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話題沸騰の特別展「昆虫」が今夏大阪に!
その楽しみどころをひと足先にご紹介!!

昨年夏に東京・国立科学博物館で行われ、約44万人が来場した特別展「昆虫」が、この夏ついに大阪に上陸! 7月13日(土)~9月29日(日)、大阪市立自然史博物館 ネイチャーホールにて開催される。同展覧会は全長約2mの巨大模型をはじめ、世界で収集された多数の標本や展示などで昆虫の驚くべき世界を紹介するものだが、ひと足早くその見どころにクローズアップ! 会場である大阪市自然史博物館の学芸員で自身の新種発見の展示もある松本吏樹郎さんに、展示のことはもちろん、昆虫の興味深い生態やその魅力を教えてもらった。

――今日は『特別展 昆虫』の見どころについて教えてください。まず今回の展覧会ではどれくらいの数の昆虫を見ることができるのでしょうか?
 
「数万点は集まります。日本にいる昆虫はもちろん、世界中の標本も多数展示します。アフリカや南米などには変わったものがたくさんいるので、見たことのないようなものも見られますね。例えばカブトムシやクワガタも日本のものより大きかったり、ちょっと形が違ったりします」
 
――形も違うんですね。
 
「今回特におもしろい形をしているのはマルヨツコブツノゼミ。昆虫の体は、普通、頭があって胸があってお腹があるんですけど、このツノゼミは胸の部分に4つのこぶとヒュッと伸びた突起があるんです」
 
――その突起の役割は何ですか?
 
「ツノゼミの仲間の“ツノ”の形はとても多様です。トゲのようになっているものは、ほかの動物に食べられ難いというのもあると思うんですけど、それぞれなぜその形になっているのかというのは実はまだよくわかってないんです(笑)。ものすごくいろいろな形をした虫がいるので、“なぜこんな形してるんやろう?”って思いながら見てもらえると楽しいと思いますね」
 
――まだ、突起の理由はわからない…。
 
「何に役立っているか?というのは、野外で虫がどう生きているかをじっくり調べないとわからないところがあるんですよ。さっき話に出たクワガタやカブトムシのアゴやツノは、オス同士がエサ場やメスをめぐって争うから。そういうわかっていることに関しては、展示に説明があります。でもよくわからない!っていうのが逆にすごいということでもありますね(笑)」
 
――確かに(笑)。変わった形の虫に加え、今回は見た目が派手なものも。ピカピカなキンギンコガネも展示されますね。
 
「ここまでピカピカなのは珍しいですね」

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――ちなみに松本さんが一番きれいだと思う虫は?
 
「日本の昆虫なんですけど、ミドリシジミの仲間です。貝のシジミが開いたくらいの小さな蝶ですが、オスの翅が緑色でピカピカなんです。今回の展示でも見られますよ。そしてこれの仲間の蝶は大阪にもいますね」
 
――身近にいるんですね。そして、松本さんは新種を発見したとお聞きしました。
 
「はい。兵庫県の赤西渓谷という場所で見つけました。昆虫にはまだ見つかってないものや名前のついていないものがたくさんいるんですが、そういう新種を見つけた時にどんな風に研究を進めていくかを今回の展覧会で紹介しています」
 
――発見したのはどんな虫ですか?
 
「ヒメバチというハチの仲間です。ほかの昆虫に卵を産み込んで、幼虫がそれを食べて育つ寄生バチの仲間です。寄生された側の昆虫は食べられちゃって死んでしまうんです」
 
――すごそう(笑)。しかしなぜヒメバチの研究を…?
 
「もともとハチの仲間はいろいろいておもしろいなって思っていたんですけど、特にこの寄生バチは分類や行動、どういう風に進化してきたのかがあまり調べられてない仲間だったので取り組んでみようと思ったんです」
 
――そもそも新種はよく発見されるものなのですか?
 
「寄生バチの仲間は数が非常に多い上に今まであまり研究されていないので、候補は割と見つかりますね。ただそれが本当に見つかっていないものかどうかを、過去報告された標本や論文を集めてちゃんと検討して確定させないといけないんです。さらにその虫はこういう特徴を持っていますよという論文を書いて、それが出版されないといけない。そういう手順を踏んで新種の発見になります。今回展示している新種についての論文は2018年に出されています」
 
――展覧会では新種発見のプロセスがわかるんですね。そして発見と言えば、琥珀に閉じ込められた状態で見つかったアリエノプテラ目が日本初公開!
 
「これは1億年前の恐竜の時代に琥珀に閉じ込められたもので、ミャンマーで出た琥珀ですね。琥珀は割と決まったところで見つかり、ドミニカなどが有名ですが、最近ミャンマーでよく見つかることがわかって、かなり調べられているんです。そして目というのは、例えばトンボの仲間とかハチの仲間っていうレベルのグループのことです。アリエノプテラ目っていうグループがあるんですけど、そのグループは今ではいなくなっちゃったんです。だから化石によって昔はこういうグループがいたんだなっていうのがわかるんです」
 
――ところでアリエノプテラ目はなぜ絶滅したんですか?
 
