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「大切なのはちゃんと目を見て繋がること」
AV界の巨匠、代々木忠&石岡正人監督インタビュー

 本作は、ただAV業界や撮影現場を映し出すのではなく、まさに人間の性と深層心理をさらけ出しており、男性が観ても女性が観ても様々なことを考えさせられる作品だ。まずは、本作の監督である石岡監督に本作を作る過程について聞いてみるとー

 

石岡:最初は代々木監督のファンの方に向けて作ろうと思っていたんですが、撮っていくうちに代々木監督が言っていることを色んな人に伝えたい、と思ったんです。代々木監督は、人生においてすごく大切なことをおっしゃってるんですよ。だから、AVの知識がない方たち、特に女性に絶対に観てもらわなきゃいけないと思って、たくさんの女性に観てもらって手直ししました。

 

 本作で、石岡監督が伝えたい代々木監督の言葉や観客に感じとってほしいこととはー

 

石岡:女性には、可能性がいっぱいあるということです。今の時代って女性が苦労することがたくさんあるんですよ。男女平等と言いながらも大いに男社会がはびこっていて、女性が仕事の時だけじゃなく、私生活まで鎧をつけなきゃいけない。だから、その鎧を取っ払って、もっと可能性を広げてほしいです。

 

 石岡監督が語る“女性の可能性”をAVの中で広げてみせているのが、AV界の偉大なカリスマ・代々木忠だ。代々木が劇中で語る言葉には、説得力があるだけでなく、悟りをひらいたような達観の精神が垣間見える。

 

代々木:僕の言葉は、女性から教わったことがほとんどなんです。ある時代から、風俗に務めている女性がビデオ業界に進出してきて、そういう女性たちの前だと、かっこつけても通用しないと感じるんですよね。彼女たちは、自身の体験から色んなことを悟っているから、彼女たちに学ぶことは多いですよ。だから、僕がかっこいいことを言っているとしたら、ほとんど彼女たちからの受け売りや彼女たちから教わったことなんです。

 

 本作は、そんな代々木に一番影響を与えたであろう彼の妻が出演しているのも驚きのひとつ。劇中、元ピンク女優である妻が、代々木にまつわる話を赤裸々に語るシーンも代々木の魅力を伝える上で重要なシーンとなっている。

 

代々木:奥さんは元々ピンク女優をやっていたので、家庭に入ってからは一切表には出ないと決めていたんですよ。だから断り続けていたのに、石岡監督がこの手紙を奥さんに渡してほしいと持ってきて、それを奥さんが読んで了承したんですが、その手紙の内容は未だに僕もわからないんです。うちの奥さんも言わないんですよ。でも、うちの奥さんは赤裸々に語りすぎですよね(笑)。奥さんばっかり株上げてるんですよ(笑)。作品を観た方に「奥さんがいたからあんたがいたんだ」とか言われましたもん(笑)。

 

 奥様の話を笑いを交えながら楽しそうに話す代々木。彼女に代表されるような、様々な魅力的な女性と出会ってきた代々木だからこそ惹かれる女性像とはー

 

代々木:惹かれる女性は、やはり母性を感じる人ですよね。その人の前で自分が素直になれる人。かっこつけても仕方ないと感じさせる、そういうオーラが出てる人っているんです。だから、そういう人の傍にいたいし、一緒に居て心地いいし、ありのままの自分でいられる。それと、感情を素直に出せる人がいいですね。感情を出せないとその人の感性も閉じちゃうと思うんですよ。

 

 代々木が惹かれる女性像そのものかのように、本作では、代々木の作品に出演した女優がどんどん心を開いていく様が映し出される。撮影を終えた彼女たちは皆、とても幸せそうに見えるのだ。

 

代々木:女性は特に、どこかで社会性が自分を縛ってると思うんです。僕は、僕の作品に出演している女性たちが自分の娘とだぶってくるところがあって。彼女たちは、恋人にも見せない姿をさらけだしている。それを快楽のためだけに使っていいのか、という思いはあります。だから、出演した女優さんが自分の作品を後で観た時に、本人が出て良かったと思ってくれることが、僕の最低条件なんです。だから、娘だったらここまでさせられるのか、でもお客さんはそれを求めているという葛藤が自分の中で常にありますよね。

 

 それが代々木の演出の根底にあるとすれば、助監督時代にその演出を6年に渡って傍で見続けてきた石岡監督にはどのように映っていたのだろうかー

 

石岡:表面だけじゃなくて、人の心の中に入っていくような演出をされるので、それはすごいと思ってます。ただ、ちょっとやりすぎかな(笑)。でも、かっこいい。ただAVのお仕事やりました、という作品には絶対にならないですもん。

 

 そして、代々木の作品を唯一無二のものにしているのは、誰も考えつかないであろう様々な企画によるものでもある。しかし、代々木によるとそれは企画やアイデアでは決してないそうだ。

 

代々木:アイデアじゃないんです。出会いなんです。その出会いでその人とどう向き合えたか、どれだけ向き合えたかなんだと思うんですよ。自分が、監督という肩書きを捨てて、出演してくれた人とどれだけひとりの人間として向き合えたかなんですよね。先に企画を考えたりすることはまずないですね。やっぱり、僕自身が人間に興味があるからだと思います。

 

 そんな出会いを大切にし、人間への興味を持ち続ける代々木は、今のAV業界、ひいては日本全体に懸念を持っている。

 

代々木:最近は、人と人の繋がりがなくなってる。引きこもりの問題だとか、無縁社会だとかね。そういう風に日本全体に繋がり感がない。僕は、そういう“心の繋がり”を映像として発信していくべきだと思うんです。僕が大切だと思うことは、昔の日本でいうところの“まぐわい”なんです。目を見つめ合ってセックスしてほしい。目を見つめあえば相手のことを大切に思うし、いいことばっかりなんですよ。最小の社会体である家庭や夫婦がしっかりして、信頼関係が築かれていれば離婚率も下がるだろうし、ふたりの愛情も深まるということは、僕が現場で実感してますから。食と性は種の存続に欠かすことのできない営みなんですよ。

 

 本作はただAVを映し出したものではなく、人間の深層心理にある“性”と“愛の営み”を赤裸々に映し出したもので、代々木が語るように、本作からは女性の魅力や人と人の繋がりなど、女性を魅力的にするキーワードが至るところに登場する。女性も男性も、様々なことを考えながら観てほしい作品だ。




(2011年3月31日更新)


Check
代々木忠、石岡正人監督

Movie Data

『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』

●3月26日(土)より、第七藝術劇場ほかにて公開

【公式サイト】
http://www.yoyochu.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/155133/