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竹原ピストル、山内総一郎が大阪・大槻能楽堂で魂の「うた」を披露
大迫力の「能」、人間国宝・大槻文藏氏のトークセッションも
『秋の謡会 2022』11月6日(日)レポート

秋の気配も深まり始めた11月6日(日)、大阪・大槻能楽堂で『大阪文化芸術創出事業「秋の謡会(あきのうたかい) 2022」』が行われた。本イベントは大阪の文化芸術活動の活性化を図るため、大阪府・大阪市・大阪文化芸術創出事業実行委員会が主催するプログラムの一環で行われるもの。登録有形文化財の「大槻能楽堂」で、大阪でも盛んな伝統芸能「能」と様々なアーティストによる「音楽」が重なり合うスペシャルな公演。『春の謡会』に引き続き、『秋の謡会』は2日間にわたり開催された。人間国宝の大槻文藏、後継者の大槻裕一が演じる「能」に加え、5日(土)は矢井田瞳と和田唱(TRICERATOPS)が、そして6日は竹原ピストルと山内総一郎(フジファブリック)が出演した。能楽堂という特別な舞台で、伝統芸能と現代音楽が「うたう」という共通のテーマのもとで響きあった、素晴らしい公演。今回は2日目の模様をレポートする。

大槻能楽堂は、第二次世界大戦の戦渦を逃れた登録有形文化財。会場に足を踏み入れると約90年の歴史をそのまま感じられる能舞台が目に飛び込んでくる。初見だった筆者は悠久の時の大きさを肌で感じ、しばし見入ってしまった。

定刻になるとFM802 DJの大抜卓人が登場。スーツとトレードマークの蝶ネクタイを着用し、白い足袋を履いている。調べてみたところ、能舞台では白足袋を履くことが決まりなんだとか。大抜は「謡(うた)は歌謡曲の"謡"の字。能の中で聞こえてくる謡曲は日本の始まりの音楽。始まりの音楽と現代の音楽を皆さんに楽しんでもらう公演です」と述べ、能楽の成り立ちや、武士の間では能を学ぶことが義務でカルチャーだったという話、床下には舞台上の音の鳴りが良くなるための甕(かめ)が埋まっている話などを熱心に客席に伝えていた。

そして「能楽初めての人、どのくらいいらっしゃいます?」と聞くと、8~9割の人の手が挙がる。日本の伝統芸能とはいえ、日常生活ではなかなか触れる機会は少ない。大抜はそんな初心者にもわかりやすいようにと、この後披露される「安達原」のストーリーや、さらに登場人物の心情を理解できるようサイドストーリーも丁寧に説明。「現在はTVにもテロップが入れられたり、全部説明が必要なことが多いんですけど、そうじゃない、何が感じるものが能にあるはず。新しい角度で、ぜひこの文化を楽しんでいただければと思います」と、何か持って帰ってほしいと願う想いが表れたMCで、能「安達原」へとバトンを繋いだ。

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この日は大槻裕一が「シテ(主役のこと)」で里女と鬼女をつとめた。ちなみにシテの相手役を「ワキ」、シテの助演役を「ツレ」と呼ぶが、これは現代でも普通に使う言葉だ。演者のほかにも笛、小鼓、太鼓といった楽器を演奏する「囃子(はやし)」、そして謡(うたい)を合唱するシテ方の「地謡(じうたい)」が、続々と舞台に上がる。登場人物の多さに驚かされた。ほどよい緊張感の中、笛と小鼓が鋭く鳴り響き、いよいよ「安達原」が始まった。演者の姿勢、所作の美しさ、声の張り、静寂と対比した音の高まり。独特の世界に圧倒される。クライマックスの鬼女を数珠で追い詰める山伏祐慶とお供の山伏の迫力には、思わず息を飲んだ。

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そして、MC大抜と人間国宝である大槻文藏氏とのトークセッションが行われた。能は専業制であること、後見という役目があること、650~700年の歴史があること、最初は師匠から教わった通りにきちっと自分のパートを覚えて舞台上でパズルのように組み合わせること、それを舞台芸術として面白くするには立体的に重ねる必要があること、舞台上で瞬発力が発揮されて膨張することでその日にしかない良い波動が生まれること......。能楽に関する貴重な話をたくさん聞かせてくれた。能を若い人に知ってもらうため、鬼滅の刃や宝塚とのコラボなど、新たな試みも行っている。文藏氏は「能は謡と踊りと音楽でできています。要は室町時代のミュージカル。能は古い言葉を使っておりましてそういう意味では難しいかと思いますけれど、表現していることは人間の心なんです。悲しい、嬉しい、楽しい。心の中にある人の想いを拡大鏡で見てみたらどうなるかも舞台上で表現されるわけなんですね。ですから、私はさほど取っ付きにくいものでもないんじゃないかなと思っております」と朗らかに述べてトークセッションを終えた。

