ホーム > インタビュー&レポート > “ここからがエピソード1です” 夜を彩るバンド・Name the Nightが 初ワンマンで示した「はじまりの日」 『満月の夜、僕らは大きな羊に出会った』ライブレポート
11月中旬にしては気温が高く、昼間に雨が降ったことから少し湿度の高かったこの日。会場のJANUSに入ると、既にフロアは大勢のオーディエンスで埋まっていた。天井がうっすらとブルーに染められ、アンティーク調のシャンデリアがほんのりとオレンジの灯りをともす。外気や喧騒から離れた会場の空気は落ち着いていて、皆お酒やドリンクを片手に、談笑しながらゆったりと開演までの時を過ごしていた。
BGMにはコールドプレイ&ジョン・ホプキンスの『MOON MUSiC』や、かせきさいだぁの『CIDER MOON』、トム・ウェイツの『Grapefruit Moon』など、曲名に"MOON"と入る楽曲がチョイスされていた。この夜の大阪は曇り空で、おうし座の満月は残念ながら雲の上だったが、会場の雰囲気で月に想いを馳せられるような気がした。
2024年1月から、毎月満月の夜にSNS上でオリジナル楽曲を1曲公開し続けてきた彼ら。満を持して12月16日にリリースされる1stフルアルバム『FULL MOON NIGHTS』には、この1年間で発表した11曲と新曲の全12曲が収録されている(大阪公演では一足先にCDの先行販売が実施された)。これまでイベントライブなどには出演していたものの、ワンマンライブは本人たちの意向により、1年間行われずにいた。アルバムのリリースに合わせて行われた初めてのワンマンライブには、Name the Nightのコンセプトである"夜"や"満月"になぞらえた演出が随所に散りばめられ、メンバーとスタッフがいかにこの日に向けて準備をしてきたかがよくわかった。もちろん気合いも十分だ。
定刻を少し過ぎ、いよいよライブがスタート。山森はのっけから気持ち良さそうにギターと歌声を響かせ、MIYAは満面の笑顔でベースを奏で、畠山は大きく身体を揺らしてキーボードを弾き、伊地知も微笑みを浮かべて安定感のあるビートを鳴らす。オーディエンスも大歓迎で彼らを迎え、クラップやハンズアップで盛り上げる。4人が"今この時"を心から楽しんでいることが音からも表情からも伝わってきて、その喜びが会場中に伝播していった。「Name the Nightのワンマンショーへようこそ〜!」と山森が嬉しそうに両手を広げると、フロアからは「フーフー!」と歓声が湧き上がった。
MCで山森は「改めましてこんばんは、Name the Nightでーす。ワンマンショーでーす! やったー!」とピース&拳アップ&ガッツポーズをキメて、全身で喜びを爆発させる。ワンマンライブを企画したのがちょうど1年前だと述べ、「Name the Nightの正真正銘の初ワンマンは今日。目撃してくれてありがとうございます!」と感謝を伝えると、大喝采&拍手の嵐が起こる。集まったオーディエンスもこのハレの日を喜ぶように、最初から最後まで最高のレスポンスでライブを楽しんでいた。
続けて山森は、JANUSというハコが山森にとってもName the Nightにとってもキーポイントとなる場所だと語り始める。2011年にROCK'A'TRENCHを休止したタイミングで鎌倉に引っ越した山森は、2012年からソロ活動を開始した。2014年にJANUSで行われたイベントライブ(『くつろぎたいむ.3』2014年8月31日)にソロで出演した時に、ご近所さんだがまだ鎌倉の街では会ったことのなかった"心の長男"こと伊地知と邂逅を果たしたと回顧する。「その日のこと覚えてますか?」と聞かれた伊地知は「10年くらい経ってるよね。懐かしいね」と微笑む。山森と伊地知の2人でサシBBQをしたエピソードでは「このまま抱かれるんじゃないかと思った(伊地知)」と笑わせつつ、そこからName the Nightの始動に至るまで、「ゆっくりゆっくり種を育てて羽化させていった(山森)」とバンドの道のりを振り返った。もともとこのパートはMCの予定ではなかったそうだが、言葉が止まらない山森を見てメンバーは「想いが溢れてるんだね(伊地知)」と優しく見守る。山森は「僕が最後にフルバンドでライブをやったのもJANUSなんですよね。思い出の会場に素晴らしい仲間と来れて最高です。ありがとうございます」と感慨深げな表情で感謝を口にした。
