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たくさんのユーモアの中に大切なメッセージが込められた、
子どもも大人も楽しめるハートウォーミング・コメディ
『映画 怪物くん』中村義洋監督インタビュー

 お茶の間で人気を誇ったTVシリーズ「怪物くん」が3D映画となって、ついにスクリーンに進出! 大野智らレギュラーメンバーが引き続き登場する『映画 怪物くん』が、いよいよ11月26日(土)よりTOHOシネマズ梅田ほかにて公開される。今回の舞台は、日本ではなくカレーの王国。怪物ランドでの王位継承式に臨むものの、彼の日頃からのワガママぶりに業を煮やした民衆たちが一斉にブーイング!王位継承に失敗し、すっかりスネてしまった怪物くんが、日本を目指したはずがなぜかカレーの王国に辿り着き、大冒険を繰り広げる。本作の公開にあたり、本作で初めて3D映画を監督した、『ゴールデンスランバー』や『ちょんまげぷりん』など、ヒット作を数多く手がける中村義洋監督が来阪した。

 

 中村義洋監督と言えば、映像化不可能と言われた伊坂幸太郎の『アヒルと鴨のコインロッカー』を精緻なレトリックで原作を紐解いて一躍注目を集め、その後も『フィッシュストーリー』や『チーム・バチスタの栄光』など、人物描写の巧みさや緻密な演出で高い評価を集めている監督だ。本作の監督を手がける決め手となったのは、「“笑い”かもしれない。TVドラマを見た時にこの4人のチームワークが素晴らしくて。それと、大きさの比率がアニメのまんまのフランケンと怪物くんたちのビジュアルが面白かったから」と語る監督だが、本作は、そんな“笑い”の要素を数多く取り入れながらも、大人も子どもも楽しめる作品になっている。

 

怪物_ドラゴン.jpg監督:「怪物くん」がお子様たちにすごく人気があることは知っていたんですが、子どもにわかりにくくないかどうかというぐらいしか意識しなかったんです。ちゃんと理解できるかどうかとか。子どもにどううけるのかを考えても仕方ないような気がして。今までどおり、自分が子どもだったらとか自分が観客だったらどうかを考えたら、自分が面白いと感じる映画になりました。そうしたら、昨日上島さんたちと飲んだ時に、志村さんが、子どもにうけるにはどうしたらいいのかと誰かに聞かれて「子どもにうけるように考えるんじゃなくて、大人にうけるものを考えれば子どもにうけるんだよ」って言っていたというのを聞いて、すごく元気が出ましたね。試写会でお子さんたちの笑い声を聞いていると、大人よりも食い入って観てくれていて、話もちゃんとわかってくれていました。(子どもを)侮っちゃいけないな、と思いましたね(笑)。

 

 本作で、怪物くんはワガママによって王位継承から逃げ、カレーの王国でもワガママを盾にやりたい放題。しかし、ある時怪物くんはワガママの本当の意味を知る。ユーモアを交えて描かれる“ワガママ”に込められたメッセージは、子どもだけでなく大人の心にも響くはずだ。

 

監督:はじめは、“ターゲットは子ども”というイメージがすごくあったんです。でも僕は単なる子ども向けの映画ではなくて、子どもが観て「怪物くんみたいにやりたい」とか「怪物くんみたいにすればいいんだ」と思ってもらえるような映画にしたかったんです。学校などで何か嫌な係や委員に選ばれて、嫌だけどやらなきゃいけない時に、怪物くんのことを思い出してくれればいいな、と思ったんです。そうして編集作業に入ったら、大人も一緒だと気づいたんです。この映画はたまたま、怪物ランドのプリンスだけど、日本国の総理大臣でも同じ理屈のような気がするんです。大人に置き換えても、上司と部下という風に観ることもできるんじゃないかと思うんです。怪物くんの設定って、サラリーマンがすごくワガママな上司に振り回されているということですよね。でも、上司がただのワガママだと嫌われてしまうけれども、意思があって、それを曲げない強さがあれば人はついていくんですよね。

