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「非日常を娯楽にしてしまうのが映画の面白さだと思うんです」
山崎賢人×橋本愛共演で贈る秘密と謎に彩られた
青春ミステリー・ホラー『アナザー Another』古澤健監督インタビュー

 2009年に発売され、書籍ランキングで高順位を獲得したミステリー作家・綾辻行人による同名原作を実写映画化した青春ミステリー・ホラー『アナザー Another』が8月4日(土)より、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開される。山間の地方都市に転校してきた中学生の主人公・恒一が謎の美少女と出会い、クラスメイトを中心に次々と起こっていく死の連鎖に遭遇する恐怖を描く。『管制塔』でも共演していた山崎賢人、橋本愛ら若手俳優らの瑞々しい演技が注目を集める、観終わった後に主役ふたりの瑞々しい存在感が爽やかな後味を残す作品だ。本作の公開にあたり、古澤健監督が来阪した。

 

 古澤健監督といえば、沢尻エリカ主演の『オトシモノ』(2006)や黒澤清監督の助監督として知られる監督だが、実は今年は、本作『アナザー Another』に加え、12月8日(土)公開の武井咲と松坂桃李共演の甘酸っぱいラブストーリー『今日、恋をはじめます』と2作品も監督を務めたメジャー作品の公開が続くのだ。ここまで監督作が続くことは珍しいことだが、今の心境はどのようなものなのだろうか。

 

古澤健監督(以下、古澤):たしかに、作品が出来上がって、公開するタイミングになってくると劇場の数の違いを実感します。でも、現場で監督をしている時はやることは同じなので、意識のうえで変化はなかったです。大きい作品になると、特殊造型やCG、キャスティングなどの自由度が広がる点は大きいですが(笑)。基本的には自分が面白いと思えるものにOKを出して、ダメだと思ったものにNGを出すということだけですから。

 

 では、実際に本作『アナザー Another』の監督のオファーをもらった時は原作を読んでいたのだろうか。

 

古澤:原作者の綾辻さんのことはもちろん知っていましたし、原作の表紙も印象的なので、ビジュアルの記憶は残っていたんですが、話をいただいた時はまだ原作を読んではいませんでした。原作を読んだ時に、これは青春映画として描きたいと思ったんです。

 

 青春映画として描くにしても、原作の映画化となると、やはりホラーの要素は必要となってくる。監督は、どのように物語を形成したのだろうか。

 

古澤:そこまで大げさなものではないですが、心のどこかに「角川映画を撮るんだ」という感覚がありました。さらに、15歳ぐらいの女の子を撮るのであれば、この時期にしか撮れない、役者としてキャリアを積んでお芝居で勝負するようになる前の、10代の子特有の大人には出せない魅力をちゃんと映していきたいと思いました。物語自体も、3年3組という小さい世界の中の話ですし、原作を読んだ時も15歳の少年少女たちの不安感がホラー映画というかたちをとって表現されているんだと思ったんです。原作や映画では、ありえないようなことが起きているけれども、15歳の少年少女たちって、友だちとうまくやっていけるだろうかとか、高校や大学、将来のことについての不安や、漠然とした正体不明の怖さを抱えているんですよね。そう考えてみれば、これはホラー映画のかたちをかりた青春映画なんだと思ったんですが、ホラー映画としての面白さもなければいけないので、いわゆるJホラーではなくて、あえて日本映画ではなかなかないショッキングな描写を多くしました。

 

 たしかに、中学時代といえば、友だちのことや将来のことについての漠然とした不安を常に感じていたように思う。それとともに、何となく感じていたお互いに対する疑心感が本作では悲劇を生んでしまう。

 

古澤:前半はそういうお互いに対しての疑心感に直面しないように、“見崎鳴(みさき・めい)”というひとりの女の子に全部押し付けることで実は見て見ぬふりをしていたんです。そこに恒一が転校生というアウトサイダーとして登場したことで、アウトサイダー同士だからこそ、クラスメイトたちのある種の醜さに気付いてしまうんですよね。それって、この映画や原作の小説だけじゃなくて、きっと実社会でも人間はある社会の単位が形成されて、自分たちの手に負えないことがあるとスケープゴートを作って見て見ないふりをするんですよね。そういうスケープゴートにされた、アウトサイダーの人間からしか見えないことを本作で描いたつもりです。

