須田亮太(ナードマグネット)×藤島裕斗(Subway Daydream)
スプリット7インチリリース記念、相思相愛対談 ―前編―
3月28日夜、ナードマグネットとSubway Daydreamのスプリット7インチ『Re:Action』が4月13日(水)にリリースされることが発表された。情報解禁の直前にはナードマグネット・須田亮太(vo&g)が個人アカウントでインスタライブをはじめると、不意にSubway Daydreamの藤島裕斗(g)が乱入。偶然を装ってぴあ事務所に集まった2人はオフィシャルに先だってスプリット情報を発表し「このあと対談します!」と明かした。その対談が本記事である。
今年結成16年を迎える、関西を代表するパワーポップバンド・ナードマグネット(以下、ナード)と、2020年に双子の藤島裕斗(g)と藤島雅斗(vo&g)、幼馴染のたまみ(vo)、Kana(ds)によって結成された新世代オルタナバンド・Subway Daydream(以下、Subway)。年齢が一回り違う須田と藤島は、相思相愛の関係。スプリットには、A面B面ならぬ、N面とS面にリード曲とお互いをカバーした楽曲がそれぞれ2曲ずつ収録されている。ナードサイドは『アナザーラウンド』と『Dodgeball Love(カバー)』、Subwayサイドは『Yellow』と『いとしのエレノア(カバー)』。話を聞くと、数々の運命的なシンクロが起きていたことが明らかになった。今回ぴあ関西版WEBでは、相思相愛の対談を前後編にわけてお届けする。前編は2組の出会いから、ナードマグネットの新曲『アナザーラウンド』について。メンバー脱退を乗り越えた、須田の心中にも触れた。
Subwayはオリジナリティを持って、良い音楽を追求して突き詰めてるバンド
そういう人たちが自分の影響で生まれたのが、すごく嬉しい(須田)
――まず、ナードとSubwayの出会いからお聞きしてもよろしいでしょうか。
須田「では僕側の視点からお話します。緊急事態宣言が一旦落ち着いて人に会えるようになった時、HOLIDAY! RECORDSの植野秀章さんと会う機会があって。その時“須田さん案件やで”と教えてもらったのが、Subway Daydreamだったんです。聴いて一発でめちゃくちゃ良いバンドやなと思ってツイッターに呟いたら、お互い認識してないのに相互フォローの状態だったんです」
――そうだったんですか!
須田「僕、結構簡単にフォロー返すから(笑)。“フォローしてくれてたんや!”と思って、ツイッターでも反応をくれて。で、大阪で初ライブ(2020年11月)があるというので、これは行かなあかんと思って、寺田町のFireloopに見に行ったんですよ。そこでちゃんと喋った認識やったんですけど、実は双子はその前から僕らに会ったことがあったというんですね。2019年にナードマグネットが『透明になったあなたへ』というアルバムをリリースした時のお店回り、最終地点のタワレコ阿倍野Hoop店にいたんですよ」
――え、たまたまですか?
藤島「いや。双子揃ってナードマグネットの大ファンやったんで、お店回りしてるのを知って、“今阿倍野Hoopのタワレコ行ったら会えるぞ”ってことで行きました」
須田「集まってくれたお客さんと撮った集合写真に写ってるんですよ(笑)」
――そうなんですか(笑)!
須田「さらに遡ったら、1st アルバム『CRAZY, STUPID, LOVE』の時からお店回りに来てくれてて(笑)。僕サインしてます」
――最初からナードのファンだったんですね。
藤島「2016年に1st アルバムの先行シングル『C.S.L.』がリリースされたのをたまたま見かけて、一気に好きになって。1st アルバムリリース記念のインストアライブに行ってサインもらって。僕ら双子は奈良県に住んでて、頻繁にライブも行ってCDも絶対買ってました。僕らがバンドを始めたのが2020年はじめなので、4年間ぐらいはただのファンとアーティストの関係でした」
――それが一緒にスプリットを出すことになると。お互いひと聴き惚れだったんですね。
須田「僕はそういう事前情報を知らない状態で、人からのオススメでめっちゃハマって。後から聞いて、もう本当にマジかと(笑)」
――ずっとナードの曲を聴いてきた彼らが作った楽曲に、須田さんもやられた。
須田「どちらかと言うと彼らはインディポップやドリームポップのテイストで、しっかり彼らのオリジナリティがある。ナードからめちゃくちゃ影響を受けてるというのは、パッと聴きではあまり分からないから、余計に嬉しかったですね」
藤島「それで言うと、僕が曲を作ってるんですけど、ナードマグネットが好きすぎるが故に、最初は敢えてちょっと外れたところを狙ってました。それこそパワーポップもすごく好きですし、パワーポップっぽい曲を作ろうとしたらナードマグネットになっちゃうから。なので、よりインディーな方に逸らしたりしてました」
須田「僕、被害妄想がすごいから、センスの良い音源を聴くと、“あんなダサいバンドになりたくないわと思われてるんじゃないだろうか”と思いがちなのよ。それは自分の中のコンプレックスというか、変に年を取ってしまったからなのかも。だからSubwayもめっちゃセンス良いけど、ナードをバカにしてたらどうしようと思ってたら、実はめちゃくちゃ好きでいてくれて、“ああ、良かったー”と思って」
――ナードのどういうところに惹かれたんですか?
