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ロボットの中は冷凍庫並みの寒さだった!? 
苦手な寒さにも堪えて挑んだ憧れの矢口映画
『ロボジー』主演・五十嵐信次郎インタビュー

 『ハッピーフライト』や『ウォーター・ボーイズ』など、笑って泣ける良質の娯楽映画に定評のある矢口史靖監督の最新作『ロボジー』が、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開中だ。突然“ロボットの中身”として活躍するハメになった頑固なお爺さんによって起こる、様々なハプニングがコミカルに描かれる。主人公の頑固なお爺さん・鈴木重光は、ミッキー・カーチスとして活動している73歳の五十嵐信次郎が務め、そんなお爺さんが入っているロボット『ニュー潮風』に恋をする、ロボットおたくのヒロインを吉高由里子が演じている。本作の公開にあたり、五十嵐信次郎が来阪した。

 

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 映画のタイトルである『ロボジー』の意味はすぐにはわからなくても、ところどころちょっと錆びていたり、ギコギコと不器用に動く様子など、矢口監督が“手作り感”にこだわりぬいた、決してデジタルのにおいのしない、アナログ感満載の『ニュー潮風』の映像を見たことがあればあ、そのビジュアルと造形には愛着を感じてしまう人も多いはず。まずは、そんな『ニュー潮風』に入ることになる鈴木重光を演じることになった経緯について聞いてみるとー

 

五十嵐:矢口史靖監督が俺に会いたがっていると聞いて、元々矢口監督のファンだったので、すぐに会いました。その時はまだ『ロボジー』の話もなくて、無駄話をたくさんしていただけだったんですが、後から考えてみると、監督がジロジロジロジロ俺の身体を見てたんですよ(笑)。「やりましょう」という話に近づいてきた時に、俺が「ところで何の映画?」って聞いたら、「ロボット」とひと言しか言わなかったんです。しばらくたってから「決まりました」と聞いたんだけど、ロボットに入ることは脚本が来て初めて知ったんです。完璧に騙されましたね(笑)。

 

 今では、笑いながら「完璧に騙されました」と話す五十嵐だが、『ニュー潮風』の中に入っての演技は想像を絶するほど大変だったよう。

 

五十嵐:ロボットに入る時は、全身タイツのみでした。(『ニュー潮風』は)俺の身体ぴったりに作ってあるから、何か着ると入れなくなるんです。ホカロンも貼れないぐらいだし(笑)、大きく息も吸えないぐらいピチピチだったんです。(『ニュー潮風』の中に入って演技をするのが)あまりにも大変だったから、監督をとっ捕まえて『ニュー潮風』に入れてみようと思ったら入らなくて(笑)。重さは30kgあったんだけど、目方が分散されるから重さは大して感じないんですが、座れないし、前は見えないし、音も聞こえないし。監督から「カット」がかかっても聞こえないんですよ。だから、いつまでも芝居していたので、(共演していた)濱田岳が横から「カットかかってますよ」って言ってくれていました(笑)。

 

 と、雄弁にいかに撮影が大変だったかを語ってくれた五十嵐。しかし、本当に一番大変だったことは、“寒さ”との戦いだったそう。それもそのはず、撮影は昨年の1月から2月にかけてという寒さ真っ只中の、日本海側の北九州で行われたのだ。

 

五十嵐:寒いのが大嫌いなんで、最初は九州で撮影するって聞いて喜んでたんですよ。監督も九州だから暖かいと思ってたらしいんだけど、撮影したのは北九州で、日本海側だから寒いんですよ。ステテコ1枚のシーンがあるんだけど、その日はー2℃でしたから。「凍死するぞ~」って叫んでました(笑)。ロボットは好きだし、矢口監督も大好きだし、全て大好き尽くしだったのに、大嫌いな寒さが入ってきて、雪は2回も降るし、撮影は大変でしたよ。風はロボットの中には入ってこないんだけど、金属でできてるから、どんどん冷えてくるんです。まるで冷凍庫状態ですよ。アイスロボジーですね(笑)。でも、『ニュー潮風』にはすごく愛着があるし、欲しくなっちゃいました。頭が炊飯器で、前側がガスメーターで、後ろが給湯器みたいな感じで、要するに白物家電をかき集めて作ったイメージだそうです。でも、こうやってよく見ると監督そっくりだよね(笑)。『ニュー潮風』と監督が一緒に写ってると、誰が誰だかわかんない(笑)。

 

 そのように、寒さには辟易していたようだが、昔から大好きだった矢口監督の作品に出演できたことは、本当に嬉しかったと五十嵐は話す。なんでも、矢口監督の作品はほぼ全部観ているそうだ。

 

