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「生きるって痛いこと」園子温による衝撃作
『冷たい熱帯魚』

 圧倒的な映像と独自の世界観が評価され、前作『愛のむきだし』で国内外の映画賞を受賞し、日本だけでなく世界からも新作を待たれる鬼才、園子温監督。彼の最新作『冷たい熱帯魚』が、シネ・リーブル梅田ほかにて上映中だ。本作もヴェネチア国際映画祭やトロント国際映画祭などで絶賛され、先月末にひと足早く公開された東京でも連日満席立見が続いている。そんな中、大阪での公開に先立ち、園子温監督が来阪した。

 

 本作は監督の実体験と、埼玉で起きた愛犬家殺人事件や他の猟奇殺人事件からインスパイアされて生み出された物語。家庭不和の中、熱帯魚屋を営む主人公・社本が、ある日出会った同業者の手伝いをするうちに、想像を絶する猟奇殺人事件に巻き込まれていく様が描かれる。実は、園監督は次回作も撮り終えており、なんと次回作も実録モノ。たまたまとは言え、まずは2本実録モノが続くことについて聞いてみるとー

 

監督:事件そのものを忠実に描く気はなくて、事件を使って何かを描きたいんです。今回だったら、不安定な家族を抱えている、どこにでもいる気の弱い社本の人生を描くっていうことが第一条件で。『セブン』などの猟奇殺人を描いた映画って、犯罪者をカリスマ的に描いてるんですよね。でも僕は、そういう人にカリスマ性を感じないから、どこにでもいそうな人にしたんです。社本もやられただけで終わるんじゃなくて、逆襲する方がいいなっていうのは今回の映画ではありました。

 

 そんな最後には逆襲する気の弱い社本を演じたのが、吹越満だ。彼が、従順だった社本が狂気へと変貌する様を見事に演じきっている。そんな社本を狂気へと導く、まさに“モンスタ-”である村田に扮したのがでんでん。人の良い近所のおじさん、という役柄が多い彼のマシンガントークには圧倒されること間違いなしだ。そんなふたりのキャスティングについてはー

 

監督:吹越さんもでんでんさんも前の映画にちょっと出てもらっていて、次は主役でいこうと考えていたんです。今の日本映画の、有名人を2,3人並べとけばなんとかなるみたいな無茶苦茶な構造が嫌いで。だったら中身で勝負して演技のうまい奴とやった方がいい映画になるっていう当たり前のことなんですよ。だからノンスターで映画を作って、ヒットさせたかった。(東京でのヒットを受けて)有名度ではないということが実証できて嬉しいです(笑)。これからも、今脇役だけど芝居やらせたらうまい人を主役にあてがうことと、新人役者をどんどん外に出していくことのふたつを目標にしようと思ってます。

 

 そのひとつの目標である、新人役者の輩出については、『愛のむきだし』で各映画賞の新人賞を総なめにした満島ひかりやAAAの西島隆弘で監督の手腕は証明済だ。

 

監督:新人は、とにかくいじめるだけですね。この作品でコツを学んでもらって演技に開眼させることがすごく重要で。自分が何が得意かっていうことを発見して、方向性を作ってあげることが大切なんだよね。僕は、監督は演出だけやってればいいと思ってるから。よく僕の映画で、監督はさておいて演技はすごいとか言われるけど、演技指導は俺が担当してるんだよ。おかしいんだよ、そういう考え方。新人がこれから生き残っていくために、僕はスパルタしてるんです。

 

 監督のスパルタ的指導もあってか、本作でのキャスト陣の演技は迫真に迫ったものがあり、そのあまりの迫真さから海外や東京では、残虐なシーンにも関わらず笑いが起きているそう。

 

監督:コメディになっちゃったんです(笑)。でも、なっちゃっただけで意図はしてないんですよ。笑える要素はあるにはあるんですが、笑いをとろうとしたんじゃないんです。東京では、爆笑につぐ爆笑で、笑いの絶えない映画なんです。笑い声が大きすぎてスクリーンの音が聞こえないぐらい(笑)。みなさん、大笑いした後スカッとして映画館を出てくれてるみたいで。

 

 なぜか爽快な気分で映画館を出ると同時に、元気をもらった、活力をもらったという観客の方も。そんな本作を作っていた時の園監督の心境も、映画に影響を与えているようでー

 

監督:本当に自分の人生が痛い時に作ったんです。自分自身が、この猛毒のドリンク剤(=この映画)を飲みほすことで癒されて回復しようと。東京では、連日満席立ち見なんですよ。観た人が皆「元気をもらった」って言って帰っていくんです。この映画の猛毒を飲み干すと活力がみなぎるんですよ。映画自体はとことん地獄ですけど、その地獄を観客とがして観ると自分はまだまだ生きれるぞ、という不思議な活力がみなぎるんです。

 

 たしかに、どんどん逆境に追い込まれていく社本が最後に逆襲する姿には爽快感すら漂う。そして、劇中の最後に登場する、ある意味本作を表現する「生きるってのは痛いことなんだよ」という言葉。そんなパンチのある映画を作ることができるのは、やはり園監督だからこそ。最後に今後について伺うとー

 

監督:パンチ力のある半端じゃない映画を作り続けたい。テレビでは絶対に放映できないものが映画だと思ってるので、映画館の暗闇でだけ見せる映画を作りたいですね。映画館っていうのは見世物小屋だったりお化け屋敷だったりするわけですから。何が出てくるのかびくびくしながら入るのが映画館なんですよ。最近癒し系の映画が多いので、僕は真逆で、心臓がドキドキして仕方ない映画を撮り続けたいですね。




(2011年2月10日更新)


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Profile

その・しおん●'87年に『男の花道』でPFFグランプリを受賞。以後、『紀子の食卓』('06)、『ちゃんと伝える』('09)など多数作品を発表。'09年『愛のむきだし』で、第59回ベルリン映画祭国際批評家連盟賞など国内外の賞を多数受賞。衝撃作を発表し続ける日本映画界の異端児として知られている。

Movie Data

(C)NIKKATSU

『冷たい熱帯魚』

●シネ・リーブル梅田ほかにて公開中

【公式サイト】
http://www.coldfish.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://pia-eigaseikatsu.jp/title/154789/