 

 そのように、本作は中学時代に感じていた漠然とした不安感を思い出すものでもあり、山崎賢人演じる恒一と、橋本愛扮する見崎鳴という、主役ふたりの何ともいえない微妙な距離感を保った関係にドキドキする青春物語でもある。

 

古澤:もしかしたら今時の中学生や高校生からすると、違うと思われるかもしれませんが、ただ山崎くんと橋本愛ちゃんを見ていると、こういう素朴な関係になるんじゃないかと思いました。ふたりとも今の子にしては朴訥としているし、すごく素直だし、変にギラギラしてないんです(笑)。そこがこの映画の主人公たちには合ってるんじゃないかと思いました。今回は特に15歳という年齢の少年少女の話なので、僕がおっさんの立場で変な歪んだ中学生像を考えるよりは、ふたりの感性を教えてもらいたかったし、そういうことを素直に出してくれる人がいいと思っていたので、ふたりはぴったりだったと思います。

 

 監督が“朴訥としていて素直”と評する山崎賢人は、昨年公開された『管制塔』でも橋本愛と共演し、その透明感のある佇まいが評価された注目株。本作でも、頼りなさそうに見えても芯はしっかりしている転校生という役どころを見事に演じている。

 

古澤:賢人くんには『アナザー』の設定がうまくマッチしたんじゃないかと思うんです。転校生で、最初は受身でしかいられなくても、彼だったらそこで自分が疑問に思ったことに対して、変にひねくれることなく素直に進んでいけるんじゃないかという素直なイケメンならではの説得力があるんですよね。僕の感覚だと、彼は母性本能をくすぐるタイプなので、年上の女性に好かれるんじゃないかな(笑)。次の『今日、恋をはじめます』では、今回とは真逆のチャラい男の子をやってもらったんですが、賢人くんが出てくるだけでクスクス笑ってしまうような感じになっていると思います(笑)。

 

 一方、橋本愛は2010年公開の『告白』での優等生役や、今年公開された『貞子3D』、さらには8月11日(土)公開の『桐島、部活やめるってよ』など、出演作が相次ぐ若手実力派俳優として評価されている美少女俳優だ。

 

古澤:愛ちゃんは不思議な子ですよね。『アナザー』の撮影が始まる前に話した時も、「なぜ自分にこういう役のオファーが来るのかわからないし、自分の魅力もわからない。正直お芝居も何がいいのかわからない」と言っていたんです。でも、『アナザー』の撮影が10日ぐらい過ぎた頃に、彼女の方から「もう1回やらせてほしい。次はもっとうまくできるから」って言ってくれた日があって、その日以降顔が変わっていったんじゃないかと思うんです。だから、映画を観てもファーストカットとラストカットの顔が全然違うと感じたので、自分なりにティーンの子を瑞々しく撮ることは、ある程度できたんじゃないかと思いました。

 

 ここまで聞いていると、「角川映画を撮る感覚だった」という言葉や、15歳の少年少女を瑞々しく撮る感覚についてなど、監督が相当の映画好きであることが想像できる。その中でも、元々ホラー映画は好きだったのだろうか。また、今まで観た映画に影響を受けている部分はあるのだろうか。

 

古澤:ホラー映画は好きでしたね。中学時代が第1次レンタルビデオブームだったし、80年代半ばぐらいから映画館で映画を観出した時期なので、ちょうどその頃がホラーブームだったんです。その頃って、僕の記憶に今でも残っている、『バタリアン』(1985)や『エイリアン2』(1986)、『悪魔のいけにえ2』(1986)や『エルム街の悪夢』(1984)など、今だに語り草になっている映画が立て続けに公開された頃なんです。その時期に映画を観始めた人間はホラー映画にはまっていると思います。だから、今回の『アナザー』でのホラー描写は、ある種80年代的な、作り物だからこその面白さを表現したつもりです。それが、非日常を娯楽にしてしまう、映画の面白さなんだと思うし、だからこそ、日々のリアルな嫌なことを忘れて、リセットして明日も頑張ろうという気になれると思うんです。




(2012年8月 3日更新)


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古澤健監督

Movie Data




(C)2012 映画「Another アナザー」製作委員会

『アナザー Another』

●8月4日(土)より、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開

【公式サイト】
http://www.another-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156871/