「音楽は本当に人生の最高の遊び道具ですよね」 ルーツの体現から混血のオリジナル=『Herbier』へ――! タンテを素晴らしきネクストフェイズへと導いた濃密な5年を語る Turntable Filmsインタビュー&動画コメント
人生にはさまざまな岐路があり、それは生み出される音楽と絶妙に絡み合う。結成から12年、前作から5年という長い歳月をかけて熟成されたTurntable Filmsの最新アルバム『Herbier』(エルビエ)は、“世界の流れとリンクし続けるインディーロック/オルタナフォーク”と称される自らへの形容詞を、半ば執念とでも言うべき作品への使命感と途絶えぬ音楽的好奇心で更新し、新たな音像と視野を手に入れた充実の1枚に仕上がった。だが、キャリアを飾る重要作誕生の裏では、メンバーの上京や活動休止、ソロワークスの始動etcと、京都の至宝と呼ばれたバンドは大きな分岐点を迎えていた…。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの“Gotch”こと後藤正文(vo&g)に見初められ、今ではプロデューサー/コンポーザー/ギタリストとしても多忙な日々を送る井上陽介(vo&g)、そして、新プロジェクトKENT VALLEYとしてもその才能を開花させた谷健人(b)が語る、『Herbier』完成までの苦難の道のりとTurntable Filmsの現状とは? 時間が変えるものと、変わらないもの。ルーツミュージックに愛と敬意を込め体現してきたバンドが、いよいよネクストフェイズへと踏み出した――!
誰かと一緒にいること自体が、もうそれだけで意味があると思うんで
――取材は4年ぶりだから、まぁそれだけアルバムが出ーへんかったってことですわ(笑)。
(一同笑)
井上(vo&g) 「アハハ!(笑) いや、仰るとおりです、本当に」
――前回のインタビュー では、“結成10周年=’18年に次のアルバムを出せたら盛り上がるんじゃないの?”みたいな話もしたけど、出ず! ということで(笑)。でも、2人のnote とかTumblr をさかのぼったら、その頃にはレコーディングはもうしてたから、目指してはいたんだなと思って。
井上 「そうですそうです。そうか〜思い出したけど、あの話が始まりだったかもしれんなぁ」
――ただ、タンテ(=Turntable Films)の歴史的に言うと、前作『Small Town Talk』('15)が出るまでと、今作『Herbier』が出るまでの環境が全然違って。まずは’17年初頭に井上くんが上京したのは大きな出来事でしたよね。もちろん、アレンジの仕事やらが増えてきたのは要因だったと思うけど。
井上 「プライベートも含めていろんな縁で上京することになったので、僕自身も結構不思議に思ってます。何なら’16年まで東京に行く気は全くなかったですから(笑)。急にポンポン話が決まって、こんなにもいろんなことが絡むタイミングはそうないなと思ったので、じゃあもう思い切って行くかと、重過ぎる腰を上げて(笑)」
――そう、重過ぎる腰には定評のあるタンテが(笑)。でも、京都に残るメンバーとしてはどういう気持ちだったの?
谷(b) 「まぁでも、みんなそうやって人生を決めていくじゃないですか? 実際、週3でリハに入ってるわけじゃなかったし、僕は他のバンドも並行してやってるんですけど、そっちも何かあるときにパッと集まって、それ以外はバラバラなところに住んで活動してたんで、個人的には違和感は感じなかったですけどね」
――タンテは元々メンバーがみんな京都にいたけど、そもそも他のバンドと比べたら免疫があったというか、いろんな場所で、いろんなクリエイションをすることが通常運転だったからこそ。
谷 「あとはやっぱりテクノロジーですよね。今やったら別に遠くにいてもメールとか電話もすぐにできるし。10年前とかやったらキツかったかもしれないですけどね」
――何なら、この取材自体もリモートだからね(笑)。とは言え、タンテは京都色が強かっただけに不思議なもので。
井上 「いやぁ〜本当に。でも、ライブとかで頻繁に帰ってくる気満々やったし、イメージとしては遠くに行く感じはあんまりなかったんですよね」
――前回のインタビュー では、“僕らにとっては、何だかんだで京都に物事が集中してるのは間違いない”と言っていたように、京都だからこそ得られたものがあって。逆に、井上くんが東京に行ったからこそ感じたことはある?
