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HOLIDAY! RECORDS10周年記念連載
「そっちはどうだい、うまくやってるかい」第1回
インディーで積み上げたからこそ今がある
HOLIDAY! RECORDSが語る周年イベント十年史

HOLIDAY! RECORDSが今年で10周年を迎える。同ショップは通販サイトとライブハウスでの出張販売という形で国内のさまざまなインディーズアーティストの音源を販売、さらにライブイベントの企画なども行っている。X(旧Twitter)フォロワー7万人を超え、関西を拠点としながらも関西インディー好きのみならず、全国の音楽ファンから愛される存在である。11月2日(土)には味園ユニバースで10周年を記念したイベント『HOLIDAY! vol.6』を開催。そこで今回は11月までの約半年間にわたり、HOLIDAY! RECORDSが歩んできた10年間の足跡をインタビュー / 対談などで紐解きたいと思う。第1回は HOLIDAY! RECORDSの中の人である植野秀章さんに過去に行ったイベントについて語ってもらった。10年間インディーシーンというフィールドを歩み続けてきた植野さんの声を、是非受け取っていただきたい。

インディーがHOLIDAY! RECORDSの原点


まずはHOLIDAY! RECORDSの10年を振り返るうえで、最初に語るべきイベントは『Golden Time』であろう。同イベントは心斎橋にあるライブハウス・火影のブッキングを担当し、当時『YELLOWKNIFE』というイベントを行っていた奈緒さんとの共同企画である。もともとバンド時代から交流があったことから始まったこのイベントは2015年、2016年で合わせて7回行われ、過去にはナードマグネット、Easycome、Bacon、バレーボウイズといったアーティストが出演した。植野さんに『Golden Time』がスタートした背景について語ってもらった。

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HOLIDAY! RECORDS 植野秀章さん

「当時、京都のCLUB METROでやっていた『感染ライブ』(※1)や、東京でI HATE SMOKE RECORDSのOSAWA17さんとイベンターのHiROさんがやっていた『DANCE MY DUNCE』(※2)みたいなことを〈火影〉でやりたいなと話した記憶があります。どちらのイベントも面白いインディーバンドが多く出演していたが、大阪ではそういうバンドが観られるイベントや場所が少なかった。それこそライブスペース 地下一階、NOON + CAFEとかくらいだったと思う。

加えて奈緒さんは僕があまり知らないバンドをブッキングしてくれるので、それを見たかったというのもあります。例えば『Golden Time』の第1回だとナードマグネット、she side(現在ボーカルのSAGOはSAGOSAIDとして活動)、KUNG-FU GIRLなどはそのころからHOLIDAY! RECORDSで取り扱っていましたが、奈緒さんが呼んだTHE YANGや宮武BONESは関りはなかったですからね」

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ここでいうインディーバンドとはインディーポップに根ざしたバンドのことである。以前のインタビューで「パンクシーンを通ってきた僕にとって、2014年ごろに出会ったインディポップの要素を含んだバンドの音楽はすごく新鮮だった(※3)」と語っており、そのころからさまざまなバンドに興味があった植野さん。だが2014年ごろから関西のライブシーンを見続けている筆者からしても、当時は今よりも界隈というのがはっきりと分かれており、大阪だと『MAP』や『NEIGHBORHOOD』といった良質なインディーバンドが出演するイベントはあったが、定期的に観られる機会というのは少なかった。

自分の興味のあるインディーバンドと自分の知らないバンドを観たいという思いでスタートした『Golden Time』。過去7回の中で印象に残った出来事などを植野さんに聞いてみた。

「印象に残っているバンドだと最終回に登場してきたEunaly-ゆうなり-かな。ディストロをやる前から良く知っているバンドで、この『Golden Time』というタイトルもEunaly-ゆうなり-の曲から取ったもので。最終回に呼べてよかったと思いました。

あとバレーボウイズ。もともとシンガーソングライターのてらさんのイベントで初めて見て。まだバンドができてすぐくらいだったのですが、『往年の名曲のカバーをやっているのか⁉』と思うくらい楽曲が良くて。それでこのイベントに呼んだのですが、共演者だったBaconのボーカル・こうどさんがバレーボウイズをむちゃくちゃ気に入ってくれて。僕に『あのバンドはフジロックに出た方がいいで。どうにかならんのか』と言われて(笑)。『僕にそんな権限はないです(笑)』とその時は言いましたが、その翌年の2017年に本当にフジロックへ出演したのには驚きましたね」



イベント・ライブサーキットで得たバンドたちとの絆

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『Golden Time』が2016年に最終回を迎え、2017年より周年イベント『HOLIDAY!』を開催した植野さん。現在では周年イベントは11月~12月ごろに行われるが、この時は7月に開催。出演者の中でも特に目を引くべき存在はSUNNY CAR WASHであろう。2021年に解散したものの、いまだに多くの音楽ファンをとりこにしてきている同バンド。その出会いは衝撃的なものであった。

