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第33回ナント三大陸映画祭でグランプリ受賞、
毎日映画コンクール作品賞&監督賞ダブル受賞など、
国内外から注目を集める傑作群像劇『サウダーヂ』
富田克也監督来場会見レポート

 映像製作集団“空族(くぞく)”の富田克也監督が『雲の上』『国道20号線』に続いて放つ最新作『サウダーヂ』が2月11日(土)よりシネ・ヌーヴォ、3月3日(土)より第七藝術劇場、3月24日(土)より新京極シネラリーベ、4月14日(土)より神戸アートビレッジセンターにて公開される。監督の出身地である山梨県甲府市を舞台に、不況による空洞化が進む地方の現状、そこに生きる派遣労働者、日系ブラジル人、アジアからの移民らの姿を描き出している。ラップ音楽をとり入れたその映像世界は海外でも反響を呼び、ロカルノ国際映画祭で批評家賞を受賞、第33回ナント三大陸映画祭にてグランプリの“金の気球賞”を受賞、また日本でもキネマ旬報ベスト・テンの第6位にランクインするなど、国内外から注目を集めている作品だ。本作の公開に先立ち、富田克也監督が来阪し、HIPHOPグループ「アーミービレッジ」のクルー・猛の弟、天野幸彦を演じた野口雄介とともに会見を行った。

 

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 処女作『雲の上』で、自主映画としては異例の7ヵ月ロングラン上映を成功させ、高い評価を受けていた富田克也監督が、巨大量販店、パチンコ店、消費者金 融ATM機の並ぶ画一化された地方都市の国道沿いを舞台に、そこで暮らす荒廃し切った若者たちの“激安”な日常を描いた衝撃作『国道20号線』に続き、疲弊した地方都市の現実を映し出した本作『サウダーヂ』。移民問題やシャッター通りなど、様々な地方都市の問題を含む本作の制作のきっかけとはどのようなものだったのだろうか。

 

監督:『国道20号線』でも描いたことですが、地方都市に大型ショッピングセンターが出来たことによって中心街が空洞化したという図式は、ここ10年来語られてきたことですよね。地方の疲弊や空洞化という言葉は耳にしていても、それが一体自分たちの生活にどう表出するのかを考えたんです。最初は街全体をテーマにして、それをどういう切り口で撮るかを考えた時に、どんどん廃れていく地方都市の土木作業員という職業を中心に語ることを決めました。そこから1年間リサーチをして、その中でブラジル人やタイ人、フィリピン人と出会ったことで、自ずと物語の中に彼らが入ってきました。結局、経済格差や男女の差、世代間格差に人種差もある、あらゆる人物の集合体が街となっているので街をテーマにした結果こういう物語になりましたね。

 

 街をテーマにしたと語る監督だが、それによって本作には、監督が出会った様々な人々が登場人物として登場している。例えば、建設現場で働き始めるヒップホップ・グループ“アーミービレッジ”のクルー・猛や、タイパブで働くタイ人、彼の元恋人・まひる、日系ブラジル人のヒップホップ集団など、性別も人種も世代も違う人々だ。そんな登場人物たちに監督が惹かれた理由とは?

 

監督:僕が映画を撮りたいと思うようになった動機が、若い頃一緒に生きていて、今すごく生きづらそうにしている周りの仲間を映したいということだったので、彼らを撮ることを前提に映画を作ってきました。結局、甲府に住む人々に興味があるんですよね。実際に山梨県甲府市で彼らは今も生活していますし、僕らのこの映画は、撮る前も撮っている間も撮り終わった後も全部フィクションだけど、自分たちの生活と地続きになっているものなので、生活基盤である甲府とは切っても切り離せないんです。

 

 生活基盤である街・甲府とは切っても切り離せないと語る監督だが、本作では始めて、地元・甲府から寄付を募り、今までの作品と比べても多いエキストラの参加があるなど、地元から様々な援助があったそうだ。

 