井上 「多分、行くのが20代だったら違ったと思うんですけど、それこそ東京には何回もお仕事で行ったことがあったし、友達もいたので寂しさを感じることもなく。でもね、ここ数年住んでみて、やっぱり空気感は違うのかも…やっぱり東京って何かね、キリッとしてて(笑)。物事が早く進んでる気がします。僕は京都に帰った瞬間にものすごく気が抜けるんで、“あ、気張ってたんやな”って思うんですよね。東京では1枚羽織ってる感じというか」
――大阪より京都からの上京の方がギャップは大きいかもね。大阪から見ても、京都は異次元感があるから(笑)。
井上 「確かに、“溶ける”じゃないですけど、京都に帰ったら何かダラ〜ってなるんですよね。秒で戻る(笑)。これはもう何とも不思議な感覚なんですけど」
谷 「確かに異次元感というか、大学時代を京都で過ごしてて、東京なり他の土地に行った人って、京都にものすごくノスタルジーがあるみたいですね。周りの人も結構言ってる」
――そうやってまず井上くんに上京という岐路があって、この間に谷くんもソロ活動を始めるという。’17年に1枚目のEP『9 to the morning』を出しましたが、バンドの環境が変わったことも背中を押したのか。
谷 「元々は“30歳になるまでに何かしたい”という、めちゃめちゃパーソナルな理由だったんですよ」
――それまでもタンテのアルバムに谷くんが書いた曲は多くはなくとも収録されてたけど、自分で作品を1枚作り上げられたことは、経験的には大きかったんじゃないですか?
谷 「人と作業することと、自分1人で作業することの違いがよく分かったのが一番大きかったですかね。何をするにしても、どこかで“落としどころ”みたいなものってあるじゃないですか? エゴとエゴでは平行線になるんで。ソロは完全に自分がOKを出すかどうかですけど、バンドはもうちょっと“人”が主体というか…誰かと一緒にいること自体が、もうそれだけで意味があると思うんで。それを踏まえた上で、だいぶゆるく捉えられるようになったと思います。“承認欲求が満たされるのかな?”と思ったら、別にそんなこともなく、褒められて嬉しくないわけじゃないんですけど、バンドの場合はそれを分け合えるというか、同じように喜べる人がいるのはすごくいいなと思いますね」
――月並みだけど、ソロをやることでバンドのよさも分かって、みたいな。
谷 「ホンマ月並みですけど、そんな感じです(笑)。1人でやることって限界があるんやなって思います」
――同時に、タンテだからできることがあると思い知るというかね。
自分がやったことがないこと
学んだことを1曲1曲に入れ込んで、実験しながら作っていく
――『Herbier』を聴いて、やっぱりタンテはバンドの構造も人も音像もめちゃくちゃ独特だなと思ったし、今作で本当に“Turntable Filmsここに在り”と言える作品ができた感じがしました。
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井上 「道のり長かったなぁ〜!(笑)」
――そらね、12年の活動歴でアルバムがまだ3枚でしょ? 1年に1枚出してたら、また違ったかもよ?
谷 「いやぁ〜それやと多分もう解散してましたよ(笑)」
――前作の制作時は“人に委ねるものにしたい”みたいなことを言ってたけど、今作に何かビジョンはありました?
