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ホーム > インタビュー&レポート > NOT WONKの加藤修平が発案者となり、 昨年の10月に地元は北海道の苫小牧で 『表現の交換市〈FAHDAY2024〉』が開催された。 今年も9月23日(火・祝)に開催されるが、去年を踏まえて、 どのような想いで開催するかを改めて聴いてみた。


NOT WONKの加藤修平が発案者となり、
昨年の10月に地元は北海道の苫小牧で
『表現の交換市〈FAHDAY2024〉』が開催された。
今年も9月23日(火・祝)に開催されるが、去年を踏まえて、
どのような想いで開催するかを改めて聴いてみた。

現在も苫小牧に住む加藤が自ら中心となって動き、地元のクルーと一緒に作り上げていく。大きな資本に頼るのではなく、加藤が全てを把握して作り上げていく。しかし、町おこし村おこしといった特別な熱狂やお涙頂戴の物語は存在せず、ある意味、日常の続き、普段と変わらない1日として地に足をつけて進めている。なので、決して音楽フェスティバルでもない。そして、知る人ぞ知るものであったり、わかる人にだけわかればいいという閉ざされたものでもない。草の根や口コミのみで多くの人に大きく届けようとしている。本来は誰もが目指すべき姿であるが、その作り上げていく行為は茨の道である。そこを充分に理解しながら、今年も挑んでいく加藤。大都市だけでなく、地方都市でも表現を追求することは出来るというヒントやアイデアが、このインタビューを読んでいただくと必ず伝わると想う。

ーーまずは、去年にFAHDAYを地元の北海道は苫小牧で開催した経緯から教えて下さい。

きっかけは様々なんですけど、2019年12月にNOT WONKで『Your Name』という企画を苫小牧でやりまして。ちょうどavexとメジャー契約をし始めた時期で。メジャーとかインディペンデントとか関係なくやっていますし、メジャーで功を奏する場合もあるけど、その頃は知らない顔が増えていって伝言ゲームで伝わっていく感じというか、自分の表現がダイレクトに届かないことに疑問がありました。もちろんavexとの契約は自分で決めたことだし、喜ばしいことだったけど、自分たちの表現が直接届くものを作らないといけない。なので、『Your Name』はチケット1枚1枚を手書きで250枚作って、プレイガイドも一切使わず、お客さんとのメールのやり取りやライブ会場で直接販売しました。実感が欲しかったんです。

僕らは東京のバンドじゃないし、上京のつもりもないし、だからみんなに苫小牧に来てもらおうと。そしたら全国からお客さんが集まってくれたんですけど、苫小牧の人があまり来なかったという事実もあって。当日、オープンマイク企画もやって、24組出演してくれて、後藤(正文/ASIAN KUNG-FU GENERATION)さんも来てくれたり、東北や愛媛からもバンドが来てくれたんですけど、思っていたより北海道のアクトが少なかった。遠くへと遠くへと伝えると、身近な北海道や苫小牧の人に伝わっていない状態というか。結局、住んでいる場所が非都市部であっても、表現をドロップするポイントが東京になっているのであれば、東京でやっているのと、さして変わらないのではと。どこに住んでいても大都市に表現をドロップできることができるのは現代の音楽家にとっては強みでありつつも、大都市以外で活動する音楽家たちの課題になっていると感じました。

そこでやはりその場所にいて音楽を作る意味を考えるようになりました。LOSTAGEの五味さんのように地元の奈良に場所を持って、バンドとしての活動を続けることは、ひとつの回答だと思うのですが、自分も苫小牧で苫小牧に暮らす人と何かやらないといけないと漠然と思い始めました。その頃が2019年で25歳だったので、何となく30歳までにはやりたいなと。そんなに楽な話じゃないだろうというのはわかってましたけど、苫小牧にはかっこいいクラブやライブハウスや美味しいご飯やコーヒーのお店もあるからそこにいる人たちと一緒にやってみたいと思いました。

ただ、自分の中では点在している感覚だから、その点が繋がるように自分の中で形づけていかないといけない。でも、たかがメジャーデビューしたくらいで何かデカいことしたいというのは一番胡散臭いじゃないですか。メジャーデビューは言葉としての事実なだけで、それ自体にそんなに大きな価値はないんですよ。そんなことより、こんな小さな街で音楽や場所を続けていられるというのは、テレビや大きなフェスに出たかどうかより、自分が実際に観たり聴いたり、体感したことや、感動したことを信じてそれに価値を見出しているからだと思います。有名なバンドが苫小牧に来てスベリまくっているのをいくらでも観たことありますしね。だから、大きな看板を掲げる気にはならなくて。

