ホーム > インタビュー&レポート > 続けることの価値と葛藤 - TENDOUJI×ナードマグネットが語る、 時代とともに歩むバンドの現在地
出会いと変化、そしてコロナ禍を経た現在地
須田亮太とアサノケンジ
ーー前回のインタビューでTENDOUJIがナードマグネットに初めて出会ったのが、大阪のワンマンの時だったという話をされていました。そのころから須田さんはTENDOUJIのことを知っていましたか?
須田亮太(以下、須田):知ってました。結成して間もないぐらいの時かな。THISTIME RECORDSが発送する商品に、TENDOUJIのデモCDみたいなのを一緒に入れていたような気がしていて。この間、引っ越しに伴いCD棚を整理していたらそれが出てきて、懐かしいと思ったんですけど。そういうこともあって、ワンマンの時に「TENDOUJIだよ」ってTHISTIMEの社長である藤澤(慎介)から紹介を受けたのをよく覚えています。
ーー須田さんから見て、そのころのTENDOUJIってどういう音楽をするバンドという印象でしたか?
須田:そりゃもう、大好きですよね。最初に音を聴いたとき「音楽の趣味は一緒かも」と思っていました。あともっと若いバンドなのかなって思っていて、年齢を聞いたら同い年だって聞いて、すごくびっくりして。それにライブはすごく盛り上がっている印象もあって。そんなにめちゃくちゃテンポの速い曲ではないし、音圧もゴリゴリに歪んでるっていうよりかは結構インディーポップな音なのに、酔っ払ったお客さんが「うわーっ」て、本当にパンクみたいな盛り上がりがあって。当時から「すごいな、かっこいいな」と思っていました。最近のTENDOUJIはだんだん本当にパンクな人たちの層にも、ちゃんとそのノリが広がっている感じがあって。今も面白いな、かっこいいなと思っています。
ーー印象に残っているライブとかありますか?
須田:『リプレイスメンツ』という、川崎のCLUB CITTA'でSEVENTEEN AGAiNが主催のイベントがあって。ステージを2つに割って交互にやっていく形だったんですけど、2022年だったかに、TENDOUJIの次が僕らだったことがあったんです。ちょうどコロナ禍が一段落ついて、もうそろそろライブハウスも昔のノリでできるかなみたいな時期で。セッティングしながら見ていたらTENDOUJIが真横でやっているんですよ。そしたら、モッシュやクラウドサーフが続出し、もうこれはコロナ前に戻ったとかいうレベルじゃない、とんでもない盛り上がり方をしてて。あれはすごかった。
ーーアサノさんは覚えてますか、その時のこと。
アサノケンジ(以下、アサノ):覚えてます。イベントも長いし、スタンス自体もそういう感じだから、それまで溜まってたものが一気に出た感じはあって。あと、俺らはあんまりシリアスにならないんで、何をやっても大丈夫だと思われたんじゃないですかね(笑)。
ーーその状況で次のナードマグネットはやりづらかったんじゃないですか?
須田:そうですね(笑)。TENDOUJIってコロナ禍ぐらいの時期にパンクな層とも混ざり合って愛され始めていたと思うんだけど、逆に僕らはコロナ禍を経てお客さんが一旦落ち着いたというか。昔はそれこそ歌ったり騒いだり、なんでもない曲のBメロぐらいでダイブしたりとかもあったんだけど、それがコロナ禍を挟んでお客さんの入れ替わりもあったのか、雰囲気が変わってきたんですよね。だからTENDOUJIのライブを横目で見て「うちも久しぶりにこの感じになるんかな」と思ってやったら、あんまりならなくて(苦笑)。昔だったらあの流れのまま、うちもぐちゃぐちゃになってたはずなんですけどね。
何としてでも売れたいから、この先も続けたいへーーアサノさんがナードマグネットに対してリスペクトしている点を教えてください。
アサノ:そうですね。やっぱり同世代なので、好きなことをやっているバンドだとは思っていて。それに前にも言ったけど、俺らのバンドの歴史の入り口にはTHISTIMEの藤澤さんがいて。だから一番最初に見たら有名人って感じですね。
あとナードだったり愛はズボーンだったり、プププランドだったり、東京だったらドミコだったり、Tempalayだったり。あの世代バンドって、全員キャラが立っているイメージがあって。ナードマグネットもメンバーそれぞれにキャラがあって、見ていて楽しいバンドですよね。
ーー今のナードマグネットはどうみていますか?
アサノ:定期的にライブで一緒になることがあるけど、須田くんが今どう考えているのかなとはいつも思う。俺らもそういう時があったし今もちょっとあるけど、コロナ前はフロアがものすごく盛り上がっていて、みんなが「ナードマグネットはこう」というイメージがあったし、メンバーも「そのイメージに向かっていかなきゃ」という時期だったと思っていて。それで綺麗にいい感じのナードマグネットというものがパッケージされていた気がする。けど、最近はその感じはあんまりなくて。
ーー今、アサノさんから話が出ましたが、音楽への向き合い方って昔と今とで変わりましたか?