監督:僕は3本ともトラックドライバーをしながら映画を作ってきたんですが、最初は給料から3万円ずつ貯金して、貯まったお金で8mmフィルムを買って、週末に山梨に通ってそのフィルムで撮影するというスタイルだったので、1作目は3年ぐらいかかってしまって。その作品がとある映画祭でスカラシップを受賞して、それで撮ったのが2作目の『国道20号線』で、それはまとまった制作費をいただいたので、その資金を基にして撮りました。今回はどうしようかと思った時に、今までよりも規模の大きな作品になる予感があったし、今、甲府という場所は色んなものが奪い取られて何にもないという気がして仕方がなかったので、今回は現地を巻き込みたいと思って、寄付を募ることにしたんです。だから、撮る前から大々的に制作発表イベントを開くなど地元で大騒ぎして、制作協力金ということで寄付を募りましたし、ロケにも協力していただきましたし、エキストラで出演してもらうなど、色々なかたちで地元に協力してもらいました。ただ、後で金返せと言われても困るので、最初に、この映画はご当地映画ではないし、地元のいい部分だけを取り上げて、僕らはこんなに慎ましく生きていますというような映画ではないことは伝えていました(笑)。結果、制作費1500万円のうち、500万円を寄付でまかなって、1000万円が借金です。これから興行収入で返済していかきゃいけないので、よろしくお願いいたします(笑)。

 

 そのようにして作られた本作だが、東京では既に公開され、ミニシアターでの公開ということを考えると大ヒットと言えるヒットを記録している。一方、地元の甲府での公開や観客の反応はどのようなものだったのだろうか。

 

監督:当然、地元の甲府で上映したいと思ったんですが、甲府にはこのぐらいの規模の映画を上映してもらえるミニシアターがなくて、そこに持ち込むことが難しい状況で、自主上映で2回上映しただけなんです。そうすると、そこに集まってくれるお客さんは映画に協力してくれた人がほとんどだと思いますので、本当の意味で地元の感想というのはまだ聞けていない状況です。

 

 本当の意味での地元の感想はまだ聞けていないと語る監督だが、映画に協力していただいた方からは「よくやった」という声をいただけているそう。また、キネマ旬報ベストテンの第6位以外にも、毎日映画コンクールで日本映画優秀賞と監督賞をダブル受賞するなど、海外だけでなく国内での評価もうなぎのぼりだ。そんな好評価について監督はー

 

監督:僕は、自分の知らない世界を観られることが映画の存在理由のひとつであり、魅力だと思うので、この映画を観て自分の知らない世界が映っていると感じたら、その世界に思いを馳せていただきたいです。反響に関しては予想以上と言うか、作っていてもこの映画がどう伝わるのか不安でしたし、そう簡単に観客に受け入れてもらえるとは思っていなかったので、ちょっと意外でした。でも、当然反響をいただいたことは素直に嬉しいです。

 

 監督は、そう簡単に観客に受け入れてもらえるとは思っていなかったようだが、ではその好評価の要因はどこにあると監督は考えているのだろうか。

 

監督:正直なところを言うと、変な映画だと思ってもらったんじゃないかと思いますね(笑)。現在の商業映画の作られ方って、観客の求めているものを想定したうえで、作り手がその中の最大公約数を考えるという、ある種のマーケティング映画に成り下がっているんじゃないかという思いがどこかにあって、その中で誰にも頼まれていないのに、自分たちがお金を捻出して作る映画だからこそ出来る内容もあるはずだと思って、この映画を作りました。それだけに、最大公約数的な観客の方に受け入れられるとは到底思ってなかったです。ただ、どこかに気に入ってくれる人がいるだろうという思いがなければ、作る気もおこらないので、いわば仲間を見つけるような感覚でここまで続けてきました。だから、逆に驚いていますし、大丈夫かな? と思うぐらいの反響があったので、たくさんある映画の中で“普段観たことのない変わったものを観た”という感覚を持ってもらえたんじゃないかと思います。

 

 本作の物語は、建設現場で働き始めたことをきっかけにHIPHOPグループ「アーミービレッジ」のクルー、猛は外国人労働者を敵視するようになる一方で、日系ブラジル人が率いるHIPHOP集団の存在を知り、さらに憎悪を募らせる。しかし、猛の元恋人、まひるは移民との共生を信じていた。また、猛とともに建設現場で働く堀は、妻がいるにも関わらずタイ人のミャオが働くパブに通いつめており…という、日本人と移民が入り乱れる街の姿をリアルに切り取っている。本作には数々のユニークなエピソードが登場するのだが、監督が最も思い入れのあるシーンとは?

