ホーム > インタビュー&レポート > NOT WONKの加藤修平が発案者となり 北海道・苫小牧で開催された『表現の交換市 — FAHDAY 2025』を ライター・鈴木淳史がレポート
NOT WONKの加藤修平が発案者となり、昨年の10月に地元は北海道の苫小牧で『表現の交換市〈FAHDAY2024〉』が開催された。今年も9月23日(火・祝)に開催されたが、去年を踏まえて、どのような想いで開催するかを改めて聞いていたのが、今年7月の本誌インタビュー記事。
そこでは、何故いわゆるわかりやすい音楽フェスという言い方ではなく"表現の交換市"と名乗るか、何故東京や札幌のイベントごとに慣れている人たちに頼り過ぎず、地元苫小牧の人々で作り上げようとするのか、何故町興し村興し的な悪戦苦闘ドキュメンタリー物語に見えないのかなどなど、気になることを細かく細かく聞いて、とても丁寧に誠実真摯に加藤は答えてくれた。大きな商業社会でも村社会でもない新たな社会を形成しようとして、草の根口コミで多くの人々に大きく広げようとしていることも理解できた。敬意を込めた上での言葉になるが、それはすごく無謀なことでもあるし、そんな無謀なことに真っ向からチャレンジする加藤の姿には、幼稚な言葉で申し訳ないが、わくわくとどきどきという気持ちしかなかった。事前のインタビューでの応援お手伝いだけでは物足り無さ過ぎて、この目で実際観に行くしかないと、インタビュー終わった瞬間に、その気持ちを記事担当者と共に加藤に伝えていた。
9月23日当日朝に関西を旅立ち、朝10時過ぎに新千歳空港に着。1本電車を逃しただけで到着時間が約1時間は変わってくるという現実に、早くも南千歳駅で直面する。ぼーっと駅に立ち尽くしていても意味がないので、敢えて南千歳駅で降り、周囲を探索してみる。アウトレット施設を発見するが、朝早いからなのか、人はほとんどおらず、近くの保育園児一行に遭遇したくらい。空港近くのアウトレット=多くの人で賑わうという固定概念があっただけにシンプルに驚いたし、近くの同じ町のひとつである苫小牧に人は集まるのだろうかと、その未知の領域に不安や期待と言った簡単な言葉では括れない不思議な気持ちになる。

Photo by 広瀬秋典
朝11時27分の苫小牧駅行き電車に乗り、20分弱で着く。駅で偶然にも去年も訪れたという関西のメディア関係者の知り合いに会い、苫小牧駅から会場となる苫小牧市民会館までの間にあるホテルや飲食店など、町の距離感や空気感を短時間ながらも、タクシーに乗っている間に教えてもらう。昼12時直前に苫小牧市民会館に着。ここでざっくりではあるが、おおよその会場案内を。苫小牧市民会館・全域をArea_1からArea_4までの4つのエリアに区分。大ホールを用いるArea_1は有料に設定されて、その他の3つのエリアは入場無料となる。有料エリアであるArea_1では、NOT WONK、くるり、踊ってばかりの国、君島大空による全4組のライブを。3つの無料エリアは、ダンスミュージックを中心にブッキングされるArea_2、屋外駐車場に特設ステージと出店ブースが広がるArea_3、写真や美術作品などが展示されたり地元北海道の若手バンドなどのライブが行われるArea_4で構成される。


Photo by 広瀬秋典
ここまで読んでいただいて、何となく雰囲気はつかんでもらっているかも知れないが、全出演者を同じ文字数で書くライブレポートというノーマルなものよりは、基本的には私が観て回ったものを記録しております。皆様の読みたい知りたい事柄について書いていないこともあるかもですが、ルポタージュや紀行文というほど大袈裟なものでもなく、個人が感じて思った文章という"ライター鈴木淳史が覗いた『FAHDAY』"として気軽気楽に読んでいただけたら幸いです。

Photo by 広瀬秋典
まずは受付に向かうが、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』でもステージエリアを展開している札幌で音楽、アート、スパイス料理などを発信するショップ『PROVO』オーナーの吉田龍太氏などの姿を見かける。彼らも同じく受付の前に並んでいるのではなく、受付内でチケットのもぎりや私のようなゲスト関係者への対応などを担当している。普通は地元イベンターなど専門職の方々が対応担当するが、地元の知り合いたちが応援お手伝いで駆けつけているのだ。制作には地元イベンターのWESSも名を連ねるが、私が現場で観る限りでは全てを自分たちの手で手掛けている。主催企画にはFAHDAY MEETINGというクレジットで、NOT WONKを始めとして地元苫小牧の飲食店、クラブ、バー、ライブハウス、建設会社などの名前が並ぶ。
Area_3には去年はなかったという特設ステージが存在するが、こちらは加藤の幼馴染が経営する建設会社のサトウ巧建によるものであり、同じくArea_3に設置されるスタンディングテーブルもサトウ巧建によるもの。このスタンディングテーブルはドリンクカップをはめこめるホルダーも付いており、その機能性にも感激してしまう。どうしても野外は不便なことが発生しやすいが、細かいところにまで気が配られている。テーブルやチェアも設置されており、無料エリアということもあり、近所のおじいちゃんおばあちゃんが犬の散歩がてら訪れて、飲食エリアを利用しながらくつろいでいる。町の祭や学園祭に地元の方が集まっているムードに限りなく近い。

