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小栗謙一監督インタビュー
『幸せの太鼓を響かせて-INCLUSION(インクルージョン)-』

 30年もの年月をかけて創り上げられた、障がいのある人々が生き生きと自立して暮らすインクルージョン(=包み込む)体制が機能している理想郷が長崎県・雲仙に存在する。この町で生まれたプロの和太鼓奏者グループ・瑞宝太鼓のメンバーたちを追うドキュメンタリー『幸せの太鼓を響かせて-INCLUSION(インクルージョン)-』が梅田ガーデンシネマで公開されている。知的障がいがありながらも仕事と家庭を持ち、普通の市民として暮らすプロの和太鼓奏者たち。彼らの叩く太鼓からは、素晴らしき人生の讃歌が聞こえる。本作の公開にあたり、小栗謙一監督、和太鼓奏者の岩本友広さん、川崎拓也さんが来阪した。

 

 長崎県・雲仙に存在するコロニー雲仙。ここでは知的障がいのある方々が、施設の中ではなく、ごく普通の地域社会の中に溶け込み、様々な支援を受けながら暮らしている。小栗監督が“理想郷”と語るコロニー雲仙で暮らすプロの和太鼓奏者グループ・瑞宝太鼓のメンバーを追った本作を撮るきっかけとはー

 

監督:障がいのある人が普通の社会で教育を受け、家庭を持って自分の幸せを追求していくことって、今までは親や周囲が作ったもので、それも恵まれた家庭、親に理解のある家庭なんです。そうじゃない家庭もいっぱいあるんですよね。瑞宝太鼓のリーダーの岩本くんみたいに、小さい頃に親が離婚して、実際は施設に預けられたりしている人が多いんです。施設にいると、どんな立派な部屋にいても知らない人と一緒で、知らない人の世話を受けている。やっぱり、生んでくれたお母さんや兄弟と一緒に生活すること、どんなに汚い部屋でも家族が一緒にいることが本当の人間の幸せだと思うんです。そういう、皆が好きな家に好きな人と住む生活をみんなができるようにすればという願いから生まれたのがコロニー雲仙なんです。最初は、町の人たちも反対運動をしていて、それを施設の理事長さんがひとつひとつ説得して、彼らの面倒を見てあげてほしいと頼んだそうです。そうして、町の人も彼らに慣れてきて、「この子たちいい子だよね」とおっしゃるようになったそうです。それって理想の人間関係だし、コミュニティですよね。このコロニー雲仙の話をプロデューサーの細川さんと一緒に行った時に、瑞宝太鼓の話を聞いたのがこの映画のきっかけでした。

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 そんな“理想郷”であるコロニー雲仙のシステムの中でも、小栗監督が素晴らしいと絶賛しているのが、映画の中でも、岩本さんの家族とともに登場する“世話人さん”。6年前に結婚し、現在は奥さんの朋子さんと4歳の長男・裕樹くんの3人で生活する岩本家で、“世話人さん”は普段の生活はもちろん、時には、岩本さんたちの旅行にも同行するなど、彼らにとっては欠かせない存在だ。

 

監督:世話人さんは、あの家庭の監督官ではなくてファミリーなんですよね。世話人さんもコロニー雲仙のスタッフですから、お給料をいただいてるんです。だけど、岩本さんからもらっている訳じゃないから岩本さんに威張られることもないし、監視として行ってる訳じゃないからうるさい存在にもならない。それがすごくいいシステムだと思うし、世話人さんがしていることって岩本家に対するサービスなんですよね。

 

 この映画の中心人物である岩本さんは、その世話人さんをはじめ子どもの保育園の保育士さんや瑞宝太鼓を指導するプロの太鼓奏者・時勝矢一路らたくさんの人たちに助けられて生活している。劇中では、そんな彼らの周囲の人々が多く登場し、彼らについて語ることで、彼らの生活がより多面的に見えるよう演出されている。

 

監督:色んな方に手当たり次第に取材をしたんです。瑞宝太鼓のメンバー6人全員の私生活も撮影しました。保育園の先生だったり、彼らが過去に働いていた職場の人だったり、彼らと関係のあった人はほぼ全て取材してるんです。使ってない部分もたくさんあるんですが、使わないから取材しないのではなく、取材したことによって、さらに彼らのことがわかって、それが編集にも活かせたと思います。

 

 そして、今回被写体となった瑞宝太鼓のメンバー、岩本さんと川崎さんも最初は自分たちが撮影されることに戸惑ったり恥ずかしかったりしたそうだが、今では「この映画をきっかけに、多くの人たちに自分たちのことを知ってほしい」と夢を語っているように、感謝の気持ちでいっぱいだそう。しかし、自分たちの仕事だけで生活することが出きている彼らは、いわば一握りの成功例で、障がいがある人たちは結婚や子どもを持つこともままならないのが現状だ。

 

監督:この映画で瑞宝太鼓や岩本さんのような成功例、そして彼らの生活を見ていただくと、ヒントになることがいっぱいあると思うんです。自分たちの身近な方法でどんなことができるのか考えるきっかけになってもらえば、と思います。

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 ラストシーンで瑞宝太鼓が新曲を披露する場面や、激しい太鼓の練習シーンなどを見ていると感動とともに、「どこに障がいがあるの?」と感じる方も多いだろう。監督が、「それでいいと思うんです。障がいがあるとかないとかで区別するのは、社会がそう決めた方が便利だからそうしてるだけ」と話すように、生き生きと暮らす彼らの姿に感銘を受けながら、様々なことを考えさせられるドキュメンタリーの秀作だ。




(2011年6月 1日更新)


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左から小栗謙一監督、岩本友広さん、川崎拓也さん

Movie Data

(C)2011able映画製作委員会

『幸せの太鼓を響かせて-INCLUSION(インクルージョン)-』

●梅田ガーデンシネマにて公開中

【公式サイト】
http://inclusion-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156374/