井上 「僕が上京したのもあって、谷や田村(夏季・ds)くん、サポートメンバーも含めて、当初はネット上でアルバム制作のやり取りができるように働きかけてたんですよ。ただ、慣れないとなかなか難しいので、あんまりうまくいかなかったんですよね。それに伴って自分がやる作業が増えていって、自分がやったことがないこと、学んだことを1曲1曲に入れ込んで、実験しながら作っていくみたいなコンセプトに気付いたら変わっていってましたね」
――テクノロジーは進んでるけど、思いのほか使いこなせてないみんながいた(笑)。
井上 「そうなんですよねぇ(笑)。今、カレンダーを見直してたら、奥ボウイさん(=筆者)に“10周年にアルバムを出したらええやん”と言われたそれに向けて、’17年に録って、’18年にアルバムを出そうとしてたんですけど、スケジュールなり作業なりいろんなことがうまくいかずに延びて延びて、やっとRECを終えられたのが’19年の2月という(笑)」
――結局、’18年に世に出たのは『only in dreams Compilation “Gifted”』('18)に収録された『Hollywood』(M-12)だけで。しかも、10周年というめでたい年に、谷くんはしれっと交通事故に遭ってるという(笑)。
谷 「ありましたね~(笑)。それもレコーディングのターム中で、松葉杖で現場に行ってましたからね(笑)」
――だから、周年ライブはやったにせよ、大々的にアニバーサリーな感じではなかった。
井上 「アルバムの作業は終わってないけど、一応10周年やしライブはやろか、みたいな。何かもう、その辺の時期は訳が分からへん感じになってますね。ホンマはレコーディングも短いタームで終わるはずだったんですけど…」
――例えば、アルバムを1年かけて作ったとしても、そのときのムードとかやりたいことは1年の範囲ならそこまでは変わらない。でも、5年となると、当初やりたかったことが今はそうじゃなかったり、その整合性みたいなところで’20年の自分たちとは違うよね、みたいなことにならへんのかなという危惧がちょっとあったんやけど。
井上 「あぁ〜それはなきにしもあらずという感じなんですけど、またエンジニアともスケジュールが合わなくて、’19年の2月にREC自体は終わってるんですけど、ミックスが終わったのがさらに1年後ぐらいなんですよね(笑)」
――スケジュールの切り方がめちゃくちゃスケールのデカいバンド(笑)。ミックスはチャンス・ザ・ラッパーとかノーネームを手掛けたL10mixeditと、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとかOfficial髭男dismもやってる古賀健一さんと売れっ子だもんね。だからか、今作の音像は前作とはもう全然違って。
井上 「そうなんですよ。これはもう古賀くんが、低音のレンジというか、外国と日本では箱の中の音をミックスするのがどう違うのかを見つけて、僕に教えてくれて。彼とは今でもいろんな仕事で付き合いがあるんですけど、すごく向上心があって勉強が好きで、彼のおかげで視野が開けましたね」
――あと、歌がめっちゃうまくなってない? 1曲目の『Something』からキーが低いのもあるけど、“こんなにいろんな声、出せたっけ?”と、新鮮な印象でしたけど。
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井上 「ありがとうございます。ちょっとキーを低くしたり工夫もして、自分の声のキャラクターを探してみたのが功を奏してるのかは分からないですけど。ただ、Gotchさんにも歌を録ってもらったんですけど、僕が“何かにつけて歌録りを早く終わらせようとする”とよく言われました(笑)。歌うのは嫌いじゃないんですけど、5回ぐらい歌ったら息が切れてくるんですよね。ずーっと歌い続けられる人もいますけど、僕はそういうタイプではないんで」
――あと、全編日本語詞に挑戦した前作から、今作ではほぼ英語詞にまた戻って。これは楽曲に合わせたのかなと思うけど、改めてハマりがいいなと。
井上 「あぁ〜よかった。そこも今回は考え過ぎずに、自由にやっちゃおうと思ってたんですよね」
前作は人のプレイありきでアルバムができたんですけど
今回は曲ありきでアルバムになった
――収録曲は、いつからいつぐらいのスパンの曲が入ってるんですか?
