「辛いこと楽しいことを盛り込みながら、 人生というものを表現したかった」 50歳という節目を迎え、ギタリストとして今、 リアルに感じることを詰め込んだ アルバム『Play the Life』について語る! 春畑道哉インタビュー
TUBEのギタリストとしてデビューして今年で31年、そしてソロアーティストとしても30周年を迎えた春畑道哉。長きにわたり第一線を走り続けてきた彼が実に16年ぶりのフルアルバム『Play the Life』をリリース、インストでは異例のオリコン週間アルバムランキングで9位にランクインした。ギターで人生を奏でるべく、彼の音楽人生を振り返るような多彩なサウンドが詰め込まれた充実のギターインストアルバムとなった。ひとりのアーティストとして何を表現したかったのか、またギタリストとして今、リアルに思い感じていることは何なのか。そして4年ぶりに11月16日から行われるソロツアーの内容は。ギターキッズがそのまま大人になったような、純粋で飾り気のない言葉をたくさん聞かせてくれるインタビューとなった。
ソロ30年目50歳の節目に自分の音楽人生を振り返る作品を創りたかった
――ソロ活動30周年を迎えられたわけですが、この30年はいかがでしたか?
「普通、バンドのギタリストってインストのアルバムを出すことはあまりないと思うんですが、TUBEでデビューして2年目にプロデューサーの方からソロアルバムを出そうって言われまして。同時期にボーカルの前田もブルースアルバムをリリースしました。最初は戸惑いもありましたし、まだ20歳そこそこだったので何をやろう?というのはあったんですが、それまでコピーしてきたものやジェフ・ベックのようなアルバムを作りたい気持ちもあったので、始まりはそんな感じでしたね。でも、実際やってみるとバンド以外での活動はいい気分転換にもなりますし、そこで得たものをTUBEに持ち帰って活かすこともできるので良かったですね」
――バンド活動との両立は厳しくなかったですか?
「TUBEの場合は活動のサイクルがわりとはっきりしているんです、夏に仕事して、比較的秋冬が空きやすいという…なので、その時期に集中してソロ活動をしてきたという感じです」
――そしてフルアルバムとしては16年ぶりの作品『Play the Life』がリリースされましたが、どのような作品にしようと。
「今までは、普段から書きためてきた曲をバーッと出してきただけだったんですが、ソロ30年目で50歳という節目を迎えるわけだから、ちょっとコンセプトに沿った作品にしたいなというのはありましたね。アルバムの中に『LIFE』という曲があるんですが、これは自分の音楽人生を振り返って作りました。やっぱり、これくらいの年齢なると人生にも色々なことが起こりますよね…春畑モデルのギターを作って下さったビルダーさんや、アルバムの最後に収録されている『Timeless』のピアノの持ち主の方がお亡くなりになったり。その一方で親しい人に新しい命が誕生したり。そんなふうに辛いことや楽しいことを盛り込んで人生というものを表現したかったんです」
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――『LIFE』が誕生したことでアルバムの全体像が見えてきたと。
「そうですね、核になる曲ですね。それから、インストを聴かない人にも聴いてもらえるアルバムにしたかったというのはありますね。時々「長いイントロですね、歌いつ始まるんですか?」って言われたりしますから(笑)」
――それにしても様々なタイプの楽曲が収録されていて驚きました。中でもゴリゴリのハードロックな『JAGUAR‘13』と、まるでショパンのようなピアノインストの『Mystic Topaz』の振り幅はすごいです。
「自分でも思います、落差が激し過ぎますよね(笑)」
――ピアノを弾かれるとは意外でした。
「実は幼稚園から中学入学までピアノを習ってたんです。あまりよく覚えてないんですが、どうやら自分から習わせてくれと親に頼んだらしくて。で、『Mystic Topaz』は8年前に作った曲なんだけど、実際に小さい頃弾いていた家のピアノをスタジオに持ってきて録音したんです。アップライトピアノっていう四角い箱みたいな、よく家庭にあるあれですけど、前や上のパネルを全部外してマイク立てて録ったんですよね。そしたらその音が思いのほか良くて、今回アレンジにも携わってくれたキーボーディストの旭純氏も「この音、このままでいいんじゃない」って言ってくれたし、一切加工しないで素のまま入れたんです」
――素のままの音を作品にすることに意味がありそうですね。
「そうですね、それこそ50年近く弾いてきた自分のピアノの音だし、ありのままの音をありのままに収録することはアルバムのテーマにも合っていますし」
――4曲目の『Ripple』も意外でした。イージーリスニングテイストのヒーリング系サウンドが新鮮です。
「そうですね。これは今までのソロの中でもやってこなかったテイストですね。バーッと弾きまくるだけじゃなくて、その曲の中にいるだけで気持ちいいという感覚を求めた楽曲です。それこそヒーリング効果じゃないですけど、気持ちいいトーンを探してそれを味わうことが楽しいというか。やっぱり歳を重ねてきたからこそ生まれてきた欲求かもしれませんね、若い頃はとにかく弾きたくて弾きたくて仕方ないですからね(笑)」
――TUBEのセルフカバーでボーカルも聴かせてくれる『Smile On Me』のエレクトロな感じも面白いですね。
「めったに歌うことはないんですけどね(笑)。これは最初から作りたいイメージがあったんです。ボーカルが機械的で、アレンジの一環としてサラサラ流れていくような感じにしたくて…でもこれが難しくて、仕上がるまで一番苦労しましたね。レコーディングに入る前によくEDM系を聴いていたんですが、その中でもZeddの音に影響を受けて…キックとベースの切れ味がものすごくて、それでいて空間も感じられる音像にしたかったんです」
若い人たちのギター離れを止めるには僕たちプロが格好いい演奏をするべき
――節目の時期を迎えた今、ギタリストとしてまたミュージシャンとして思うところや表現していきたいことって何かありますか?
