AI・HALLで上演される新作『gutter』について
物語の成り立ちや、その演出方法など
dracom主宰の筒井潤にインタビュー
(2/2)
―― 続いて、今回の本公演についてお伺いします。上演される物語『gutter』は、どのようにして出来上がったんですか?
筒井潤(以下、筒井)「まず老人問題を取り扱おうと思ったんです。僕の母親が知り合いから聞いた話で、生きている意味を失って自殺しようとして家の前のドブにはまったおばあさんがいるらしいと――物語の設定はおじいさんなんですけど。その話を聞いたときは、辛い話やなぁって思ったくらいだったんですけど、頭の中からエピソードが離れなくて。これは何か、自分にも関わりがあることなんだろうなと思って、作品にしようと思ったんです」
―― ギリシャ神話の『アイアース』という悲劇も下地にあるそうですね。
筒井「昨年の『事件母(JIKEN-BO)』という作品でも、他のギリシャ神話をベースにしました。それはなぜかというと、僕は純粋にわかりやすい話が好きなんです。そのわかりやすい話を作るにあたってベースにするにはギリシャ神話が一番いいと思ったんです。実際2作品をそうやって書いていますが、そうするとシンプルに物語を示す手がかりが掴めるんですね。なので、この『gutter』のストーリー自体も、ものすごくわかりやすいものになっています」
―― 『アイアース』と実際、お聞きになったというご老人の話には何か共通点があるんでしょうか。
筒井「『アイアース』はギリシャ神話の中で唯一と言われている自殺の話なんです。ギリシャ神話を全部、読んだわけではないので伝え聞きなんですが。アイアースが殺したものが実は羊で、そのことを知り惨めになり半狂乱で自殺をする。アイアースとその老人は同じような境遇かなと思います。物語も、導入部分など似たような設定にしているところがあります」
―― 「老い」ということに対してはどう捉えていますか。
筒井「僕自身の老いも感じるんですけど、それ以上に両親に感じますね。両親はかなり高齢で、生活をしていてもイラっと感じることがありますね」
―― それはどういうときにですか?
筒井「一つのことをしつこく言ったり、単純なことができなかったりとか。あと、こっちの空気をまったく読んでくれないとか。でも、今回、作品を書くにあたって老いに関して考えているときに、何でそんなにイライラするのかなとも思ったんです。そしたら、いずれ自分も将来、ああなってしまうかもしれないという苛立ちが混ざっているような気がして、そこを嫌悪しているんやなと。その延長で親の―― 親に限らずなんでしょうけど、ちょっとどんくさいところとかにもイライラしているのかなと思って。なので、そういうところも表現したいなと思いつつ、これを書けば僕ももうちょっと、親に優しくなれるかなって思っていたんですけど……なれないですね(笑)」
―― 自分自身がその年齢になってみないとわからないですしね。
筒井「はい。あと、より老いについて考えをめぐらせた理由がほかにもあって、ボーヴォワールの『老い』という本を読んだときに、『生に対して死が反対と概念としてよく言われるが、実際、生というものを産声を上げたとき以降のことを言うのであれば、その反対にあるのは亡くなって意識が消える前の老いじゃないのか』と書いてあって。『死に対しての反対は生前じゃないか』と。確かにそうかもと思って、『生の反対側にある老い』という見方で老いを考えたいなという思いもありました」
―― これはあんまり詳しく聞いたらいけないとは思うんですが、そういう老いや死をテーマにして、『gutter』の結末はどうなるんでしょうか。
筒井「受け取り方によってはハッピーエンドかもしれないです。でも、死のうとして死ねなかった老人が主人公なので、別の見方では物悲しさを感じるかもしれないですね。この物語の結末を素敵と思うか、悲しいと思うかは、お客さんの捉え方次第ですし、どうとでも捉えてもらえるような結末になっています」
―― この老人はどなかたが演じられるんですか?
筒井「村山裕希です。dracomを結成して来年で20周年なんですけど、彼は今年、初めて主人公を演じるんですね。そしたら急に張り切って。今までは台詞をなかなか覚えてくれへんかったのに、今回誰よりも膨大な量の台詞をあっちゅう間に覚えてきて。わかりやすい! ほんまに張り切ってますね(笑)」
―― そうなんですね。そこも見どころですね(笑)。今回、演出にもこだわりがあるようですね。
筒井「今回、俳優が台詞とまったく関係のない動きをしているんです。その動きを『アイアース』から採用しています。なので、俳優の動きはギリシャ神話の内容で、台詞はそれとはあまり関係のない僕の書いたテキストを用いています」
―― なんだか観る側としては、動きと言葉に惑わされそうですね。
筒井「そうですね。惑わされる感じはありますね。ひょっとしたら、よくわからないという人もいるかもしれない。録音した台詞で展開していった前回の『事件母(JIKEN-BO)』は、自分にとってはすごく納得のいった作品ではあったんですが、褒めてくださった方の多くはテキストを重視していて、役者の体の動きには興味を示さなかった方が多かったんです。逆に、体の動きばかりを見ている方は、話がよくわからないと。僕としてはその両方を拾っていただけるのがベストなので、今回は物語をもっともっとわかりやすくして、どちらも拾えってもらえるようにしています。あと、ユーモアをちゃんと盛り込んでいます(笑)」
―― ちゃんと、というのは?
筒井「どの作品にもユーモアを盛り込んでいるんですが、お客さんは最初のパフォーマンスの雰囲気で畏まってしまって、その後に出てくるものに対して『笑っていいのかわからない』という気持ちになる方が多いみたいで。その中で、『あの場面で笑いたかったけど、笑える空気じゃないのがしんどかった』と言われたこともあるので、今回はいかにして笑える空気を作るかということにも専念しました。過去の3、4作品に比べたら、笑っていただける作品になっていると思います」
―― 筒井さんの描く笑いというのはどういうものなんでしょうか?
筒井「今回、いろんな人に気を楽にして観てもらいたくて、いろんな笑いを散りばめています。ベタもあればシュールもあるし、オチをちょっと考えるものもあります。いろいろと散りばめて、何とか客席に笑い声を起こしたいんですよね、今回は!(笑)」
―― 何か劇場も変わった形にされるそうですね。
筒井「はい。AI・HALLには、劇場の2階部分に人が入れるエリアがあるんです。今回はそこも客席にします。1階のフロアーも客席ですが、1階の方には地べたに座ってもらいます。それで、『gutter』を上から見るか、下から見るか、楽しんでいただければと思います。あと、これまでのAI・HALLの使われ方にはない仕掛けもしますので、そこもぜひ、見ていただきたいと思います」
―― その仕掛けも楽しみですね。今日はありがとうございました。
(2011年9月29日更新)
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