ホーム > 駒鳥サンの“誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくい映画のすべてについて調べましょう”
「駒鳥っていうより閑古鳥って感じなんで、暇ならたっぷり持て余してます!」
ここは大阪天満橋の片隅にある古本屋の駒鳥文庫。そのつもりは全くないのに、勝手に「隠れ家的」と称されてしまう程の辺鄙な立地に、さらには置いている本が全て映画関連のものだけという偏りまくった蔵書。そりゃ誰がどう見てもお客さんも来るわけないわなという感じの当店に、何をどう間違えたのか、ある日ぴあ関西版の方がやってきて「何か書いてみるつもりはありませんか?」と言ってきたのである。まさに青天の霹靂。
「実は読者の方から映画に関する質問が来ることがあって、それで代わりにちょっと調査をしてもらえないかなと。お、お忙しいかもしれませ……」
やります! 是非やらせてください! 世のため人のため、駒鳥文庫店主にお任せあれ! ということで、今回からここぴあ関西版WEBにて、映画に関する謎や疑問を調査するコーナーを担当することになった駒鳥文庫の店主です。皆様温かい目でひとつよろしくお願いします!
「……ってことになってさ」なんて、後日、つい飲みの席で(ちょっと自慢気に)知り合いのHさんに早速話をしたところ、ありがたいことに記念すべき第一回目の調査依頼を頂いてしまいました。
「最近『爆音上映』ってよく聞くけど、あれってなんなん? ボリュームレバー上げてるだけちゃうのん?ってか、駒鳥ちょっと調子のってない?」
確かに大音量にするだけなら、どこの映画館でもすぐにできる訳で。でも、だからと言ってどこの映画館も真似するわけでもなく。うむ、これは調べてみる価値がありそう! そして、調子にのれるぐらいに生活楽になりたいわ!
ということで、阪神百貨店のバイヤーおすすめの手土産持って早速向かった先は、神戸・新開地にある「神戸アートビレッジセンター(KAVC)」。今日はここで「爆音映画祭2014」の設営が行われると聞いて、その現場を実際に見学させて頂く事になりました。
そもそもこの「爆音上映」、2008年に吉祥寺で生まれた「爆音映画祭」で行われ始めた上映スタイルで、音楽ライヴ用の音響セッティングをフルに使い、ボリュームを限界まで上げ大音響の中で映画を観・聴く試みで、現在では国内の各地で年間を通じて開催されているそうな。
スタッフの方に案内されて向かったのは地下の「KAVC CINEMA」。今から今回の上映作品のひとつである『ブルース・ブラザーズ』のセッティングがこの中で始まるとの事。ジェイクとエルウッド! 早る気持ちを押さえつつ、シアターの重い扉を開くや否や、ジャジャーン!と大音量のオープニング曲に、思わずカラダが吹き飛ばされそうに。おぉ、これぞ爆音。中ではスタッフが数人、爆音上映中のスクリーンとにらめっこ。邪魔をしないように駒鳥たちは後ろの方でこっそり見学することに。その圧倒的な音の重さや厚さに圧倒されつつ、あれ?このオープニングって、こんなにも心がワクワクしてたっけ? 何度も観たはずなのに、何で? と不思議な顔をした駒鳥の質問に、ニコニコと答えてくれたのは爆音上映の仕掛人、boid代表の樋口泰人さん。
「爆音と聞くと、まず耳が広がるでしょ?」
「爆音と聞くと初めての人はまず“音”を意識するんですよ。その時点で既に映画の観方の意識が変わっているので、普段は無意識に物語を観ているのが、実際に爆音上映を体験すると、自然と“音を観る”ようになるんです。なので、過去に観たことがあってもまるで違った作品に観えてくる、観たことある作品こそ面白い、それが『爆音上映』なんです!」
なるほど! 確かに段々と耳が慣れてくると、音楽や台詞の後ろで、車の音とかタバコを取り出す音とか、いろんな音が“観えて”くる! まるで宝探しをしてるような発見の連続! これがワクワクの原因か! 面白い!
「うーん。500から600あたりをもう少し上げた方がいいかなぁ」
と、教会でジェームス・ブラウンが歌うシーンでおもむろに樋口さんの指示が。するとスタッフがトランシーバーでその旨伝えると、奥からノートパソコンを持った女性スタッフが登場。
「センターを上げるとあれなんで、LRを下げます?」
「ならセンターをちょいLRに回そうか?」
というような会話をしつつ、ノートパソコンで音量を調整。ミュージシャンのレコーディング風景でよく見る、ミキサーでツマミを上げ下げってな感じを想像していただけに、ちょっと拍子抜け。でも、便利な時代になったもんですなぁ。調整後、少し巻き戻して再びブラウンの歌うシーンを、再生。
あれ? ちょっと音楽の迫力が小さくなった? でも台詞は何か聴きやすくなって、人々が靴を鳴らしてリズムを取る音とか、さっきは無かった教会内のいろんな音が観えてきた!