五十嵐:『ハッピーフライト』(2008)『スウィングガールズ』(2004)はもちろん、『ひみつの花園』(1997)『裸足のピクニック』(1993)に短編集もDVDで持ってるぐらい矢口監督のことが好きなんです。矢口監督の映画の台詞には無駄な説明がないし、全部いいんですよね。元々、矢口おたくみたいなところもあったから、矢口監督から会いたいと言われた時は本当に嬉しかったですね。100%監督のことを信頼して、監督の言われたとおりにやりました。撮影中、テストもリハーサルも終わった後で、監督が小耳にこちょこちょっと(演技について)何か言ったりするんです。だから、いざ本番が始まるとスタッフもキャストも知らなくて、みんなびっくりするんです。それもあって、俺の演技で共演者が驚いたりしているシーンは、本当に知らなくて驚いてる時もあるんですよ。監督と共犯者になった気分でした(笑)。

 

 演技については、監督に言われたとおり、台本どおりに演じていた五十嵐だが、普段の五十嵐の風貌とは似ても似つかない鈴木重光を演じるにあたり、役作りなどはどのようにしていたのだろうか。

 

五十嵐:近所のおじいさんウォッチングはしましたね(笑)。公園に行ったりして、歩き方などを研究していました。後は、鈴木重光のしょぼくれた時の歩幅は短いけど、『ニュー潮風』に入った途端に歩幅が大きくなるようにしていました。監督も気づいてなかったみたいで、この前取材で話したら「言ってくださいよ」って言われました。

 

 五十嵐が笑いながら話してくれる撮影のエピソードからは、寒さを別にすると、とても和やかな様子が垣間見える。監督からは、耳元でささやかれる演出がほとんどだったようだが、濱田岳や川合正悟(Wエンジン・チャンカワイ)、川島潤哉という、『ニュー潮風』に入ることができない木村電器の3人組との絡みや、天然キャラのキュートなヒロイン・吉高由里子とはどのような感じだったのだろうか。

 

五十嵐:木村電器の3人との絡みは面白かったですね。役のまんまでした(笑)。特に、川合がいいですよね。彼は芝居が初めてだったから、ものすごく緊張してたんですよ。それを皆でほぐしてましたね。川合は愛されるキャラですよね。でぶキャラはいっぱいいるけど、彼の場合は愛しい感じがするんです。吉高については、彼女みたいな女優いないですよ。この映画は、彼女の素が出てると思います。バイクから『ニュー潮風』に投げキッスするシーンだって、台本にないのに勝手にやって、監督にとめられてNGになって、3回撮り直したんだから(笑)。でも結局最終的に、編集の時にあのシーンが一番いいということになって、それが使われてるんです。

 

 と、ここまで自然に“五十嵐信次郎”という名前を使っているが、今までは映画に出演していてもミッキー・カーチスを使用していた。なぜ、本作『ロボジー』では“五十嵐信次郎”という名前で主演を果たしたのだろうか。

 

五十嵐:撮影最終日の3日ぐらい前に監督から「ミッキーさん、漢字の名前ないんですか」って言われて、「“五十嵐信次郎”という、高校時代に憧れてた名前があるんですよ」と言ったら、「使っていいですか」って言うから、「どうぞ」って(笑)。俺の若い頃は、戦時中とか戦後だったんで、カタカナの名前でいじめられたりしたんです。だから漢字の名前に憧れて、色々考えてたんですよ。映画のタイトル『ロボジー』と、主演“五十嵐信次郎”ってぴったりでしょ(笑)。

 

 ここまで、思わず笑ってしまうようなエピソードを随所に織り交ぜて、にこやかにインタビューに答えてくれた五十嵐。最後に、完成した『ロボジー』を観た感想を聞いてみるとー

 

五十嵐:ちゃんと矢口映画になっていると思いました。矢口監督みたいな監督は、あんまりいないんですよね。コメディ映画でありながら、完全なエンタテインメントとして成立していて、そこにちょっと心がじんとするようなところもあって。この映画は、ロボット好きでも面白いし、ロボットに全然興味がない人でも面白い。お正月映画というと、家族で映画館に行っても子どもだけが映画館に入って、親は外にいたりするじゃないですか。でも、この映画は家族で一緒に観られると思いますし、観てほしいですね。

 

 ミッキー・カーチスが五十嵐信次郎として、冷凍庫並みの寒さにも堪えて完成した映画『ロボジー』。五十嵐が演じた鈴木重光も、最初は憎たらしく思えるがだんだんと可愛らしく、愛しく見えてくるはず。それは、やはりアナログ感満載のロボット『ニュー潮風』をはじめ、あらゆる登場人物に対する矢口監督の愛情がスクリーンからにじみ出ているからに違いない。笑って、少しほろりとさせられる、良質なエンタテインメントをぜひ、誰かと一緒に楽しんでみてください!




(2012年1月19日更新)


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Movie Data




(C)2012 フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

『ロボジー』

●TOHOシネマズ梅田ほかにて公開中

【公式サイト】
http://www.robo-g.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157160/