ホーム > インタビュー&レポート > 「対バンであろうとフェスであろうとワンマンであろうと歌うだけ」 Bialystocks菊池剛、Mega Shinnosuke、レトロリロンらも参加 話題の新作『中点を臨む』携え、いざツアー『詩情充つ外殻』へ! 小林私のものづくりのスタンスに迫るインタビュー&動画コメント
単純にものづくり自体はずっと好きで
――個人的に小林私に興味を持ったきっかけがあって。YouTubeのカバー動画に、世代的にもまっとうに生きてたら普通に出会って聴くようになるバンドじゃない面影ラッキーホール(Only Love Hurts)があったことで。
「面影ラッキーホールは本当にたまたま、いろいろとディグってるときに見つけて...それこそ初めて聴いたのが『今夜、巣鴨で』('98)で、多分、在日ファンクとかを聴いてたらアルゴリズムでオススメに出てきて、"超カッコいいじゃん!"ってなったのが最初ですかね。元々はJ-POPが普通に好きだったんで、いきものがかりとか歌謡曲も聴いてたんですけど、高校3年生ぐらいの頃は EDMかデスボイスじゃないと音楽じゃないと思うぐらい(笑)、SoundCloudでしか音楽を聴かない時期もありました。水泳も剣道も茶道もやめたけど、単純にものづくり自体はずっと好きで。小学生の頃、学童保育で覚えた折り紙を中学生になっても授業中にやってたんで、めっちゃ怒られてましたけど(笑)。そういう流れで音楽も惰性で続いてる感じはしますね」
――小説も子どもの頃から結構読んでいたと。
「そうですね。でも、書く方にはハマらなかったんですよね」
――それと同じで、音楽を聴くことにハマっても、作ることや演奏することにはハマらない人も多い。さらに言うと、楽器は弾きたいけど歌いたくない人もいるし、歌へのモチベーションはどこからきたのかなと思ったんですよ。例えば、カラオケで褒められた記憶があったとか。
「そういうことは全然なかったんですけど、小学生の頃の合唱の授業で、みんな立って歌ってるのに、"小林くんは一回座ろうか"と言われたことがあります、声がデカ過ぎて(笑)。だから歌がうまかったわけでもないですし。大きい声を出すのは気持ち良かったですけど」
――小学生ぐらいだと、人前で大きな声で歌うのが恥ずかしかったりもするのに。
「そこは完全に逆張りでしたね。みんなが恥ずかしがってるからこそ、デッカい方が面白い。高校の卒業式でも、クラスの何人かで逆に校歌をちゃんと歌おうとしたり。だから、ライブもいまだにギャグのつもりというか..."ただの一般人のオタクの俺が、人前に立って歌うってどういうこと?"と思いながらやってるところはありますね。ボカロPが好きな世代だったから、ライブをやらない道もあったと思うんですけど、あり得ないぐらい機械に弱くて(苦笑)。DTMを使ってるとイライラしちゃうんで、根本的に性に合ってないなって。例えば、ドラムを実際に叩いたら、鳴らそうと思った音が鳴らした瞬間に鳴るじゃないですか。DTMだと打ち込んで、それをまた巻き戻して聴く作業をしないといけない。そのラグがストレス過ぎて」
――小林私のインタビューには"ラグ"という言葉がよく出てきますが、感覚が具現化するまでのスピード感をめちゃくちゃ重視してますよね。アコースティックギターを曲作りやコードの進行役にする人はいても、ラグのなさ=瞬発力重視で選んでる人はあまりいないかもしれない。
「美大で油画を専攻したのも結局、手を動かしたときのプリミティブな喜びが面白かったからなので。音楽ももっとスマートにやれたら良かったんですけどね...」
――ちなみに歌唱法のルーツというか、その独特な歌い方をどこで見出したんですか?
「音域が爆裂に狭かったんで無理やり歌っていった結果、がなるようになっちゃって。あとはニコニコ動画の歌い手とかの影響ですかね。高校生の頃に学割で6時間500円のカラオケがあったんで、そこに一人で行って歌って、スマホのボイスメモにうまくいったなと思うテイクを録音しておくんです。家に帰って聴いて、キモかった箇所だけ直していたら練習っぽくなっちゃって。時には、"このキモさは逆にいいかも"みたいなテイクを残してみたり、セルフで取捨選択していたら、いつの間にか意味不明な歌い方になってました(笑)」
スランプ=幻想で、山と谷があるだけ
――8月16日に最新アルバム『中点を臨む』がリリースされましたが、毎回、特にコンセプトがあるわけではなく。
「そうですね。新曲ができたらすぐYouTubeとかで勝手に配信しちゃうんで、どこまでがストックなのか分からないですけど、"そろそろ次のアルバムを作りましょうか"と言われる頃には、それぐらいの曲数はできていて。スランプ=幻想で、山と谷があるだけだと思ってるんですよ。結局、何がベストの美しさなのかが見えたり見えなかったりする時期があるだけで、見えない時期を便宜上スランプと呼びつつ、見えなくなったら書かなきゃいいだけなので。ヒットを出したい人からすると死活問題ですけど」
――曲を書こうと思うのはどんな瞬間なんですか?
