『上方落語若手噺家グランプリ2017』
決勝進出者インタビュー、林家染吉編
6月20日(火)に天満天神繁昌亭で行われる第3回『上方落語若手噺家グランプリ2017 決勝戦』。今年は40人がエントリーし、4回にわたって行われた予選を通過した9名が、優勝を勝ち取るべくしのぎを削る。ファイナリストは桂華紋、桂小鯛、桂三四郎、桂雀五郎、桂雀太、桂二乗、桂米輝、笑福亭喬介、林家染吉という顔ぶれだ。林家一門から唯一、決勝進出した林家染吉は、予選で「腕喰い」という怪談噺を披露した。コンテストで怪談噺という変化球に驚きを隠せない観客をよそに2位で通過。決勝では芝居噺の「蔵丁稚」を口演する。そこにもまた、染吉の思惑があるようで…。
--予選の手ごたえはいかがでしたか?
全くなかったです(笑)。一番厳しいブロックやったと思うんですけど、笑いの量もそないになかったですし、怖がらせる話だったんですけども、怖がらせなあかんところでクスクスクスと笑いが来たので、「ああ、もうあかんな」と思ったんです。
--染吉さんの意図するところとお客様の反応が違っていて。
違いましたね。
--「腕喰い」はコンテストに向き、不向きで言うとどちらでしょうか?
不向きですね…。
--なぜ選ばれたんでしょう?
予選のメンバー(※1)を見て、普通にやっても絶対勝てないと思ったんです。どないやっても無理やなと。ほな、変わった、誰もやらんようなネタをやろうと思って。
※1
桂そうば「普請ほめ」/桂三実「早口言葉が邪魔をする」/笑福亭べ瓶「太閤の白猿」/桂寅之輔「大安売り」/露の紫「看板の一」/桂二乗「癪の合薬」/林家染吉「腕喰い」/桂ちょうば「読書の時間」/月亭天使「厩火事」/桂小留「軽業講釈」(出演順)
--音の表現とか、想像するとグロテスクな感じですよね。
そうなんですよ、もう腕をかじりますからね。気持ち悪い噺なんです。本当は「バリバリ」の後、血を吸う音とかあるんですよ。それは気持ち悪いのでやめました(笑)。
--林家一門のネタなんですか?
僕、実は恥ずかしながら詳しいことは知らないんですけども、一応一門のネタとは言われています。
--今回は特にそこは意識したわけではなく?
ではないんです。みんな笑わせにかかるので、じゃあ僕はあえて笑わせないようにしようと思って。前半は結構、笑いが多いんですけど、それ全部カットして。時間の都合もありますけれども。全部笑いどころをカットして、とにかく怖がらせようと思いました。
--怖がらせて決勝に行こうと。
そうですね。もう審査員の人も笑わせるタイプばっかりの中でどう見てくれるかですよね。
--では、決勝進出者として名前が呼ばれた時は…。
ほっとしましたね(笑)。ああ、首の皮一枚つながったって感じでしたね。
--後から審査員の方から何か聞かれたりしましたか?
二人ほど聞きまして、「とにかく笑わせんでもネタをしっかりやったら通るんやぞということを君が証明してくれた」と一人の方が言ってくれまして、もう一人の方は「怖がらせたいんやったら最初は明るく、落差をつけろ」と。「お前のは最初から怖がらせよう、これは気持ち悪い噺ですよって運んでいっているから、そこが惜しかったな」と言われました。
--審査員の先輩方のアドバイスは、今後「腕喰い」をされるときには参考になりますね。
そうでうすね。あ、なるほどと思いました。
--予選ではネタ順番が中入りの後で、そういう面でも新鮮味があったのかなと思いました。
僕が予選でトップだったら、まず通らなかったでしょうね(笑)。ちょっと賭けでした、そこは。
--ネタを出して、順番が決まった?
そうなんです。ネタ出しした後だったんです。
--本当、賭けに勝ったような感じですね。
いろんなラッキーがつながりました。
--そうして決勝進出されまして。この顔ぶれはいかがですか?