須田:まあなんか、そうやな......。難しいな......。確かに昔の方が5年前、コロナ前はとにかく必死だったと思うし、漠然とだけど「何としてでも売れたい」という気持ちは強かった。ライブの本数も多かったし「売れるためにいっぱい人脈を作らないと」という気持ちはあったと思う。だから、そういうギラつきみたいなのは出ていたと感じます。今はどっちかと言えば「この先、続けていくにはどうしたらいいのか」みたいな方に重点を置いて考えることが多くなったかも。40歳手前になって、この場を大切にするにはどうしたらいいか、みたいなことを考えてはいて。だから一本一本のライブを丁寧にやろう、ダサいパフォーマンスはしないようにと思うようになっています。
ーー「ダサいライブをしないように」というのは、後輩のバンドに向けてですか?
須田:そうですし、若いお客さんもですね。今は若いバンドマンと一緒になることの方が多くなってきていて、「高校の頃、ナードを聞いてました」みたいなことをすごく言われるんですよ。すごく嬉しいんですけど、だからこそ良いライブをしないと落胆されたくないというか。
アサノ:今の須田くんの感じ、すごくわかる。俺らもライブの本数は多いし、今も売れたいとは思っている。でも昔みたいな、ずっとギラついている状態は確かに抜けていて。それこそ若いバンドマンが「高校の時に聴いてました」とか、若いお客さんが「中学の時に聴いてました」「あのライブ行きました」とか言われると、「今日のライブが10年後の記憶に残る人もいるかも」と思ってやる気になる。
迷いの先に見えた、バンドを続ける意義
ーーTENDOUJIは昨年10周年で、ナードマグネットは来年20周年になりますね。
須田:大学2年生のころから始めて、もうすぐ40歳に突入。よくやれてるなって、思います。
ーーアサノさんと須田さんに伺いたいんですが、バンド活動を10年も続けているって想像していましたか?
アサノ:そうですね。2〜3年で売れるだろうと思ったし、それにしがみついていく姿は想像していなかったんで。中学の時から友達だし、ダメならダメでやめようって感じで始めて、こんなバンドマンになるとは思わなかったです。
須田:僕もそうですね。10年前というと、1stアルバムの『CRAZY, STUPID, LOVE』が出る前年ぐらいで「もう30歳になるか」というタイミングだったんで。ただ僕らもTENDOUJIも、30代で勢いある若手みたいな動き方をしていたと思います。
ーー10年続けてきて、予想していなかったことってありますか?
アサノ:結構ありますね。それでバンドの寿命が毎回伸びている気がします。ずっとライブハウスだけでやっていたら10年なんて絶対続けてはいない。TEENAGE FANCLUBのオープニング・アクトやったり、FUJI ROCK FESTIVALに出たり、最近の韓国のフェスに出たりなどを経験してしまうと、辞められなくなる。
須田:僕も同じような感じですね。本当に変なことや面白いことが定期的に起こるおかげでなんか続いているところはあります。憧れの人と対バンすることとかは本当に多いですし、20年経ってようやく高校時代の思い出とリンクしてくることもあって。この間、スピッツの草野マサムネさんがラジオで僕の話をしていて。僕が昔、ラジオでWeezerの話をうるさく語っていたのを、たまたま聞いていたようで。別に自分の曲を褒められたわけじゃないんですけど、嬉しかったですね。
ーーSubway Daydreamの存在もよく言っていますよね。
須田:そうですね。彼らはバンドを組む前から、僕らのことを見てくれていた。2ndアルバム『透明になったあなたへ』が出てお店回りをした際に、最後にお客さんと記念撮影したら双子(藤島裕斗、藤島雅斗)がめっちゃ就活の格好で写っているという。それから数年後に植野さんから「最近このバンドいいんだよ」と教えてもらって、ライブに行ったらその双子から「僕ら、あの時の写真のこれなんで」と言われて驚いて。なんか不思議な伏線回収がちょいちょい起こっていますね。
ーー逆に、心が折れそうになった瞬間とかはありましたか?