ーー去年の模様のドキュメントも観たのですが、加藤君自ら街の人々と逢って話して作っていく感じがあったんです。

みんな各々のポリシーやスタイルがあるので、FAHDAYという筆で、一筆書きをして同じトーンにするのはやりたくなかったんです。僕は29歳で一番下っ端で、下は10代から、上は50代や60代の方々もいるので、言い出しっぺとして『苫小牧のみんなで祭をやってみたいんですよね。一肌脱いでほしいです。』とひとりひとりにビジョンを話して口説いていって、こういう事を仕切ってほしいとか正直に伝えていきました。誰もFAHDAYの完成形をみていないのに、完成形をイメージして、自分がいない中でも喧々諤々と半年後の事を考えてくれて、本当に心強かったですよ。ずっと苫小牧で遊んできた兄さんたちや、関わってくれたみんなが『こんなこと苫小牧は初めて』と言って喜んでくれて嬉しかった。

ーードキュメントで発電機ひとつ用意するのも、加藤君があの人にお願いしようと言って進めていっているのは凄く印象深かったです。

自分が言い出しっぺで代表なのに変わりはないので、全部を頭に入れてタッチしていくというか。ぶっちゃけ発電機にしてもテントにしてもお金を出して用意するのは簡単なんですよ。イベントを1つ作るときに、札幌や東京の慣れた人が出てきてくれるのは楽ではありますし、餅は餅屋という感じでお仕事としては素晴らしいんですけど、それだと新しいものが育ってこないし、自分たちの街のことまで誰かに独占させたくない。めっちゃ面倒臭いこともありますけど、一つ"もの"を作る体験は誰しもにあって然るべきだし、思ったより難しい事ではないですよ。FAHDAYには『表現の交換市』というサブタイトルが付いていますが、何かを作る、表現するということは、ただ単に造形物を作るという意味だけではないんです。

例えば参加する人にとっては、自分で過ごす時間や場所を自分で選択したり、制作サイドにとっては、販売する酒の種類とか、フードも甘いものとしょっぱいものバランスとか、それらも含めて考えて作っていくことも立派な表現だと考えています。関わった人みんなに作家になってもらいたい。面倒臭いことがあるとはいえ、この規模なら自分たちで出来ますよ。今年は2回目だから、去年の悩みは今年は悩まないし、1回やった事はまたやれますから。他の大きいものに対しての憧れはないし、自分たちのやっていることに自信を持って、自分たちの時間と場所は自分たちの手で考えて作っていく。苫小牧も再開発が進んでいて、よくわからないものもやってきているけど、そうしていれば飲み込まれないで済むので。だから、じゃあ発電機は誰から借りようかという話になるんですよ。

ーー当日、加藤君が慌てず焦らず穏やかな表情と動きで過ごされているのも素敵でした。

いろんな事があって、大変過ぎた瞬間もありましたけど、先輩たちの根性で土壇場で解決したり、ELLCUBE(苫小牧のライブハウス)のスタッフ中心に、地元の高校生やバンドやってる子たちがリストバンドチェックやゴミ収集などの仕事を引き受けてくれて。ライブを観れないからつまらないはずなのに、本当に気持ち良くやってくれました。ストレスがなかったとは思わないけど、みんな世代関係なく普段から会って話してるからそんなにヘイトが溜まらないんですよ。

僕は自分が一番動かなきゃいけないと思っているから、肩で風切って歩いたりしないし。普段からフラットな関係で何か手間をかけたら『ごめんね』で、助けてくれたら『ありがとう』で。若い世代には『何か困ったら先輩たちに聴いてね』と伝えて、先輩たちは『こんだけ動いてる加藤君の顔に泥を塗るわけにはいかない』と必死になって動いてくれて。そんな先輩の背中を見て若い世代も仕事をしてくれて。別ににこやかに過ごそうと思っていたわけじゃないけど、みんながオープンマインドでFAHDAYを作り上げようとしているムードがあったので、僕もそこに乗っからせてもらった感覚です。自分が会場中を歩き回れるキャパシティーでもあったし自分に会いに来てくれた人がいるならば、自分から会いに行かないといけないと思ってました。

ーー後、苫小牧の地元紙に掲載されたのも、しっかりと街に根付いているなと想いました。

メディアの感覚とか街に居続ける人々の認識を変えていかないといけないので、開催まで何度かFAHDAYについての記事を掲載してくださいましたが、『この言葉じゃ伝わらない』とか、記者の方にも自分たちの言葉を丁寧に伝えるコミュニケーションを重ねて、当日を迎えました。そしたら、『これ!』という記事を前日に掲載してくれて諦めちゃいけないなと改めて痛感しました。日常的に音楽を取り上げるメディアの方が身の回りには多いですけど、もちろんそうじゃないメディアもあって。地方紙は、表現そのもののディテールよりも、その場所との関係性に特化して掘り下げて書くことが多いので、メインの購読層である上の世代にも伝わるよう表現の解像度を下げちゃうんですが、それじゃ意味がない。

