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舞台、映画、そして役者を愛した井上ひさしによる
傑作『キネマの天地』の魅力を麻実れいにインタビュー (2/2)

―― ここで、井上ひさしとの思い出を聞いた。
 
麻実「井上さんは大変遅筆な方だと伺っていたので、覚悟をして入ったんだけれども、やはりお稽古が始まって10日間ぐらいは、届くのはまったく脚本に関係ないもので。でも実は大事なものが届いていたんですね。ご自分で大きな紙に年表を書かれて、その時代の社会的状況、世界の状況も全部書いてくださった紙が毎日届くんです。これをしっかり踏まえたうえで『箱根強羅ホテル』に入らなくちゃいけないのはよくわかったんですけど、でも年表よりも台詞を読みたいなという思いもありました(笑)。ただ、不思議なもので、朝刊の連載小説を心待ちにしている読者になったみたいで、それはそれは届いた脚本は、少しずつではありましたけど台詞が面白くて面白くて豊かなんですよね」
 
―― 少しずつ、少しずつ稽古場に届く台本。そして『箱根強羅ホテル』はどうなったのだろう?
 
麻実「初日直前になっても最終幕の台詞ができてこなかったので、だんだん切羽詰ってきて。最終幕は稽古をできないまま、初日の幕を開けたんです。そして初日パーティーで井上さんがご挨拶をされたんですが、『一幕目はすっごく面白かった。二幕目は僕はハラハラドキドキして見てました』って、そうおっしゃった瞬間に、役者全員が一斉に井上さんを睨んだんです(笑)。『誰のせいですか!』みたいな感じで。井上さんもそれを感じたらしくて、すごすごとご挨拶をお止めになり、人影に隠れていましたね。その隠れ方がまたかわいらしかったんです。めがねの中の本当に素敵な目が『ごめんなさい』とおっしゃっているようで、思い出すと懐かしいです」
 
―― 他にもこんなエピソードが…。
 
麻実「公演の千秋楽に近くなった頃かな、井上さん主催の焼肉パーティーに行きましょうということで、新宿の焼肉屋さんにみんなで連れていってもらったんです。それで、いつも井上作品に出られている役者さんに『ねえ、これっていつものことなの?』と聞いたら、『そうよ、お詫びの会よ』って。井上さんは『とにかく食べたいものを好きなだけ食べなさい』とおっしゃって、とても温かい会でした。『お詫びの会』とおっしゃいますけど、そういうふうに会を設けて役者たちを労ってくださって。井上さんの優しさを感じましたね」
 
―― 井上は「僕の台詞を一字一句、絶対に変えないでくれ。僕は役者をまったく信じていません。誠心誠意込めて一字一句、大変な思いで生み出した言葉なので、僕の言葉を信用して、僕の言葉に委ねてやってください。そうすれば大丈夫です」と役者たちに伝えたという。本作は、そんな井上が書き上げた推理劇であり、喜劇である。最後にもうすぐ幕が開く舞台『キネマの天地』への意気込みを聞いた。
 
麻実「私たちは、井上さんから頂いた言葉を素直に表現すれば、絶対に大丈夫と信じ、この演劇讃歌、人間讃歌を全員でうたいあげたい。素敵な作品にするという気持ちでいっぱいです」
 



(9月29日更新)


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麻実れい

●公演情報

こまつ座 「キネマの天地」

チケット発売中

Pコード:412-734(公演日3日前まで販売)

●10月4日(火)19:00・5日(水)13:00

梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

指定席-7800円

[作]井上ひさし
[演出]栗山民也
[出演]麻実れい/三田和代/秋山菜津子/大和田美帆/木場勝己/古河耕史/浅野和之

※未就学児童は入場不可。

[問]キョードーインフォメーション[TEL]06-7732-8888

間もなく上演! 前売り券僅少!!
チケット情報はこちら


●プロフィール

麻実れい

あさみれい/東京都出身。1970年宝塚歌劇団に入団。1980年に雪組トップスターとなり、その5年後、宝塚を退団した。退団後は、『シカゴ』『マクベス』『メアリー・スチュアート』『双頭の鷲』『ハムレット』『蜘蛛女のキス』『サラ』『桜の園』など数多くのミュージカル、古典作品、翻訳劇などに出演し、日本を代表する舞台女優に。また、山田洋二監督の映画『十五才 学校Ⅳ』へも出演し、新境地を開いた。そして、2004年7月にはギリシャ・アテネの古代劇場ヘロデス・アティコスにて『オイディプス王』を、2006年7月には英国ロイヤル・シェイクスピア・シアターにて『タイタス・アンドロニカス』、翌2007年にはニューヨークを含むアメリカ東部主要都市にて『AOI / KOMACHI』で巡演するなど海外の舞台公演も行う。近年では、2010年に『冬のライオン』『おそるべき親たち』、そして今年は『トップ・ガールズ』に出演。本作『キネマの天地』の後には『みんな我が子』も控えており、精力的に活動している。