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イスラエルとパレスチナ、紛争地の日常を描いたヒューマン・コメディ
『ピンク・スバル』小川和也監督インタビュー

 イスラエルとパレスチナの境界に位置する、実在の車泥棒の街・タイベを舞台にしたヒューマン・コメディ『ピンク・スバル』が梅田ガーデンシネマにて公開中だ。タイベに住む実直に生きてきたアラブ人がようやく手にした、スバルのレガシィが一夜にして盗まれるという事件を通して、紛争地の日常の生活を描きだす。本年度ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の審査員特別賞を受賞した小川和也監督の初長編作だ。本作の公開にあたり、小川和也監督が来阪した。
 

 イスラエルとパレスチナという紛争地を舞台にした映画というと、辛い現実を訴えるドキュメンタリーなどに代表されるように、あまり明るいイメージは持ちにくいだろう。しかし本作に登場する人物たちは、皆明るく、毎日を笑いながら楽しく生きている。まずは、イスラエルとパレスチナの印象について監督に聞いてみるとー
 

監督:そこで大変なことが起こったという事実があったら、そこでは大変なことしか起こってないんじゃないかって、人間は先入観で思っちゃう。でもパレスチナやイスラエルに限らず、どこでも笑いってあると思うんです。特にここは、4000年も戦争が続いていて、負のイメージしかついてない。だからこそ嘘をつくのではなくて、自分の見たものを映画にしたいと思いました。基本的にこの映画は全部事実に基づいてるんです。映画というフィルターはとおってますが、実際に寿司屋さんも10年ぐらい続いてる寿司屋さんがあるし、日本人も実際にイスラエルにいますしね。市長さんが「私は毎日寿司を食べてます」って言うぐらい、寿司屋さんは流行ってますし、親日の国なんです。
 

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 親日のイスラエルでは、他社が市場規模の大きい近隣アラブ諸国を重視していたなか、富士重工だけがイスラエルとの輸出取引に乗り出し、ある時期はスバル車のシェアが80%以上に達していたほど。実際監督も、初めてイスラエルに行った時に、走っている車の中のスバル車の多さにびっくりしたそうだ。

 

監督 :最初イスラエルに行った時に、ほんとにびっくりしたんですよね。本当にスバルばっかりなんです。トヨタだったらまだわかるじゃないですか、第3世界にトヨタの車ってけっこう多いので。なんでスバルなの? って思いましたね。スバルはステータスというより、(それまでのイスラエルの人たちの移動手段であった)ロバの延長線上なんです。だから、移動手段であると同時に身近ですごく大事なものなんですよね。だから僕がロバのことをオールドスバルって呼んだら、みんな笑ってました(笑)。ロバからグレードアップしたものがスバルなんです。
 

 日本に住む私たちが思いもよらないような、イスラエルでのスバルの話。これを聞いたことが映画制作のきっかけとなったそうだが、監督は、どんな経験から本作を作ろうと思い至ったのだろうかー
 

監督 :主演のアクラム・テラーウィの里帰りに付き合って、イスラエルとパレスチナに初めて行ったんです。その時に、突然爆発音が聞こえたんですよ。僕は、先入観があるので爆弾じゃないかと思ったら結婚式の花火の音だったんです。それに代表されるように僕は、滞在中に面白い、ポジティブな体験しかしてないんです。その時自分が感じたフィーリングを映画にしたいと思ったことと、スバルがイスラエルの人々にとって“希望の星”であるという話が重なったんです。僕は、パレスチナとイスラエルの国境も越えましたけど、意外にみんな陽気だし、というか、かなり陽気です(笑)。なんと言っても地中海沿いの人たちですから(笑)。
 

 そんな、私たちのイメージからはかけ離れたような明るくコミカルな人間ドラマに仕上がっている本作だが、全く中東をイメージさせない『ピンク・スバル』というタイトルにも監督の意図が含まれている。
 

監督:まず、イスラエルとパレスチナの映画なので、タイトルは絶対にそういう映画だと思わないようなものにしなきゃいけないと思ってたんです。もうひとつは、エンディングはけっこう最初の頃から決まっていて、色が変わることになっていたんです。そこで、ピンクは、アラブ人からするとすごく恥ずかしい色なんですよね。だから、“ピンク”だと(笑)。特に、主人公のズベイルは古風なキャラクターなので、ピンクは特に恥ずかしい色なんですよね。あとひとつは、ピンクってポジティブな色だと思いません?
 

 小川監督が、すごく楽しそうにイスラエルやパレスチナでの出来事を語ってくれたのが印象的だった。イスラエルとパレスチナという紛争地の日常を監督の体験を基に明るく楽しく描いたヒューマン・コメディだ。




(2011年7月 6日更新)


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Movie Data

『ピンク・スバル』

梅田ガーデンシネマにて公開中

【公式サイト】
http://www.pinksubaru.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156291/