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「残酷でもあり、華やかでもある。両方混在しているのが
現実だと思うんです」俊英・真利子哲也が放つ異色作
『NINIFUNI FULL VOLUME ver.』真利子哲也監督インタビュー

 『イエローキッド』の真利子哲也監督が手がけ、今年のロカルノ国際映画祭でも大反響を呼んだ中編映画『NINIFUNI FULL VOLUME ver.』が、2月25日(土)よりシネ・リーブル梅田、京都みなみ会館、4月より神戸アートビレッジセンターにて公開される。2つであって2つではないことを意味する仏教の言葉“而二不二(ににふに)”を題材に、異色のドラマが展開していく。『ユリイカ』の宮﨑将が主演を務め、現在人気急上昇中のアイドル・ももいろクローバーが本人役で出演しているのも話題を呼んでいる。本作の公開にあたり、前作『イエローキッド』が学生映画としては異例のロードショー公開されるなど、国内外から注目を集める真利子哲也監督が来阪した。

 

 とある事件に関与してしまった青年が奪った車で逃走を図る。国道を彷徨っていた彼は、殺風景な町並みの続く地方都市へと流れつく。その地に熱狂的なファンを持つ人気アイドルグループのももいろクローバーが、新曲のプロモーションビデオの撮影でやってくる。この映画を作るきっかけとなったのは、真利子が耳にしたある事件とそこからインスピレーションされたある映像だそう。

 

真利子哲也監督(以下、真利子):ある地方都市で起こった、すごく小さな強盗事件がすごく心に残ったんです。最初に青年の乗っている車のフロントガラスの正面に、アイドルグループがいるイメージが浮かんで。外だけ華々しくて中にはうっすら音だけが聞こえてくるような、そういうシーンがぱっと頭に浮かんだんです。その感覚を実際に目で見たいというところからこの映画は始まりました。音も含めて、実際にこの目で見たらどういう風に感じるんだろうと思ったんです。

 

 監督が、「外だけ華々しくて中にはうっすら音だけが聞こえてくるような」というフレーズで語っているように、本作は、国道を彷徨う青年と元気溌剌としたももいろクローバーを対比させたかのように、静と動や陰と陽という様々な対比の言葉が思い浮かぶ。

 

真利子:結果的に、対比で描いているように見えるかもしれません。でも、例えばこの言い方は語弊があるかもしれませんが、ももいろクローバーも10年後に男のようにみんなから忘れられている存在かもしれないですよね。だから、同じものとして描こうというのは根底にありました。決して、(ももいろクローバーの)人気が衰えるということではなくて、そういうこともあり得るだろうということです。今、陰と陽として描いているものがいつ逆転するかわからないですし。それは現実にも実際あることですしね。

 

 意識的に対比しようとして描いたのではなく、むしろ“同じもの”として描くことを心がけていたようだ。では、元々アイドルには詳しくなかった真利子監督は、数多く存在するアイドルグループの中で、なぜ、“ももいろクローバー”を選んだのだろうか。

 

真利子:彼女たちは、全力で生きている感じがするんですよね。嘘がない感じがするんです。実際、裏表もないし、現場でもあんな感じなんですよ。僕が初めて見たのは、まだそこまで人気が出ていない頃で、1年半前ぐらいかな。デパートの屋上で彼女たちがライブをしていたのを見たんです。出てきた瞬間に「この子たちしかいない」と思いましたね。むしろ、「この子たちです」ぐらいの感じでした(笑)。最初は、全国のアイドルを全部見るって言っていたのに、そこからは他のアイドルは一切見ませんでした(笑)。不思議な魅力があるんですよね、彼女たちには。

 

ninifuni_photo.jpg

 と、ひと目で恋に落ちるかのごとく、監督はももいろクローバーに魅了されてしまったようだが、実際に彼女たちのライブにも足を運んでいるそうで、コンサートに行っていたのがテレビに映っていて、なんとプライベートでも親交のある松江哲明監督(『あんにょん由美香』『トーキョードリフター』)に見つかってしまったそうだ。

 