もう勘弁してくれって思います(笑)。普段の落語会でもお兄さん方以上に笑いを取ってないですからね。
--先日の決勝進出会見で一堂に会されましたが、”このメンバーと戦うのか”という感じでしたか?
もう……気が重かったですね。
--こういうコンテストに対しては、染吉さんはどんな受け止め方をされていますか?
もっと若手の頃は闘志が漲っていたんですけど、今は嫌で嫌で仕方ないですね…。「また落ちた…、あ、また落ちた…」という気持ちになって。やっぱり本番はすごく状態のいいものを出します。みんなもそうなんですけど。それで落ちると、すべてを否定されたような、人格をも否定されたような気分になるんです。
--ご自身そのものを。
なりますね。落語は人間性が出ると言われてますから、その落語を否定されたわけですから。
--それでも挑戦する。
そら挑戦せんと…。嫌やけど挑戦はせなあかんと思ってます。一時期コンテストに出なかったときがあったんですけど、その頃先輩に「コンテストに興味ないかもしれないけど、周りのお客さんのために頑張らなあかん。お前が優勝したら周りのお客さんが喜んでくれる。お客さんを喜ばせたいんやったら、お前は頑張らなあかん。コンテストに出て優勝せなあかん」と言われたんです。
--その言葉が響いて。
はい。あ、なるほどと。そこからコンテストに出続けています。
--そのアドバイスは起爆剤としてすごく大きかったんですね。
あの言葉を言われたことで気づかされましたね。あと、落語はコンテストなんてするもんじゃないと思ってたんです。でも、大阪や上方落語界を盛り上げるにはためには必要やなと思いました。
--お客さんを喜ばせるという大前提がある上で、噺家としてどう生きるのかとか、考えたことはありますか?
……やっぱり先輩とか、師匠方から受け継いだバトンを次の人に渡すことですかね。ここで途絶えさせないようにとは思っています。
--そのお気持ちになったのは入門当初からなんですか?
入門当初からです。これは落研の時から思ってました。
--なぜそういうふうに思われたんですか?
まず、落研に入ろうという人がいない。こんな面白いものを何でみんな見向きもせえへんのやろうと。実際に寄席を見に行く人も僕の周りにはほとんどいない。それで、こんな面白いものを途絶えさせてはいかんな、もっと広めたいなと落研の時から思ってましたね。
--同世代の方に落語の面白さとか、寄席などの面白さを伝えるとしたら、どういうふうに伝えますか?
若い人たち…それは考えてなかったですね(笑)。まずは自分の実力を上げることばっかり考えてましたね。
--でもいろんな人には見に来てほしい。
そうですね。東京の落語ユニット「成金」のやっていることはええなぁと思いますね。落語芸術協会の、僕らとほんと同じ世代の人がユニットを組んでいて、今、東京ではすごく人気なんです。イケメンもいますので、女子高生とか若い世代とか見に来るんです。ただ、これを大阪でやろうとしても、ちょっと無理なんですよね。
--それはなぜですか?
向こうはそういったものをやり出しますと、注目する人が多いんですよ。マスコミであったり、プロデューサーであったり。こっちはそうでもないですからね。『若手噺家グランプリ』も3回目でやっと記者会見を開いたぐらいですから。
--それは噺家さんだけの意識だけでなく、周囲のメディアなども一緒になってやっていくことですね。前後しますが、なぜ落語家になろうと思われたんですか?
落研に入って、老人ホームとか、いろんなところを回って。お年寄りが「学生が来てくれる」ってすごく受け入れてくれて。「若い子が来た」ってそして、すごい笑ってくれる、盛り上がってくれる。それで勘違いしたからですかね(笑)。
--勘違いですか(笑)。
はい(笑)。なんか、俺ってイケるんちゃうかなぁ?って。あの時の楽しさが忘れられずですね。落研やった人のほとんどがそうちゃいますかね。もうウケて、楽しくて。
--そして染丸師匠に入門された経緯は?