ここからは現代の音楽を浴びるターンだ。フジファブリックの山内総一郎(vo&g)が笑顔で橋掛けと呼ばれる廊下から登場。ブルーのセットアップに白足袋が新鮮だ。アコギが鳴ると、音の反響が確かにいつもと違うことに気付く。丸くこだまして返ってくるような不思議な感覚だ。1曲目は『Feverman』。祭囃子の曲調が能舞台によく似合う。客席から自然発生したクラップでのっけから盛り上がりを見せた。

MCでは「能舞台で能が終わった後に歌うのは初めての経験です。ずっと後ろで見てたんですけど、本当にすごいステージで感動しました」と「安達原」の感想を述べる。なお、山内の父親は能をやっていたそうで「さっきたまたま父親からこのステージで小さい頃にやってたという写真が送られてきて、運命的だなと思って。今日はそんなところも含めて魂のこもったライブにしたいと思いますんでよろしくお願いします」と述べて『手紙』へ。豊かで伸びやかな歌声が会場いっぱいに響き渡り、心も一緒に満たされてゆく。

akinoutakai1106-2.jpg1曲演奏するたびにMCを挟みながら楽曲を披露してゆく山内。共演者の竹原ピストルについては「大好き」と語り、「最初にご一緒させていただいたのは弾き語りのイベントで、レコーディングにも参加させていただいて。僕は一方的にファンだったんですけども、幸運にも巡り合わせがあって、今日もこうやって同じステージに立てるのは幸せです」と述べ、山内も参加した竹原ピストルの『おーい!おーい!!』をカバー。これには双方のファンが大喜び。山内の柔らかい歌声で奏でられる同曲はあたたかく、音の反響も相まって、客席はうっとりと聞き入っていた。

そして今年3月にリリースしたソロアルバム『歌者 -utamono-』から、「面と向かっては言えないけど"好きやで"という、バンドメンバーに向けた楽曲をぜひ聴いてください」と『白』を披露。伸びやかな歌声が心地良い波のように全身を包み込む。フジファブリックの初代ボーカル・志村正彦への想いが込められたこの楽曲。あまりに大きな山内の歌声と、優しく切ないメロディに思わずグッときてしまった。何だかこの舞台なら天国の志村の元へ届きそうだと感じるほどに、素晴らしい歌唱だった。

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また竹原の呼び名について「本当は2人で話してる時は総ちゃん、Pちゃんって呼ぼうと決めたんですけど、よくあるじゃないですか、時間が経ったら関係性がリセットしてるみたいな。俺がそのタイプだったみたいで。尊敬の念も込めて竹原さんと呼んでるんですけど、今日またPちゃんと呼ぼうかなと思います」と笑顔を見せてラストの『東京』を披露。軽快なギターをかき鳴らし「大阪ー!」と叫ぶ。客席からは座ったままで手が上がり、クラップで会場を盛り上げた。後半は1人ジャムセッションのように骨太なギターを力強くプレイ。三味線のような高音フレーズも披露し、和とロックを融合させたステージングで魅了した。全5曲ではあったが、何か宿っているものがあると感じられるほどに熱量の高いライブだった。

いつまでも鳴り止まない拍手がライブの素晴らしさを物語っており、少し名残惜しさを感じていると、MCの大抜が「ちょっと感想聞いてみましょうか!」と山内を呼び込んだ。ステージに立った感想を聞かれた山内は「鳴りも独特で、リハーサルもやらせてもらったんですけど、お客さんが入ってよりステージ上の響きがめちゃくちゃ気持ち良くやらせてもらいました」と充実感を滲ませた。そして、能楽からの音楽の継承を感じたかどうかの問いには「音で言うと"間"であったり、ダイナミクス、音の強弱はやはり原点というか、超えられない凄みを感じました。能のサウンドを拝見して、とても奥が深く、一打一打の音にも魂が込もっていて素晴しいと思いました」と答えた。そして『フジフレンドパーク 大阪編』の2度目の開催と新曲リリースを匂わせて来年への期待を高め「今日は本当に一生の記憶に残る良い日になったと思ってます」と述べ、舞台を後にした。

