ホーム > インタビュー&レポート > カンヌ国際映画祭で絶賛された、 市川海老蔵、瑛太、三池監督による3D時代劇 『一命』三池崇史監督インタビュー
1962年に『切腹』というタイトルで仲代達矢主演、小林正樹監督により映画化された滝口康彦の小説『異聞浪人記』を、三池崇史監督が再映画化した『一命』が10月15日(土)より大阪ステーションシティシネマほかにて公開される。市川海老蔵と瑛太が義理の親子を演じ、“切腹”という行為を通して武家社会という権力に立ち向かった浪人を熱演し、ふたりのまっすぐな生き様を通して、世の中の不条理を問う作品に仕上がっている。いまや若手演技派女優の筆頭に躍り出た満島ひかりが瑛太の妻を演じ、市川海老蔵と瑛太扮する侍が、“切腹”を願い出る大名屋敷の家老に役所広司が扮するなど、時代劇初の3Dとあると同時に役者たちの演技にも注目が集まる作品だ。公開に先立ち、三池崇史監督が来阪した。
今年の5月に行われた第64回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、惜しくも受賞は逃したものの、終映後のスタンディングオベーションが鳴り止むことはなく、昨年のベネチア国際映画祭での『十三人の刺客』への高評価に続き、もはや世界中から注目を集める監督となった三池崇史監督。そんな三池監督が市川海老蔵という唯一無二の歌舞伎役者と組んだ時代劇ともなれば、海外での評価はどのようなものだったのだろうか。
監督 :やっぱり海老蔵に対する反応はすごかったですよ。日本にもまだこんな役者がいるんだ、という感触だったんじゃないでしょうか。向こうの新聞にも、日本の役者らしい役者というような感じで書かれていました。時代劇の中で光る、役者として存在しているんですよね。彼は、普段の歌舞伎での演技と比べると、映画では抑え目に芝居をすることを楽しんでいるように見えましたし、役所(広司)さんとか瑛太とか満島ひかりの芝居を、演じながらどうしたらその芝居を歌舞伎に活かせるのかと、ものすごく観察してましたね。やっぱり、彼は歌舞伎役者・市川海老蔵として、市川團十郎を継ぐものとして存在しているんだと思います。いつか失くしてしまう自由を、今出来るだけ謳歌したいんじゃないでしょうか。宗家ともなると歌舞伎に尽くさないといけないでしょうから。でも、市川海老蔵は歌舞伎役者の概念を変える役者になるんじゃないかと思います。
そのように、海外での評価も含め、監督自身もベタ誉めの市川海老蔵だが、映画の主演を務めるのは2度目だが、時代劇映画への出演は初めてで、監督とも初タッグとなる。三池監督といえば、前作の『忍たま乱太郎』では、イカツイ、怖そうな外見とは裏腹に現場では優しいと役者たちから口々に言われていたが、本作では市川海老蔵に対してどのような演出をしていたのだろう。
監督 :(海老蔵と)お互いにさぐり合いはしていたと思います。こっちも市川海老蔵に対して計算して演出しているわけではないですし、イメージを強く持ちすぎて事前に話し合いをして、かたちを先に作るやり方が好きではないので、元々、やってみてそこから生まれていく方が多いんですね。だから、俳優さんやスタッフと事前に話したりもしないです。役者さんたちに台本を読んだり、リハーサルなどで体験してもらって、その中で出てくる違和感を解消して、どういう映画になっていくのか楽しむんです。だから、あらかじめ答えありきで現場には臨まないようにしています。
そんな、現場で生まれたものを大切にして演出していく監督だが、『十三人の刺客』のダイナミックなアクションや、『ヤッターマン』の実写化など、三池監督は、いつも思いもつかない表現方法で私たちを驚かすと同時に楽しませてくれる。そんな三池監督は本作で、なんと時代劇では初めてとなる“3D”映画にチャレンジしている。そして、本作でもまた監督は、静かに雪が降っているだけのシーンにも関わらず3Dで観ると、映画史上に残ると思わせるほど印象深いシーンを作り上げているのだ。そんな3D映像の目的とはー
監督 :ひとつの目的は、おじいちゃんやおばあちゃんが時代劇だからと『一命』を観に来て、窓口に行ったら3Dで、眼鏡を渡されて、映像が飛び出すことに驚いて、観終わってから「3Dもええな」となればいいな、と(笑)。今回は、撮影も全部3Dカメラで行っていたんですが、前作『切腹』を観た影響で、色々とそぎ落とされていきました。最初は、切腹のシーンでいかにはらわたを飛び出させるかなど、もっとセンセーショナルな作品になるはずだったんです(笑)。登場人物たちに2Dよりも多少立体的な空間を与えることで、貧しさがより立体的に、庭の威厳も奥行きをもって感じることができたり、要するにより自然なんですよね。3Dでやることによって、庭の木の枝ぶりとか、今までごまかせていたものがごまかせなくなりましたけどね(笑)。でも逆に、床の間にいけられている花で登場人物の人物像が表現できたりもするんです。
