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能とアコースティックライブのスペシャルな饗宴
11月5日(土)「大阪文化芸術創生事業『秋の謡会 2022』」
和田唱と矢井田瞳の初コラボも実現!

大阪が誇る伝統芸能である能と、アーティストによる音楽のスペシャルコラボイベント、『大阪文化芸術創生創出事業 秋の謡会 2022』が11月5日(土)、6日(日)の2日間にわたり国の有形文化財である大槻能楽堂で開催された。5日(土)は和田唱(TRICERATOPS)、矢井田瞳のステージと、能楽師で人間国宝の大槻文藏や大槻裕一ほかによる半能『石橋』。6日(日)は竹原ピストル、山内総一郎(フジファブリック)のステージと、大槻裕一ほかによる能『安達原』。伝統芸能に親しんだ後に、日頃コンサートが行われる会場とはまったく趣の違う能楽堂で音楽ライブを楽しめる貴重な機会。ここでは5日に行われた公演の模様をお届けする。

17時の開演時刻ぴったりに登場したのはこの日の進行を務めるFM802のDJ 深町絵里。700年に及ぶ能の歴史をかいつまんで語る中で、能楽の言葉や台詞である謡曲は日本古来の楽曲として受け継がれ、現代音楽にも派生してきたといわれていると紹介。続いて、この日最初の演目である半能『石橋』のあらすじや見どころを語り、いよいよ能と音楽の貴重なステージがスタートした。

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akinoutakai1105-1.jpg隣の人の呼吸をする音も聞こえそうなほどの静けさの中で始まった『石橋』は、とにかく圧倒的。白獅子(大槻文藏)、赤獅子(大槻裕一)の迫力のある舞はもちろん、太鼓、大鼓、小鼓、笛によるお囃子の凛とした響きや、演技のひとつであるすり足。舞台上の演者達の、揺らぐことのない安定した姿勢など所作の美しさにも惹きつけられる。動かない能面の表情を読み取ることはできないけれど、それだけに謡いやお囃子、舞、会場の空気すべてを全身の感覚を総動員して楽しむことができた。

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舞台の後は、ついさっきまで赤獅子を舞っていた観世流シテ方・大槻裕一のトークセッション。この日初めて能楽堂へ足を運んだ人も多いであろうことを踏まえ、能の楽しみ方や事前に寄せられていた質問に答えていく。話の中で強く印象に残ったのが、能は全体の打ち合わせは行うものの、リハーサルは行わないぶっつけ本番の舞台であるということ。それまで各々が稽古を重ねて磨いてきたものを本番でぶつけ合う。その緊張感もお客さんに楽しんでもらえるのではないかと語る。まさにライブ。ライブこそが醍醐味という点は、ロックやジャズなどの現代音楽と伝統芸能である能に共通していることを教えてもらった。

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能を楽しんだ後は音楽ライブ。舞台に続く橋がかりをゆっくりと歩いて和田唱が登場。緋毛氈が敷かれた、いつものライブとは違った雰囲気のステージで深々と頭を下げる。1曲目はソロ作『ALBUM.』から『ココロ』。ギターをつま弾き子守唄を聞かせるように柔らかく、気持ちを込めながら歌いかける。続くTRICERATOPSの『Fly Away』ではギターの音色の調子が変わり、空にかかる飛行機雲のまっすぐなラインのように歌声がすーっと伸びてゆく。この後のトークセッションで話していたけれど、能楽堂の音の反響はライブハウスやホールとは一味違い、生声が響きやすく自然なエコーが返ってくるのだとか。その響きの良さは客席でも感じることができた。

akinoutakai1105-5.jpgMCでは「今日は特別なステージに立てて光栄です」と話した後、「能の歴史はハンパないよね!あ、ハンパないって言葉遣いが合わないね(笑)」、「能楽師の皆さんはマイクを使っていない生声。それって僕達よりロックだよね」といつものライブと変わらないトークで場内を和ませる。その後は、椅子に腰掛けジャズスタンダードの『Misty』をロマンチックに。『シラフの月』では冴え冴えとした月の光のような照明が歌の世界を際立たせる。ラストの『Home』は幼少時の家族の思い出を添えて披露。バンドのステージとも、またいつものソロライブとも違ったステージを終え、大きな拍手に見送られてステージを後にした。

akinoutakai1105-6.jpg続いて、レーシーな黒いドレスに身を包んだ矢井田瞳とキーボードの松本径が拍手に迎えられステージに登場すると、パッと空気が華やいだ。オープニングの『Ring my bell』を歌い終え、「こんな荘厳な雰囲気の場所でライブをさせていただけるなんて」と感激の面持ち。先に登場した和田とともに、客席の一番後ろで能を観て生の迫力の凄さを感じたことを熱っぽく語る。「自分もできそうな気がして、楽屋ですり足をやってみたらめっちゃしんどかった(笑)」と、改めて能楽師への敬意を表した。

akinoutakai1105-7.jpg続いて披露されたのは、この歌を聴いた人の気持ちが軽くなれたらという思いを込めて書いたという『さらりさら』。たとえどんな悪天候でも、耳にした瞬間目の前に青空を描き出してくれるようなヤイコの歌声。その声が場内いっぱい広がるさまがとても心地良い。次に歌った『キャンドル』は、今日のライブに向け、今自身が立っているステージの写真を最初に見たときに、"この曲をやりたい"とフッと降りてきたという。客席からの大きな手拍子との共演を楽しむような『My Sweet Darlin'』は、壁に映る彼女のシルエットも気分良く歌っているようだった。ラストは最新アルバム『オールライト』に収録されている『駒沢公園』を爽やかに。能楽堂という会場ならではの響きがそう感じさせるのか、ステージと客席、歌と客席の距離がとても近く感じられるライブを楽しむことができた。

以上で終わりではなく、最後に和田唱と矢井田瞳のこれまたスペシャルなコラボで1曲。「せっかく唱さんと対バンということで。私の中のロックンロールスター、和田唱!」と和田を舞台に呼び込み、2人で『ケ・セラ・セラ』を。これまでもテレビ番組などで共演はしているけれど、2人だけでステージに立つのは今夜が初めてだという。1950年代にドリス・デイが歌いヒッチコック映画の主題歌にもなったこの曲は、初めて耳にする人にもすっとなじむに違いないポピュラーソング。2つの歌声が重なり、最後の一節は日本語詞で「~ケ・セラ・セラ なるようになる 先のことなどわからないから」と温かみのあるハーモニーで場内を満たした。最後に2人から、「今後会う時まで元気で、笑顔でいてください!」とメッセージが投げかけられ、他では味わうことのできない能と音楽のスペシャルコラボステージ『秋の謡会』は終演。貴重な機会を心ゆくまで楽しむことができた。

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Text by 梶原有紀子
Photo by 渡邉一生




(2022年11月14日更新)


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Set List

大阪文化芸術創生事業
『秋の謡会 2022』
2022年11月5日(土)・6日(日) at 大槻能楽堂
出演:11/5 和田唱(TRICERATOPS)/矢井田瞳 MC:深町絵里

半能『石橋』

和田唱(TRICERATOPS)
1. ココロ
2. Fly Away
3. Misty
4. シラフの月
5. Home

矢井田瞳
1. Ring my bell
2. さらりさら
3. キャンドル
4. My Sweet Darlin'
5. 駒沢公園

和田唱・矢井田瞳セッション
ケ・セラ・セラ

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