「それが明確にあるときとないときがあって、今日は友達と遊んじゃおう、ゲームしようみたいな気持ちでだらっと書いちゃうこともあれば、今回のアルバムで言うと『加速』(M-7)とかは、新幹線に乗ってるときに"速っ!"と思ったのを曲にしただけなんで(笑)。あとは、自然が多い東京のあきる野市で育ったのもあって原体験的に川が好きで、今まで書いた曲を眺めていたら川の話ばっかりで恥ずかしくなりましたけど」
――小林私と言えば、言葉へのこだわりが歌詞やタイトルに現れているのが特徴の一つで。
「字面として並んだときの改行とか細かい空白、表記揺れとかも超気になって...(と知人のバンドの新譜のレビューを頼まれたとき、誤字脱字を執拗に添削した話に)」
――僕らのようなライター/編集の仕事、結構向いてますよ(笑)。前作『象形に裁つ』('23)を作り終えたとき、次は全曲別のアレンジャーでやりたい、友達と楽曲制作したい、みたいに言ってましたが、今作でほぼ実現しましたね。
「前作でもアレンジしてもらったSAKURAmotiさん、白神真志朗さんには頼みたいなと思っていたし、Bialystocksの菊池剛さんはアーティストとしてはもちろん好きですけど、お仕事として編曲をやっているか分からなかったので、最初は探り探りではありましたね」
――『空に標結う』(M-1)をアレンジしてくれたレトロリロンとも関係性は深いですよね。
「レトロリロンとは同期でカッコいいなと思ってたから、"あの曲、めっちゃいい!"とか勝手に僕が騒いでたんです。レトロリロンがすごいのは、メンバーそれぞれにできることがたくさんあるのに、バンドでポップスにする上で引き算ができる。そもそも『空に標結う』を作るときも、アニメの制作監督の方のリファレンスに僕とレトロリロンの曲が両方入ってたんですよ。だったらレトロリロンに編曲してもらうのが絶対にいいと思ってその体裁で書いて、断られたときのことを全く考えなかったぐらいですから(笑)。僕らしさをちゃんと残しつつレトロリロン節も入ったさじ加減は技術がないとできないことだし、アニメ自体の物語の流れもくんだ上で、エンディングテーマというのも加味してアレンジをしてくれたなと思って」
――小林私にとってアニメは欠かせないエンタメだと思うんですけど、ドラマ『最愛』('21)ほか多くの映画、アニメ作品のサントラも手掛けてきた横山克さんがアレンジした『鱗角』(M-8)も含め、2曲も人気アニメ作品のテーマソングに抜擢された経験はいかがでしたか?
「こんなことを言える立場じゃないんですけど、いちアニメ好きのプライドとして、原作が面白くなかったら断ろうと思ってたんですよ。"俺、このアニメ好きなんです"ってうそで言いたくないから。アニメオタクの一人として"『ラグナクリムゾン』はめっちゃ面白いです"と言える漫画でありアニメであったのは、本当にうれしかったですね」
根本的に音楽=暮らしにしたくない
――Mega Shinnosukeさんはアルバムの中でも異色の『私小林(produced by Mega Shinnosuke)』(M-2)を手掛けてくれています。『どうなったっていいぜ』('22)の清竜人さん同様、作詞作曲まで全て請け負う役回りですね。
「清竜人さんもそうでしたけど、投げた甲斐がある人だなと思いますね。そんなのはやる前から分かってたし、信頼を置いているアーティストではありましたけど、やっぱりアイデアマンでした」
――MVも陰キャにとってはこの世の地獄みたいなところで撮って(笑)、ちゃんとぶっ壊してくれる。それも含めてMega Shinnosukeさんのナイスプロデュースで、この曲はビートとリフレインだけで聴かせるうまさがあります。
「メガシンさんは、ちゃんとあのビジョンが見えてやってますからね(笑)。あと、僕は同じサビを繰り返す曲がほぼないんで、それも対比的に良かったなと思いました」