藤島「ナードマグネットを一聴した瞬間に、“こんなバンド、今日本のロックシーンにいない”と思ったんですよ。勝手な感覚ですけど、2010年代の邦ロックシーンは、テクニカルな変拍子やコード進行、世界観重視だった気がして。それはそれで素晴らしいと思う反面、ナードマグネットみたいにすごく真っ直ぐで、しかもギターがすっげえ歪んでるサウンドに度肝を抜かれたというか。ナードマグネットを聴いてから、趣味も変わりました。ギターが歪んでなかったら嫌やなと思うようになったり、洋楽志向の日本のバンドが好きになったり。ナードマグネットが音楽を好きなのは、聴けば分かるじゃないですか。“とにかく音楽が好きで好きでたまらない”みたいな人がやってる音楽に、どんどん惹かれるようになりました」
――今は飲みに行ったりする仲だと思いますが、ナードのこういうところが好き、みたいなお話は普段されるんですか?
藤島「本音を言うと、僕は未だにファンに戻ってしまうんですよね。もちろん同じ土俵で切磋琢磨する立場にいる自覚はあるんですけど、それでもリスペクトの気持ちは変わらないので、曲が出る度にすごく良いなあと思うし、悔しさもない。もう信者です(笑)」
――須田さんはそれを聞いてどうですか。
須田「本当に嬉しいですよ。さっきも言った通り、Subwayはオリジナリティを持って、自分なりに良い音楽を追求して突き詰めてるバンドやと思うから、そういう人たちが自分の影響で生まれたのが、すごく嬉しい。自分がやってきたことにちゃんと意味があったんやなって。ナードを結成してかれこれ16年経つのかな。メンバーも変わったり色々あって、今まで本当に悔しい思いばかりしてきたし、“届かんな~”みたいな気持ちに何回もなって。作品を出すたびにしんどい思いをしてきたから、こういう子たちが現れたことがもうなんか、1つ報われたなというのが、正直な気持ちですね」
藤島「ありがとうございます!」
Subway Daydreamが『いとしのエレノア』をカバーしたことが
スプリットのキッカケに
――今回のスプリットが実現した経緯は?
須田「ナードマグネット側は、以前から“若いバンドとスプリットとかどう?”みたいな話がぼんやりと出てたんです。で、やるとしたらSubwayとやってみたいなって」
藤島「(ものすごく嬉しそう)」
須田「ふわっと出ていたアイデアを、うちのレーベルの社長が持ち続けていて。『そうふくしゅうツアー(2020年7月~9月にかけて行われた、新ベーシストさえこ加入記念のアルバム全曲を総復習したツアー)』に出てもらった時、Subwayが『いとしのエレノア』をカバーしてくれたんです。じゃあ俺らもカバーして、新曲1曲ずつ入れたらいいんじゃない、とアイデアが具体化して」
藤島「夏ぐらいでしたよね。僕らも1年ぐらい前に、ナードのスタッフをされてるKGさんとお話しする機会があって。僕ら双子がナード大好きという話をしたら、“お願いしたらスプリットとかできるかもしれないよ!”と言ってたので、軽い期待はしてたんです。『そうふくしゅうツアー』の楽屋でも、そんなお話を聞いて。でも確定するまで期待しないでおこうと。確定したのは秋ぐらいで、アナログを出すから納期の関係もあって年内に録るとなったので、そこからカバー曲のアレンジを詰めて、年内に終わらせるため計画的に進んでいきました」
――そもそもSubwayを『そうふくしゅうツアー』に呼んだ、ナード側の意図はあったんですか?