ここからは、ネタバレ防止のためセットリストは伏せるが、印象に残った楽曲を数曲レポートしよう。
山森の弾き語りからスタートした『Radio La La La』は、大阪にゆかりの深い楽曲だ。10月にぴあ関西版WEBでMV完成披露試写会&ミニライブのレポートを公開した(レポートはこちら)が、同曲のMVは大阪にある放送芸術学院専門学校の学生たちと撮影した。この日の会場にはMVの監督をつとめた同校の溝口仁之助氏の姿もあり、真剣な表情でカメラを回していた。華やかで力強いサウンドに身体を揺らしたオーディエンスは<La La La>で自然にシンガロング。4人は心底嬉しそうに笑顔を見せた。HIPHOP要素の強い『No Stress』ではコール&レスポンスもバッチリ。山森はハンドマイクで、ゆらゆらとラップ調のボーカルを紡いでゆく。この日はチルというよりもムーディーな大人の雰囲気を漂わせる印象で、ミラーボールの煌めきも楽曲の色気を増幅させていた。
10月にリリースされた11thシングル『Till Dawn』は、畠山のシンセとトロンボーンがアクセントに。どこかノスタルジックなメロディーに並走する高音がとにかく気持ち良い。そして山森の滑らかなラップと歌声、MIYAの躍動するベース、伊地知が支える柔らかくもタイトなビート。それぞれのキャリアに裏打ちされた抜群の演奏力で魅了しつつ、不思議なフレッシュさも感じられる楽曲だった。ちなみにMVは名古屋スクールオブミュージック&ダンス専門学校の生徒たちと作ったそうなので、こちらもぜひ見てもらいたい。
さらにオルタナ感満載の8thシングル『Silhouette』では、激しい照明に火を吹くようなパワフルな演奏でインパクトを与え、穏やかな夜とは違う、夜の闇の部分もしっかりと表現した。2度目のMCでは、キービジュアルの羊について言及。この日は"羊飼い"のイメージで衣装を揃えてみたと語る山森に、フロアから大阪特有のガヤが飛んでくると「出た大阪〜! これが最高なんだよなぁ(笑)」と笑顔を見せる。
「このバンドを始めて新鮮な驚きがたくさんあった」と語る山森。そのうち1つは畠山の表現方法。山森と畠山は18歳からの付き合いで、「(畠山は)昔から独自の世界観があって、好きなものを表現する方法はトロンボーンと鍵盤しか知らなかったけど、このバンドを始めてから"AIの魔術師"だったことに気づきました」と、新たな才能を開花させたと語る。実は、5本足の羊と少年が満月をバックに佇むキービジュアルを作ったのは畠山。「なぜ羊なのか覚えてる?」と伊地知。最初はバンド名が決まらず、LINEグループの名前を"命名前夜"にしていたところ、"命名"から"メーメー"になり、"羊"が浮かんできたという。畠山は「潔くんが羊って言ったからヒントになった。"夜"というコンセプトで、AI生成イラストで羊と少年を作って。このバンドに合うんじゃないかと思った。バンド名より先にビジュアルができたかもしれないね」とキービジュアルの由来を明かす。
「最初は名前を伏せて活動しようと思ってて、SNSで音源をアップしては"誰も聴いてくれない"みたいな(畠山)」「ドキドキして(音源を)アップするんだけど、本当に誰も聴いてくれない(伊地知)」「5再生とか。多分それメンバーだよね(笑)(MIYA)」「その時にキービジュアルがあった方がいいなと思って作ったのが、あのビジュアル(畠山)」と、しみじみ活動当初を振り返る。
なおも昔話に花は咲き、山森は最年少で大阪府松原市出身のMIYAを誘った時のことを思い返す。「僕がこのバンドで1番貢献したのは、MIYAくんを入れたこと。MIYAくんを誘ったメッセージの出だしが、"お久しぶりです。春めいてきましたね"だった」と、懐かしそうに笑い合った。こうした全ての出来事が、今の彼らに繋がっているのだ。山森は「僕らにとっては、今日がはじまりのつもり。今までがエピソード0、今日からがエピソード1。皆の夜を僕らの音楽で彩りたい。その先に感じてほしいものがあります。夜風が気持ち良いこと、見上げた月が美しいこと。実は仲間がたくさんいるってこと、この世は素晴らしいアートで溢れているってこと。そして何より、必ず皆がここにいること。あたためて共鳴しあえること」と感情を込めて語りかけた。