Photo by 広瀬秋典
ドラムの高橋尭睦に会えた時に、しきりに彼が町という言葉を使っていたが、確かに小さな町が生まれている。今時の言葉だとフランス語のマルシェなどと言うが、要は市場的なイメージにも近いのではないかと思えた。市場を歩きながら気になったものを食べる感じであり、私もジャガバタ・焼売・焼きそば・焼き鳥・コーンスープなどを食したが、全国各地のフェスに行っても食べたことがなかった寿司をそれも本格的な江戸前鮨を食べられたことにはビックリ仰天した。思わず鮨屋の御主人にも話を聞いたが、FAHDAY以外では移動出店はしたことがないと話されていた。本当に町の様々な人たちを巻き込んでいるのだ。

Photo by 広瀬秋典
こういった出店ブースが広がるArea_3の端にて、自分の商売柄ではあるが気になるスペースを見つける。北海道は白老町の本屋であり、移動販売もする『またたび文庫』。そのスペースのこれまた端に『月刊ひらく』を見つける。発行人の方が話しかけてくれて、話を聞くと、元々は苫小牧民報の記者であり、2018年に独立して、自ら小さな新聞を作っているという。加藤のインタビューも2ヶ月に渡って掲載されていた。ここにきて、"表現の交換市"という言葉が、よりしっくりと自分の中でも理解できた。

Photo by 広瀬秋典
サトウ巧建制作の特設ステージでは、CAR10、ゆうらん船といった普段からNOT WONKと交流があるバンドが気持ち良き音を鳴らしている。ゆうらん船メンバーであり、この日夕方6時にはNOT WONK正式メンバーとして発表された本村拓磨が、加藤や高橋と共にArea_3のライブが終わるたびに、荷台にバスドラムを乗せて走り回っていった。最初は機材搬入と勘違いしてしまったが、バスドラムを募金箱として使い、観客にドネーションを促していたのだ。1000円以上の協力ではステッカーをもらえるのだが、この何気ないドネーションがFAHDAYにとっては大きな資金であり、主催メンバー自らが笑顔で走り回る姿には好感しかなかった。

Photo by 広瀬秋典
苫小牧市民会館自体も見た目は小柄な感じであり、併設する建物も目の前の広場も含めて、小さな小学校の校舎と校庭という感じ。苫小牧市民会館の建物の上からは大きな布が吊るされており、そこにはクラウドファンディング参加者などなど関わった人々の名前が傘連判状の如く連ねられていた。それも地元苫小牧南高校の書道部によるものというのも良い。肝心の会館の中にも触れたい。昼12時から君島大空のライブがあり、中に入ったが、それはそれは立派で大きくて広い会館ホールであり、度肝を抜かれる。音響設備も抜群に素晴らしい。弾き語りからバンドまでばっちりな音で届けられる。調べると普段は細川たかし・山下達郎など様々なジャンルの大物たちがコンサートを開催する場所であり、2階席まで入れると約1600人は収容されるという。しかし、来年3月には取り壊されてしまい、隣に新しいホールが建てられるらしい。そうなってもFAHDAYは続いて欲しいものだ、いきなり今年初めて来た人間が偉そうに言うのも何だかではあるが。

Photo by 桑島智輝
Area_4は苫小牧市民会館内ではあるが、無料スペースであり、そこでは、あっこゴリラという既に全国区で活躍するミュージシャンだけでなく、北海道大学の学生である乙女絵画や釧路出身のバンドであるタデクイと北海道の若者たちが演奏する姿も際立っていた。共に全国区で活躍するのも時間の問題だと心から期待できる若者たちであったし、地元の若者新人でも一生懸命活動していれば、このような場に地元で立てるというのは、大きな目標であり大きな登竜門になるであろう。Area_4は会館の1階の階段広場ステージであり、ライブする中、左右の階段で観客が移動しているのも何だか密着感があって微笑ましかった。

