「何年か後には、シェイクスピアは女優だけで演じるものというスタンダードになれば」――柿喰う客代表・中屋敷法仁インタビュー
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―― 先ほどもお話に出ましたが、男性の書く脚本には女はこうであるという願望が投影されやすいですか。
中屋敷「結局、脚本家は社会を描くので、社会がそうである以上はそうならざるを得ないですし、逆に社会に期待されていない女の人は気違いじみた役が多かったりして、どうもうまく女優さんを使っている舞台がないなと思いますね。余談ですけど、ナイロン100℃さんはいっつも女優さんがメインで、本当に面白い。ケラさんの舞台を見るたびに自分が女優だったら、あの舞台に出れたかもしれないのになって悔しくなるんですよね。僕、本当に出たい(笑)」
―― では、中屋敷さんはどんな瞬間に、女優さんはいいな~と思われますか?
中屋敷「なんだろうなぁ。今からすごい気持ち悪い話をするんですけど、僕ら全員、女性から生まれてますよね。だから必ず、女性に共鳴できると思うんです。僕ら人間として、女の人の体には絶対に共鳴できると。今、気持ち悪いこと言ってますけど。でも、男の俳優さんを観ていても共鳴しない。これは僕の感覚の問題になってくるのかな…。でも、僕は舞台を観ていて、女優さんは人間としても、男にないものがあります。子供を産む体力があります。まあ、体の器官も違いますが、表面上にはないもの、もっと深いところでかなり大きく見えたりしますし。女の人って舞台に立つとすごく大きく見えるんですよね。男性はそう見えないのに。それはたぶん、胆力が違うんじゃないかなって。そこもすげー!って思います」
―― 男性の腕力とはまた違いますよね。お腹の底の方から出てくるような。
中屋敷「人間を3人も4人も産めますから、男はいかに筋肉があっても、かないませんね」
―― そういう強さも女性ならではでしょうね。
中屋敷「そうですね。あと、女優さんはまず自分に対する考えをしっかり持っています。老いとか出産とかっていう問題がありますから。男の人って割と、ずっと若い気でいますよね。女の人の方が『私はもう老けた』とかシビアに受け止めていて、それで自分のパフォーマンスをどうするかとか考えてますね。やっぱり、名優と呼ばれる女優さんは、自分の老いとちゃんと向き合っているからすごいと思うんです。そういうところかな…。自分の肉体と付き合っている瞬間を見ると『女優さんってすっげー!』と思います」
―― では、配役をされるときは、どんなお気持ちになるんですか?
中屋敷「僕は女優さんの可能性をすごく信じていまるので、『どうせ君はこれぐらいしかできないでしょ』とは全く思わないし、むしろどんどんやってほしいと思ってます。今回もみんな、役にびっくりしてましたね。『え、これですか!』と」
―― 本人が驚いても、あなたはにはできるという信頼がある。
中屋敷「当然、できるだろうし、それ以上に僕をびっくりさせてくれるだろうという期待もあります。むしろ、女優さんの方からどんどん枠を切り開いていくべきなんじゃないかとも思っていて。『女の子だから、これくらいしかできないでしょう』とか言われることも多いと思うし、社会においても女の人にチャンスはなかなか、回ってこないですから」
―― まあ結局は、男社会ですね。
中屋敷「だからこそ、もう何年か後にはシェイクスピアは女優だけで演じるものというスタンダードになればいいなって思ってます。今回が第1回目ですが、5、6年続けていけば、だんだん状況が変わっていくんじゃないかなって」
―― なるほど。ちなみに、中屋敷さんの理想の女性像を教えてください。
中屋敷「平塚らいてうさんの文で『元始女性は太陽であつた。』というのがあるんですが、本当に太陽のように、くよくよしない、何があっても大丈夫と言う感じで、どーんと構えているような人がいいですね。強い人が好きです。理想の女性像って、理想の娘、理想の母像にもつながっていくと思うんですけど、女性にはいつも元気でいてほしいです。女性が元気じゃない社会で、いい社会はないと思います」
―― 元気な女性がいると周囲がぱーっと明るくなるイメージがありますね。
中屋敷「宮崎駿さんが『もののけ姫』の中で『女が元気な村はいい村だ』という台詞を書かれているんですが、僕も女の人がしょんぼりする社会は絶対にダメだと思って。女の人がしょんぼりしたら子供がしょんぼりしちゃうし、家庭がしょんぼりしちゃいますよね。お母さんが元気でいてくれないと。社会の最小単位である家族を支えてくれるのは、やっぱり女の人ですし。その女の人が元気でいてくれたらいいなぁって。……僕、作品をPRしないといけないのに、今日は女性運動家みたいなことになってますね(笑)」
―― (笑)。では最後に、『悩殺ハムレット』のPRをお願いします。
中屋敷「この『女体シェイクスピア』では、女優さんを主体に考えていて、お芝居の内容をお客様にきっちり伝えなければという使命感はまったくないです。ただ、ひたすらに、いい女優さん、素敵な女優さんを見せてあげて、その上でお客さんの頭の中に『ハムレット』の内容が入っていけばいいなと思っています。肉食系女子とか言われて1年くらい経っていますが、演劇界は全然、肉食系女子ではなくて。まだまだ女性が生き辛いです。こういう芸術文化は社会を先取りしいないといけないのに、全然、先取っていないじゃないかと。なので、本当に女ってすごいんだぞということを、この舞台でお見せします。女性のことをすごいと思っている演出家がやりますので! 女性が元気になれば、男が元気になるんですよ。逆に、男が元気でも女性は元気になりませんけどね!」
通常、上演時間は2、3時間をゆうに超えてしまう『ハムレット』を、なんと約90分に収めている本作。東京公演では、長年、シェイクスピア作品を手掛けているプロデューサー氏が「こんなに時間を短縮しても、作品の要素を何ひとつ落としていない!」と絶賛されたとのことで、その点もまた見どころだ。『悩殺ハムレット』は10月10日(月・祝)まで、ABCホールで上演する。柿喰う客による新たなる挑戦をぜひ、劇場で観てほしい。
(2011年10月 8日更新)
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