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本の世界を飛び出した初の大型展
『わけあって絶滅しました。展』
監修の丸山貴史氏にインタビュー

2018年7月に発売されて以来、シリーズ既刊3冊と7月の新刊含めて累計90万部以上の発行部数を誇るベストセラー図鑑『わけあって絶滅しました。』。“やさしすぎて絶滅”“デコリすぎて絶滅”など、「えっ!? そんなことで絶滅したの?」と、驚きの絶滅理由を紹介している。生き物自らがおもしろおかしく語るキャラクター性が、子どもたちはもちろん幅広い層に受け、絶滅した生き物にスポットライトが当たる社会的なブームにもなった。
 
この図鑑シリーズに紹介されている絶滅した生き物たちを、大会場で体感できる初の展覧会『わけあって絶滅しました。展』。現在、9月4日(日)まで大阪南港ATCホールにて開催されており、この夏のおでかけスポットとして注目を集めている。
 
今回、本展の元となった『わけあって絶滅しました。』シリーズの執筆者であり、動物学者・今泉忠明氏とともに本展の監修を務める丸山貴史氏に、シリーズヒットの秘密と本展の見どころを中心に聞いてみた。
 
――丸山先生は子どもの頃から生き物が好きだったのでしょうか?
 
「子どもの頃はみんな生き物が好きですよね。僕はそのままずっと好きだっただけで、いつの間にかそれが仕事になっていたという感じです。」
 
――図鑑『わけあって絶滅しました。』が大ベストセラーです。
 
「この本は、小学5年生の男子をメインターゲットにしていますが、小学校低学年や文字がまだ読めない幼児でも楽しめるような仕掛けをしています。生き物自らが語る本文やキャラクター付けは、主に編集者が考え、僕は生き物そのものの魅力を伝えることに注力しました。この本をきっかけとして、たくさんの絶滅した生き物に親しみをもってもらえればうれしいですね。ほかにも、この本には『わけあって繁栄しました』という章があります。具体的にはウシや大腸菌などが、なぜ繁栄したのかというものです。地球上にいるすべての個体の体重を合計すると、ウシという種は人間を含む動物の中で一番重い。つまり、生物量がトップなんです。それがいいかどうかは別として、家畜化されたことにより繁栄したわけですね。大腸菌も哺乳類のおかげで繁栄しました。温かい哺乳類の腸のなかで暮らすようになり、哺乳類が増えたからついでに大腸菌も増えた……ということですね。そういう生き物の関係性がおもしろいかなと」
 
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ダイヤモンド社 刊 『わけあって絶滅しました。』シリーズ(各1100円)
監修 今泉忠明、著者 丸山貴史
 
――この本のテーマには地球環境への警鐘の意味もあるのでしょうか?
 
「地球の環境が変化すると生き物が絶滅し、絶滅しなかったものの中から新しい種が進化してくる。そういったことを、ずーっと地球の歴史は繰り返してきましたが、それは自然なことです。でも、ここ1万年くらいのあいだに、人間は多くの生き物を絶滅させてきました。そして、人間が絶滅させたあとには、新たな進化が起こりにくい。ごく短い期間で人間が環境を変えるため、生き物の進化が追いつかないからなんですね。これは、人間がどうにかしなくてはならない問題です。ただし、「たくさんの生き物を絶滅させた人間は醜悪なんだ」というメッセージを、いまの日本の子どもたちには届けたくない。近代の絶滅を扱った本は、説教くさくなりがちですが、この本では「ただ知ってほしい」ということを念頭に、楽しい読後感になるように意識しています。おとなになったら、生き物の本を読む人は少ないし、世の中のほとんどの人は、生き物の研究も、環境を守る仕事もしていません。だから絶滅生物の知識も、子どものころに得たものとあまり変わらないと思うんですよね。なので、最初に触れた絶滅生物の印象を、暗くどんよりしたものにはしたくない。ただ、絶滅生物について知ってもらい、環境を変えるのはよくないかもというイメージを残してくれたら、社会はだいぶいい方向にいくんじゃないかと思うんですよね」
 
――続編も楽しみですが、今後の出版予定は?
 