名古屋のお寺で落語会があって、それを見にいきまして、「ああ面白かったなぁ」と。すごく粋な芸人さんがいてるんやなぁって。それで、大学の学園祭に染丸を呼ぼうとなりまして、私が学生で前座をやって、ものすごく重かったんですよ(笑)、会場の空気が。もう、しーんとなってる中、「普段老人ホームやったらウケるのになぁ」とか思いながらやって(笑)。そのあと、師匠は大爆笑で。「寝床」をやって。その時ずっと袖で見ていて、すごい迫力があって。力を抜いたようにしゃべってるんですけどね。それで、人柄の良さといいますか、ちょっとしか会ってないんですけど、すごく優しかったんです。それでですかね、この師匠のところに入門しようと思ったのは。
--プロになって、落語の世界の厳しさを感じたことはありましたか? 落研の頃と違う!っていう。
落研の時とかは、落語会を見に行っても前座は俺の方が面白いなと思ってたんですよ。「これ、俺がやった方が面白いわ」って思ってたんですけど、いざ自分が落語会で前座として出た時にもう……。これは先輩方にかなわんと思いました。本当に。同じ舞台に立った時に、あ、違うなと。
--プロの世界だと。
あ、これがプロの舞台の上かって。もう、お客さんも、全く聞く気ない人もいますしね。いろんな制限も加えられてますし。トップですからいらんこと言うたらあきませんし、時にはマクラを振らずに落語だけをやれという会もあります。そういういろんな制限がある中、時には15分もしゃべらせてもれえない中、今まで見てきた前座さんはすごかったんやなって改めて思いました。こんな苦しい状態でやってたんかって。それこそ前座なんて直前まで楽屋の用事を汗かきながらばーっとやって、急いで着替えて、出囃子が鳴ったらしゅっと出て、落ち着く間がないんですよね。
--心の準備する時間もなく。
もう、それもなく。ばーっと。
--そういうところも、舞台度胸を付けるにはすごく大事かもしれないですね。どんなことがあっても出ていかなあかんっていうのを繰り返すというのは。
そうですね。あと、師匠が聞いてますからね。とにかくウケようというよりも、間違わずにやろうという。師匠に教えてもらった通りにやろうと思ってましたね。
--学生の時に師匠の前座を務めたときに、空気が重たかったとのことですが、その時の空気感と、プロになってから前座で感じる空気感に違いはありましたか?
あの時の感じを経験したことはあります。一緒ではないですけど。今やったら第一声にこれを言って、これを言ったら必ずお客さんもほぐれるのになって分かるんですけどね(笑)。
--それも高座を重ねていかないと…。
わからないですね。
--マクラでの気の作り方は教わるものなんですか?
そないに教わらないですね。中には、アドバイスしてくれる先輩もいます。つかみのネタをやる、本題に関係のあるネタをやって本題に入るとか、そういうことは教えてもらいました。たとえばマクラでもオチまで行くのに1分かかるものもあるんですけど、先輩から教えてもらったことでは、「座布団に座ってまず30秒以内に笑わせること。パンチを1回決めること。そうするとあとがだいぶん楽になる」と。
--その30秒は体感時間としては長いですか、短いですか。
短いですね。とにかく短時間でパン!とパンチを決めなあかん。そういうときもあれば、まず、お礼を言わなあかん。来てくださいましてありがとうございますと。あと、用意してくれたスタッフの人にもお礼を述べてとか。そうやって感謝の気持ちを述べてたら自然とほぐれていたりします。
--入門10年ですが、この10年はいかがですか?
もっと稽古しとけばよかったなって(笑)。
--どういうときに感じますか?
こういうときです(笑)。決勝で勝負せなあかんときです。
--稽古はお好きな方ですか?