「最近よく楽器業界の人たちと話していて思うのが、僕らが若かった頃よりもバンド離れ・ギター離れが進んでいる気がして…若い人たちはギターを手に取るよりも違うアプローチで音楽を作っているんですよね、例えばパソコンなどで。バンドを組むというのは確かに面倒だし大変なんです、バイトしてお金貯めて時にはメンバーと喧嘩しながら(笑)。でも今の若い人たちはそういうのを避けて、ひとりで解決しながら良くも悪くも楽に作っている状況みたいで。この間もL’Arc-en-Cielのken君と話してたんですけど、若い人たちがギターを持つためには僕たちプロが「うわ!格好いい!」と思ってもらえるような演奏をしないといけないんだよねってことと、エフェクターなんかの機材も面白いなって興味を持ってもらえる機会を作っていかなきゃいけないねって言ってたんですよ」
――ギターを広めよう運動ですね。
「そうそう。やっぱり今の40,50代のほうがギターに対しては熱いんですよね。購入するのもその世代が多いみたいですよ。」
――ところで、ピアノを習っていた春畑さんがギターに目覚めたきっかけは何だったんですか?
「中学に入学して先輩のバンドに誘われたことですね。その先輩のギターが本当に格好良くて憧れの存在で、その人みたいに弾きたくて始めたのがきっかけですね」
――春畑さんもそうですが、丙午生まれのアーティスト、ギタリストって個性的で主張が強い人が多くないですか?
「トータス(松本)さんとかね」
――斉藤和義さんや吉井和哉さんもそうですよね。これは偶然ですか?何かあるんでしょうか。
「何でしょうかね? もしかしたらメタルの血が根っこに流れているからかもしれない(笑)。斉藤さんも僕も同じだったんだけど、やっぱりLOUDNESSのコピーはマストでしたからね。」
癒しとスリリングなバンドサウンドが共存するソロライブに
――そしてツアーも始まります。
「4年振りになりますが、激しいだけでなくイージーリスニング的なものも自分の中でアリになってきたので、癒されたり元気になって帰ってもらえるようなライブにしたいですね。もちろんスリリングなバンドサウンドも楽しみにしていただきたいです。ピアノを弾いたり歌も歌いますしね…あ、歌詞覚えなきゃ(笑)」
――ツアー終了後は?
「12月31日にTUBEの大晦日ライブがあるので、そちらの準備が始まりますね」
――TUBEは32年目に突入しましたが、今の率直なお気持ちは。
「もう人生の半分以上一緒にいるので、本当に長い付き合いですよね。でも60,70歳になっても続いている大御所バンドもいるので、それを考えたらまだまだです、むしろこれからですよ。ビーチボーイズやベンチャーズみたいに、おじいさんになっても夏の曲をやっていたら面白いですよね、夏だけ集まって(笑)」
――(笑)日本にはまだいない存在ですね。ここまでバンドが続いてきた秘訣は何でしょう?
「TUBEが本当に恵まれているのは、夏働いて冬休むっていうサイクルで活動させてもらっていて、それが良かったからじゃないでしょうか。切れ目なく続いているとやはり息切れしてくると思うんです。だからここは働く、ここで旅行に行くという感じでメリハリをつけて活動できることが秘訣のひとつだと思いますね」
――TUBEならではの秘訣ですね。
「あとは、ファンとスタッフが最強でなんです。ファンのみなさんはまるで家族か親戚のようで、ちょっとサボると怒られますし、なかなか厳しいんですよね。だからソロツアーもダメ出しされないよう頑張ります(笑)」
text by 森川和美
(2016年11月16日更新)
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