――そして、WEBザテレビジョンの連載『私事ですが、』で、インディーズ時代に苦楽を共にした旧友Ganbare Masashigeさんに、"二人で蒸されまくった俺の子供部屋で宅録しながらほっともっと食ってた時がなんだかんだ一番楽しかったです。また何か、何でもやりましょう"と送ったメッセージが、『冷たい酸素』(M-5)で果たせましたね。
「元々Masashigeさんは福岡でバンドをやっていて、上京するときに家賃が安いところを探した結果、僕の実家のあきる野と目と鼻の先の高尾に住んでたんです。東京にいる側からしたら上京までしてわざわざ高尾に住む意味が分からなかったんですけど(笑)、いろいろあって僕もMasashigeさんも引っ越したんで家も遠くなり、その上Masashigeさんは仕事を軌道に乗せるために忙しくてなかなか会えなくなっちゃって...。今回のアレンジをお願いするときも基本はLINEでやり取りしてたんで、いざレコーディングに臨むとき、本当に2年ぶりぐらいに会えました。この間も、Masashigeさんと久しぶりに会いたい人で集まって飲んだんですけど、話した内容は一つも言えないです(笑)」
――エモいな~(笑)、何か青春ですね。またこうやってメジャーでお仕事をお願いするぐらいだから、Masashigeさんはやっぱり実力のある方ということですよね。
「技術があるのはMasashigeさんを知る全員が分かってることで、Masashigeさんの得意分野も踏まえた上で、この曲なら面白くなるんじゃないかとお願いしました。何度かアレンジをキャッチボールしつつ作ってもらいましたね」
――『冷たい酸素』は今作の中でも好きな曲で、エレクトロなダンスチューンとの新たな親和性が伝わってきます。歌詞の終盤には"真ん中を知りたいだけ"というフレーズがあって、まさにタイトルトラックのように響く一曲です。『スパゲティ』(M-6)はBialystocksの菊池剛さんアレンジですが、その出会いが大阪・BIGCATで'22年に行われた『CONTACT!! vol.21』というライブイベントで。小林私の中でも大衆との接点になり得るフォーキーな曲ですね。
「Bialystocksが良過ぎるというその一点に助けられているところはありますけど、この曲はライブでやっていただけのときはもうちょっとパワフルで。リズムにも緩急をつけて遊んでる曲だったんですけど、それをフラットにしてBialystocksらしさを付け加えてくれたアレンジがすごくマッチしたなと思います」
――『スパゲティ』は、"遊ぶように踊るように歌うように疑って歌う"という一行が素晴らしいなと思って。"歌う"が2回来ることも含めて、どういった着想だったのかなと。ある意味、小林私のスタンスにも思えます。
「"歌う"が2回来るのが何かカッコいいですよね?(笑) 根本的に音楽=暮らしにしたくない、生活の余剰で音楽をしたいのが前提としてありつつ、結果として音楽が仕事になってしまってる不安定さは出てると思いますし、"君のために歌うよ"みたいなよくある歌は、聴いていて"なんじゃそれ"と思っちゃう。理由がどうだから歌うのは、何かちょっと違うなと思って。だから、"歌うように"の後に"疑って"と入れたのが言葉の並びとしては面白いし、僕の根本的なスタンスではあるなと。その一行前の"たかだか数センチだけの高さに立って偉ぶっても"も、ライブに対して思ってることなんで。『スパゲティ』は後半にかけてどんどん怒ってるなと思いますね。"よく言えば物語になりそうな日々を 敢えて単純に起こす意味も必要も本当はない"という歌詞も、Xを見て怒ってたんでしょうね(笑)」
タイトルが何だろうがやることはマジで一緒だから
――『秋晴れ』(M-3)や『落日』(M-4)に関しては何かエピソードはありますか?
