ホーム > インタビュー&レポート > 創作意欲の底から、形づくられるもの アルバム『象形に裁つ』でメジャーデビュー 小林私インタビュー
本格活動開始から約3年、インディーズからメジャーへ。制作への想い
――メジャーレーベルに入られたということで、今のお気持ちはどんな感じですか。
「そうですね、まあ落ち着いて活動できればなという気持ちですね」
――気持ち的には落ち着いてきた感じがありますか。
「いや、忙しいです(笑)。アルバムのリリースがあるんで。暇になったとかは全然ないんで、そういう意味では落ち着いてないですけど(笑)」
――コラムを拝見したのですが、最初のレーベルでは大変だったけど制作は楽しかったというお話をされていて。
「そこは友達バイブスでやってた感じだったんで。それこそ当時アレンジメントやミックス周りをやってくれてた、がんばれまさしげさんとは未だにLINEとかします」
――そうなんですね!
「"パチンコで勝ったよ"みたいな、ロクでもないLINEがきます(笑)」
――日常的なやり取りを。
「そうですね。"引っ越したよー"みたいな報告もきたので、あっちも元気でやってる感じですね」
――もちろん生活のために金銭面は大切ですが、小林さんの中では制作の重要度が高いのかなと思ったりしました。
「お金はあるにこしたことはないですけど、なさすぎると何もできない。多少あれば良い。プラス、制作には時間が必要なので。制作に向けた時間がちゃんと取れればという想いはずっとありますね」
――インディーズ時代から幅広いお仕事をされてきたと思いますが、これまでの経験を今改めてどのように振り返りますか。
「活動を始めた最初の1~2年は、来た仕事はとりあえずスケジュールが被ってなければ全部受けるぞみたいなテンションでやってたんですけど、色々やってみて、ここ1年くらいでようやく断り力がついたというか、ちゃんと精査しつつできるようにはなってきたかなと思います」
――やりたいお仕事を選んでやれている感覚ですか?
「そうですね。結果忙しくはなってますけど」
全8曲を4名のアレンジャーが編曲
――小林さんの楽曲は内省的な歌詞が多いと思いますが、今作では特に『目下Ⅱ』(M-7)はご自身のことを表していたりするのかなと。
「『目下Ⅱ』は本当に、お金がなさすぎて書いた曲ですね(笑)」
――<肺潰して登る坂を正しいなんて思えなくないなんて>という一節がありますが、これは少しはそう思えているということですか。
「何でそんな歌詞を書いたんでしょうね。あまり覚えてないんですけど」
――小林さんの歌詞には、停滞の中でも希望を失わないところが一貫してありますよね。歌詞は一気に書き上げるんですか。
「割と。時間がかかる時もありますけど、基本はその日に書ければいいなぐらいの勢いで書くことが多いです。あとは翌日とかに見直してみて、ちょっと微調整したりしますね」
――書いた時のことを覚えている曲と覚えてない曲があるとおっしゃっているのをインタビューで拝見しました。『目下Ⅱ』は覚えていないタイプの曲ですか。
「全然覚えてないです。いつ書いたっけな」
――『目下』は2021年頃にYouTubeに上がっていましたが、『目下Ⅱ』はその半年後ぐらいでしょうか。
「『目下』で書いたことをより狭くして書いた感じですね」
――今回はSAKURAmotiさん、白神真志朗さん、シンリズムさん、トオミヨウさんの4名のアレンジャーさんを入れておられますが、どのように選出されたんですか。
「ディレクターさんから"こういう人どう?"と提案されました。それで"白神さんってシンガーソングライターのイメージがあったけど、アレンジ頼めるんだ"とお願いして。SAKURAmotiさんは僕から候補として出してお願いした感じでしたね」
――1stアルバムはほぼアレンジをお任せで、2ndアルバムでは少し意見も出されたそうですが、今作に関してはいかがでしたか。
「そんなにスタンスは変わらずです。基本お任せしつつ、解釈とズレすぎてるところは修正したり、逆にそのまま残したり。前作もね、清竜人さんの『どうなったっていいぜ(清竜人が作詞・作曲・編曲・MV監督を担当)』とかは特にそうですけど、お任せしたい派なんですよね」
――やはりアレンジャーさんによって、曲の雰囲気が変わりますね。
「白神さんはギターの音をだいぶ残してくれたり、SAKURAmotiさんはボーカロイド文脈でやってくれたりして」
――特に気に入っているアレンジはありますか?
