悔しくて、嬉しくて、楽しみで、ムカついて…誰もが過ごした眠れない夜を、確かに自分の感情が動いた“マジックアワー”と称したのは、まさにこのバンドの生き様のよう。名曲『想像だけで素晴らしいんだ』('15)を元にした短編映画の制作費を募ったクラウドファンディングは見事に達成。山本圭壱(極楽とんぼ)、あやまん監督(あやまんJAPAN)らに加え、ともに歩んできたバンドマンも多数出演したそんな『想像だけで素晴らしいんだ - GO TO THE FUTURE-』から、その主題歌をタイトルに掲げた新作『ザ・マジックアワー』、そして、大阪・味園ユニバースでの『春のPAN祭り』を皮切りにスタートするツアーまで、川さん(vo)&ゴッチ(g)が現在の心境をざっくばらんに語ってくれたインタビュー。新作のカップリング曲『3年後の自分から来た手紙』で綴られた、“この胸に この胸に Oh/響いてる高鳴り/まだやれる まだやれる Oh”という一節。結成から23年、PANは、音楽は、続いていく――。
――事の発端は、『想像だけで素晴らしいんだ』(‘15)のMVを作ろうというところから映画につながって。逆に、当時はMVを作らなかったんですね。
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川さん(vo) 「何台かカメラに入ってもらったライブ映像があったんで、それをYouTubeとかには公開してたんですけど、いつかちゃんとしたMVを作りたいなっていうところから発展して。『想像だけで素晴らしいんだ』は自分らの結成20周年のことを歌った曲やったし、バンドマンは自分に置き換えて聴いてくれたり、それはお客さんもそうやと思うんですけど、この曲をいいって言ってくれる人が思った以上に多くて」
ゴッチ(g) 「最初は“ここまでストレートな曲でいいのかな?”っていう気持ちも少しあったんですけど、最終的には“どうせやったら振り切ってしまえ!”みたいな勢いで作って。いろんな人に届いた反応も嬉しかったし、映画になったのは僕らにとっても面白い経験で」
――映画化に関しては、誰が最初に言い出したんですか?
川さん 「スタッフも含めてチームで“映画にしてみーへんか?”みたいな話が出てきて、この曲やったらストーリー性があるんで何かできそうやなって。だったら映画監督がいるなぁとか、クラウドファウンディングとか、そういうところが後からだんだんつながっていくという」
――ちなみに、最近観て面白かった映画はあります?
川さん 「『湯を沸かすほどの熱い愛』('16)はヤバいっす。いや、あれはね、泣きますね。ホンマ、どんだけ器デカいねん!みたいな。いい映画でしたね。昔はね、それこそ(ゴッチと)一緒に映画館に行ったりもしたんですけど」
ゴッチ 「『ヒーローインタビュー』('94)ね。絶対カップルで観に行くであろう映画を、野郎2人で行くという(笑)」
川さん 「小学生か中学生かぐらいのときやな。CHAGE and ASKAが主題歌を歌ってて、真田広之と鈴木保奈美が、最後に車の上でキスをする、みたいな(笑)」
ゴッチ 「ホームに駆け込みながらスローで鉄板のチャゲアスが流れてくるんですけど(笑)」
――映画には懇意のバンドマンも多数出演してますが、キャスティングはどうやって決めたんですか?
川さん 「その辺はもう自分らで。監督の方から“こういう役があって、誰か探してほしい”って言われたら、“ホスト役やったらじゃあこいつやな”とか(笑)」
――それは誰?(笑)
川さん 「オメでたい頭でなによりの赤飯(vo)っていう(笑)。意外とみんな興味を持ってくれたというか。その中でもTHE イナズマ戦隊の(上中)丈弥(vo)には、“主役級の大変さかも知れへんけど、受けてくれるか?”って頼んで。簡単なことじゃなかったと思うんですよね。僕らより遥かにセリフも多かったし、そこをよくやってくれたなって」
――結局のところ、ちゃんと出会ってきたPANの歴史が分かるようなキャスティングですけど、(映画の資料を見て)この佐々木(亮介/a flood of circle(vo&g))くんのプロフィール写真、どんだけ若いねん!(笑)
川さん 「それだいぶ今とちゃいますね(笑)。佐々木の役は普段の彼と全然違う役で、革ジャン着てたら絶対にアカン役で(笑)。それを佐々木も理解して演技してくれてたんで」
――あと、オカモト“MOBY”タクヤ(SCOOBIE DO(ds))さんも、この髪型やったらやる役限られますよね?(笑)
川さん 「いやでもね、MOBYさん、バッチリでしたね」
ゴッチ 「めちゃくちゃ上手かったんですよホンマに(笑)」
川さん 「代わる代わるいろんな人が出てくるんで、観てて飽きないと思いますよ」
ゴッチ 「別にバンドマンって知らない方でも普通に楽しめると思いますし、クオリティ的にもすごく高いので」
――アベラヒデノブ監督はどんな方でした?