「『線・辺・点』('23)と『HEALTHY』('23)は、Bm→G→A→F#というコード進行でちょっとリフで遊ぼうという僕の中の裏シリーズの曲で、『秋晴れ』でもそれをやろうとしたらサビが思いつかなかったから、"もうリフにしちゃえ"って(笑)。また何か変な曲になったなと思ったけど歌詞は一番好きかな。"埃や諸税を払ってない"も気持ちいいダブルミーニングだし、"ほら遠退いてく理解という名の街に向けて もっと平易な言葉で語って"っていうところが一番気に入ってますね。"その通り!"って自分でも思いました。"平易な言葉で語って"と思うなら"平易"なんて使うなよと思いながら(笑)、でもそこが俺っぽいなと思って」
――『落日』は、とりわけダウナーな歌詞をビートミュージックに乗せていて。
「『落日』は、YouTubeに公開したらコメントに"歌詞が暗過ぎるだろ"って書かれて。ちゃんと見返したら本当に暗いじゃないかと思いました(笑)」
――今作も全8曲収録ですが、音的にも言葉的にもちょうどいい重さで一気に聴けます。
「たまたま最初のアルバムを8曲にしてから、1曲でもズレるのが気に食わなくて毎回そうしてるんですけど、時代的にもちょうどいいですよね。僕の歌詞は文字量も多いし」
――ツアータイトルの『詩情充つ外殻』も意味深で。
「あんまり意味深にする気はないんですけど、大学時代に説明的な作品が良くないものとされていた価値観に身をさらしていたのもあって、説明し過ぎないのはリスナーをなめないスタンスでもあるので、いつもこういう歌詞でタイトルになっちゃう(笑)。去年やった個展のタイトルが『掬い取る振る舞い』なんですけど、全部動詞なのに一つのセンテンスになってるのがきれいで、意味も普通に分かる。ここ最近で一番いい言葉が出たと思ったけど個展で使っちゃったんで、『詩情充つ外殻』も『中点を臨む』も出がらしみたいなもんです(笑)。タイトルが何だろうがやることはマジで一緒だから。対バンであろうとフェスであろうとワンマンであろうと、歌うだけなんで」
――ライブは基本弾き語りで、それが小林私の楽曲に最も適した表現形態だと。ルーパーとかも使わないんですか?
「機械がダメなんで(笑)。しかも目をつぶらないと歌えない。歌詞が飛んじゃうので」
――じゃあ無骨に弾き語って各所を回ると。ツアー、楽しみにしてます!
Text by 奥"ボウイ"昌史
ライター奥"ボウイ"昌史さんからのオススメ!
「いや~久々にクセ者が現れました(笑)。インタビューしていると、100聞けば100自らの音楽を雄弁に語れる人、99のラリーを経て絞り出した一言が人の心を打つ人、いろいろいるんですが、小林私は間違いなく後者のタイプで。しかも思い悩んでのそれじゃなくて、確信犯的にはぐらかしけむに巻く、典型的なあまのじゃく×のれんに腕押しスタイル(笑)。人見知りなくせに人懐っこく、思わせぶりなくせに応えない。外殻をたどってなかなか中に入れないからこそ、ふいに近づき近づかれたときにパズルがハマってシビれるあの感じは、彼の音楽とまるで同じで。もうその時点で小林私の魅力に引き込まれていると言えるかもしれません。ここには載せなかった地元の話、川の話、友達の話、業界の話、内見の話、フラットアースの話、プロモーションにならない話etc...いろいろしましたけど、逆張りが人生の指針とも感じる生き方に、逆に縛られない姿も見てみたい。とにもかくにも興味深く、行く末が楽しみな才気溢れる音楽家にまた一人出会えました」
(2024年9月 4日更新)
Album
『中点を臨む』
発売中 3300円
キングレコード/HEROIC LINE
NKCD-10510
<収録曲>
01. 空に標結う
02. 私小林(produced by Mega Shinnosuke)
03. 秋晴れ
04. 落日
05. 冷たい酸素
06. スパゲティ
07. 加速
08. 鱗角
こばやし・わたし…’99年1月18日、東京都あきる野市生まれのシンガーソングライター。多摩美術大学在学時に音楽活動を本格的に開始。自身のYouTubeチャンネルでオリジナル曲やカバー曲を配信し注目を集め、チャンネル登録者数は16万人を超える。’23年6月にメジャー第1弾となる3rdアルバム『象形に裁つ』をリリース。’24年8月16にはアニメタイアップ曲を含む4thアルバム『中点を臨む』を発表した。音楽活動においてはアコースティックギターの弾き語りをメインスタイルとし、アレンジ以外のほぼ全てを一人で完結させる。文学的な要素が盛り込まれた内省的で叙情性溢れる歌詞、時代ジャンル問わず影響を受けたサウンドを取り込んだ実験的なメロディを放つ。現在は音楽のみならず、WEBザテレビジョンやクイック・ジャパンでのコラム連載などの執筆活動や、美術大学卒の経歴を生かした描画など多彩な活躍を見せる。
小林私 オフィシャルサイト
https://kobayashiwatashi.com/
チケット発売中
※販売期間中はインターネット販売のみ。
▼9月7日(土)18:00
味園 ユニバース
全自由4800円
キョードーインフォメーション■0570(200)888
※3歳以下入場不可、4歳以上有料。座席によっては、演出及び出演者の一部が見えずらい場合がございます。お荷物での席場所取りはご遠慮ください。再入場不可。
【宮城公演】
▼9月14日(土)誰も知らない劇場
【東京公演】
▼9月28日(土)ヒューリックホール東京