インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「何年か後には、シェイクスピアは女優だけで演じるものというスタンダードになれば」――柿喰う客代表・中屋敷法仁インタビュー

「何年か後には、シェイクスピアは女優だけで演じるものというスタンダードになれば」――柿喰う客代表・中屋敷法仁インタビュー (1/2)

東京を拠点に活動するカンパニー、柿喰う客の『女体シェイクスピア001「悩殺ハムレット」』がABCホールで上演中だ。徹底的に虚構を描く劇作家・中屋敷法仁(柿喰う客代表)が、今作ではシェークスピアの『ハムレット』に手をかけた。キャストは女優のみだ。なぜシェイクスピア? なぜハムレット? なぜ女優? それら疑問から始まったインタビューだったが、最終的に中屋敷の女優、ひいては女性に対する絶大な愛情と信頼が見えたのだった。

 

―― こんにちは。ぴあ関西版WEBです。今日はよろしくお願いします。『悩殺ハムレット』ですが、シアタートラムで全14ステージが行われましたが、東京公演を終えてみて、どうでしたか?
 
中屋敷法仁(以下、中屋敷)「こんなに評判が良かったのか!って思うくらい評判が良かったです(笑)。僕の実感としては、27歳という若い演出家で、小劇団で、この程度の規模の公演を、しかもシェイクスピアをやるということが、薄く褒められがちでした。しかも、今回は『女体シェイクスピアシリーズ』の第1作目で、ニュースタンダードを立ち上げたということで、期待の声と同時に『もっとこうした方がいいんじゃないか』と、いろんな方からいろんなご意見をいただきました。あと、『柿喰う客は何をやっているのかわからない』と嫌煙していた方が、『シェイクスピアだったら見ようか』と、そういうご意見もありました。ほかに『意外とまじめなんだね。ちゃんと本を読んでるし』って褒められました(笑)」
 
―― もう何度も同じことを質問されていると思いますが、改めてなぜ、シェイクスピアの『ハムレット』をお選びになり、そして女の人だけというコンセプトにされたんですか?
 
中屋敷「まず、『女体シェイクスピア』という公演コンセプトが先に立ち上がりました。去年6月に東京と大阪で『露出狂』という女性ばかりのオリジナル作品を上演したんですが、その結果、舞台芸術の世界では、女優さんは本当に生きづらいなと。日常生活ではもっと、女の人が元気なはずなのに、どうも舞台に出てくる女の人は男の願望みたいになっている。『露出狂』は女の人がワイワイ騒ぐ舞台だったんですが、こういう作品をやらなくちゃいけないんだと思って。しかも僕は演出家として。演劇において女優さんという職業はすごく尊いもの、舞台には女優さんしか要らないよ、ぐらいの勢いでやってみようということで、『露出狂』が終わったときに、この企画を立ち上げました」
 
―― なるほど。そしてシェイクスピア。
 
中屋敷「で、演劇の最高峰はシェイクスピアですよね。シェイクスピアは最高峰であると同時に男社会の象徴というか、男社会の時代に生まれた作品なので、出てくる女性も僕から言わせると全然、面白くない。あと、女優さんはいくら頑張ってもシェイクスピアの主演はできないんですよね。どうしても。これはすごく寂しい。だったら、このシェイクスピアを変えてやろうじゃないかと。それで演劇界を変えてやろう、女優に対する考え方を変えてやろう。ひいては女性という存在の考え方を変えられるような、そういう地位を演劇の中で築けたらいいなと思って。その第1作目に、日本で一番翻訳が多くて、日本人も大好きで、一応難解と呼ばれていて、一番文量も多い『ハムレット』をやろうと」
 
―― そうなんですね。では、中屋敷さんにとって女優さんとはどういう存在ですか?
 
中屋敷「女優さんはシビアですね。男の人はいつまで経っても変わらないという感じですが、女性ってどんどん衰えますよね、肌とかもそうだし。そして子どもを産んだりなどで、環境の変化もある。いつまでもかわいいばかりじゃないられないし。彼女たちは本当に、自分たちがどういうふうに生きていくか常に考えていて、自分の職業に対してシビアです。男の人ってポジションを決めちゃえば、ずっとその位置でいられるんですよね。でも、女優はまさに女優、役者。いろんな顔を持っていなきゃ生きていけない。そういうところのプロフェッショナル具合にすごいなと思っています。僕がそういう女優さんとばかり、一緒にやってきたということもあると思いますが」
 
―― 年を重ねると、男の人は『渋みが増す』という表現がよく使われると思うんですが、女の人は『とうが立つ』と揶揄されるところがありますよね。
 
中屋敷「僕は逆に、そういうところがすごく魅力的だと思っていて。女優さんは、老けたからダメ、じゃなくて、絶対にいい年輪の増し方をしていると思います」
 
―― 今回、出演される女優さんですが、どういうふうにして選ばれたんですか?
 