井上 「1年いかないぐらいで全曲書いてますね。半年よりちょっと短いぐらいのレコーディングのタームごとに6曲ほど書いて、足りひん分をまた書いて、みたいな感じやったんで、’17年には全部書き終わってる感じでした」
――個人的にいいなと思ったのは、『At the Coffee House』(M-6)、『Van Folk』(M-7)、『Stein & Burg』(M-8)の流れで、『At the Coffee House』は谷くん作曲です。
谷 「元々は田村くんも僕も4曲ずつ持ち寄ろうみたいな話だったのが、最終的には1曲になってしまいました(笑)」
――結局、いつもと一緒やないかと(笑)。でも、谷くんは楽曲的な貢献だけじゃなく歌も歌って。アルバムの前半から井上くんのペンによるタンテの新境地を聴いていく中で、フォーキーでホッとできる1曲になっています。 『Van Folk』も、日本でこんな雰囲気が出せるアーティスト、他にいるのかなと思いながら聴いてましたけど、前作から5年の間に生まれたこれらの曲には、井上くんに中に蓄積してきたムードみたいなものはあったのかな?
井上 「何か僕…その頃はアンビエント音楽ばっかり聴いてたんですよ。ストレスが溜まってたんですかね?(笑)」
――確かに『Stein & Burg』とかもアンビエント感はあるもんね。
井上 「でも、それが何でなのかは自分でも分からないんですよ。1冊の本の文字からアイデアが出てきたり、こういうリズムを組み立てたら面白いことができそうやなとか、どれもワンアイデアから広がっていったので、今回はフォークソングを作ろうとかも全然思ってなくて。『Van Folk』ですらそうですから本当に…何なんでしょうね?(笑) とりあえず、ものすごく自由にやろうという感じでしたね」
――ただね、この間の井上くんのワークスを見ると、かつて“自分の好きな音楽がポピュラリティを得ていると感じたことがない”と言っていた人が、今ではアイドルとかジャニーズとも仕事をしてるわけじゃないですか?(笑)
井上 「アハハ!(笑) ありがたい話ですよ、本当に。そういうときは自分たちのアルバムを作ってるときと思考が全然違うんですけど、落語のお題みたいな感じだと思うんですよ。それを自分の手持ちの駒でどうするかという感じなので、普段は絶対にやらないことにも挑戦できますし、もちろん調べたりもしますし、単純に新しい世界を知る刺激はありますから、違う面白さだと思ってやってますね。それでストレスがあったとかではなく(笑)」
――谷くん的には、井上くんの作風のモードとか、自分がソロをやったことで得た感覚も含めて、前作からの変化で感じるところは何かありました?
谷 「単純にシンセサイザーが多くなったな、ちょっとエレクトロニックになった感じはするなと思いましたね。デモの段階でも、打ち込みのビートが割と入っていたので。でも、それで変わったというよりは、元々持っていたであろうものがこういう形で出たんやなと思いました」
――そう考えたら、コロナ禍で自ずとそういう作業が増えたのではなく、早々にシフトチェンジが始まっていた。
谷 「あと、何が一番違うかと言えば、多分、前作は人のプレイありきでアルバムができたんですけど、今回は曲ありきでアルバムになった感じじゃないですかね」
――今作はゲストプレイヤーも多いけど、女性ボーカルがほとんどの曲で入っているのも特徴で。 Achico(ROPES)さんとかはGotchさん界隈からのつながりも見えるけど、シンガーソングライターのmmm(ミーマイモー)さんとか、ジャズシンガーの市川愛さんはどういう接点とチョイスだったのかなと。
井上 「自分が書いたメロディに対して声が出ーへんかったのもありますけど(笑)、例えばmmmさんはもう、僕がただのファンで。作品とか声がすごく好きで、次にアルバムを出すときはこの人と一緒にやりたいと思っていたので。市川愛さんは古賀くんに紹介してもらって、ツインでカントリー調の歌を歌ってもらったりして。難しいコーラスとかもすぐにできる方で、いろんな人の声を聴いた中で、声質とか技術を含めてお願いしました。だから今回は、初めましての方も結構いて、クラリネットを入れたのも初めてだったんですけど、中ヒデヒトさんは京都の方で、もうめちゃくちゃうまくて、“プロ〜! クラリネット好き〜!”って思った(笑)」
――『Disegno』(M-2)においてもクラリネットのハモリが効果抜群で、こういう使い方をするんだなと。