「そう言うと角が立つんで(笑)。それこそ4名いらっしゃるんで、全員好みの音色の感じも違う。"この人に頼んだ方がより良くなるんじゃないかな"というのは念頭に置いて依頼させていただいたので、それはもうお願いして良かったですね」
――元々この8曲で決めてらっしゃったんですか。
「そうです。曲目は8曲決めてからお願いしました」
――アルバム1枚としての最終的なバランスはどのように整えられたんですか。
「前作も前々作も8曲だったので、8曲ぐらいでいいだろうと思って。サブスクも出るし、アルバム単位よりは1曲単位で聞く世代の方が割とうちのリスナーは多いので、そんなにてんこもりにしなくてもいいのかなというのもあったりします」
自分の中で流行っている概念やテーマを、ログとして書いておく
――資料では今作について、"僕の楽曲のなかで特に裁ってるな〜と思ったものを入れました。ではそれは健康を患っておらず、光を投げていないかというと、そういうわけでもありません"とコメントを書いておられます。前作から地続きになっているものがあるのかなと感じました。
「アルバムタイトルも別に絶対につけたいものではないので、"まとめて包括するんだったら、まあこうかな"ぐらいの気持ちで書きました。だから"1・2・3"とかでもいいっちゃいいんですけど(笑)」
――なるほど。そんな中でもタイトルが『象形に裁つ』になった経緯は?
「『可塑』(M-2)を書いてた時ぐらいにハマってた概念なんです。ワンマンのタイトルとかもそうですけど」
――「分割・裁断・隔別する所作」ですね。
「"そうだな、分割だよな"とか思いながら(笑)。この時期はそれが僕の中の流行りのテーマでしたね」
――流行りのテーマ。
「分割とか裁断とかすくい取るとか、そういう系ですね。前作『光を投げていた』の時はもうずっと光のことを考えてたんで。前々作『健康を患う』の時もずっと健康のことを考えていて。その時の僕の中で来てる概念やテーマを、そのままログとして書いておくという気持ちですね」
――では、『可塑』が今作の軸となる楽曲ですか?
「軸ってほどではないですけど。『可塑』がこの中で1番新しい曲なので、アルバムのタイトルを考えるタイミングら辺で、ちょうど僕の中でキテたんでしょう(笑)」
――リード曲にもなってますもんね。
「そうですね。リード曲って、僕よくわかってないんですけど」
――おすすめの曲やアルバムを象徴する曲、1番聞いてほしい曲、でしょうか。
「聞いてほしい曲は別にないんですけど(笑)。最初がアルバムの曲じゃなくたって、出会ってくれた時に好きな曲を聞いてくれたら、別に何の曲でもいいので。......リード曲って何なんですかね。一生意味わかんない(笑)。前作の時も前々作の時も、"リード曲って何だろう"と思ってました(笑)」
スウィング調の曲は自分の身体に合っている
――歌詞についてもお聞きしたいのですが、歌ネットのコラムで3週連続で解説をされると思うので、せっかくなのでそれ以外の曲をお聞きしようかと。
「ちょうど第2弾を書き終わりました。ちょっと頑張りすぎて。他の人の3週分くらいを1週で書いちゃって」
――第1弾も大ボリュームでしたね。
「無理矢理ひねり出してるっちゃひねり出してます。後から見返して自分で再解釈して。"敢えて文章にするなら"ぐらいで書いてるので、聞かれないと言えないかもしれない(笑)。あれもアンケートを取って書いたので。何かあります?」
――私『四角』(M-4)が好きなんです。<何を捨てて入れて決めていいか分からなくなっていく>で、"ああっ"となりました。
「第2弾って『四角』でしたっけ」
スタッフ「『四角』です」
――くう! 『繁茂』(M-5)はどうですか。
「『繁茂』は書く予定はないですね」
――『繁茂』には<患ってみて>という単語も入っていて、1stアルバムからの繋がりを感じました。
「確かに同じ言葉ではありますね。何も考えてなかったですね」
――この曲に関してはどのように書かれたんですか。
「全然覚えてないな。"繁茂って単語良いよな"ぐらいからスタートして。あまり声を張らない曲を書きたいなと。"ちょっとギターリフで細かいことしちゃうか"という入りは覚えてるんですけど、そこからどうやって進めて書いたのかあまり覚えてない(笑)」
――『山月記』の李徴子の話も入ってますね。
「オタクは『山月記』好きがちなんで(笑)。意味としての言葉としてもハマりそうだなと思って入れてみた感じでしたね」
――<例えば返信するだとか、レトルトのパウチをレンチンするだとか〜>という、Bメロのライミングも気持ち良くて。
「Miliというバンドが『RTRT』と書いて"レトルト"と読む曲を出してて、"レトルト"っていいよなとはずっと思っていたので。『RTRT』も変な曲ですけど、1500万再生もされてるってすごいな(2023年7月現在では1600万再生)」
――中毒性が強い曲ですね。『四角』も『繁茂』も部屋の中で書かれている曲だなという感覚がすごくあります。<楽園以上で地獄以下の部屋>という表現は印象的で。
「変な歌詞ですよね(笑)。手グセでナンセンスなこと言いがちなんです(笑)」
――何度も聞きたくなる魅力があります。
「シンリズムさんがカッコ良いトラック調に作ってくれて、聞きやすい曲になったかなと思いましたね」
――歌ってて気持ち良い曲はありますか。
「スウィング調の方が基本は歌ってて楽しい、というか好きですね。自分の身体に合ってる感じはします。今作のアルバムでいうと『biscuit』(M-6)と『可塑』ですね」
――アレンジャーさんにお任せして、結果スウィングになった?
