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「瀬文焚流という役は僕にとって挑戦でもありました」
堤幸彦監督ならではの奇想天外な物語が炸裂する
『劇場版 SPEC~天~』加瀬亮インタビュー

 2010年冬に放映され、謎に満ちたストーリー展開と斬新な映像表現で熱狂的なファンを生んだTVシリーズ『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』。続編を望む多くの声を受けて映画化された『劇場版 SPEC~天~』が、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開中だ。本作では、通常の捜査では解決できない特殊な事件を専門に扱う部署「警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係」通称“未詳(ミショウ)”に属す、戸田恵梨香演じる特別捜査官の当麻紗綾(とうまさや)と加瀬亮扮する瀬文焚流(せぶみたける)が「ミイラ死体殺人事件」に挑む。本作の公開にあたり、TVシリーズから引き続き瀬文を演じた加瀬亮が来阪した。

 

 加瀬亮と言えば、最近ではガス・ヴァン・サント監督作『永遠の僕たち』(2011)や、小林聡美らと共演する『東京オアシス』(2011)、山田洋次監督作『おとうと』(2010)や『TOKYO!』の中のミシェル・ゴンドリー監督による1編『インテリア・デザイン』(2008)など、主に映画で活躍する俳優として確固たる地位を築いている演技派俳優だ。その加瀬がTVの連続ドラマに出演するのは2009年の「ありふれた奇跡」以来2度目のこと。しかも、堤監督とのタッグ。まずは、ドラマ版の際に瀬文役のオファーが来た時の率直な感想を聞いてみるとー

 

加瀬亮(以下、加瀬):堤監督のテレビドラマ作品は好きで、何作品か見ていました。でも、『SPEC』の脚本を読んでも、瀬文の役柄を見ても、なぜ自分にオファーが来たのかはわからなかったんです(笑)。だから、初めて堤監督にお会いした時、「僕で大丈夫なんですか」って聞いたら「大丈夫だ」っておっしゃるし、監督が熱意を持って話してくださったのが印象的だったので、瀬文という役に挑戦してみようという気持ちになりました。

 

 そんな“挑戦”するつもりで挑んだTVドラマが、スペシャルドラマを経て映画化。TVドラマの最終回で戸田演じる当麻が「映画化なんかぜって~しないから」と挑戦的に言っていたこともあり、ファンの間では映画化が待望されていたものの、TVドラマの当初は今後の話については一切聞かされていなかったそう。結果的に瀬文は、映画への出演が多い加瀬にとっては、今までで一番長く演じたキャラクターとなったが、TVドラマ~スペシャルドラマ~映画とここまで瀬文を演じてみて、加瀬はどのように感じているのだろうか。

 

加瀬_photo1.jpg加瀬:正直、こんなに長くやるとは思いませんでした。今回のスペシャルドラマと映画で瀬文を演じるにあたり、連続ドラマを見直したんですが、台本は連続ドラマから1年経っている設定でしたし、キャラクターも以前とは少し変わっていたので、瀬文というキャラクターを作り直していかないといけないなと思ったんです。だから、無理に以前と全く同じにしようという意識はありませんでした。連続ドラマの時の瀬文は、まっすぐというか割と純粋なキャラクターでしたが、未詳に配属されてからの瀬文の原動力となっていた志村という後輩を救えなかった事件を含めて、瀬文も色んな経験を経て、ちょっとだけスレたと思うんです。だから、映画ではジャケットのボタンを留めずに着ていたり、シャツのボタンを外していたりするんです。そういうドラマでの経験を経て、外見も含めて、瀬文が変わった感じを映画では少しだけ表現していきました。

 

 加瀬が意識していた、ちょっとスレた感じに加えて、映画版で観客たちの驚く表情が予想されるのが、瀬文のギャグパートの多さ。TVドラマでは、当麻のギャグの方が圧倒的に多く、加瀬演じる瀬文はキレキャラという設定だった。しかし、映画版では樽に入って走ったり、足にギプスを付けたままで走るなど、今までの加瀬の出演作を観ている方なら、もしかしたら戸惑ってしまうほどのギャグを披露しているのだ。加瀬自身は、映画版でのギャグの多さについて戸惑いなどはなかったのだろうか。

 