「前作『切腹』を観た影響で、色々とそぎ落とされていった」と語る三池監督だが、50年前に公開されたとはいえ、日本映画史に残る名作と言われている作品を観て、監督はどのように感じたのだろうか。
監督:監督の演出や脚本、映画としての魅力もすごいと思うんですが、やっぱり50年前の日本映画ってすごく面白かったんだな、と感じました。役者も生き生きしているし。役者が怖いし、たぶん、扱いにくいし厄介な感じがしますよね。絶対スムーズには事が進まなかっただろうし(笑)。今は、そういう人が役者をやっていると排除されてしまう。それが悪いことではないんですが、50年前は映画を観る目的が今とは全く違っていたと思うんです。だから作る目的も違っていたんじゃないかな。50年前は、人と自分は違うということを確認するために映画を観に行っていたんじゃないかと。今は、みんなが知っている内容のものを、みんなが知っている程度に面白く作って、みんなが良かったね、と同じような意見を持って安心して出ていく、すごく安全なんですよね。おもちゃで例えると、子どもが手を切ってしまうようなブリキのおもちゃがなくなっちゃったんですよね。そういう(現代との)違いを感じることができたので、心から前作をリスペクトすることができました。本当に心からすごいと思うことができた瞬間に、不思議なことに敵ではなくなるんですよね。包み込んでくれる存在になるので、競うものじゃなくなるんですよ。それは、『十三人の刺客』の時に初めて感じることができましたね。今回は、特に撮ることで精一杯だったので、オリジナリティとか自分らしさは意識しなかったです。余裕があれば、映画にとって余計なことを考えがちなんですが、やっている内に切羽詰ってきて、我を忘れて没頭していたので、結果的になんとなく前作に似たように仕上がりましたね(笑)。
昨年から今年にかけて、『十三人の刺客』『忍たま乱太郎』『一命』と監督作が続く三池監督だが、三池監督といえば、『ヤッターマン』など大ヒット漫画の映画化から本格的な時代劇まで、幅広い世界観で知られている。監督にとっては様々なジャンルを撮りわけることはどのような感覚なのだろうか。
監督 :僕の中では全く違和感ないんですよ。僕からすると、『忍たま乱太郎』も『一命』も同じなんです。苦労して生まれた、たくさんの人から愛されている原作があって、原作者は魂をかけてそれを作っている。それがギャグ漫画であるか時代小説であるかだけの違いなんです。でも、そこで何を表現したいかというと、生きることの喜びと悲しみですよね。そのジャンルの違いは表面的で、根っこは同じだと感じるので、原作者へのリスペクトも同じなんです。それに、僕の中では加藤清四郎と市川海老蔵に求めているものも同じですし。そして、最終的に撮影が終わった時には、幸せになってほしいなと思うんです(笑)。やっぱり役者というのは刹那的な美しさを発揮する運命にある人たちだから、儚さを感じるんですよね。
役者へのリスペクトや前作を敬う気持ちなど、要所要所で監督が嬉しそうに楽しそうに口にする言葉によって、監督が日本のみならず、世界中から注目を集め、来年も『逆転裁判』『愛と誠』と監督作が次々と公開されるなど、映画に愛される監督である理由がわかったような気がした。本作『一命』も、監督の映画愛、役者へのリスペクトが込められた時代劇の傑作となっている。
(2011年10月13日更新)
みいけ・たかし●1960年、大阪生まれ。TVドラマの制作現場を経て、今村昌平監督らに師事し、1995年『第三の極道』で劇場映画監督デビューを果たす。1997年には、米「TIME」誌において今後が期待される映画監督として、ジョン・ウーらと並び10位に選出。以降、『ゼブラーマン』(2004)『着信アリ』(2004)『スキヤキ・ウエスタン・ジャンッゴ』(2007)『クローズZERO』(2007)『ヤッターマン』(2009)などヒット作の監督を務める。昨年公開された『十三人の刺客』もベネチア国際映画祭のコンペティション部門に選出され、絶賛されるなど世界的にも注目を集める日本人監督のひとり。
●10月15日(土)より、大阪ステーションシティシネマほかにて公開
【公式サイト】
http://www.ichimei.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156557/