「今までに3冊出ていますが、おもしろエピソードのありそうな生き物は出つくした感があるので(苦笑)、本編の続刊は厳しそうです。でも、7月には絵本が出ました。ひらがなで読めるストーリー仕立ての絵本になっています。こちらは幼児向けなので、絵を見ながら絶滅した生き物を知ってもらえればいいですね」
 
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サトウマサノリ著、今泉忠明・丸山貴史監修
『わけあって絶滅したけど、すごいんです。』(1430円)
7月21日発売 ダイヤモンド社刊
 
――今回のイベントでは監修ということですが、具体的にどういったことをされているのでしょうか?
 
「今までも小さなイベントとか、『マンモス展』でのコラボ展示とかに協力してきましたが、本イベントでは展示全体の監修をしています。具体的には展示パネルの文章、展示物の並べ方、会場で流される動画のチェックも行っています。開会するまで作業は続きましたが、そのおかげで合間には大阪の街も楽しめました」
 
――本展の準備で苦労したところや見て欲しいところは?
 
「2年前くらいに本企画のお話をいただいて、僕自身はチェックをしているだけなのであまり苦労はないのですが、むしろ主催者の方が博物館などから借りる交渉などで苦労されたと思います。夏休み期間中に博物館も目玉の標本とか貸したくはないと思うので……。それくらい貴重なものが一堂に見られる展覧会で、絶滅したものだけではなく、「わけあって生きのびた」ハイギョやカブトガニの生体も展示しています。また、隕石や化石に触ることのできるコーナーや、VRアトラクションの体験コーナーもあるので、小さいお子さんでも楽しめると思いますよ。ちょうど夏休み期間中の開催なので、夏休みの自由研究としてもおすすめです。かなり広い会場ですが、古生代から中生代、そして新生代と、時代の流れに沿って展示されているので、地球のメンバーの移り変わりがわかりやすいと思います」
 
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会場には骨格標本もあり、絶滅動物が生きていた証を体感できる
 
――子どもたちにとって夏休みの素敵な思い出になりそうですね。
 
「屋外で遊ぶのもいいですけど、たまには涼しい屋内で展示を楽しむのもいいんじゃないですかね。展示にストーリーみたいなものはありませんが、最後のあたりは「人間が絶滅させた生き物」→「わけあって生きのびた生き物」→「いままさに絶滅しそうな生き物」という流れになっているので、会場を出るときになんとなく心に残るものがあればいいなと思っています。でも、やはりメインはお勉強ではなく、夏休みの一日を楽しい思い出にしてもらいたいですね」
 
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「本から飛び出した絶滅動物たちの世界を楽しんでください」と丸山先生
 
今回の展覧会では、このシリーズの顔でもある“やさしすぎて絶滅”してしまったステラーカイギュウや、大型肉食恐竜の代表格であるティラノサウルスの全身復元骨格といった大型展示のほか、化石にふれることができる体験コーナーや、最新技術を使った映像アトラクションもあり、絶滅理由を「見て、遊んで、学べる」ことができる。また絶滅せずに生き残った貴重な生き物が生体展示されているのも見どころのひとつ。会場内では、ここでしか販売されていないオリジナルグッズもたくさんあるので、おみやげ選びも楽しみだ。
 
この夏は涼しい会場内で、本の世界を飛び出した等身大の絶滅動物たちに会いに行ってみてはいかが。

取材・文・撮影/滝野利喜雄



(2022年7月29日更新)


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プロフィール

丸山貴史(まるやまたかし)
図鑑制作者。1971年、東京生まれ。法政大学卒業後、自然科学分野に特化した編集プロダクションのネイチャー・プロ編集室勤務を経て、ネゲブ砂漠にてハイラックスの調査に従事。2008年株式会社アードバークを設立。現在は図鑑制作のかたわら、子どもたちに生き物の面白さを伝えるために講演活動も行っている。『ざんねんないきもの事典』シリーズ、『わけあって絶滅しました。』シリーズのほか、制作に関わった図鑑は100冊以上。


『わけあって絶滅しました。展
~忘れないでくれ!おれたちを~』

チケット発売中 Pコード:993-672
▼9月4日(日)まで開催中
ATCホール
当日一般-1800円 当日3歳~中学生-900円
※開館時間:9:30~16:30。最終入場は閉館30分前まで。会期中無休。2歳以下は無料。期間中1回有効。障がい者手帳等を提示の方の介護者は1名無料(ご本人は有料。要証明)
※詳しくは公式HP等にてご確認下さい。
[問]わけあって絶滅しました。展 事務局
■06-6615-5556

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