最悪、伝わらなくても書いてほしいと伝えましたし、気になった人は自ら調べてくれますから。表現の解像度を下げると、どれだけそれが有名かが重要になってしまうので、"メジャーデビューしてた加藤さん"のようなニュアンスで紹介されるし、"音楽フェス"とも書かれるし。だけど、新しい事をやっているから新しい言葉を使わないといけない。既定路線のストーリーにするとチケットも売れやすいけど、それをやらずに、試行錯誤してビジョンを模索しないといけない。苫小牧は都市部みたいに黙っていたら勝手に面白い音楽や文化が向こうからやってくる場所ではないし、そういうものを作る機会も少ないので、都市部に人も金も色んなものが流れていく。そういう表現にまつわるチャンスを底上げしたいと思う。

ーー加藤君が普段からライブで全国各地に行っているので、苫小牧にも来てよと言っている事も凄く胸にぐっときたんです。だからこそ、去年は全国各地から多くの人が集まったのだと想いますしね。それでも、先程話してくれたみたいに、北海道の人が少ないという新たな課題も出てきているし。

苫小牧まで札幌から車で1時間ですけど、それでも遠いと言われますからね。ライブファンは色々な場所に遠征をしていますけど、苫小牧の人も例に漏れず札幌や東京に行くしかない。レコードを通販で買うにも、割高な北海道送料がかかりますしね。苫小牧も違う豊かさを持っているから、豊かさの単純な比較はできないけど、文化資本の差は埋めていかないといけないので。

ーー知る人ぞ知るや、わかる人にだけわかればいいというスタンスでやっていないのが、本当に素晴らしいと想うんです。本当に良いものや、本当に伝えたいことを、多くの人に届けていって、大きく広がるべきだと心から想えて捉えているのが、とても良いんですよ。

自分は自分の音楽を続けているだけだけど、いろんなものを観てきて、それらを自分なりの目線で捉えてきた自信はあるので、真剣に伝えても恥ずかしくない。FAHDAYで伝えたいことは、特定の音楽や思想を通過していないと理解できないような、ハイコンテクストなものじゃなく、人間の根源にある美しさとか感情の揺れ動く瞬間にフォーカスを当てている感覚です。だし、僕はパンクが好きですから。誰とでも視線を揃えて会話をしたい。

ーー多くの表現者は、それをやらないというか、メディアも含めてですが。大きな商業社会か小さな村社会しか選択しない中で、加藤君はどちらでも無く、その上、多くの人に大きく伝えているのは画期的なんですよ。

僕の目には、その2つの選択肢だけから選ぶこと自体諦めに映るし、多分、自分がやっている事はそういう意味ではあんまり格好良くないんですよ。ロックやヒップホップは元々ユースカルチャーだし、フロアに似たスタイルのキッズが溢れているのは一定のカタルシスがあって良いじゃないですか。でも、自分はそれを求めていない。NOT WONKのフロアには老若男女いろんなタイプのお客さんがいて、街のおばちゃんからギャルまでいる。NOT WONKが好きなだけで遊びに来ていて、説明し難いけど、僕がやりたいのは、まさにそうで。

みんながそれぞれNOT WONKから違うことを受け取っている感じというか。それは茨の道だし、"苫小牧発パンクバンド"みたいな一個のブランドにした方が絶対に食いやすいし、絶対にやりやすいのは圧倒的にわかっているけどやりたくない。それが難儀なとこだけど、もうちょっとで誰もやれなかったスタイルに手が届きそうな気がしています。やりたいことが叶えられる瞬間が来たら、それはきっと新しいモデルになると確信してやっているので。歳を取っても音楽家として生きていきたいから、今どれだけやりやすかったりお金になる方法があっても、歳を取ってから切なくなったり、やってきた事を恨んだりしてしまうような方法を取ることは、幸せじゃない。今の僕のやり方は音楽以外でも、転換できる気がするし、最小の単位で続けていく方法のサンプルを一つ作っているような感覚。他人事みたいに上手くいったら良いなと思いながら、自分の価値観では、これは自分がやるべきクールなスタイルだし、全く疑っていないので。