「もともと彼らと出会ったのはBalloon at dawnのレコ発で群馬に行った時でした。『DANCE MY DUNCE』をやっていたI HATE SMOKE RECORDSが彼らを取り扱っていて、以前から音源はチェックをしていたのですが、ライブがものすごくて。アダムが頭のねじがぶっ飛んでいて、初めてGreen Dayのビリー・ジョーとか甲本ヒロトを観た時のような感じで。もともとパンクが好きだから、そこで完全にハマりましたね。アダムはDJタイムとかでもはしゃいでいて、イベントが始まる前はジーパンの長ズボンだったのに、打ち上げの時には袖が破れて半ズボンになっていて(笑)。すごく面白い人だなと思いました」

翌年『HOLIDAY! vol.2』をSOCORE FACTORYで開催。ベランダ、バレーボウイズ、Easycomeなど関西の音楽シーンを沸かせていたバンドから、キイチビール&ザ・ホーリーティッツ、錯乱前戦といった話題となっていた関東のバンドまでも集結。まさに充実のラインアップとなった。またシークレットゲストとして、TENDOUJIが出演し会場を沸かせた。

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そして2019年に周年イベントとしてライブサーキットイベント『AFTER SKOOL』を開催。Live House Pangeaと心斎橋 CLAPPERの2会場で、時速36km、Laura day romance、スーパーノア、ベランダ、Easycome、浪漫革命など総勢16組が熱いパフォーマンスを繰り広げた。当時、サーキットイベントを開催しようとした理由についてこう語った。

「そのころMISOJI CALLING(※4)というイベントに関わっていた西尾さん(※5)という僕と同い年のおじさんに『サーキットイベントをやってみたら?』と説得されて。あと東京で2017年、2018年に『Mixtape』というサーキットイベントをやっていて、『大阪でやってください』という声も大きかったので」

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当初は年単位で会場を増やしていこうと計画しており、次年度の2020年はLive House Pangea、心斎橋 CLAPPER、Live House ANIMAの3会場でイベントをする予定だった。しかし新型コロナウイルス感染症の感染拡大により同イベントは中止することとなった。だがその代わりに『AFTER SKOOL EXTRA』というイベントをLive House ANIMAで開催。キャパ350名のライブハウスに限定60名だけ観客を入れ、Live House Pangeaの公式YouTubeチャンネルで同時配信を実施した。

「イベントって半年前からブッキングなどの準備をしていて。正直、コロナで『AFTER SKOOL 2020』がなくなったときはめちゃくちゃ落ち込みました。『AFTER SKOOL EXTRA』も、できるかどうかわからなかったし、手探りの状態だった。ただこのイベントを契機に出演した関西のバンドとは心の距離感がすごく縮まったと思います。インスタライブを一緒にやったり、愛はズボーンのGIMAちゃん(GIMA☆KENTA)がやっているイベントスペース・ORANGE PARKでライブをやったりしました」

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関西のバンドとの交流を深めた2020年の『AFTER SCHOOL EXTRA』。この年に初めて出演したバンドが愛はズボーンであった。大阪・心斎橋のアメリカ村を拠点に長らく活動し、毎年秋には『アメ村天国』というサーキットイベントを開催する同バンド。HOLIDAY! RECORDSとは旧知の仲であると感じていたが、意外にも植野さんが心を開いたのはつい最近であったと語る。

「もちろんHOLIDAY! RECORDSを始めてから愛はズボーンは知っていましたが、もうすでに人気バンドという印象で、最初はインディーを取り上げるHOLIDAY! RECORDSで彼らを扱うのは違うのかなと思っていた。ただ2019年ごろの『アメ村天国』の打ち上げで、GIMAちゃん(GIMA☆KENTA)が『HOLIDAY! RECORDSがいなかったら、今の大阪のバンドシーンは全然違ったものになっていた』と言ってくれて、そこから心を開きました。以降、さっきも言っていたORANGE PARKでライブをやったりして、交流が深まりました」



自分の「観たい!」と旬を合わせた『HOLIDAY!』

そして10年目だからこそのメンツ

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2021年は再びライブハウスイベント『HOLIDAY!』をスタート。この年は〈Live House ANIMA〉で愛はズボーン、 Easycome、アフターアワーズ、といった関西のバンドだけでなく、福岡を拠点に活動するフォーキーロックバンド、ハチマライザーが出演。そしてこの年を象徴したのが、キイチビール&ザ・ホーリーティッツの大阪ラストライブであった。実は植野さんは同バンドが解散することを知る前にブッキングをしたため「解散を知り驚いた」と語った。筆者もこの日のライブを観ていたが、ボーカルのKDが曲中で涙ぐむ場面も見られ、「本当に終わってしまうんだな」ということを実感させられるライブであった。