akinoutakai1106-4.jpg続いては竹原ピストル。大抜から「能は見る者をグッと引き込む人間の感情がよく出た舞台である。ある意味、能という想いや人の感情を揺さぶる歌を継承したのは、まさにこの人じゃないかなと思います」と紹介されたバンダナ姿の竹原。「今日は本当に貴重な機会をありがとうございます」と感謝を述べ、「総ちゃん(山内)の真似っこになってしまいますが」と、山内もカバーした『おーい!おーい!!』を披露。喋っている時は優しい声だが、歌い出すと一気に声色が変化し、力強い魂を解き放つ。ギター1本なのにゴウンゴウンと音が反響し、まるでビートを刻んでいるように聞こえた。<おおぉい>と叫ぶ声がこだまして、見る者を引き込んでいった。続いてまくしたてるような早口ボーカルをラップのように紡ぎ出した『ギラギラなやつをまだ持ってる』へ。圧倒的な存在感で目を逸らすことができない。人生を魂を燃やして歌う彼の姿はすさまじい。『初詣』では朗読するように語るパートと、腹の底から叫ぶように歌うパートで表現に強弱をつけながら、がっちりと会場を掌握していった。

『みんな~、やってるか!』ではパッとステージが明るくなり、軽快なギターのストロークに合わせて自然にクラップが発生! さらに「心からの尊敬の気持ちを込めて」と、吉田拓郎の『落陽』をカバー。歌詞に呼応するように真っ赤に染まったステージが、どこか哀愁を醸し出す。男気溢れるドスのきいた歌声に魅了され、どの世代も懐かしい感覚になった不思議な時間だった。

akinoutakai1106-5.jpgハーモニカも披露した『朧月。君よ今宵も生き延びろ』では、能舞台に朧月が浮かんだような照明演出がより楽曲を引き立てる。客席をまっすぐに優しく見つめながら歌う、繰り返されるフレーズ。ブルースハープの泣き出しそうな音色が感情を揺さぶる。1人で出しているとは思えないほどダイナミックで骨太な歌声。90年の歴史あるステージの上で、竹原の生き様が花開いた瞬間だった。客席その熱量でただただ釘付けになる。

楽しい時間もあとわずか。『よー、そこの若いの』ではクラップによる一体感が会場を包む。「安達原」の感想について「総ちゃんと2人で並んで能を見てたんですが、僕は率直に物語自体がすごく恐ろしかったし、舞台から演者の皆様から滲み出てくる空気感にも畏怖の念の意味合いで恐れの念を抱いて、何か大きな強大なものにバコッと丸呑みにされるような、良い意味での不安とざわざわとした興奮を味わったっす。能の舞台を間近で見ることができて、とても嬉しかったし、能に興味を持つこともできました。今日は本当に貴重な機会をありがとうございました」と丁寧に述べた。

ラストはお祈りの気持ちを込めて書いたポエムを『Amazing Grace』のメロディに乗せて完成させた曲。能舞台で歌われる『Amazing Grace』を聴いていると、愛、神秘、生命、という単語が頭に浮かんだ。後ろの老松が優しく見守る。想いが溢れた鬼気迫る歌唱からは、それこそ畏怖の念と、熱い情熱を感じた。「皆さんもどうか元気でいてください。優しくしてくれてありがとう」と、何度も手を振ってステージを後にした竹原。彼の息遣いが存分にこだました、大迫力のステージだった。

こうして2日間にわたって開催された『秋の謡会2022』は幕を閉じた。能楽堂という貴重な場所で新しい文化との出会いを楽しむことができる特別な機会。日本の伝統芸能の奥深さはもちろん、この場所で素晴らしい「音楽・うた」を享受できた喜びと感謝を記したい。本当に心に残る素敵な夜となった。

Text by ERI KUBOTA
Photo by 渡邉一生




(2022年11月14日更新)


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Set List

大阪文化芸術創生事業
『秋の謡会 2022』
2022年11月5日(土)・6日(日) at 大槻能楽堂

出演:11/6 竹原ピストル/山内総一郎(フジファブリック) MC:大抜卓人

能「安達原」

山内総一郎(フジファブリック)
1. Feverman
2. 手紙
3. おーい!おーい!!(竹原ピストルカバー)
4. 白
5. 東京

竹原ピストル
1. おーい!おーい!!
2. ギラギラなやつをまだ持ってる
3. 初詣
4. みんな~、やってるか!
5. 落陽(吉田拓郎カバー)
6. 朧月。君よ今宵も生き延びろ。
7. よー、そこの若いの
8. Amazing Grace

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