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「“思い出めし”のエピソードに笑って泣けて、お腹がすく映画です」
『極道めし』永岡佑インタビュー

 刑務所内のある房で大晦日の夜のおせち料理を賭け、5人の同房者たちが「今まで食べて美味しかったもの」の話をし、どのエピソードが一番喉をごくりと鳴らした人が多いかを競うという心温まる物語『極道めし』が9月23日(金・祝)より梅田ブルク7ほかにて公開される。誰しもが持つ、“食”にまつわる人との思い出が舞台劇のように演出された、コミカルながらも涙を誘う人情ドラマに仕上がっている。本作の公開に先立ち、主人公で、傷害罪で懲役3年のチンピラ・栗原健太に扮した永岡佑にインタビューした。

 

永岡_photo.jpg 永岡佑と言えば、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』で、向井理演じる主人公の弟役や、園子温監督作『愛のむきだし』、安藤モモ子監督作『カケラ』などでの好演で知られ、本作が満を辞しての主演映画となる。ただ、本人は「主演ということをあまり意識はしなかったです。それよりも、栗原健太という人間にどこまで寄り添って理解できるのかということを意識していた」そう。それよりも、現場も誰も永岡に話しかけない孤独な状態に追い込まれ、物語の後半まで同房者に心を開かず、孤独に過ごす主人公の心境に寄り添うことに尽力していたようだ。

 

永岡:(共演者の方やスタッフさんとも)自然と目もあわせなくなっていきましたし、現場の環境をそこまでリアルに近い状態で撮影したのも初めてに近かったので、自分の中でも新しい発見がありました。それが映像に反映されていればいいと思います。でも、不思議と寂しいという感じもなくて、より撮影とキャラクター作りに集中できていました。

 

 そんなキャラクター作りに集中したと語る永岡演じる栗原健太は、幼い頃に母親が作ってくれた大好きな「ホットケーキ」を食べている間に、母親に捨てられ、その後施設に預けられるものの、その後チンピラのような生活を続けていた中で、昔同じ施設で育ったしおりという女性に出会う。そういう健太を演じるために、健太と寄り添う作業についてはー 

 

永岡 :彼の暴力は、彼自身が持ってるどうしようもない怒りを表現する手段なんですよね。それ以外のことは、全部内にベクトルが向いてしまう人物だと思って演じてました。母親に捨てられて、施設に入ってという環境で育った気持ちや、栗原健太という人物を理解しようとすればするほどしんどくなっていきましたし、辛かったです。クランクインの前からクランクアップまでずっと彼のことを考えていた気がします。どちらかというと健康的な状態ではないですが、自分以外の人間を演じるにあたっては、そこまで敬意を払わなきゃいけないと思うんです。普段からその人をどこまで理解できるのか、自分の理解できる範囲でその人に寄り添おうとする意識はあります。そこから自分が勉強していくこともありますし、そういうことの積み重ねが成長に繋がっていくんじゃないでしょうか。

 

 そういう孤独なキャラクター作りに加え、本作は卵かけご飯にバターとコーンを加えた「黄金めし」や味噌を使った「スキヤキ」、そして永岡演じる健太が選ぶ「キャベツ入りインスタントラーメン」など、5人5様の“思い出めし”が登場することで、食べるシーンがとりわけ多いのも特徴だ。 

 

永岡 :僕は、ひとつのシーンでラーメンを12杯食べたんです。でも、撮影中は胃がすごく大きくなっていて、それだけ食べてもお弁当を普通に食べてました。クランクアップしてすぐにお正月だったんですが、同じ量を食べるのに動かないから、すぐ太っちゃいましたね。みんなの“思い出めし”の中で、一番美味しかったのは「黄金めし」ですね。まず、卵がすごく美味しくて、バターの香りとコーンが後から追いかけてきて、すごく美味しかったです。ぜひ作ってみてください。

 

 本作に登場する、美味しそうな“思い出めし”とともに、私たちの胸をうつのがその“思い出めし”にまつわるエピソードの数々だ。5人それぞれが、母親や家族、家族同然だった彼女や思い人が作ってくれた料理や大切な人たちと囲んだ食卓のエピソードを話すように、映画を観終わった後で「何を食べたか」よりも「誰と食べたか」が大切なんだということに気づかされる。

 

永岡:この映画の初号試写のあとすぐに東日本大震災があったんです。そういう意味では、自分たちが今いる環境のありがたみや、今までよりも食に対するありがたみや意識が変わりましたね。僕は、観た時にほんとうにお腹がすきましたし、お腹がすく映画ですよね。それと、どこで誰と食べるかということがすごく重要なことだと思いました。でも、それ以前に食べられない人がいたり、そういう違う視点でも観ていただきたいですね。

 

 一見、コミカルに思える“思い出めし”のエピソードにも、登場人物たちの大切な人への思いが映し出されている。そんな本作への思いを最後に永岡に聞いてみるとー

 

永岡:“思い出めし”を語る人たちのエピソードに笑って泣けて、なおかつものすごくお腹がすく映画になっていると思うので、ぜひ観終わった後に食べたい人と食べたいものを食べていただいて、この映画が前菜となれば、すごく嬉しいです。そして、ご飯を食べている最中に映画のネタで盛り上がってください。




(2011年9月22日更新)


Check

Movie Data

(C)2011『極道めし』製作委員会 (C)土山しげる/双葉社

『極道めし』

●9月23日(金・祝)より、梅田ブルク7ほかにて公開

【公式サイト】
http://gokumeshi-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156356/


Profile

ながおか・たすく●1982年1月7日、京都府生まれ。『ピカレスク 人間失格』(2002)で映画デビュー。NHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」で向井理演じる主人公の弟役を好演。その後も、『愛のむきだし』(2009)、『カケラ』(2010)、『津軽百年食堂』(2011)など。公開待機作に、若松孝ニ監督作『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2011)。