井上 「他にも、別所和洋(ex. Yasei Collective)さんのラグタイムみたいなピアノとかも、ああいう感じで弾ける人ってやっぱりなかなか出会えないものなので。Landmark Studioとか、TAGO STUDIOもそうですけど、アンビエンス(=空気感、響き)いっぱいの大きいスタジオでドラムが録れたのも初めだったので、それもよかったですね」
――クレジットに6つもスタジオが載っているバンドなんて、今どきいるのかなと思った。
谷 「どれもええスタジオやったな~ホンマ。使えてよかったわ」
井上 「スタジオ作業は全部面白かったですね。エンジニアの古賀くんが止まったら死ぬマグロぐらいの勢いで(笑)、ずーっと音を変えたりする人なんですよ。面白い音作りも喜んでやってくれる人で、掃除機のホースとかゴミ箱の中にマイクを入れてみるとか、そういうことを和気あいあいとできたのはめちゃくちゃ楽しかったですね。結果、一番音がよかったのが掃除機という(笑)。何か…遠いアンビエンスというか不可思議なところで鳴ってる音が録りたかったんですよ。それは聴いても分からないぐらい繊細な音なんですけど、心を満たす何かがあるんですよね」
『Herbier』は意地のアルバムだから
――あと、この期間の大きな出来事と言えば、メンバーの田村くんがお休みすると。それも1つのターニングポイントだったと思いますけど、このことについてもやっぱり聞いておきたいなと思って。
井上 「いまだに正解は分からないんですけど、多分、僕が上京したのと同じように、彼の人生への考え方がちょっと変わったのがきっかけじゃないかなと。今は音楽に一番時間と力を注げないというか…もちろん、単純に普段の仕事が忙しくなってきたとかもあると思いますけどね」
――前回のインタビュー で井上くんは、“Turntable Filmsは、みんなが集まって何かする“場所”みたいなものですね。友達がよく集まるあの呑み屋、そこでクリエイティブなことをしようという遊び場”と例えていて。そういう意味では、本当にタンテらしい決断というか、誰かがちょっとの間遊びに来れなくなったから、この店は、この場所はなくなります、とかじゃないもんね。
谷 「そうなんですよ。まぁいつか戻ってくるじゃないですけど、音楽ができる/できへんタイミングはライフステージで変わっていくから、そういう時期もあるなと思いますし。自然なことだと思います」
――音楽は誰かに強制されてやるもんじゃないしね。そうなったらもう違うバンドになっちゃうから。ちなみに、ドラムの録り音に関してはどうしたの?
谷 「田村くんが叩いてます」
――それは美しいじゃないですか。エディットとかはいろいろあっただろうにせよ。
井上 「もう頑張ってね。それ故にちょっと時間もかかったんですけど、よう破綻しなかったわ(笑)。途中で投げ出そうと思ったら何ぼでも投げ出せたんですけど、やるならちゃんと100点を取りたいと思ったので。これはもう意地ですよ、本当に。『Herbier』は意地のアルバムだから。多分、Turntable Filmsだけをやってたら参ってたと思うんですけど(笑)、この間にもいろんな仕事を自分なりに好きにやってもいたので」
――今となっては、“それぞれタンテ外のチャンネルも少なからずある中で、Turntable Filmsって自分の中でどういう存在ですか?”。これ、4年前に全く同じことを聞いたんですよ。谷くんは、“15歳ぐらいから一緒にやってるんで、そう考えたら人生の半分を一緒に過ごしてる。結局、続けるか続けへんかだけなんですよね。このバンドに関して何が他と違うんやって言ったら、一番続いてるから、それだけ自分の思い入れがある”と。
谷 「何かね、前に言った“長いからそれだけ思い入れがあります”というよりはもうちょっと、今やからこそ気負いがない感じにはなったと思いますね。特に最近は、ライブをあまりにやってなさ過ぎて(笑)。だから今は、演奏するのが楽しみな感じかな。それこそ、ここ半年ぐらい合奏することがあんまりないじゃないですか。この前、撮影でちょっとだけ一緒に演奏する機会があったんですけど、すごく楽しかったんで」
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――井上くんはどうですか? 4年前はみんなが集まって何かする“場所”だと言ってたけど、意地でアルバムを作ったと言うからには、並々ならぬ想いはやっぱりあったよね?