 

 そんな胸に響くメッセージを伝えながらも、本作が決して忘れていないのがユーモア。特に本作は、3Dで公開されることで、怪物くんの手が飛び出たり、怪物くんが口から吹く火が間近まで迫ってきたりと、笑いと驚きが同時に訪れる。3D映画を監督するのは初めてだった中村監督だが、苦労などはあったのだろうか。

 

監督:結局3Dって、作り手としてどれだけ想像できるかだと思うんです。それが面倒だったから今までやらなかったんだと思います。撮った画で完結するというか、撮影した時の空気感が大切だと思っていたので。でも、やってみたら面白かったんです。どうせ3D映画を監督するなら、普通より少々高いお金取るんだし、3D眼鏡をかけるのもちょっとはストレスがあると思うので、「3Dでこれかよ」とは言われたくないし、それでも楽しく観れないと仕方ないと思ったので、3D映画もたくさん観ましたし、3Dだったら何が活かせるのかを考えて、脚本の設定を変えたりもしました。

 

 『アバター』や『スパイ・キッズ』など様々な3D映画を観ることに加え、3D用の絵コンテを描いたり、撮影にももちろん2Dの時以上に時間はかかり、と様々な苦労はあったようだが、完成した映画を観た後では監督の考えは一転したよう。

 

監督:撮影している最中は、また3Dをやりたいとは全く思わなかったんです。撮影中にクリント・イーストウッド監督の『ヒア アフター』を観て、「いいな~2D」って思ってましたから(笑)。今月の頭ぐらいにやっと全カットが3Dになった完全版を観て、こんなに楽しいものないと思いました。普段は、編集作業で50回とか100回とか何度も何度もとおして観ているので、いい加減飽きてくるんです。でも、今回はすごく面白かったので、初めて、席を変えてもう1回観たりしました(笑)。あの日は忘れられないです。20人ぐらいのスタッフがみんなニコニコしていて。あれは忘れられない経験ですね。

 

 そのように、3Dの出来栄えに自信をのぞかせる監督。そんな3Dのクオリティの高さはもちろん、本作の魅力はなんといっても、TVシリーズからのレギュラーメンバーである怪物くんの大野智、ドラキュラの八嶋智人、オオカミ男の上島竜兵、フランケンのチェ・ホンマンの、見事な「怪物くん」の世界観を作り上げた息のあった演技だろう。大野をはじめとする、そんなキャストたちについてはー

 

監督:大野くんと出会えてよかったと思ってます。大野くんが、すでに怪物くんになってくれていたから僕はすごく楽でした。(俳優さんの演技は)全て、準備に尽きるんですよ。ただ脚本を読み込めば準備になるわけじゃなくて、センスも必要になってくる。僕が演出するうえでのテーマはひとつで、その場で初めてその会話がなされているように見えるかどうか、なんです。今回は皆さんが、例えばオオカミ男がドラキュラと会話しているように見えるお芝居をちゃんとしてくれたんです。誰かがとちったら、そのとちったことに合わせたお芝居をちゃんとしてくれましたし。それが出来るようにするためには、ものすごく準備してないとできない。台詞がうろ覚えだと、やりとりしている最中に台詞のことを考えちゃいますし。よーいスタートの瞬間に、そのシーンの頭の気持ちさえ作っていれば、自然に台詞が出るんです。相手の台詞をよく聞いて、それでリアクションを取るなんてことは準備してないとできないんです。その準備も丸暗記するんじゃなくて、その台詞の意味あいも全部わからなきゃいけないですし。今回はみんな素晴らしかったですね。八嶋さんは、今までの映画でも毎回キャスティングに上がっていたので、今回ご一緒できて一石二鳥でした。後は、上島竜兵という人がこんなにお芝居が上手いことが、実は(監督を引き受ける)決め手になりました。

 