「爆音と言っても音がうるさ過ぎて映画を観るのが嫌になっちゃうとしょうがないんで、台詞は台詞でちゃんと聞こえるようにしつつ、この映画が訴えている一番の『音』を引き出すように1本1本調整するんです」
そう。普通の映画館では基本的に音の調整は定期点検時ぐらいでいじらないところ、爆音上映では上映する作品ごとに、全てを通して観ながら、その作品ごとに最適な音の設定を変更するそうな。
その後も調整は続き、レイ・チャールズやアレサ・フランクリンのシーンを経て、いよいよ圧巻のラストシーン。車のブレーキ音やサイレンは勿論、船や馬の蹄、マシンガンの銃声などに混じって、チェンジアップのように挿入されるエレベータ内のボサノヴァが、映像に負けない音のアクションシーンと化し、唖然と興奮が入り交じった音の塊が、ハチャメチャにカラダの中を突き抜けていく様な快感! これは初めてみた時のような、いや、もしかしたらそれ以上の面白さ! ひとりで無意味にハイテンションの駒鳥と違って、樋口さんは時に熱く、時に冷静に「入った時の音、痛くない?」「ここは我慢しようか」と、事細かく音響をチェック。そして手直しを入れるとまた音が輝きだして、更に映画が面白くなっていくんです! 凄すぎ!
そんなこんなで約2時間弱程で『ブルース・ブラザーズ』のセッティングが終了。もう1本観ただけでクタクタの駒鳥を尻目に、この後すぐに「ファントム・オブ・パラダイス」のセッティングで、今回延べ13本をたった2日間で次々と設定していかないといけないんです、とサラっと言ってのけてしまう樋口さん。そんな忙しい貴重な時間にもかかわらず、その後も「凶暴過ぎて単に痛くなっちゃうから60年代ゴダールは爆音でやらない」話とか、実は直前で爆音上映を取り止めた『シェルブールの雨傘』と『ロシュフォールの恋人たち』の話など、映画ファンならたまらない裏話なんかもして下さり、爆音上映が単にボリュームを上げるだけじゃ無いことを改めて実感。恐れ入りました。
そんな爆音上映、KAVCでの上映は終了したのですが、8/12(火)~14(木)、梅田クラブクアトロにて『爆音スクリーニング@クラブクアトロ』として「シガー・ロス/プリンス/ヴィンセント・ムーン作品集」が開催されるそうです! 樋口さん曰く「音楽がミュージシャンだけのものではない、生きている場所と音楽が一緒になっている凄い映画」だそうなので、爆音体験したことの無い人もある人もこの機会に是非! きっと新しい『音』の発見があるはず!
と、いうことで第一回の調査は無事に終了。Hさん、おわかり頂けましたか? これからも映画にまつわるあんなことこんなことを、暇に託つけて調査していきますので、「映写ってどうやって行うの?」とか「映画帰りにおすすめのカフェ紹介して」などなど、どんな些細なものでも結構ですので、みなさまのご依頼お待ちしております!
では最後に今回の調査報告、締めのひとこと。
おまけ ぴあ関西版WEB『1万円の遊び方』でもおなじみのバクーと対面。 |
(8月7日更新)
これから体験できる爆音上映はこちら!
シガー・ロス/プリンス/
ヴィンセント・ムーン作品集
《爆音スクリーニング@クラブクアトロ》
●8月12日(火)
18:45~ヴィンセント・ムーン作品集
(モグワイ、アーケイド・ファイア他)
21:00~シガー・ロス「INNI」
●8月13日(水)
18:45~プリンス「サイン・オブ・ザ・タイムズ」
20:45~ヴィンセント・ムーン作品集
(モグワイ、アーケイド・ファイア他)
●8月14日(木)
18:45~シガー・ロス「INNI」
20:45~プリンス「サイン・オブ・ザ・タイムズ」
会場:梅田クラブクアトロ
(元・梅田ピカデリー)
料金:[1作品]前売-1500円
(整理番号付、ドリンク代別途要)
[2作品]通し券-2500円
(整理番号付、ドリンク代別途要)
【公式サイト】
http://www.bakuon-bb.net/
【Facebook】
https://www.facebook.com/
bakuonfilmfes
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「阪神夏の古書ノ市」
●8月13日(水)~19日(火)
会場:阪神梅田本店8階催場
中古&廃盤レコード・CDセールと同時開催の古書即売会。それだけではなく、連日繰り広げられるトーク&ライブイベントが熱い、まさに真夏のサブカルチャー祭!漫画家ひさうちみちおさんや神保町系ライター岡崎武志さん、古書蒐集家で有名な落語家桂文我さんなど、古本関係のイベントも盛りだくさん。ちなみに駒鳥文庫店主も「駒鳥文庫の作り方」でトークします。
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