「それはわかっていないんですが、形などを調べていくと、どのグループに近いのか?とかがわかってくるんです。琥珀は樹脂が固まったものなんですが、表面を磨いて中を調べます。X線とかCTスキャンとかを使うと、琥珀を壊さなくても中の昆虫の形をちゃんと見られるんですよ。アリエノプテラ目はカマキリとかゴキブリに近い仲間だと言われていますね」
 
――そうやって調べるんですね。今回の展覧会でも最新技術のマイクロフォーカスX線CTを使ったスキャン画像の展示がありますが、どんな点に注目したらより楽しめますか?
 
「昆虫は人間とかと違って骨があるわけではないんですね。なので体の中でどういう風に筋肉がついているのか?に気をつけて見るといいですよ。例えば翅を羽ばたかせるのにも、ものすごく筋肉が必要なんです」
 
――飛んだり跳ねたり動きの素早い虫も多いですもんね。素早い動きと言えば今回「Gの部屋」と呼ばれる展示が…(笑)。
 
「ゴキブリですね(笑)」
 
――苦手な人も多いと思います(笑)。
 
「ま、部屋に出てくるヤツは僕もそんなに好きではないんですが(笑)、実は本来ゴキブリって森の中で暮らしていて、枯れた植物などを食べて分解するのに役に立ったりしているので、展示を見ればそんなに汚いものではないことがわかります。それに今回取り上げているのはちょっとおもしろい模様のものがいたりします。まん丸でペラペラしていたりとか…。だからそんなに構えなくても大丈夫だと思います(笑)。どうしてもダメな方のために迂回ルートもありますが、ぜひちょっとのぞいてみてほしいですね」
 
――逆に楽しみになってきました(笑)。あと、ワークショップもあるとか。これも楽しそうです。
 
「僕が関わるワークショップではカマキリをじっくり見てみようと思っています。カマキリはエサの虫を捕らえるために、名前どおり前脚が変わった形をしていて、基本的に近づいてくるものはみんな捕まえて食べちゃうんですよね」
 
――メスが交尾中にオスを食べてしまうんですよね!
 
「交尾に至るまでの作法みたいなものがあって、こうやって近づけば食べられにくいというのはあるんですけど、ま、それに失敗すると食べられちゃいますね(笑)。でも必ずしも食べられるわけではないですよ」
 
――逃げるオスもいるんですね(笑)。
 
「もちろん(笑)」

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――あ。そう言えば、おもしろい生殖に関する展示がありますよね。イグノーベル賞を受賞した、トリカヘチャタテという虫の雌雄逆転現象の発見!
 
「普通、精子の受け渡しをする生き物ではオスの方に交尾器があって、メスの体にそれを入れて受精させるんですが、トリカヘチャタテはメスの方に突出した交尾器があるんです。卵はメスの方にあるから、メスがオスの体に交尾器を入れて精子を受け取って受精させる。でもその時にオスから栄養も一緒にもらっちゃうという……。で、なぜオスから栄養をとるのがトリカヘチャタテという昆虫にとってメリットになるかというと、トリカヘチャタテは洞窟の中で生きているんですよ。そもそも食べ物や栄養が少ない所にいるために、そういう行動をとることになって進化し、雌雄逆転したんじゃないかと」
 
――そうすることで効率よく子孫を残せるんですね。ちなみにトリカヘチャタテはどんな虫ですか?
 
「チャタテムシの仲間です。トリカヘチャタテはブラジルの洞窟にいるんですけど、チャタテムシの仲間は日本にもいて家の中で見られることもあります。障子とかについていてトトトトト、あるいはサササササ、というお茶をたてるような音を出すというところから、昔の人がチャタテムシっていう名前をつけたみたいです」
 
――ネーミングだけでもおもしろい。お話を聞いていると、虫が好きな人はもちろん虫が苦手な人でも今回の展覧会は楽しめそうです。
 
「虫って本当に種数が多くてさまざまなんですよね。変な形とか、派手な柄だったりとか、ものすごく大きかったりとか…。それらをたくさんの標本や画像で一気に展示しているので、今回の展覧会を見たら昆虫の多様性を感じてもらえると思います」
 
――では最後に松本さんにとって虫の魅力とは?
 
「身近にいるけど人間と全然違う暮らしをしている。彼らは彼らでエサを見つけたり、子どもを残したり、一生懸命生きていて……いろんな生き物が一緒に暮らしてるんやな~って思えるところですよね。ちょっと昆虫のことを知るだけで、こういう風に生活してるんだ!っていう発見がありますよ。ぜひみなさんも『特別展 昆虫』でそんな発見をしてみてください」
 

text by 服田昌子



(2019年7月12日更新)


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特別展「昆虫」

チケット発売中 Pコード:642-360
▼7月13日(土)~9月29日(日)
9:30~17:00 ※入場は閉館の30分前まで。
大阪市立自然史博物館
前売 大人-1200円 前売 高大生-600円
※休館日は7/16、22、29、8/19、26、9/2、9、17、24。中学生以下無料。障がい者手帳などをお持ちの方(介護者1名含む)は無料(要証明)。特別展入場料で、自然史博物館常設展も入場可。期間中1回有効。
※7/13~は当日料金(大人:1400円、高大生:800円)にて販売。
[問]大阪市立自然史博物館■06-6697-6221

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