須田:結構あります。コロナ禍でまず一回、ライブができなくなって。そしたらメンバーが抜けて「もうちょっと無理かもな」という気持ちになった。そこから持ち直して今のさえこ(B)が入ってくれてアルバムを作れたけど、そのツアーもあまりうまくいかなくて。さっきケンジが「最近の須田くんはどう思っているんだろう」と言っていたのは、多分ツアーで対バンした時に、うちの感じがあんまり良くなかったんやと思う。あの時期、僕は迷っていたので。そこからツアーファイナルもやり、大きな自主企画もやってみたけど、それが思い描く理想の形で終われず悔しい部分もあって。それで今は一本一本のライブの充実感を高めていこうと、今、立ち直っているみたいなところです。
アサノ:俺もコロナの時期かな。コロナ前、最後のライブが2020年2月14日にLIQUIDROOMでやって、初めてチケットが売り切れたんですよ。「マジで、ここからだな」っていうところで、もう次のツアーも組んでいて、ファイナルにSpotify O-EASTも取っていて。でも、それでコロナになっちゃって。あの時期、振替もよくあったじゃないですか。O-EASTでもやったんですけど、その前の何本かがキャンセルになって、ツアーファイナルじゃなくて中盤ぐらいになってしまって。しかもお客さんも距離を取らなきゃいけない時期だったから、200人ぐらいしか埋まらなかった。そこで「これ、何のためにやっているんだろう」と感じて。あの時はまだ、いつ終わるのか見えなかったし、4〜5年とか回復にかかるんだったらバンドを続けるのはもう無理かもと思った。そこで初めて自分の年齢のことを考えたかもしれないですね、40歳になっているだろうし、みたいな。多分、メンバーもどこかしらそういう考えはあったかも。そこからパンク・メロコアの界隈に行きはじめたんですよ。その時の良い・悪いは一度置いといて、そっちの方はもうライブやり始めてたんで、そっちとつながったんです。
それぞれの青春時代を彩ったバンド
ーー今回のイベントではテーマが「青春」で、青春時代によく聴いていた曲をカバーされるそうですが、そのころに聴いていた音楽って何ですか?
アサノ:青春をどこにするか難しいですけど、俺ら小学校から同級生なんで、そこら辺でいったらDragon Ashかな。小6から中学校まではもうずっと聴いていて。それで中学のころにナオ(モリタナオヒコ)がゴイステ(GOING STEADY)を持ってきて、高校のころにヨッシー(ヨシダタカマサ)がモンパチ(MONGOL800)を持ってきたみたいな。洋楽にのめり込んだのって結構遅いので、10代を青春と捉えるんだったらそんな感じですね。
須田:TENDOUJIのDragon Ash、聞いてみたいな。僕も実は中学の時に一曲カバーしたことがある。当時は楽器ができるやつで集まるしかないから、一人一曲ずつ持ち寄ったらL'Arc~en~Ciel、スピッツ、Dragon Ash、PENPALSみたいになって、もうジャンルがむちゃくちゃで(笑)。
アサノ:それこそ俺、Dragon Ashが好きだったからKjさんやBOTSさんらが通っていた青山学院大学に行ったんですよ。そこの軽音楽部に入ったら、青学ってエスカレーター式なので中学から上がってきた人がいっぱいいて。どのバンドに入るとか、何の楽器をやるかっていう権利がなくて、気づいたらベースになって。しかもあいつら金持ちだから、俺にベースを買ってくれて。それでBon Joviの「It's My Life」をやったんですよ。
ーーこれで「It's My Life」なんかやったらめちゃくちゃ盛り上がりそうですね。須田さんはいかがですか。
須田:そうですね。僕も中学のころは、Dragon Ashも聞いてたけど、高校時代だとポップパンクが多いかもしれない。それこそGreen Dayとか。ナードマグネットって「Weezerが好き」と言ってますけど、それより先にハマってたのはGreen Dayなんですよね。洋楽の入り口くらいの感覚で聴いてたかもしれない。もともと友達が教えてくれて、ちょうど『WARNING:』とかベスト盤が出たタイミングでよく聴いていました。この間も来日で大阪に来たので、ライブを観に行ったんですけどね。
ーーライブとかでカバー曲をすることも多いナードマグネットですが、Green Dayはあんまりやっていない感じがします。
須田:僕らバンドではやっていないと思いますね。一回だけセッティングの時に「Basket Case」をやったことはあるけど。ただメンバーの音楽遍歴が本当にバラバラなので、聴いていた音楽も全然違う。だから4人で共通認識で「これ!」という曲があるのかって、今は悩んでいます。
ーー最後に今後の目標とかありますか。
アサノ:基本的には継続ですね。でもただ続けるだけじゃなくて、これまでの10年みたいにポイント、ポイントでなんか面白いことを引き寄せるような動きをしたい感じです。メンバー4人の共通認識だと思うんですけど、続けること自体が目的じゃないので。とにかくバンドが面白くなればいい、そこは昔も今も変わっていない。
ーーナードマグネットは来年20周年ですが、どうですか。
須田:僕は、めちゃくちゃ自分の年齢を意識してしまっているので、40歳を手前にして、ちゃんと自分なりの「20年続いているバンド」でありたいなとは思っています。かっこいい先輩でいたいし、後輩にも「20年続けてきたら、こんなライブができるんだ」って見せたい。「ダサいから、もうやめてしまえよ」と思われたら終わりなので、そうならないためにも頑張りたい。あと今、アルバムを作っています。筆が遅いのでアルバム一枚作るのに本当に時間がかかってしまうんですが、20周年のこの節目にフルアルバムを仕上げることが今の目標ですね。
Text by マーガレット安井
(2025年7月15日更新)
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[7日(日)出演]TENDOUJI/ナードマグネット
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