ホーム > インタビュー&レポート > 『かもめ食堂』の荻上直子監督最新作『レンタネコ』で 荻上作品初出演を果たした田中圭にインタビュー
『かもめ食堂』『トイレット』など数々のヒット作を発表している荻上直子監督による最新作『レンタネコ』が、5月12日(土)よりシネ・リーブル梅田ほかにて公開される。“さびしい人にネコ貸します”とハンドスピーカーで呼びかけながらネコを乗せたリヤカーをひき、レンタルネコ屋を営む主人公が、様々な人やネコとの出会いを通じて変化していく姿を描く。都内の片隅にある平屋の日本家屋に住み、ネコのほかに家族はおらず、レンタネコ屋以外にも何かを手がけていそうな正体不明の主人公・サヨコに市川実日子が扮し、サヨコと出会う人々を草村礼子や光石研、田中圭、小林克也らが演じ、脇を固めている。本作の公開にあたり、サヨコの中学時代の同級生・吉沢を演じた田中圭が来阪した。
本作で田中圭が演じた吉沢は、サヨコの中学時代の同級生という以外、確かなことはほとんどなく、中学時代“嘘つきはったりの吉沢”と呼ばれていたという、謎の多いキャラクター。劇中でも、「明日インドに発つ」など、嘘か本当かわからないような発言が多い。そんな吉沢を演じるにあたって、田中はどのように吉沢を捉えていたのだろうか。
田中圭(以下、田中):今回は、台本を読んだ時に感じた印象と、吉沢が登場する意味や出番を考えたうえで、吉沢のキャラクターは敢えて肉付けしなくても、ふわっとした感じでいいんじゃないかと思ったんです。普段は、脚本を読んで衣装合わせの時に監督と話をして、自分が演じるキャラクター像を決め込んでいくんですが、今回は、荻上さんから、脚本には書かれていなかったヨーヨーを渡されたんです。そこで監督に、「なぜヨーヨーなんですか?」と聞いてみたら、監督の答えが「私の好きな映画のあの役の子が持っていて、吉沢っぽいなと思ったから」で、すごくふわっとしてたんです(笑)。だから、何かあれば監督がおっしゃるだろうと思って、自分が感じた吉沢というキャラクターを演じました。
そのように田中なりの感覚で演じていたようだが、本作は、ちょっと心の寂しい人たちが正体不明のレンタネコ屋から借りたネコに癒され、心やどこかにあいていた小さな穴がネコによって埋められていくというストーリー。では、田中は吉沢の心の穴をどのようにイメージして演じていたのだろうか。
田中:吉沢を演じるうえで、彼が心の中にぽっかり穴があいている人だというのは意識していました。この映画の登場人物はみんな、吉沢ももちろんそうですが、決して自分に満足しているわけではなくて、闇を抱えているというか、くすぶってるんですよね。そういう感じさえ表現できていれば大丈夫だと思って演じていました。全てをさらけ出す勇気がない人ってたくさんいると思うんです。僕は、彼が嘘をつくことにも深い意味はないと思うんです。ただなんとなく嘘をついちゃう。それは心にぽっかり穴があいているからなのか、嘘をつくことによって穴があいたのか、嘘をつくのも心の穴を埋めるためなのか、色んな解釈があると思います。そのなんとなく意味のない嘘をついちゃうことって僕にもありますし、吉沢の役作りには苦労しませんでした。
荻上監督の作品に出演するのも本作が初めてなうえ、今まで演じたことのないキャラクターながら、役作りには苦労しなかったと語る田中。初めて体験する荻上監督の現場はどのような感じだったのだろうか。
田中:荻上監督の作品は観たことがなかったのですが、今までの作品の雰囲気は知っていたので、イメージはできていました。そして、現場に入ってからもイメージ通りでした。ネコの話をするといつも監督は笑っていましたし、実際に、やっぱりネコは可愛いんですが、監督はネコに甘いんですよ(笑)。例えば、本当は、このネコにここにいてほしいのに、落ち着きがなかったら、あの子でいい、みたいな感じです。たぶん、監督がネコ好きだから何でもいいと思うんです。すごくリアリティを大切にされる監督なのに、ネコに関しては寛容で、監督からネコに対する不満を聞いたことがなかったですね。
やはり、今までの映画にも随所にネコが登場するなど、ネコ好きで知られる荻上監督らしく、ネコに甘いエピソードには思わず笑ってしまった。今回、田中が出演しているのは、4つあるエピソードの最後のひとつ。初共演となった市川の印象や、全てのエピソードが繋がった完成作を観た時の印象を聞いてみるとー
田中:市川さんとは初めて共演させていただいたんですが、周りの空気感を大事にして、気を配りながらお芝居される方なので、心地よかったです。完成した映画を観た時は、皆さんのさりげないお芝居をさすがだなと思いましたし、そんなお芝居にくすっと笑ったりしながら、ネコ好きの人や女性の方にはたまらないのかな、とか想像しながら観ていました。僕は男なので、わかりやすいアクション映画とかサスペンス映画を観ることが多くて、この映画は、普段の自分だったらチョイスしない作品だと思うんです。でも、この作品に携わって、僕がプライベートで観る作品とも今まで出演してきた作品とも違うので、新鮮でしたし、こういう作品もいいなと思いました。だから、こういう雰囲気の作品にもまた出てみたいと思いました。
田中が語ってくれた荻上監督のネコエピソードにもあるように、荻上監督自身、“言葉に言い表せないぐらい”のネコ好きとして知られ、荻上監督の作品のどこかに必ずネコが登場している。そんなネコ好きの荻上監督が手がけたネコの映画だからこそ、可愛いネコがたくさん登場するのはもちろん、サヨコの住む一軒家で自由に暮らすネコたちが所狭しと走り回る姿にも癒される人は多いはず。そして、今までに出演したことのない雰囲気の本作に出演したことで、視野も広がり、今後の選択の幅が広がったと語る田中に、自分自身の今後について尋ねてみると、「いい役者になりたいですし、周りの方からもそういう風に思われるようになりたいです。12年役者をやってきているんですが、まだまだ自分が理想とする役者像にも理想の男にもなれていないので、1歩ずつ前進していければと思います」とのこと。映画にTVドラマ、舞台にと活躍の幅を広げる田中圭から、目が離せそうにない。
(2012年5月11日更新)
たなか・けい●1984年、東京都生まれ。2003年、TVドラマ「WATER BOYS」にて主人公の親友役で注目を集め、その後数々の映画やTVドラマ、舞台などで活躍。特に最近は、『ラブコメ』(2010)、『ランウェイ☆ビート』(2011)、『アフロ田中』(2012)など、出演作が相次ぐ。舞台でも、内野聖陽とW主演を果たした『幻蝶』などで話題を呼んでいる。8月には『鎌塚氏、すくい上げる』の公演が控えている。今後、ますますの活躍が期待される若手演技派俳優。
●5月12日(土)より、
シネ・リーブル梅田ほかにて公開
【公式サイト】
http://www.rentaneko.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158522/