ライブ後半はよりパワフルに躍動し、4人の力がひとつになり、フロアをぐんぐん巻き込んで空気を動かしていった。思わずガッツボーズが飛び出すほどの盛り上がりで本編を締め括ると、最後のMCで一言ずつ挨拶する。畠山は「いつもライブ緊張しないんだけど、今日はすごい緊張してた。でも皆と会えた瞬間に緊張が解けました。おじさんなんだけど楽しいことやろうと思うので、これからもよろしくお願いします」とお茶目に両手でピース。大阪出身のMIYAは「僕もJANUSで何回もやらせてもらってて、すごく素敵な思い出がいっぱいあるんですけど、今日も皆さんが来ていただいたおかげで、素敵な思い出がもうひとつ増えました!」とキラキラの笑顔を見せる。
伊地知は「心の長男、伊地知潔でぇす! ......こんなのねえ、アジカンでやったらぶっ叩かれるよ(笑)」と笑わせ、「今日は皆に応援されてるなと思って。SNSで最初に曲を投稿した時、僕は何かが起こると思って、手汗をかきながらスマホをいじってたんですけど、本当に何も起こらなくて。"こういうことなんだな"というところから始まったので、今もだけど、すごく新人の気持ちでやってます。初々しい気持ちで、とても初心を思い返している。楽しいです」とニコリと笑う。伊地知の言葉には、他のメンバーも「うんうん」と共感して頷いていた。
山森は「今日明け方前、真っ暗なうちに車で家を出て、潔くんちに寄って潔くんを乗っけて、海沿いの134号線を西に向かって走ってきました。僕らの旅は1年前に始まって、SNSの世界でマジックが起こるかなと思った時もあった。旅の中でマジックが起こることも絶対あると思うし、起こそうと思ってるけど、1年旅をしてみて1番感じるのは、ライブの現場で目と目を見て、同じ空気を共有して震わせて、皆で歌って繋がった瞬間かなと思ってます。ずっとやりたかったことができて幸せです。これからもよろしくお願いします」と想いを伝えた。
次なる彼らの一歩を感じられたアンコールを経て、ステージ前方に出てきた4人は、手を繋いで深々とお辞儀する。その充実した表情と多幸感溢れる空気感で、初のワンマンライブが本当に良いものだったことが伝わってくる。名残惜しそうにステージを去る4人を見送るオーディエンスからは「ありがとう〜!」という歓声と、あたたかな賞賛の拍手が贈られた。
こうしてName the Nightの初ワンマンライブは大団円で終了した。バンドの道のりや背景、想いも明かされた、言うなればバンドとしてのアイデンティティが色濃く表現されたライブだったと思う。12月15日(日)の東京公演はどんな夜になるのだろう。そして、ここから始まる彼らの物語は。これからもぴあ関西版WEBは、Name the Nightを追いかけたいと思う。
Text by ERI KUBOTA
Photo by キョートタナカ
(2024年11月26日更新)
2024年12月16日(月)発売
Physical&Digital
SLEEPY SHEEP RECORDS
[Track List]
01. COASTLINE
02. Strange World
03. Marginal
04. No Stress
05. ボナパルト
06. Mid Day Moon
07. Infantry
08. Silhouette
09. PARADE
10. Radio La La La
11. Till Dawn
12. This Night
Name the Night(ネームザナイト)…2023年1月結成。山森大輔(Vo&Gt)、畠山拓也(Tb&Sampler)、伊地知潔(Dr)、MIYA(Ba)からなる、鎌倉を拠点に活動する4人組バンド。多彩なキャリアを持つ同世代のミュージシャン達が、「全ての夜に名前をつけていく」をコンセプトに、夜を彩るグッドミュージックを奏でるべく集結。メンバーの自宅兼プライベートスタジオである”Bedroom Studio”で、全ての楽曲制作を完結させ、デザインや映像制作などもメンバー内で行う、既存の枠にとらわれないDIYスタイルを基本とし、SNS上で、満月の夜にオリジナル楽曲をアップしている。2023年11月、麦ノ秋音楽祭2023での初ライブを機に本格始動。
【東京公演】
▼12月15日(日) 18:00
渋谷CLUB QUATTRO
スタンディング-4800円(1ドリンク代別途必要)
[出演]Name the Night
※未就学児入場不可
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