Photo by 桑島智輝
無料ステージでいうと、Area_2も忘れてはならない。苫小牧市民会館に隣接する施設であり、その3階にあるのだが、教室みたいなスペースであり、簡単に言うと、そこがクラブになっている。その発想自体が学園祭の出し物みたいで親近感を持てるのだが、何気に入って腰を抜かす。そう言えば、スタッフからは『一度、入ったら抜け出せなくて入り浸りますよ!』と事前に言われていたし、事後に加藤からも『魔窟ですよ!』と笑われたが、あまりにも本格的なクラブサウンド過ぎた。入った瞬間に心身ともに委ねてしまい、脳も心も受け渡したくなる、あの快感...。最初から音響設備が整っていて有料のArea_1だけではなく、無料のエリアがどこも本格的な音を響かしていたのには感動してしまう。ちなみに加藤から聴くところによると、Area_2はレイブパーティー好きの地元の農家の方が中心となって催されているとのこと。何か何まで手作りなのに、どれも本格的過ぎる。FAHDAYにおったまげっぱなしである。
Area_1。昼2時20分。去年も出演した踊ってばかりの国。下津光史の『やっぱさ、兄弟がさ、祭やると言うたら、絶対来ますよね』という言葉が印象的であったし、彼は兵庫県出身なのだが、おっしゃる通り、遠く離れた北の大地でも兄弟ならば直ぐさま駆けつけるのだ。朝、ホテルから近い海まで散歩して観たことない花も観たりしながら、この町で加藤君が生まれ育ったことを感じたという話も情景が浮かんで心に残った。また、FAHDAYのSNSにも写真が掲載されていたが、加藤の母親たちが作った豚汁を本番前に飲んだといういう話も印象深かった。関西人の性なのか『♪ドレミファーデー♪』というオリジナルギャグを冗談がてら言っていたが、その後、すぐに新曲を披露していたのも、本当に大切で大事な関係性なのが伝わってきて素敵であった。
同じくArea_1。夕方4時40分。くるり。岸田繁が約18歳ほど離れた加藤に対して、『友達の加藤君』という言葉遣いをしたのも胸にくるものがあった。兄弟や友達といった言葉は違っても下津と同じく、やっぱり本当に大切で大事な関係性だからこそ苫小牧まで駆けつけるのだ。札幌や『RISING SUN ROCK FESTIVAL』開催地の石狩新港に来ることはあっても、苫小牧は初めてだということも明かす。その場の観客の雰囲気や、その後のSNSなど、何かしら感じたのは、地元苫小牧の観客からの『くるりを苫小牧で観れるなんて...』という抑えきれぬ喜びの感情。それだけでも地元民からしたらFAHDAYという加藤の発案は、とんでもない贈り物である。それこそ8月中旬に『RISING SUN ROCK FESTIVAL』でも観たばかりであるし、普段からライブを観ることも多いが、この日のくるりも相も変わらず凄かった。新曲であったり、『ばらの花』・『ワンダーフォーゲル』といった人気代表曲など、全てに心を揺さぶられたが、特筆すべきは『街』。
『この街は僕のもの』
岸田の心からの叫びから歌い出される『街』は1999年に故郷京都を想って歌われた曲だが、この2025年に自分の街である苫小牧で"表現の交換市"を催す加藤に対して最大の賛辞である最大の激励の様にも思えた。粋過ぎて震えて痺れた場面...。
Area_3。夕方6時。すっかり日は暮れて、昼間はTシャツ1枚でも過ごせたが、この時間は流石に薄手とはいえ長袖を羽織りたくなる野外。Area_3のバックに位置する校舎のような建物は、光によって美しいデザインアートが彩られている。とても幻想的な光景。それが自然な手作りで彩られているのも愛らしい。そんな中、奈良美智が歌謡曲からロックンロールまでDJで流していく。それも1曲ずつ緩やかな喋りと共になので、より音が楽しめる、まさしく音楽。チバユウスケが聴こえてきたり、洋楽のスタンダードナンバーではちょっとしたサプライズな話もさらっと話してくれて、現場にいるからこそ聴ける共有の魅力を再認識する。
Area_1。夜7時。開演を知らせるブザーが鳴り、緞帳が上がる。私の記憶が確かならば、ブザーと緞帳は、この日の初の演出な気がしたし、何よりも大トリが始まるという興奮を搔き立てられた。もちろん大トリはNOT WONK。その緞帳には地元苫小牧にある王子製紙工場の煙突が描かれていたし、町に古くからある会館の歴史の重みすら感じられた。メンバーはゆっくり登場して、音を鳴らすまで、少し時間があったのも良かった。本当ならば特別な祭として浮足立っても良いのに、あくまで日常の続きとして地に足がついていた。
『みんなと作った時間。それを持って、ひとりずつに訴えます』