中屋敷「多くは、まだ評価が定まってなくて、これからが期待される人ですね。最初の一歩ぐらいを踏んでいる人間。あと平均年齢が26歳ぐらいです。出所がみんなバラバラで、グラビアアイドル、歌手、キャラメルボックスの人、青年団の人、いろいろいます。普段は海外に行っている人もいるし。あと、柿喰う客の女優と。そして、やっぱり職業として女優のことを語れる人たちがいいなと思っていて。『私は愛されればいいんです』とか、『女優はこうすればいいんです』とか、そういう考え方じゃなくて、自分はこれからどうしたらいいかということを、ちゃんと話せる人がいいなと思って呼びました」
 
―― 柿喰う客の5人の女優さん以外は、皆さん客演ですが、制作段階も含めてチームワークはいかがでしたか?
 
中屋敷「僕は男で演出家という職業。ほかはみんな女で俳優という職業。これは、最後の最後では理解しあえないんです。でも女優さんたちはみんな同い年くらいで、同じ職業なので、チームワークはちゃんと生まれてます。あと、何しろ今回は女優さんを見せる舞台を標榜しているから、そこに対しての意識がみんな高くて。『私たちが頑張らなきゃ、ほかに観るものがないじゃない』なんてことを考えながらやっていますね」
 
―― 皆さん、普段は様々なカンパニーに所属していらっしゃると思うんですが、演技の上でそれぞれ、違いは出ていますか?
 
中屋敷「出てますね。演技はやっぱり違います。それで、世間が考える女優の芝居って、すごく狭いなと思っているので、もっともっといろんな人に女優を見てほしいなと思いますね。女優さんはいろんなことができるんだよということを知ってもらえたらいいなと思います」
 
―― カンパニーが女性だけという状況は、なにかしら特異なんでしょうね。
 
中屋敷「聞くところによると、そこに男優が一人でもいると全然違うだろうと。女優だけなので、みんな好き放題なんですよ。ふざけてるし、楽しそうだし。ダメ出しのときも、みんなゴロゴロ寝っ転がったまま聞いていて。僕が立ったまま『ここはこうしてくださいよ』とか言っているっていう。サッカー部の監督みたいですよ」
 
―― それはOKなんですか。
 
中屋敷「皆さんがリラックスしていればそれでいいんです。でも、その中に男のリーダーがいたらまた違いますよね。リーダーは『ちゃんとしろ!』とか言うだろうし。僕はダラっとしてます。女子高っぽさもあって、女子高っぽさって何がいいかというと、女の中に男扱いされない男が足されていることなんですね。その感じがいいなと」
 
―― 最近のキーワードとしては、なでしこジャパンがありますね。
 
中屋敷「あれも本当、佐々木監督の言葉がすごく深く沁みてきて、『わかる!わかる!』ですよ。はい」
 



(2011年10月 8日更新)


Check

公演情報

柿喰う客 「女体シェイクスピア001 悩殺ハムレット」

10月7日(金)19:30
10月8日(土)14:00/18:00
10月9日(日)14:00/18:00
※18:00公演は乱痴気公演。柿喰う客恒例、全配役をシャッフルして上演する特別ステージ。
10月10日(月・祝)14:00



ABCホール

S席-3800円
A席-2800円
B席-1800円
学生-1800円
高校生以下-1000円

[原案・原作]シェイクスピア

[演出][脚色]中屋敷法仁

[出演]七味まゆ味/コロ/深谷由梨香/右手愛美/葉丸あすか/大杉亜依里/岡田あがさ/荻野友里/葛西幸菜/葛木英/熊川ふみ/高島玲/新良エツ子/兵頭祐香/渡邊安理

※学生、高校生以下は公演当日要学生証。

[問]柿喰う客[TEL]080-6801-7389

柿喰う客公式サイト
http://kaki-kuu-kyaku.com/