加瀬:戸惑いはありました(笑)。ただ、スペシャルドラマから映画にかけてどんどん当麻の方に物語が寄り添っていたうえに、当麻の物語は深刻なので、役割として瀬文がギャグの部分を背負うしかないと思っていました。ギャグは、最初に読んだ脚本の段階でも書かれていたので、その時点で今までとは瀬文のキャラが違うと感じていました。映画では、戸田さん演じる当麻がブレないことが大事なので、ブレる必要性が出てくる場合は瀬文がブレるという感じだったんだと思います。脚本以外にも、現場でギャグが生まれることも多々あるんですが、それは必ず監督がギャグの内容を変更して、数は3倍ぐらいになるんです(笑)。

 

 その堤監督の作品に参加するのは、もちろん加瀬は初めてのこと。ギャグが追加されることにも驚いていたようだが、堤監督といえば、カット数が多いことで知られ、撮影現場のカメラの数には驚くそうだ。それに加え、本作はCGが多様され、ブルーバックと呼ばれる、背景が何もない状態での撮影も多かったはず。加瀬は、初めてづくしだったに違いない、堤監督の世界観や演出についてはどのように感じたのだろうか。

 

加瀬:堤組は、いざ現場に入るとよくわからないんです(笑)。カメラもいっぱいあるし、突然監督がナンセンスなことを言ったりしますし(笑)。演技をしていても、どう撮られているかはわからないですし。繋がって映像を観てから「あぁ、そういうことだったのか」と思うことが多いです。今回は、CGを使うシーンが多かったので、戸惑う部分は確かにありました。監督の説明もほとんど擬音で「ガーってきて、ギーってなって、そこにグルグルっているから」って感じなんです(笑)。全員がなんとなくしかわからない状況なので、そういう時は戸田さんを見て、戸田さんがどこを見ているのかを確認して、みんなで「あの辺にいるに違いない」っていうふうに、手探り状態で演じていました(笑)。

 

 ギャグの多さはもちろん、肉体派で単純という瀬文のキャラクターは、今までのいわゆる単館系作品に出演してきた加瀬のイメージとは全く逆の肉体派のキャラクター。本作に加え、最近では北野武監督作『アウトレイジ』(2010)でのスマートな悪者役や熊切和嘉監督作『海炭市叙景』(2010)での家庭内暴力を振るう夫の役など、今までの加瀬からイメージされる役柄から少し変化しているように感じられるのだが、加瀬自身はどのように感じているのだろうか。

 

加瀬_photo2.jpg加瀬:僕自身が、難しい中途半端な年齢になってきたことがあると思います(笑)。今までは実際の歳より若く見られていましたし、自分の歳よりも随分下の役を演じることが多かったのですが、それはもう限界だと感じました。『ハチミツとクローバー』(2006)という映画に出演した時に既に感じていたのですが、あの当時でもう30歳だったんです。同級生を演じていた共演者はみんな20代で、さすがにきつかったですね(笑)。そういうことが続いたことと、女性の思う男性像みたいな役柄を演じることも多かったので、そういうイメージがついてしまって、それがなんとなく窮屈だと思っていた時期に、今回の『SPEC』もそうなんですが、今までのイメージを無視したオファーというか、全く違うタイプの役を演じるオファーがいくつか続いたんです。最初はたしかにとても不安でしたが、ここで挑戦してみないとずっとそこに留まってしまうような気がしたので、挑戦的な役柄でオファーしてくださった監督の作品には積極的に出るようにしましたし、これからもしばらくそうしていくと思います。こういうことは、等身大の動きではないので、これからたくさん演じ損ねたり、見苦しいところもみせるかもしれないですが、長い目で見て、ちゃんとその成果をいつか役に反映して、応援してくれている方々にも、返せたらなと思います。

 

 そのような意識で本作のシリーズに挑んでいた加瀬だが、やはりドラマと映画では演技に違いがあるように思われる。特に連続ドラマへの出演は、映画を主なフィールドにしている加瀬にとっては戸惑うこともあったのではないだろうか。

 