井上 「うん。それはもう関係してくれた人たちの顔も浮かぶんで、ここでヘタなものは作れへんという責任感というか…バンドって何だろうな? 不思議。本当に何でしょうね。だいたい閉まってる店ちゃいますかね?(笑) 行ってみて、“あ、今日はやってる”みたいな」
――個人的には、Gotchバンドの、プロデューサーの、ギタリストの井上陽介より、Turntable Filmsの井上陽介を見たいと思うけどね。誰かのサポートでステージの端に立ってる姿より、真ん中で自分の歌を歌ってるところを。
井上 「なるほど…それは、ちょっと受け止めます。でも、Turntable Filmsは本当に民主的なので、最初は本当に1人4曲書いてこいと思ってたし(笑)、バンド=1人1人の人生が集まってくるもんだと思ってるんですよね。だからヘンな話、“あ、これはTurntable Filmsでやろう”と思ったら、それがTurntable Filmsなんだと思う。僕にとって音楽を作っていく上での1つの場所であるのは間違いないと思います。これまでは全部がそうだったんですけど、今はそういう感覚ですね。谷が気負いがないと言ってるのも、そういうところからかもしれないですけど」
谷 「結局、今回もほとんど陽ちゃん(=井上)が曲を書いたんですけど(笑)、曲を作るのってタイミングもあるので、僕は曲ができひんときは全然できひんタイプなんですよ。でも、チャンネルとしてTurntable Filmsという“場所”があるからできることがあるし。それが何でなのかは、自分でも分からないですけどね」
――何だろうね、どんどん言葉にできないものになっていくという。でも、いろいろやってるけど“これはタンテやな”と思うチャンネルが、やっぱりあるということか。
井上 「うん。それが次にいつ出てくるのかは分からないですけど、面白いものであったらいいなと思ってます」
今はすごく面白い、音楽が
――タイトルが『Herbier』(=押し花)とは、聞き慣れない言葉ですね。
井上 「雑貨屋に16世紀ぐらいの枯れた花を額に入れて飾ったものが置いてあって。言わば、すごく古いドライフラワーという感じですかね。ちょっとレトロで歴史を感じるそれに目を惹かれたら、そこに『Herbier』って書いたあったんですよ。文字面がすごくいいなぁと思ったのと、花の一見シンプルですけどよく見ると複雑な感じとかが、自分が音楽を作っていく上でつながって、これはタイトルにピッタリやなと思って」
――シンプルに見えるけど複雑で…今の説明を聞いていて、まさにタンテのことだと思った。それにしてもいいアルバムができましたよね、意地で(笑)。
井上 「本当に長い間、頑張りました。ホンマ…長かったよ!(笑) でもね、人生は何が起きるか分からないから、そういうタームだったのかもしれないですね」
――あと、年齢的にも30代で変化の時期というのはあったかも。よくインタビューでも話すけど、俺は男は32歳からだと思っていて(笑)。20代のときの認められたい気持ちとか権威へのモヤモヤとか、いろんな邪念や迷いが諦めと共に取り払われて、好きなことをやるしかないと思考がシンプルになって…。
井上 「分かるぅ〜!」
――それを貫いていくと、気付いてくれる人たちが増えていく。多分、周りから見てスタンスが分かりやすくなってるんやろうね。タンテは今そのゾーンだろうから、そこにいるうちにたくさん音楽を作ったら面白くなるかも。
井上 「いや~だと思います。本当に昔の方が、自分で自分の考え方を凝り固めてた感じはあったんで。僕が今すごく思うのは、めちゃくちゃ自分の知らへんことが多くて、知ってて浅いなと思ってたことでも実はすごく深いということが多々ある。こうやって何にも分からへんまま死んでいくんやろうなとは思うけど(笑)、その分からへん海を漂ってるのが今は面白いから、それですごく自由になれた気がします。この2〜3年は特に、物事の面白さと奥深さを知ったというか…だから、今はすごく面白い、音楽が。うん。よう飽きひんわ(笑)」