須田「単純に好きやからです」
藤島「(照れながら)ありがとうございます」
――本当に相思相愛じゃないですか。
須田「『そうふくしゅうツアー』は新体制一発目のツアーなので、ちゃんと物語が見える対バンツアーにしたくて。1番近いレーベルメイトに出てもらったのと、Subwayがナードをめちゃめちゃ聴いてくれてた情報も、その時点で知っていたので呼びました。あとは若いバンドとの繋がりがあればいいなというのもありました」
メンバーが脱退して、もう無理やなという気持ちになってたけど
さえこの加入で前向きな気持ちになれた(須田)
――では、ナードの新曲『アナザーラウンド』について、お話を聞かせてください。
須田「これはスプリット用に作った曲ではないんです。新メンバーのさえこが加入して、少しずつ曲を演奏した中で、彼女がまっすぐ伸びる良い声をしていることと、ゴリッとカッコ良いベースを弾く人だということが分かって。さえこが加入したことで、ストレートな曲を書きたくなったんですよね。さえこのベースと声を活かしたくて、冒頭の掛け合いと追っかけのコーラスをすぐ思い付いたんです」
――さえこさんの声とベースありきの曲。
須田「2020年にメンバーが脱退した時、バンド辞めようかなってぐらい落ち込んで、もう無理やなという気持ちになってたんですけど、さえこが入ってライブしてみたら良い感じになって、ポジティブなモードになることができました。その気持ちの勢いでサッと書けた1曲だったんです。リリース方式は決めてなかったんですけど、曲はあるし、レコーディングするかと曲を貯めてたところで、スプリットの話が来て」
――なるほど。
須田「歌詞にもあるけど、気が合いそうな人と出会えた、というモードにピッタリだなと。それは新メンバーもだし、新しい世代のめっちゃ良いバンド(=Subway)と出会えたこともそう。それにより、もう1回やっていけそうな気がするみたいな。良いタイミングやと思って、“この曲入れません?”という話をしました」
――須田さんの気持ちがそのまま曲に出たんですね。
須田「そうですね。基本的に僕はすごい後ろ向きなんですよ(笑)。そこを通過してちょっとだけ前向きになった曲だと思います」
――ツインボーカル的な掛け合いは新しい試みだったと思います。さえこさんが歌えることは、今後の曲作りにおいての意識も変わりそうですか?
須田「ここ1年ぐらいで、さえこの声とベースの音を念頭に置いた曲の作り方になってきました。今後どういう曲を作るかはまだ分からないですけど、さえこの存在はすごく頼もしいなと思っています」
――『アナザーラウンド』は『そうふくしゅうツアー』おかわり編のタイトルにもなっていました。
須田「さえこが入ってツアーを回り始めてできた曲なので、おかわり編で『そうふくしゅうツアー~アナザーラウンド~』というサブタイトルを付けた時は、既にこの曲はあったんです」
――同名の映画に影響を受けたそうですね。
須田「『アナザーラウンド』という映画が去年の秋頃公開されたんですけど、曲を書いたのはその前なんですよね。詞と曲はずっとできてて、タイトルどうしようと思った時に、映画の紹介をラジオで聞いて、言葉の意味や映画の内容がピッタリやなと。要は、パブとかでみんなで飲んでて、“全員でもう一杯行こうぜ!”みたいな時に、“アナザーラウンド”と言うらしいんですよ。映画のあらすじは、人生若干行き詰まったおじさんたちが、酒飲みながら仕事したらちょっと上手くいくんじゃないかと実験して大失敗するという、あまりポジティブな話じゃないんですけど、歌詞の内容と合致したのでタイトルだけ拝借しました。これで映画おもんなかったらどうしようとビクビクしながら観に行ったら、結果的に僕は好きな作品だったので良かったです」
――サウンド的にはいかがですか?
須田「本当にシンプルにいこうと。基本スリーコードで、ギターのストロークがバーンと鳴る感じで、あまり難しいことをしない。僕が大好きなザ・マフスというバンドがいまして、かなり影響を受けてるんですけど、ボーカルのキム・シャタックさんが2019年に難病で亡くなったんですよ。それがすごいショックで、『アナザーラウンド』の前に書いた『DETENTION』という曲は、キムさんや、その後コロナ禍で亡くなったファウンテンズ・オブ・ウェインのアダム・シュレシンジャーや、シルヴァー・サンのジェームス・ブロード、立て続けに亡くなった僕の大好きなバンドの人たちを思って書いた曲。『DETENTION』も結構マフス味があって。超シンプルやけどメロディが良い。そういうモードに自然となってたのかなとは思いますね」
インタビューは後編へ。Subway Daydreamの新曲『Yellow』と、お互いのカバー曲について聞く。ぜひそちらもチェックしてほしい。
Text by ERI KUBOTA
Photo by うつのみや
(2022年4月12日更新)
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