春畑道哉が手掛けたJリーグ公式テーマ曲が
今年、25年ぶりにアップデート!
TUBEと並行しながら
インストゥルメンタル音楽の地平を切り開き続けるギタリスト
春畑道哉インタビュー
音楽監督を務める羽毛田丈史のもと、上質の癒しの時間をくれる音と映像の祭典『live image』。18回目の今年は、6月14日(木)東京Bunkamuraオーチャードホール、6月24日(日)大阪フェスティバルホールでの2公演にTUBEのギタリスト、春畑道哉が初出演することも大きな話題を呼んでいる。春畑といえば、彼が手掛けたJリーグ公式テーマソング『J'S THEME(Jのテーマ)』が、本年のJリーグ開幕25周年を記念してリアレンジ&再レコーディングされ『J'S THEME(Jのテーマ) 25th ver.』として誕生。数々の熱いドラマを彩ってきた名曲が、アップデートを遂げることでさらに魅力的な楽曲へと進化。その曲を含め、これまで廃盤となっていたミニアルバムをリマスタリングした『J’S THEME~THANKS 25thAnniversary~』(8月22日(水)発売)の発売も決まり、TUBEの活動とはまた一味違うギタリスト春畑道哉が手掛けたJリーグ関連のナンバーを改めて楽しむことができる。インタビューでは、今年初出演となる『live image 2018』の見どころや自身のソロについても語ってくれた。
25年前よりももっとポジティブに、前向きに
――1993年にJリーグの開幕セレモニーで春畑さんが『J’S THEME(Jのテーマ)』を演奏した時から、日本のサッカーの歴史、Jリーグの歴史は春畑さんの曲とともにあったといえますね。
「ありがたいことですよね。当時、日本でサッカーがプロ化するという大きな出発の時にこのお話を頂いて、その際に“このテーマソングは、春畑が死んだ後も残っていくんだよ”という話を最初にお聞きして。開幕のセレモニーに向けてみんなで試行錯誤しながら作っていたのを覚えています。光栄だなと思いつつ、若干“僕でいいんですか?”という気持ちもあって(笑)」
――“亡くなった後も残る”というのは重みのある言葉ですが、まさに楽曲が独り歩きというかサッカーをしない人や、中にはTUBEを知らない人でもこの曲を知っているという方も多いでしょうね。
「そうですね。TUBEを聴かない人や、音楽にそれほど興味がない方の耳にもテレビのニュースなどを通じて勝手に入っていたり(笑)。サッカーを観に行く人であれば試合前のセレモニーで触れる機会もあるでしょうし、そういうきっかけから音楽に興味を持ってもらえることがあれば、それもありがたいなと思いますね」
――今回25年ぶりに新バージョンの『J’S THEME(Jのテーマ) 25th ver.』を作るにあたって、特に心を砕いた点はありますか?
「リアレンジって実はすごく危険な作業で、僕自身もいろんなアーティストのリアレンジ曲を聴くんですがオリジナルバージョンへの思い入れが強いほど、時には“こんな風に変わっちゃったの?”と思う場合もあるのでちょっと怖いなと思いつつ(笑)。今回は“変わるもの”と“変わらないもの”というテーマがあったので、音でもそれを表現したいなと思いました。何を変えないで、どんなことに新しくトライするのかを試行錯誤しながら、オリジナルで感じられるものは残したかったのでギターのメロディーは一切変えないでおこうと。弾き方も、今の自分の弾き方をするアプローチ方法も出来たけど、そこは変えずにギターのトーンも王道の音を突き詰めていくという形で。テンポもサイズも変えず、曲の軸はブレないで、進化した部分として25年前には無かったリズムや、シンセのパターンを入れて。25年前よりももっとポジティブに、前向きにイメージ出来るように作りました」
――新バージョンを聴かせてもらった時に、自分の中では春畑さんの2016年のアルバム『Play the Life』に収録されていた曲『LIFE』とリンクするところがありました。歓喜の瞬間もあれば歯を食いしばる瞬間もある人生のいろいろな場面が『LIFE』には描かれているように感じて、曲の持っている強さや前に向かわせてくれるものは共通しているんじゃないかなと。
「インストミュージックを聴いてそのように感じてもらえるのは嬉しいですね。聴く人によっては、“いつ歌が始まるんだろう?”とか“長いイントロだな”と思う方もいるみたいなんですよ (笑)」
――8月に発売されるミニアルバム『J’S THEME~Thanks 25th Anniversary~』の最後に『J’S THEME(Jのテーマ)25th ver. -Guitar less track-』(M-9)が収録されていますね。YouTubeなどにもファンの方がコピー演奏をしている動画がたくさんアップされていますが、ご本人自らギターレスのトラックを作られるとは(笑)。
「僕のギターが好きだと言ってくれるマニアックなファンの方もいて、“一緒に弾きたい”と言ってくださる声も多いんですが、ギター用のカラオケってなかなか無いので今回はこのような形にしてみました(笑)。曲に合わせて弾いてもらえたら、ギターキッズにも楽しんでもらえるかなって」
――そして、6月24日(日)に大阪フェスティバルホールで開催される『live image 2018』に今年はソロで初出演されますね。
「以前からコンピレーション盤『image』このアルバムをよく聴かせてもらっていて、凄腕の演奏家の方が集まっているし、いつか共演出来たらいいなとはずっと思っていました。昨年、沖 仁さんのコンサートを観に行かせて頂いたのですが、それまで本物のフラメンコを見たことがなかったし、とにかくびっくりしたんですね。僕の弾くガットギターとは次元が違うと思いました。僕は普段ピックでギターを弾くんですけど、沖さんのプレイを生で見たら(フラメンコギターの)爪で弾くナイロン弦のギターを試さずにはいられなくて。終演後に楽屋へご挨拶に伺った時に“すみません。爪をさわらせてください”ってお願いしてまじまじと観察させてもらったぐらいで (笑)」
――当日はどんな演奏が聴けるでしょう?