真利子:この映画を撮ってすぐぐらいの頃の一時期は、関係者席で見ていたので、近くに(南海キャンディーズの)山ちゃんとかがいるんですよ。それで僕も映っていたっぽいです。ちょっと恥ずかしい一面を見られてしまいました(笑)。けっこう自費で行っているのに、たまたまその時は関係者席にいたんですよ。さすがにひとりじゃないです。いつもプロデューサーと一緒に。あっ、1回ひとりで行ったかな…(笑)。ライブ、楽しいんですよ(笑)。僕も、『行くぜっ!怪盗少女』のPVを見た時は、プロデューサーに「ちょっと違います」って言ってたんですよ。でも、とりあえず「見てみな」って言われてライブに行ったら、はまっちゃって、「この子たちしかいない」と思っちゃったんです(笑)。やっぱり生だとさらにパワーが伝わってくるので、今回はその感覚を映画に入れたかったんです。

 

 本作は、そんな元気いっぱいのももいろクローバーが登場するまでの宮﨑将演じる青年が国道を彷徨うパートでは、ほとんど言葉は登場せず、国道を走る車の音や青年が踏みしめる草の音に風の音、そして波の音など、言葉以上に音が雄弁に青年の心の中を語ってくれているように感じた。音の強弱の付け方などはどのように意識していたのだろうか。

 

真利子:音は、強弱というよりは、シーンとシーンの間がブツ切りになるように意識してましたね。調整は当然してるんですが、カットとカットの間の繋ぎ目を綺麗にせず、ザクザクしているような感じにするのは最初から決めていました。それは劇中の行動も、です。その方が生々しく見えるんじゃないかと思いましたし、元々今回は、主人公の男とアイドルグループと風景の3つだけに力を入れたいと思っていたので、風景というのはどうしてもロケをした日の天気に左右されてしまうものなので、その風景の表現が音の表現でもあったということです。

 

 そして、言葉がない分、音や風景はもちろん青年の表情など、スクリーンの隅々にまで注意を払いながら観ることで、より雄弁な映画となって私たちの胸に突き刺さる作品となっている。最近では特に珍しい、言葉のない映画。苦労もあったと思われるがー

 

真利子:前作の『イエローキッド』は、いい意味でも悪い意味でも色々考えてこねくりまわして作った映画なんですが、この『NINIFUNI』は、さっき言った3点だけをシンプルにやろうと言って作った映画ですし、ましてやひとつのフレームだけというか、あの絵を求めていただけだったので、すごくシンプルに伝えることができたと思います。ただ、普段だと映画の中で色々なことを言いたくなることが多いんですが、この映画は感覚的なことを伝えるために、スタッフにも信じてもらわなきゃいけない大変さはありました。でも、それが達成できた時は、スタッフも喜びが大きいし、自分も達成感が大きかったので、苦労した分喜びも大きかったです。

 

 また、音を雄弁に感じたのは、役者をバックショットで捉えるカットの多さや、感情を表情に表さないような表現が多いことも影響しているように思えるのだが、監督は役者たちの表情などはどのように演出していたのだろうか。

 

真利子:直接、役者さんに伝えたことはないんですが、観ている人にわかりやすく伝わるような行動はやめたいね、とは思っていました。元々、なんでもない風景の中になんでもない男がいて、という映画を作ろうという話だったので、だから、ああいうショットという訳ではないんですが、自然に役者さんもそういう表情になったという感じです。主演の宮崎くんと話していても、あんまり深くはしゃべってないんですよ。でも、お互いの気持ちを話して、そこからこういう映画が出来てきたという感覚です。何者でもないひとりの男がいて、もしかしたらいつか何者でもなくなるかもしれないアイドルがいて、という世界を描いたんですが、見方によってはそれはすごく残酷だと言われたりもするんです。でも、実際現実に起こり得ることだと思うし、現実ってそういうものだと思って作りました。ただ、それを観てどう思うのかは人それぞれですよね。どっちの世界も描くことで何が見えるのか、ということを表現したかったので、どっちも好きでやってたんですけど、「残酷だ」と言う人もいれば「華やかだ」と言う人もいて、両方混在しているのが現実だと思うので、どう思われても正しいんだと思っています。

 