「元々スウィングの曲ではあるんです。僕がエレクトロスウィングが好きなので、アレンジ上でエレクトロスウィングっぽくしてくださいとお願いはしました。アコギのスウィングって意味わかんないですから。こんなことやってる人はあんまいない。皆やってほしいですけどね」
――どちらも身体性のあるカッコ良い楽曲ですね。転調する展開も痺れます。
「スウィング調の曲は結構今までも書いてきて、前作だと『光を投げれば』とか『日暮れは窓辺に』もそうです。そうだ、前作は3曲ぐらいスウィングだった。本当はスウィングばかりにしたいんですけど、アコギ1本でスウィングばかりだと、多分誰も区別がつかなくなっちゃうので。"もういい加減スウィング書きたいなー"みたいな、我慢ならない時に書きますね」
大阪のライブはガチワンマンなので、やりたい放題で。
――今作のジャケットはパンですか、スコーンですか。
「パンです」
――手作りの。
「はい」
――なぜパンなのでしょうか。
「パンがジャケットになってたら面白いかと思って(笑)。"僕が焼きますよ"って言わなきゃ良かった。あれよあれよという間に僕が焼くことになり。めちゃくちゃ面倒くさかったです(笑)」
――焼くのは初めてですか?
「中学の時家庭科部だったので、焼いたことは全然あったんですけど、当時も面倒くさかったから、この年になってもちゃんと面倒くさい。"何だよ発酵って。このまま40分間かあ"と思いながら焼きました(笑)」
――「象形」「裁つ」「可塑」という単語から想起して、形を作れるという意味合いもありますか。
「そうですね。ジャケットになってるのは第1弾で焼いたもので、形ぐっちゃぐちゃになっちゃって。第2弾以降、もっと綺麗に焼き上げたものもあったんですけど、ジャケットにするならこっちの方が味があっていい感じよねということで、最終そっちが残った感じでしたね」
――良いキツネ色です。
「味は全然美味しくないんですけど。味を気にせずに作ったとはいえ、こんな美味しくないのかと思って(笑)」
――形をメインで。
「形だけです。見せパンでした」
――先行シングル『杮落し』とアルバムのジャケットでは、少し回転してるんですね。
「そうです。同じパンで向きが違うのも、違うパンもあります。シングル(『花も咲かない束の間に』)は違うパンで、背景を変えてもらったり」
――今作は小林さんの中で、どんな1枚になったなと感じられますか。
「多分アレンジャーさんの数だと最多なのかな。今まで多分MAX3人とかだった。次は8曲8人でやりたいですね」
――おお、良いですね。
「全部誰かしらの曲で、"なんちゃらarrange by〇〇"の表記にできたら1番いいですね。友達に頼みたいです。ユアネスの翔平さん(古閑/Gt.)がやりたいと言ってくれてるらしいとボーカルの黒川(侑司)さんから聞いたので、絶対タダでやってもらおう(笑)」
――次の展望というか、作りたいものが見えているんですか。
「いや、全く見えてないですね。まあ本当に友達周りでがっちり固めたアルバムが出せたら1番いいかな。例えばボーカルを別の友達に歌ってもらうのも面白そうだなって。皆忙しいだろうという気持ちはありますけど、友達と楽曲制作をやりたいですね。頼めたらいいな」
――ファンの方も喜びそうですね。
「うちのリスナー、配信で向こうのファン層の違うノリが急にワッてくると、引くという」
――(笑)。
「まともな敬語のコメントが来るとビックリします。こちらはタメ口でやってるから。"すいません、どうも"と思っちゃうんですよね(笑)」
――そこからまた小林さんの名前も曲も存在も広がっていくでしょうし。
「うん。何とか友達の知名度を借りて、楽して知名度上げたいですね!(笑)」
――7月15日(土)にはGORILLA HALL OSAKAでワンマンライブ『分割・裁断・隔別する所作』がありますが、今のところどんな感じになりそうですか。
「まだ何にも決めてないです(笑)。東京公演(8月5日(土)、27日(日) @I'M A SHOW)は2本ともゲストを呼ぶんですけど、大阪はもうガチワンマンなので、本当にやりたい放題で。何とかその日までにすごい吠える犬とかを飼っていければ楽しくなりそうですけど(笑)」