「音楽監督の羽毛田(丈史)さんとの打合せで、今回の新しい『J’S THEME(Jのテーマ)25th ver.』とオリジナルも聴いていただいて、“2曲をミックスしてこのメンバーならではの、この日しかできないアレンジでやりましょう”と言ってくださって。僕自身この曲をストリングスと一緒に演奏するのは初めてなので、どのように仕上がるのかリハーサル前からワクワクしていました。当日はアルバム『Play the Life』から『Blue Moment』も演奏するんですが、この曲も羽毛田さんの手によってどのように変化して生の音で聴けるのか自分でもめちゃめちゃ楽しみで。皆さんと一緒に演奏出来る曲もあるし、フェスティバルホールという会場自体が素晴らしいので、自分が演奏していない時は客席で聴いていたいぐらいです(笑)」
インストミュージックの楽しさは
自分好みに解釈して聴けるところ
――TUBEは今年デビュー33周年で、春畑さんのソロも30周年を超えました。春畑さん自身これまで何百曲も作品を作られてきましたが、音楽をやる上で原動力になっているものは何でしょう?
「まず曲を作るのが好きで、演奏するのもアレンジするのも好きで、レコーディングの作業も好きなんですね。そうやって出来た曲をお客さんの前で演奏して、聴いてもらうことが好きで。……でも、改めて考えると原動力ってなんだろう?(笑)」
――その“好き”という気持ちが30年経っても変わらないんですね。子供の頃に音楽を聴いて“この曲、カッコいい”と思ったり、ギターをジャーンと鳴らして“気持ちいい!”と感じた初期衝動のようなものに近いでしょうか。
「どうなんでしょう? いまだに面白いんですよね。“こんなエフェクターがあるのか”ってワクワクしたり、新しいアンプを見つけたら試してみたいし、新しいギターを持つとめっちゃ興奮しますね。もちろん、スケジュールが立て込んだりするとちょっと休みたいなと思うこともありますけど、休みが続くと気がついたら譜面を書き始めちゃったりしていて。プレイするのも好きだから、ベッドの横にはギターが置いてあるし、自分のリラクゼーションのために寝ながらガットギターを弾いたりしていて。それは仕事をしているという感覚ではないかもしれないですね。曲も、思いついちゃったものは書いておきたいし、書いておかないと一瞬で忘れちゃうぐらい記憶が長続きしないというだけで (笑)」
――『Play the Life』を出されたときの当サイトのインタビューで、50歳の節目を迎えられた心境も語られていました。あれから2年が経ちましたが、自分の中で変化はありますか?
「今回の『live image』もそうですが、これまでソロでイベントなどに出演させて頂くことはそれほど無かったんですね。TUBEのレコーディングがあってツアー、それからソロのレコーディングをやりツアー。そうやって自分の中で年間スケジュールを決めてしまっていたところがあって、お誘いがあっても“その時期はTUBEが忙しいから”とか“レコーディング中だから”というふうに考えていたけど、『Play the Life』以降は意欲が出てきたというか、曲を作ったら発表したいし、そうなるとハードスケジュールになってでもやりたいことがたくさん出てきて。今もレコーディングはしていて、具体的なリリース時期などはまだ決まっていませんが、アコースティックデュオのような楽曲を集めた作品や、もう一方ではロックとか自分の中から出てくるものをどんどんレコーディングしていて、曲数としてはかなりたまってきています。またソロツアーもやりたいし、今はいろいろやりたい時みたいです(笑)」
――TUBEは今や多世代でライブにやってくるお客さんもいる国民的バンドで、夏と言えばやっぱりTUBE。そして、春畑さんのソロはまた趣が違って、ギターの音色と会話をするように聴いたり音からいろんな想像をさせてもらえる。それは歌詞のない音楽だからこそなのかもしれません。
「インストミュージックの良さはそこなんだと思います。歌詞がないことで、“この曲はこのことについて歌っているんだ”というとらえ方にならないし、同じ曲でも聴く人によって“やる気が出てくる”と感じる人もいれば、“疲れが癒される”と感じる人もいる。自分好みに解釈して聴ける楽しみ方がありますよね。まだまだ自分の課題もあるし、やってみたいこともたくさんあるので、色々なことにチャレンジしながらインストミュージックの面白さをもっといろんな人に楽しんでもらえるよう頑張ります」
text by 梶原有紀子
(2018年6月 8日更新)
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