 “何者でもないひとりの男がいて、もしかしたらいつか何者でもなくなるかもしれないアイドルがいる世界”を描いた本作。タイトルの『NINIFUNI』は仏教用語で“2つであって2つではないこと”を意味する。この『NINIFUNI』というタイトルに込めた監督の思いとはー

 

真利子:この言葉って、「こういう意味ですよ」って言われても、いまいちしっくりこなくないですか? 『NINIFUNI』は『NINIFUNI』でしかないと思っていて、自分の中でも色んな解釈ができる言葉だと思っているし、こういう意味ですという映画にはしたくなくて、このタイトルにしたんです。実際、すごく嬉しかったのが、先に東京で公開されてるんですが、仏教関連のものを英語にしている人が来てくださって、すごく感動してくださったんですが、英語で『NINIFUNI』を訳せなかったらしくって。その訳せないものを映画でちゃんと描いてくれていたって言ってくれたんです。観た人それぞれで感想が違うと思うんですが、この言葉自体もそういうものなんだろうな、という気がします。だって、「ふたつであってふたつでない」っていっても、みっつかもしれないし、ひとつかもしれない、ゼロかもしれない。だから、すごく意味深な言葉ですよね。そもそもは、“アイドル”という言葉を調べたら偶像という意味で、偶像が仏像でという流れで仏教にたどり着いて、僕もあまり詳しくないのでさらに調べていったらこの言葉が見つかって、この映画に適した言葉だと思ってつけました。

 

 『NINIFUNI』に撃たれた、ずっと『NINIFUNI』について考えている、など、映画を観た人から発せられる様々な言葉には、“何かただならぬものを観た”という感覚だけが共通しているようだ。監督にその言葉をぶつけてみると、「僕もよくわからないんです。ただ、“『NINIFUNI』を経験した”という言葉が一番しっくりきませんか」という答えが返ってきた。まさに、そのとおり。まさに“『NINIFUNI』を経験した”という言葉でしか表現できない何かがこの映画にはある。梅田と京都の公開初日である2月25日(土)には、真利子監督による舞台挨拶が決定! 監督の生の言葉で、その“ただならぬ何か”をより深く感じ取ってほしい。




(2012年2月24日更新)


Check
真利子哲也監督

Profile

まりこ・てつや●1981年、東京都生まれ。法政大学在学中に20歳で制作した『ほぞ』が調布映画祭でグランプリを受賞。その後、21歳で制作した『極東のマンション』は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門グランプリなどを受賞、さらに海外の映画祭でも上映され、注目を集める。翌年、『マリコ三十騎』を発表、2年連続でゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門グランプリを受賞、世界最古の短編映画祭であるオーバーハウゼン国際短編映画祭では映画祭賞を受賞した。2007年、黒沢清監督が教授を務める東京藝術大学大学院映像研究科に入学。終了作品として制作した初の長編『イエローキッド』が、学生映画としては異例のロードショー公開となり、日本映画界に旋風を巻き起こす。本作『NINIFUNI』も、ロカルノ国際映画祭で中編映画としては異例の招待作品に選ばれるなど、国内外から注目を集める若手監督。

Movie Data

(C)ジャンゴフィルム、真利子哲也

『NINIFUNI FULL VOLUME ver.』

●2月25日(土)より、
シネ・リーブル梅田、京都みなみ会館にて公開
●4月より、神戸アートビレッジセンターにて公開

【公式サイト】
http://ninifuni.net/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157711/


Event Data

シネ・リーブル梅田と京都みなみ会館で真利子監督による舞台挨拶が決定!

【日時】2月25日(土)
20:15の回上映前
【劇場】シネ・リーブル梅田
【登壇者】真利子哲也監督 (予定)
【料金】1000円均一
※チケット販売方法の詳細は劇場HPにてご確認ください。

【日時】2月25日(土)  17:05の回上映後
【劇場】京都みなみ会館
【登壇者】真利子哲也監督 (予定)
【料金】1000円均一
※チケット販売方法の詳細は劇場HPにてご確認ください。

【シネ・リーブル梅田】
http://www.ttcg.jp/cinelibre_umeda/

【京都みなみ会館】
http://kyoto-minamikaikan.jp/