出は、何度も繰り返されたオーディションを受けている間、どのように感じていたのだろうか。

 

東出:まず、役者のオーディションが初めてでしたし、役者さんだと仕事を選ぶ方もいらっしゃると思うんですが、モデルは呼ばれた仕事は基本的には全部受けるので、モデルと役者のオーディションは受け方も熱も違うんです。でも、オーディションを受けていた人たちが真摯な態度でプロ意識を持って受けている姿を見て、こんなにのめり込めるほど役者って面白い仕事なのかな、と思うようになっていきました。僕は、その頃はまだモデル事務所に所属していたので情報交換する相手もいなくて、倍率も知らなかったんです。最終的には5次選考まであったんですが、それも普通なのかと思っていましたし(笑)。今思えば、倍率を聞いていたらビビっていたかもしれないですね(笑)。

 

 厳しいオーディションを経て始まった撮影だが、東出は映画の撮影自体も初めて。特に本作は、同じシーンを別の角度で撮影するなど、特殊な撮影だったと思われるが、だからこそ撮影中や完成した映画を観た時の驚きや戸惑い、発見などはあったのだろうか。

 

東出:戸惑いの連続というか、カット割りのことや撮影についても何も知識がなかったので、例えば、カット割りのために同じ芝居を1日中していたりすることも知らなくて、監督からOKが出たら終わりじゃないの? と思っていましたから、毎日が驚きの連続でした(笑)。最初は、台本を役者同士で読んでいても、同じ場面を違う角度から切り取ったり、同じ曜日を繰り返すことで、難しい映画になるんじゃないかという不安があったんです。撮影中は、吉田監督からドキュメンタリーだと思って、モニターチェックはせずに、役者じゃなくて高校生のつもりでやってほしいと言われていたので、動いている自分を見るのも完成した映画を観た時が初めてだったので、色んな驚きがありました。元々、台本の構成も違和感なく繋がっていましたが、完成した映画を観て、吉田監督の頭の中には既に映像が見えていたんだということが、改めてすごいと思いました。

 

 監督から言われた「ドキュメンタリーだと思って高校生のつもりで」演じることは、経験を積んだ俳優でも難しいはず。特に演技も初めてだった東出はどのように“高校生”と向き合っていったのだろうか。

 

東出:この映画に出演していたキャストの中で、僕が一番キャリアがなかったので、そこはかっこつけることなく、みんなに教えてもらっていました。最初は、モニターチェックもないし、監督にOKをもらっても不安になったりしていたので神木くんたち共演者に「大丈夫だよ」と励ましてもらっていました(笑)。撮影中は、高知で1ヶ月間合宿のように缶詰め状態だったので、毎晩のようにみんなで部屋に集まって芝居の話をしていたんです。だから、ある意味青春を過ごしたような気がしますし、今でも全員と連絡取っていて、全員が仲良いんですよ。撮影中も「敬語は禁止で」とか「帰宅部は帰宅部でご飯行ってきて」と監督に言われていたんですが、そうやってみんなで青春を過ごすことが監督の狙いだったのかな、と思います。

 

 では、共演者の手助けもあったことで、初めての「役作り」の苦労はそこまで感じなかったのだろうか。

 

東出:キャスト全員に、レポート用紙にそれぞれが演じる役の家族構成やどんな家に住んでいるのか、父親の仕事、血液型や家の間取りまで、事細かに書いてくるようにという宿題が出たんです。そうやってキャラクターの要素を集めていくことで、何故今の人格が形成されていったのかを考えることができて、それがすごく良かったと思います。そうしない方もいらっしゃると思うんですが、僕は今後も役作りをする時はそのやり方でやると思います。そのレポートがあったからこそ、高校生になりきって菊地という役について考えることができたんだと思います。

 

 しかし、そんな東出にとって一番難しいと感じたシーンが、東出演じる菊地が、今まで話したこともなかった神木隆之介演じる映画部員の前田と対峙するラストシーンだったのではないだろうか。

 

東出:難しかったです。台本には「涙を流す」と書いてあったんですが、実生活でも泣くことってほとんどないですし、技術的に泣けるものなのかどうか役者の友だちにも色々聞いてみたりもしました。でも、吉田監督が「泣くことが必ずしも必要なわけではないし、役の感情でやってくれればいい」と言ってくださったので、気持ちが軽くなって吹っ切れて、宏樹でいればいいんだと思って演じました。「感情でやっていい」という監督のひと言がすごく嬉しかったです。

 

 そのように、初めての映画出演を乗り切った東出だが、この映画に出演したことでモデル事務所の所属から俳優の事務所に移り、今後は本格的に役者1本でやっていくことを決めたそう。東出自身の生き方までを変えたきっかけとはー

 

東出:この映画のオーディションがもちろんきっかけだったんですが、初めて吉田監督とお会いした時に、1対1で1時間弱ぐらい監督とお話したんです。その時の吉田監督は、話していても全部自分のことを見透かされているような印象で、不思議とすごくワクワクしたんです。その時に、吉田監督と一緒に仕事をしたいと強く思ったんです。だから、芝居をしたいというよりは、吉田監督と仕事をしたいという気持ちの方が強かったんです。今は、特に役者として出来ないことも知らないことも多いので、何にでもぶつかっていきたいと思っています。

 

 ここまで映画について熱く語ってくれた東出に、東出自身が友だちにこの映画を紹介するとしたらどのように紹介するのか聞いてみた。

 

東出:原作も何も知らない人は、タイトルから奇抜だと思うだろうし、予告編を観た方もサスペンスなのか何なのかわからないと思うんですが、奇抜ではないですし、答えがひとつじゃない映画なんですよね。誰かと観に行った帰り道にずっと話ができる映画だし、観た人によって主人公が変わる映画だと思います。とにかくいい映画だし、僕自身の思い入れも強いので、たくさんの人に観てもらいたいんですが、言葉で説明するのが難しい映画なんですよね(笑)。

 

 では、最後に東出昌大にとっての『桐島、部活やめるってよ』とは?

 

東出:「今後の人生を一変させた出来事だし、出会い」です。

 

 ひとつの映画と出会ったことで人生が変わる。その映画がきっかけで、映画が好きになったり、その映画がきっかけで結婚したり、そんな幸せな出会いをした人は、もしかしたらたくさんいるのかもしれない。しかし、モデルとして活躍していたひとりの青年は、600人を超えるオーディションを乗り越え、初めての演技でひとつの映画のキーパーソンを演じ、今後は俳優として生きていくことを決めた。ひとりの青年に、そこまでの影響を与えた映画『桐島、部活やめるってよ』と、監督である吉田大八に改めて敬服するとともに、東出のように、本作が青春映画の傑作として心に残ることを願ってやまない。




(2012年8月10日更新)


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Profile

ひがしで・まさひろ●1988年、埼玉県生まれ。第19回MEN’S NON-NO専属モデルオーディションでグランプリを獲得。モデルとして、パリ・コレクションなど数々の海外のショーで活躍。本作『桐島、部活やめるってよ』が、俳優としてのデビュー作であり、映画初出演作となる。

Movie Data



(C)2012「桐島」映画部 (C)朝井リョウ/集英社

『桐島、部活やめるってよ』

●8月11日(土)より、梅田ブルク7ほかにて公開

【公式サイト】
kirishima-movie.com

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158438/