加瀬:自分の中では、映画とテレビには明確な違いがあります。でも最近は、映画がテレビっぽくなっていたり、逆にテレビが映画っぽいことをしていたりするので、昔ほどはっきりとは言えないですが、やっぱり画面の大きさも含めて違いは感じています。テレビはラジオから発展したメディアなので、言葉が中心だし、大事で、映画は元々写真を繋げて動かしているので、画が大事であり、言葉が生まれる以前の世界だと考えています。そう考えると、僕はテレビとは全く違う世界で生きてきたので、テレビドラマに出演する時は、まだまだお邪魔しますという感覚ですし、いろいろと伝えるために勉強中という感じです。

 

 加瀬は、目や仕草での芝居で感情を伝える映画の時の演技よりも、本作では特に演技をオーバーにしていたようだ。一方、『SPEC』シリーズでは、TVドラマに出演していることの多い戸田との初共演を果たした加瀬。ドラマの撮影に入る前は、戸田に対してどのような印象を持っていたのだろうか。

 

加瀬:僕は、あまりテレビを見ないので、戸田さんの名前は知っていたんですが、戸田さんについては全然知らなかったんです。でも、初めて会った時に、とても良い予感がしました。

 

 逆に、全く知らなかったからこそ、先入観なく現場に入ることができ、当麻と瀬文という異色のキャラクターをふたりとも確立させることができたのではないだろうか。今回の映画のキャンペーンでは、ふたりでインタビューに応える機会も多かったようだが、撮影現場ではどのように過ごしていたのだろうか。

 

加瀬:連続ドラマの時は、撮影以外で戸田さんとほとんど話をしませんでした。ふたりとも当麻と瀬文という役柄が普段演じているキャラクターと違っていたので難しいこともありましたし、自分のことで精一杯で仲良く話す雰囲気ではなかったんだと思います。でも、スペシャルドラマと映画の話が出て、プロデューサーと3人で食事をしたのがきっかけで、久しぶりに会って話してみたらすごく話しやすく、そこから仲良くなっていきました。意識はしてなかったんですが、4ヶ月も連続ドラマを一緒にやってきて生まれた信頼感みたいなものがあったんだと思います。戸田さんも、わかりやすい芝居に対して自分の考えを持っている方だと思いますし、すごく気持ちを大事にした演技をされる方なので、演技を一緒にやる上では最初からしっくりきていました。彼女は女優歴も長いのに、すごく純粋に気持ちで演技に向き合っている珍しい方だし、本当に素晴らしい女優さんだと思います。

 

 最後は、戸田に対する絶賛で終わったインタビュー。戸田も加瀬に対する絶賛を様々なところで口にしていることからも、ギャグやアクションも多く、CGが多様される過酷な現場を共に乗り越えた同志のような、良き共演者にめぐり合えたことをお互いが喜んでいるように思えた。そんな、ふたりのタッグによって成立している本作だが、ファンの方なら誰しもが、TVドラマが“起”、スペシャルドラマが“翔”、本作が“天”であることと本作の内容から、今後の展開が気になるはず。最後に加瀬に今後の展開について聞いてみると、「何も聞いていませんし、もちろん撮影もしていませんし、脚本も何もないです(笑)。何よりも僕たちが疑問を解決してほしいと思ってますから(笑)」とのことだった。加瀬演じる瀬文の活躍をもっと見たい方、今後の展開が気になる方は、まずは劇場版を観て、続編を望む声をあげることをオススメします!




(2012年4月11日更新)


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Profile

かせ・りょう●1974年、神奈川県生まれ。2000年に石井聰互監督の『五条霊戦記』でスクリーンデビュー。その後も、クリント・イーストウッド監督による『硫黄島からの手紙』(2006)や荻上直子監督による『めがね』(2007)など、様々な作品に出演。2008年には周防正行監督の『それでもボクはやってない』で第31回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、第50回ブルーリボン賞、第32回報知映画賞など、数多くの賞を受賞する。その後も、ミシェル・ゴンドリー監督による『TOKYO!~インテリア・デザイン』(2008)や、北野武監督の『アウトレイジ』(2010)、ガス・ヴァン・サント監督の『永遠の僕たち』(2011)など国内外の監督から出演のオファーが絶えない日本を代表する俳優。待機作に、アッバス・キアロスタミ監督作『Like someone in love』がある。

Movie Data





(C)2012「SPEC~天~」製作委員会

『劇場版 SPEC~天~』

●TOHOシネマズ梅田ほかにて公開中

【公式サイト】
http://www.spec-movie.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157234/