――そんなものが人生に1つあっただけでも幸せよね。
井上 「いや~音楽は本当に人生の最高の遊び道具ですよね」
――そして、3曲もボーナストラックが入ってるのは、5年待たせたせめてもの、ね。 で、次のインタビューはいつになるんやろうなぁ…また4年後?(笑)
(一同笑)
谷 「まあ、39歳までにとか(笑)」
――30代を締めくくる1枚、それは面白いかも。
谷 「前のアルバムが出てから今まででも世の中は随分変わったし、音楽の聴き方もバンドのやり方も全部変わったような気がしていて。いろいろと社会に対しても思うことはあるし、さっき言ってはった30代でやることが定まっていくこの感じ。自分がどうあるべきかという意識も変わったから…今、こんな世の中で、みんなどういうふうにバンドをやってるの? とも思うけど(笑)、なるべく自然にできたらいいなと思いますけどね、音を含めて」
井上 「やっぱり僕は、音楽人生で面白いなぁと思うこと、興味のあることをやっていきたいかな。しかも、今が一番ギターを弾くのが好きなので。だから、アホみたいに毎日ギターを練習してるんですけど飽きなくて。面白いなぁと思う音楽にどんどん近付いて研究して…そんな中から生まれた不思議なアルバムなんですよね、『Herbier』は」
――作った本人からしても不思議なんや。
井上 「すごく不思議です! ただ、自分の中で筋は通ってるんです。音楽の歴史を調べてると、ルーツを探っていったら簡単に見つけられると思っていたものも、結局はいろんな音楽が混じって出来上がってることに気付くんですよね。音楽のそこに改めて惹かれたし、フォークとかロックとか言い切ってたものが本当はもっと混ざり合ってる。僕はその感覚をこのアルバムから感じるので、そこは気に入ってるところですね。だからこそ、自分でも訳が分からないんですけど(笑)。でも、そういう分からないことをやっていきたいし、ちょっとヘンな混血音楽みたいな感じですけど、それに出会ってくれる人がいたら、すごく幸せです」
谷 「最初に出来上がってきたときから、この9曲でまとまりやなって聴いて分かったし、曲単位よりアルバム単位で聴いた方がやっぱりいいなと思うんですよ。最近はそういう聴き方をする人が少なくなっていってるから、もしかしたら廃れていくような音楽かもしれないですけど(笑)、このアルバムを聴いてくれる人は自分と感覚を共有できる人だと思うから。自分でも聴きたいような音楽に自分が参加して、その作品が世に出るのはすごく嬉しいですし、気に入ってくれたらいいなと思いますね」
――ルーツミュージックを自分なりに体現していったバンドから、本当に混血のオリジナルな音楽ができていく、スタート地点のような気がする、『Herbier』が。
井上 「言われてみたら、そういうスタート地点に立とうとしたのかもと、今思いました」
――なので、30代のうちにもう1枚、よろしくお願いします!(笑)
井上 「確かにそれができたら面白いですね。残りの30代も頑張ります!(笑)」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2021年1月20日更新)
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東京⇔京都でリモートでお届け! Turntable Filmsからの動画コメント
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Release
ジャケットイラストはJon Koko作 5年ぶりとなる至宝の3rdアルバム!