 と、キャストへの思いを熱く語ってくれる中村監督だがらこそ、監督の作品では主役の大野だけでなく、ドラキュラをはじめとする怪物3人組はもちろん、端役に至るまで、愛情を持って描かれていることがスクリーンから伝わってくるのだ。そして、本作ではアニメの「怪物くん」ファンなら垂涎ものの歌が登場することも、監督の愛情の証。

 

怪物_監督&北村.jpg監督:『チーム・バチスタの栄光』(2008)や『ジェネラル・ルージュの凱旋』(2009)の頃から、登場人物全員をたたせるのがすごく楽しいんですよね。そうするためには、登場人物たちに感情移入することが必要になってくるんですが、どうしてもひとりひとりの背景を掘り下げてしまうんです。『チーム・バチスタの栄光』の時に、脚本では佐野史郎さんや玉山鉄二くんの役が全然目立っていなかったんですが、撮影しているうちにすごく好きになってきちゃって(笑)。登場シーンを足したんです。そうしたらすごく面白くなったので、その頃から群像劇の面白さに目覚めたんです。端役で目立たなくても感情移入しちゃうと、もうちょっと見せ場を増やしたくなるんです。今回の3人組も、ドラマを見た時や衣装合わせの時に「いいな~」と思ったので、それぞれの見せ場を後で足しちゃいました。僕の周りの人に聞いたら、みんなが怪物くんと言えばあの曲だと言うので、「おれたちゃ怪物3人組よ」の歌も僕が足したんです。

 

 監督が作ったキャストそれぞれの見せ場は映画を観てのお楽しみだが、本作のメッセージはやはり、TVシリーズから続くユーモアを交えて描かれる大切なことにある。そのユーモアとメッセージのバランスが絶妙であるのも、やはり中村監督のなせる技。特に、予告編でも描かれている、大野演じる怪物くんが「絶対負けねえ。俺は怪物ランドのプリンスだぞ」と叫ぶシーンは、様々な思いが込められた、いわばこの映画の肝と言ってもいいシーンとなっている。

 

監督:僕は、深刻なことを深刻に伝えてもしょうがないと思っているので、深刻なことこそ笑いで表現することが好きなんです。この映画は全体をとおしてそれができたから、大野くんが、「俺は怪物ランドのプリンスだぞ」と叫ぶ台詞がすごく心に響くんだと思うんです。撮影の時は、この台詞がそんなに大事な台詞だとは思ってなかったんです。そうしたら大野くんの芝居がすごくて、撮っている最中に思わずぶるっときてしまって。大野くんに僕が「できた!」って言っちゃったんです。まだ撮影が半分以上残っているのにも関わらず、もう他のシーンは撮らなくてもいいやって思っちゃったぐらい(笑)。これで映画はできた、この台詞のためにこの映画はあるってわかったんです。

 

 『映画 怪物くん』の監督を務める決め手から、3Dでの撮影の苦労、キャストへの思いや演出方法、映画に込めた思いまで、様々なことに対して言葉を紡いでくれた中村監督。最後に監督が自信を込めて語ってくれたように、本作は、たくさんのユーモアの中にこそ大切なメッセージが込められた、子どもも大人も楽しめるハートウォーミング・コメディだ。




(2011年11月25日更新)


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中村義洋監督

Profile

なかむら・よしひろ●'70年茨城県生まれ。『ローカルニュース』(1999)で監督デビュー。『アヒルと鴨のコインロッカー』(2006)で注目を集め、その後も『チーム・バチスタの栄光』(2008)や『ジェネラル・ルージュの凱旋』(2009)、『ゴールデンスランバー』(2010)、『ちょんまげぷりん』(2010)などヒット作の監督を相次いで務める。その巧みな表現力で高い評価を得ている実力派監督。来年公開予定の仙台で撮影された伊坂幸太郎原作『ポテチ』が待機中。

Movie Data


(C)藤子スタジオ、小学館/2011「映画 怪物くん」製作委員会

『映画 怪物くん』

●11月26日(土)より、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開

【公式サイト】
http://www.kaibutsukun-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156167/