大型フェスには巨大な資本があって巨大なCMがあって、ある種、一個のサービスだし、受け手になるというよりは消費をしていく楽しみ方。それも全然悪くないと思うし、自分もそういったものを消費している感覚はあるけど、それだけじゃなくてもいいよねというオプションを作っている感じです。ただ、汗だらけ泥だらけになって、悪戦苦闘するドキュメンタリーを売り物にしたくないし、そういうストーリーごと売るのはしたくない。傍から観たら、今やっている事はそんなに派手じゃないし、使える予算も限られていて見かけは地味になってしまうけど、夜な夜な直接人に会いに行ってチケットを売ったり、飲みながら打ち合わせしたり、自分たちの場所を作っていくという実感が伴っていくことが今は私たちにとって一番大事なんですよ。

ーー最後になるのですが、イベント名にフェスティバルなどの大きな名前を付いていなくて、『DAY』という日常生活を感じさせる言葉が入っているのもいいなと想います。

自分が好きな場所に遊びに行くとよく会う人たちは、生活の中に音楽があるように感じるんです。で、そんな週末を糧にして平日を頑張るぞも良いんですけど、生活の中に自然に音楽があって、それが生活に反映されるのがクールだなと思っていて。消費するんじゃなくて、消化して自分の生活に落とし込んでいくというか。それは色々な音楽を聴いたり、偉大な先人の思想を引き継いで、自分が音楽を作っているのに近いなと感じます。

ーー1年の中の特別な1日になり過ぎていないし、町興し村興しといったお祭り感覚に引っ張られていなくて。文化祭の感覚で地に足をつけて開催されている空気が、ドキュメントという映像を通して観ただけでも、しっかりと届いてきたんです。

みんなで向かっていくハレの1日というよりも、いつもやってる週末のパーティの続きの1日ですから。いつもの空気を引き連れてこそ続ける意味があって。FAHDAYが作れるものって、なんちゃらフェスという言葉じゃない気がするんですよ。毎日毎日を積み上げての集大成だけど、終わったら、また明日があって明後日がある。きれいに区切りも付けられないで、だらだら残り続けてそれにいつまでも影響をされていく感じ。

祭りってどうしても作り上げたものを披露することにはなるけど、それをどうやって作っていくかという道すがらで感じることがとても大事なんですよ。何よりそういうことを考えているとアドレナリンが出て楽しいんですよ。そして、当日はお客さんが楽しんでいる姿を少し離れたところから眺めて良かったなーと思いたい。やはり自分は作っている時が一番楽しいので。そして、誰が何を受け取って、手渡したかという交換にこそ興味がありますから。

Text by 鈴木淳史




(2025年7月17日更新)


Check

Release

5th Album 『Bout Foreverness』

発売&配信中
Label:Bigfish Sounds

[Track List]
01. About Foreverness
02. George Ruth
03. Embrace Me
04. Same Corner
05. Changed
06. Some of You
07. Asshole

配信リンクはこちら

Profile

NOT WONK(ノットウォンク)…加藤修平(Gt.Vo.)、高橋 尭睦(Dr.)。2010年、北海道・苫小牧で結成。2015年に1st AL『Laughing Nerds And A Wallflower』をKiliKiliVillaよりリリース。RISING SUN ROCK FESTIVALやFUJI ROCK FESTIVAL など大型フェスに出演。2021年1月に4th AL『dimen』をリリース。9月には初のサポートメンバーを含めた7人編成でのリリースライブ”LIVE! : dimen_210502_bipolar_dup.wtf”を成功させ、2022年は主催の2マンイベント"BEING THERE”を4公演開催。2023年は加藤のソロプロジェクトSADFRANKと合わせてワンマンライブ、多数のイベントに出演し、ライブを中心に活動した。そして2024年年3月、USインディーロック界の重鎮SUPERCHUNKとのスプリットツアーを開催し、10月には加藤が発案者となって地元・苫小牧の仲間たちと「”表現の交換市”『FAHDAY 2024』 」を開催した。2025年2月5日、5th AL『Bout Foreverness』をリリースした。

Live

「FAH_ver.10」

【東京公演】
▼7月18日(金) Shibuya WWW/WWWβ
[出演]NOT WONK/No Buses/aldo van eyck/sheersucker
[DJ]TOMMY


「FAHDAY 2025」

【北海道公演】
▼9月23日(火・祝) 苫小牧市民会館 大ホール
[出演]君島大空/くるり/NOT WONK

チケット情報はこちら


Link

NOT WONK 公式X
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NOT WONK 公式Instagram
https://instagram.com/notwonk_theband

「FAHDAY 2025」公式サイト
https://fahday.com/25/

「FAHDAY 2025」公式X
https://x.com/fahday_official