Album 『Herbier』 発売中 2182円(税別) only in dreams ODCP-024 <収録曲> 01. Something 02. Disegno 03. A Day of Vacation 04. Shape Your Town 05. The Silence 06. At the Coffee House 07. Van Folk 08. Stein & Burg 09. Summer Mountain [Bonus track] 10. Paper Bag 11. Pale Moon Rag 12. Hollywood
Profile
ターンテーブル・フィルムズ…写真左より、井上陽介(vo&g)、谷健人(b)。田村夏季(ds・活動休止中)。メンバーの地元である京都にて結成された3ピースバンド。’10年2月にミニアルバム『Parables of Fe-Fum』でデビュー。収録曲2曲が京都α-stationのヘヴィプレイに選出され大きな話題を集めると、『ボロフェスタ』『京都大作戦』『みやこ音楽祭』といった人気フェスにも次々と出演。同年11月リリースのライブ会場限定アルバム『10 Days Plus One』を経て、’12年4月にリリースされた1stフルアルバム『Yellow Yesterday』で、日本のインディーロックシーンでの確固たる地位を獲得。翌’13年4月には、同郷のくるりとの共同イベント『WHOLE LOVE KYOTO』を京都KBSホールにて、同年8月からシャムキャッツとのスプリットアナログ盤を携えての全国ツアーを敢行、共に大成功を収めた。’15年11月には、3年7カ月ぶりとなる2ndアルバム『Small Town Talk』を、ASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文(vo&g)が主宰するレーベルonly in dreamsよりリリース。’20年11月11日には、実に5年ぶりとなるニューアルバム『Herbier』をリリースした。Turntable Films オフィシャルサイト http://turntablefilms.com/
Live
東京(配信あり)&地元京都にて リリースワンマンライブが開催へ!
『3rd Album「Herbier」 Release Oneman Live』【東京公演】 チケット発売中 ▼1月31日(日)18:00 表参道WALL&WALL 前売4000円 ストリーミング1500円 [メンバー]mabanua(ds)/ George(Mop of Head)(key,Manipulator)/ 宮下広輔(Pedal sg) 表参道WALL&WALL■03(6438)9240
Pick Up!!
【京都公演】
チケット発売中 ▼2月21日(日)18:00 UrBANGUILD 前売3000円 [メンバー]senoo ricky(ds)/ yatchi(key)/岩城一彦(Lap sg) UrBANGUILD ■075(212)1125
Column1
Turntable Filmsの不思議を紐解く 『Small Town Talk』セッション ルーツに京都にアジカンゴッチや くるり岸田繁とのつながりまでを ファイナル磔磔前に語る('16)
Column2
FM802『MIDNIGHT GARAGE』 ×ぴあ関西版WEBの大好評 “SPECIAL TALK!! Vol.2” DJ土井コマキとTurntable Films 井上陽介(vo&g)のオンエア し切れなかった対談完全版!('14)
Recommend!!
ライター奥“ボウイ”昌史さんの オススメコメントはコチラ!
「前回は京都のなじみのカフェにメンバー3人が集まったのが、今回はリモートで2人という変化に、流れた時間を感じましたね。でも同時に、“Turntable Filmsという不思議を紐解く”と題した4年前から今でも変わらない、タンテ独特のノリと関係性とバランス感覚は、きっと僕らには分からないままなんだろうな(それでいい)と妙に納得したというか…これも“バンド”だよなと逆に思わされたのです。そして4年前は、“Turntable Filmsは、みんなが集まって何かする“場所”みたいなもの”と言っていた彼らが、“Turntable Filmsという場所があるからこそできることがある”と語ったのも興味深くて、それぞれの音楽人生の中でタンテの位置付けが変わっていくのを定点観測しているようで…これからもこの才能の行く末を見届けたいなと切に思いましたよ。だって、『Herbier』によってルーツ=憧れをモノにして、本当にボーダレスなアーティストになったと思うので。井上くんは前作を“ヒットかなと思ったけどやっぱりフェア”と野球に例えて言ってたけど(笑)、今回はどう思ったんだろう? ちゃんとかっ飛ばしたと思うよ!」