最初の頃はネタがどんどん増えていくのが面白かったですけど、今はもう……しんどいです(笑)。家でゆっくり昼寝したいとか思いますね。永遠に終わらない受験勉強しているみたいな感じです。今は常に新しいネタを覚えつつ、その日上がる高座の落語も稽古してとか。そんなんですかね。
--テスト勉強は一夜漬けタイプですか?
それですね、間際にやる方です。前もって準備しておくんですけど、ちょっと準備して安心するんですよ。で、間際になってやらなあかん!ってなって、また大慌てで残りをやるというタイプですね(笑)。
--将来はどういう噺家になりたいですか?
うちの師匠みたいになりたいって言うんですけど……。寄席でトリを取れる噺家になりたいなぁと。と言って、じゃあマスコミには興味ないのかといったらそうでもないんですよ。
--テレビ、ラジオにも積極的に出ていきたい?
はい。そして、出たときにちゃんとしゃべれるようにしとかなあかんなって思います。
--師匠から「落語家とは」というような教えはあるんですか?
師匠がよく言っているのは、「ええ人間にしかええ落語はできへんから、人間性を磨かなあかん」と。僻みっぽい人は僻みっぽい落語をしますし、せわしない人はせわしない落語をしますし、僕はのんびりしているのでのんびりとした落語をします。不思議とその人の性格、人間性は出ますね。
--では、決勝についてですが、なぜ「蔵丁稚」を選ばれたんですか?
まずこの噺が好きというのと、「忠臣蔵」の四段目を初めて見た印象、あの芝居の良さが忘れられないというのと、自分の持ちネタの中で滑稽噺を決勝でやったとしても勝てる自信がないということです。僕がよくやっている「金明竹」をやったとしても勝てる自信はないんですけど、「蔵丁稚」はちょっと毛色が違うんですよね。滑稽噺の中でも、ちょっと芝居噺も出てくる。
--予選同様にちょっと毛色の違うものを入れてみようと。
そうですね。新作はわかりませんが、決勝では他の噺はとにかく笑わせる噺。でも「蔵丁稚」は芝居の中の主人と家臣との信頼関係とか、由良之助がが駆けつけるところとか、僕はあそこがもう大好きで涙が出そうになるんですけど、笑いだけじゃなく「これっていい話やなぁ」っていうのを出せる噺だと。笑いだけじゃないですよって。
--口演されているときは、そういう気持ちもぐっと入り込む感じですか?
それが難しいんですよね。12分だと入りきらずに終わってしまうんですよ。とにかくもう、舞台に上がる前にかなり気を入れておかないと。ただただしゃべって終わってしまうと…。決勝のために少しずつ削ってるんですけど、今日も「蔵丁稚」やってきたんですけど、もうちょっとしゃべりたいなと思っている間に終わってしまうんですよね。
--消化不良にならないようにやらないと…。
そうなんですよね。もっと人情がかったようにやりたいんですけど、なかなか…。時間との戦いですよね。13分っていいますけど、みんな12分にまとめようと思っているはずです。
--挑みがいはありますか?
自分が持ってきた中で一番好きな、やりたいネタというのはありますけど、ちょっと違う毛色を見せたとか、ちょっといい話を見せたとか、そんなこっちの作戦では太刀打ちできないメンバーですからね、正直言って。僕の戦略とか、僕の実力ではちょっと埋まらないですね…(笑)。
--とにかくやるしかない。
はい。
--順番は6番目の中トリですね。
ベストではないですけど、いい位置を引いたと思います。
--あとはご自身の落語をするだけですか?
はい。今回も奇跡的に予選に通りました。僕はもう、多分、決勝に行くことがそうないと思うんですよ。チャンスはあっても、決勝まで残れるとなったら本当に少ないと思います。ですから、悔いが残らないように全力でやるしかないなと思います。これだけ稽古したんやから、それだけで決勝に行って儲けもんやって思えるぐらい稽古したいですね。「決勝に残ったからこそこんだけ稽古したんや。もう十分やそれで。元は取れた」と思いたいです。
(2017年6月19日更新)
Check