 

監督:鹿をひくところですね。主人公の彼から聞いた、実際にあったエピソードなんですが、彼が親方と山道を車で走っていて、鹿が通ったんです。普通だったらそこでブレーキを踏むんですが、親方はアクセルを踏んだので、彼はびっくりして踏み間違えたのかと思ったらしいんです。でも、それはわざとで、親方は「よっしゃ」って言って、近所に肉を配るんですよ。それを聞いた時に、エピソードとしても面白いと思いましたが、この映画は世代間の違いも描きたかったので、親方の世代は鹿とか熊とかを食べていた世代だし、あの世代の方からすると、鹿は獲物に見えるんですよね(笑)。そういう世代間の違いを表すにもいいエピソードだと思いました。

 

 本作を作るきっかけとして、経済格差や男女の差、世代間格差に人種差もある、あらゆる人物の集合体が街となっているので、街をテーマにした映画を作りたかったと語っていた監督。では、ポルトガル語で郷愁など様々な意味を持つ『サウダーヂ』のという本作のタイトルに監督が込めた思いとは?

 

監督:単純に、ポルトガル語で僕らが知っている言葉が『サウダーヂ』しかなかったんです(笑)。そして、『サウダーヂ』の意味を調べてみたら、色々な意味があったので、ブラジル移民の人たちに聞いてみたんですが、彼らもひと言では説明できないぐらい難しい言葉で。そんな中で僕が考えたのは、もちろん郷愁という意味はありますが、ブラジル人たちが遠く離れた故郷を想う意味の郷愁だったり、日本で生まれたブラジル移民4世の子どもたちは、ブラジルに帰ったことがなく、しかし日本にいても日本人として扱ってはもらえない境遇から考えれば、故郷がないという彼女たちの喪失感だったり、日本人にしても物質的に豊かな国になったことによって失ってしまったものがあるという喪失感や、ある種の郷愁だったり、要するにかつてあったけれど、今ではもう手に入らない、取り戻すことができないものという、あらゆる登場人物に当てはまるタイトルだと思ったんです。

 

 最後に、元々“空族”の映画が好きで、自身が出演した『堀川中立売』が東京の映画祭で上映された時に富田監督に連絡し、演技を認めてもらえたことで本作への出演が決まった野口は、「甲府の話だけど、地方都市に共通する普遍的な話だと思います。これを作った空族はほんとにすごいです。完成した映画を観ても、すごいクオリティでしたし、この映画に参加できて光栄でした」と本作への熱い思いを語ってくれていた。本作『サウダーヂ』は、山梨県甲府市という地方都市の現実を映し出すことで、日本のどこにでもある疲弊した地方都市のリアルを見事に切り取った作品だ。それでいて、ブラジル人移民やタイ人、フィリピン人など数多くの外国人労働者が登場し、様々な登場人物が入り乱れる物語からは、本当にこれが日本の話なのかと思わせるほど衝撃的なエピソードも登場する。それこそが、富田監督が描きたかった“街”のリアルな姿なのだと痛感させられる、富田監督の渾身作だ。




(2012年2月10日更新)


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Movie Data



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『サウダーヂ』

●2月11日(土)~3月2日(金)、
シネ・ヌーヴォにて公開
●3月3日(土)~3月23日(金)、
第七藝術劇場にて公開
●3月24日(土)~4月8日(日)、
新京極シネラリーベにて公開
●4月14日(土)~4月30日(月・祝)、
神戸アートビレッジセンターにて公開

【公式サイト】
http://www.saudade-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156746/