2022年はEasycome、シュウタネギと愉快なクルー、Subway Daydream、Superfriends 、downtといったバンドが出演し、イベントを盛り上げた。またこの年には台湾のギターポップバンド DSPSも出演。HOLIDAY! RECORDSと同バンドの出会いは2018年に行われた京都でのライブであった。

「livehouse nanoで行われたHomecomingsとの2マンライブでDSPSを観たのですが、演奏もさることながら日本語でMCをやっていて。丁寧に日本のお客さんと向き合っていると思って感動しました。ライブ後にメンバーと会って話をして、確かTシャツをあげたかと思います。その後、2019年に台湾にNewdumsのレコ発ツアーで出店した際にDSPSと再会して、交流が深まったという感じです。2022年はSuperfriends、Easycome、DSPSという3組を観たくて、レーベルの方にお願いしたら『このあたりでツアーを組みます』と言ってくれて実現しました」

2023年は「EasycomeとLaura day romanceの対バンを観たい」ということからLaura day romance、Easycome、Sundae May Club、AIRCRAFTの4バンドでの対バンを実施。常に自分が「観たい!」と思うバンドと、その時の旬を合わせて出演者を選んできたHOLIDAY! RECORDS。そして今年、10周年を迎えて、味園ユニバースで開催される『HOLIDAY! vol.6』。その第一弾発表ではナードマグネット、TENDOUJI、Sundae May Clubの出演がアナウンスされた。それぞれの出演者をオファーした理由について伺った。

「10周年イベントということで、これまでの10年で関わってきたいろんな時代のバンドを呼びたくて。その中でもSundae May Clubは最近のホリデーを盛り上げてくれている若いバンドとして、呼びたかった。

ナードマグネットは『Golden Time』の第1回にも出演してくれたし、ボーカルの須田くんは僕がバンドをやってた時からの仲なのですが、なかなか予定が合わず今回が周年イベント初出演になりましたね。」

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「TENDOUJIは彼らも僕も活動が10周年で。だけど今でも、距離感が全く変わらずHOLIDAY! RECORDS用で特典をつけたりしてくれる。あと彼らって社会人を経て、28歳くらいでバンドを始めたんです。以前、インタビューで『これで食っていきたい』みたいな話を読んで、僕も30代になってからバンドを辞めてHOLIDAY! RECORDSを始めたんで共感しました。それで当時メールのやり取りをしていたベースのヨッシー(ヨシダタカマサ)に『インタビューを読んでめっちゃ感動しました。応援しています』みたいなメッセージを送ったんです。だから僕的には思い入れあるバンドで、お互い10周年。呼ぶしかないと思いオファーしました」

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植野さんにイベントを通して10年を振り返ってもらったが、そこにはさまざまな思いと歴史があり、それが今へとつながっていることが分かった。愛はズボーンのGIMA☆KENTAもいっていたが、HOLIDAY! RECORDSがいなかったら、今のバンドシーンはまったく違ったものになっていただろう。そういう意味では、関西の今の音楽シーンを作り上げた立役者の一人であると筆者は感じる。そしてその10年の思いが詰め込まれたイベントこそ、今回の『HOLIDAY! vol.6』である。この思いを受け取るという意味でも、11月2日(土)は味園ユニバースへ行ってみてはいかがだろうか?

(※1)感染ライブ
京都・丸太町にあるCLUB METROで平日に行われていたライブイベント。出演者はステージではなくフロアでライブを行い、過去には曽我部恵一、Homecomings、Hi,how are you?といったアーティストも出演していた。

(※2)DANCE MY DUNCE
東京・早稲田ZONE-Bを中心に平日に開催をしている音楽イベント。過去にはCAR10やSono Sheetといったアーティストも出演していた。

(※3)https://realsound.jp/2023/12/post-1526856.html

(※4)MISOJI CALLING
2015~2017年まで開催されていたThe denkibran、craft rhythm temple、ナードマグネットが主催していたサーキット型イベント。

(※5)西尾さん
関西のライブハウスに出没し、モーモールルギャバン、KANA-BOON、ナードマグネットなど数多くのバンドとコネクションを持つ一般のおじさん。定期的に王将でバンドマンを集めて「西尾王将会」という飲み会をよくしていた。MISOJI CALLINGには協賛という形で参加していた。

取材・文/マーガレットヤスイ
撮影/山崎雅史
撮影協力/味園ユニバース




(2024年6月22日更新)


Check

Live

『HOLIDAY! vol.6』

▼11月2日(土)
味園ユニバース
[出演]TENDOUJI/ナードマグネット/Sundae May Club/他

詳細はこちら
https://kansai.pia.co.jp/news/music/2024-06/holiday-vol6.html


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先行販売CDチケット発売開始!

11月2日(土)に味園ユニバースで開催されるHOLIDAY! RECORDS 10周年イベントのCDチケット発売開始!
このチケットはCDであり、同時に入場チケットとなります。

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販売期間:6/22(⼟)12:00~30(⽇)23:59
※予定枚数終了しだい受付終了

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