そう加藤は言ってから、『your name』を歌う。FAHDAYという今日の1日を自分でも振り返られる緩やかな時間。NOT WONKの醍醐味のひとつとも言える轟音が聴ける曲では、自分の地元である関西のライブハウスとは違う衝動があった。NOT WONKの地元苫小牧の、それも数々の大物たちが訪れた町を代表する会館ホールで鳴らされるという至福...。高橋のドラム、本村のベースも、加藤のギターと歌声と一体となって、この苫小牧市民会館を蠢いている。
『くるりがロックンロールを譲ってくれたから、ロックンロールよろしく』
そこからのロックンロールナンバーは言うまでもなく、続くボサノヴァナンバーとの緩急もたまらない。
加藤は、パーティーは日々繰り返されていること、そして関わった人々に割り食ったり搾取されたりする人がいなく、来た人全員が楽しく帰れるといったことを話していく。当たり前のことだが、よくよく考えるとなかなか難しいことをしっかりと明言している。楽しめるということは通じ合えることや、地元の先輩方も『しょうがねぇな!』と言いながら協力してくれたことや、まさかのくるりの後でライブすることなど、加藤は心の中の思いの丈を静かに吐露する。
『これやらないといけない気がする。これいかないといけない気がする』
『勘だけで来てくれて、マジ愛してるって感じですわ』
この言葉たちすべてに加藤の心が現れていた。静かな音色も歪む音色もすべてをNOT WONKは残して、本編をやりきって舞台を去る、
『俺の好きなものの周りは金の匂いがしなくて美しいと思っていて』
アンコールで加藤はこう言った。何かが動くということは必然的にお金も動く。それはあくまで当然の普通のお金であり、必要以上の無駄なお金は動かない。他の地域の人の力を借りず、地元苫小牧の人を中心にして、北海道内だけでなく全国から人々を呼び込み巻き込み、地元苫小牧に自然な雇用を生んで、美しい状態を築き保ち続ける。これほど無謀で困難なことはないが、それを自ずと達成させようとする加藤の心根は誠に美しい。
『みんなで外行こ!』
言葉だけでなく、時間と空間で分かり合えることを、しかと我々に届けてくれた加藤はアンコール終わり、そう告げて、Area_3での寺尾紗穂によるライブへと誘導する。
寺尾は亡くなった父親のこと、大学時代のこと、山谷という街のこと、人種のこと、短い時間の中で歌と共に、あらゆることを話しかけてくれる。ふと気付くと前方のほとんどの人が座って観ている。Area_3の特設ステージも昼間に見せた顔とは違う顔を見せる。鉄筋をつたう布が電球によって美しく光っている。
アップライトピアノが印象的であったが、アンコールで登場した加藤によるとクラウドファンディングの賜物であるとのこと。クラウドファンディングやドネーションが何かしら必ず役立っていることはわかっていても、何かを目の前にして、そのおかげでと本人から打ち明けられると、とてつもなく感慨深いものがあった。
最後は加藤のSADFRANK名義による『肌色』を寺尾と歌う。儚さを知るふたりが歌う歌は何よりも美しかった。
時間は夜の9時。すべてが終わった。加藤が事前のインタビューで話してくれたが、自分自身も1日を体感してみて感じて想ったのは、ハレの日が終わったというよりは、日常の1日が終わっただけであり、明日の明後日もあり、それは綺麗に区切りつけられるものでは無くて、だらだらと続いていくということ。そのだらだらも決して悪い意味では無く、当たり前の日常という感じ。変に興奮しきってやり終えたという祭という感じでも無いのが、催し物としては新鮮な体験であったし、それは、とんでもなく心地よかった。
ホテルの近くでジンギスカンを食べて、また、その近くのBar BaseとCLUB ROOTSというアフターパーティーの2会場にも軽く顔を出す。ここも打ち上がり切ったパーティーというよりは、普段の苫小牧の週末を覗いている気分であった。翌日朝一番で旅立たないといけなかったので、朝までは過ごせなかったが、苫小牧の日常というパーティーは明日からもごく自然に続いていくのだろう。特別なことを特別じゃなくて、さり気なく魅せれるのは、何よりも洒落ているし、何よりも趣味がいい。FAHDAYは、そんな日であった。
Text by 鈴木淳史
(2025年11月 5日更新)
【北海道公演】
▼9月23日(火・祝) 苫小牧市民会館 大ホール
[出演]君島大空/くるり/NOT WONK
NOT WONK 公式X
https://x.com/notwonk_theband
NOT WONK 公式Instagram
https://instagram.com/notwonk_theband
「FAHDAY 2025」公式サイト
https://fahday.com/25/
「FAHDAY 2025」公式X
https://x.com/fahday_official