――GORILLA HALL OSAKAはできたばかりのハコで、音響が良くて見やすいんですよ。
「へえ。ガチゴリラを借りてきて、後ろに檻を置いて、その中でゴリラがガチで暴れてる前でライブできたら面白いですね。命の危機を感じてやりたいです(笑)」
――それ、めっちゃライブレポートしたいですね。
「歓声が上がったと思ったらめちゃくちゃ悲鳴で、後ろ向いたらもう人が食われて、ボコボコにされてたら面白いですね(笑)」
Text by ERI KUBOTA
(2023年7月13日更新)
『象形に裁つ』
発売中 3300円(税込)
KICS-4108
《収録曲》
01. 杮落し
02. 可塑
03. 線・辺・点
04. 四角
05. 繁茂
06. biscuit
07. 目下Ⅱ
08. 花も咲かない束の間に
1999年1月18日生まれ、東京都あきる野市出身のシンガー・ソングライター。多摩美術大学在学時に本格的に音楽活動を始め、自室での弾き語り動画をきっかけに注目を集める。YouTubeでのユニークな雑談配信も相まって人気を博し、現在チャンネル登録者は15万人を超える。2023年、キングレコードのHEROIC LINEから、メジャー第1弾となる3rdアルバムのリリースが決定。音楽のみならず、執筆・描画など多彩な才能を生かして活躍の場を広げている。6月28日に3rd ALBUM「象形に裁つ」をリリース。7月15日(土)にはGORILLA HALL OSAKAで、8月5日(土)と8月27日(日)には東京・I’M A SHOWで「東阪ワンマンライブ『分割・裁断・隔別する所作』」が行われる。大阪公演はワンマン、東京公演のゲストは5日が歴史は踊る、27日がレトロリロン。
小林私 オフィシャルサイト
https://kobayashiwatashi.com/
チケット発売中 Pコード:243-289
▼7月15日(土) 18:00
GORILLA HALL OSAKA
全席指定-4500円(ドリンク代別途要)
[ゲスト]歴史は踊る/レトロリロン
※小学生以上有料、小学生未満膝上鑑賞無料。但し、座席が必要な場合は有料。
※発売初日は昼12:00より販売。販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888
【東京公演】
チケット発売中 Pコード:243-338
▼8月5日(土) 18:00
I’M A SHOW
全席指定-4500円
[ゲスト]歴史は踊る
※新型コロナウイルス感染症の状況により、主催者が中止および延期の判断をした場合を除き、お客様個人のご事情やガイドラインの詳細変更を理由とした払い戻しは行いません。
※小学生以上はチケット必要。小学生未満は膝上鑑賞無料。但し、小学生未満でも席が必要な場合はチケット必要。ドリンク代別途必要。国及び大阪府の要請により会場の営業時間に変更があった場合、開場・開演時間が変更になる可能性がございます。体調不良などの事情により、やむを得ず出演者の一部が急遽変更になる場合があります。出演者の変更を理由としたチケットの払い戻しは行いません。今後の感染状況によっては公演を延期・中止とさせて頂く可能性もございます。
※発売初日は、12:00より発売。チケットは1人4枚まで。
※チケットは1人4枚まで。
▼8月27日(日) 18:00
I’M A SHOW
全席指定-4500円
[ゲスト]レトロリロン
※新型コロナウイルス感染症の状況により、主催者が中止および延期の判断をした場合を除き、お客様個人のご事情やガイドラインの詳細変更を理由とした払い戻しは行いません。
※小学生以上はチケット必要。小学生未満は膝上鑑賞無料。但し、小学生未満でも席が必要な場合はチケット必要。ドリンク代別途必要。国及び大阪府の要請により会場の営業時間に変更があった場合、開場・開演時間が変更になる可能性がございます。体調不良などの事情により、やむを得ず出演者の一部が急遽変更になる場合があります。出演者の変更を理由としたチケットの払い戻しは行いません。今後の感染状況によっては公演を延期・中止とさせて頂く可能性もございます。
[問]サンライズプロモーション東京
■0570-00-3337