川さん 「スタッフに感性が合いそうな監督を探してもらったんですけど、関西出身で、すごい変わった人というか」
ゴッチ 「僕も第一印象は変わった人やなぁと思いました。喋りの間とか、その言葉のチョイスとか、“そこ、恥ずかしがるんや”みたいなところとか(笑)」
川さん 「あと、僕らも映像を撮ることってまあまああるじゃないか? けど、今回のチームの映像への情熱やこだわりはもうホンマにすごいなって。“これでもう1回やり直すんや”みたいなこともあったし、常時20〜30人のスタッフが動いてくれてたので、ありがたいなとは思いましたね。『想像だけで素晴らしいんだ』が映画というものに形が変わって、ちょっとでもこの曲を知ってくれる人が増えればいいなって思いますけどね」
やったことのないこと、新しいことをやろうと思うと大変なんですけど
やったらやっぱり達成感があって、それが自分らは楽しくて
――ただ、その映画の主題歌となるシングルは『ザ・マジックアワー』って、『想像だけで素晴らしいんだ』ちゃうんかいっていう(笑)。
ゴッチ 「最初は僕もそう思ってたんですけど、これは僕らのドキュメント映画じゃなくて、全く別のストーリーがあるということで、じゃあ主題歌があってもいいのかなって」
――自分の映画に自分でタイアップ曲を書くみたいな感じですね(笑)。セルフライナーノーツにも書いてましたけど、眠れない夜がある=何か情熱を燃やした時間があった。それをマジックアワーと呼んでしまおうという捉え方こそが、PANのオリジナリティですよね。
川さん 「歌詞を書くのは夜が多いんですけど、“次の日のこともあるんで今日はもうこの辺で止めとこう”とか思うんですけど、直前までフル回転してた頭では寝れないんですよね。ある種興奮してるというか、それって自分らであったりお客さんがライブの余韻が覚めなくて眠れないのとかも一緒なんかなぁって。そういう意味でも、興奮して寝られへん心地いい時間=マジックアワーと呼んでもいいのかなって」
ゴッチ 「あと、最初の語りの部分とかのアレンジはハマるやろうなとは思ってたんですけど、いざやってみると、思ったより心に直接飛び込んでくる感じになったので、すごく満足のいくものができたなって」
川さん 「最初はメロディに言葉を乗せてたんですけど、何か引っかかりが欲しいなと。単純に語り口調にすると言葉数を増やせたりもするんで、だったら思ってることを全部吐き出してやろうみたいな感じで。これから曲がライブでどう変わっていくのかが楽しみで、言い方であったり内容も、どんどん変わっていくんやろうなって」
――『ザ・マジックアワー』は、バンドの歴史をすごく感じさせる曲ですね。
川さん 「“いつまでバンドがやれるのか?”とか、やっぱり思ったりもしますし。例えば、打ち上げでワイワイしてるけど、“こんなことってもう1回あるんかな?”とか思う瞬間があったり、あと何回、同じメンバーでライブができるのか? もうそういうことも全部言ってしまおうみたいな。やっぱりこう…ライブのときのあの感情って、普段何もせずにいたら多分ああはならないと思うんですよ。それが音に乗って、ステージで、お客さんの前で、とかなると、“こんな自分がおったんや、こんな言葉が自分から出てくるんや”とか…そういうことを知れたとき、“あぁ、バンドをやっててよかったな”と思ったりしますね」
――もうこの曲には全部入ってる気がします。“未来は素知らぬ顔して近づいてくる”っていう1行はまさにですけど、知らない間に時はどんどん経っていく。
川さん 「何にもせーへんかったらホンマに平凡に終わるし、楽をしようと思ったら何ぼでも楽できる。でも、それが面白いのかと言われたら全然違って。やったことのないこと、新しいことをやろうと思うと大変なんですけど、やっぱり達成感があって、それが自分らは楽しくて。今回の映画もいろんなことが全部大変だったんですけど、やり終わった後にはやってよかったなぁと思う。もう大っきな話、人生が終わるときにそう思えてたら最高やろうなぁって」
――『ザ・マジックアワー』は映画の主題歌ではありますけど、同時にPANの“生き様”みたいな感じがしますね。
今もまた、もがく時期なのかなって
――カップリングの『3年後の自分から来た手紙』(M-2)については、10年後とかもっと遠いスパンではなく3年はちょっと短いよなぁと思ってたら、かつての結成20周年のアニバーサリーイヤーに、がむしゃらに頑張っていたあの頃の自分たちに向けての曲だと。
川さん 「そうですね。さらに、今から3年後の自分が今の自分にこんな言葉を言ってくれたら嬉しいなっていう感じ。この曲の歌詞は、一番最後の“頭抱えて悩めよ 愛しき人へ”からできたんですよ。“これって誰やろなぁ?”って考えたら、もう自分しかおらんなって。3年前のPANはすごくもがいてたし、ライブの表現もいろんなやり方を考えて。それでよくなった部分もあったし、やっぱり間違ってなかった。だったら、今もまた、もがく時期なのかなって。3年後=PANの25周年なんですけど、そこでまたやってよかったなって思える3年後であればいいなって」
――“この胸に この胸に Oh/響いてる高鳴り/まだやれる まだやれる Oh”っていうくだりは、すごくいい一節だなと。これを感じられてたら、まだバンドは、音楽は続いていく。
川さん 「そうですね。自分がどんなアンテナを立ててるのか、どういうふうに物事を見てるのかで変わってくると思うので。自分にやる気がなくなれば高鳴りもないし、自分の問題かなぁっていう」
――最後にはライブバージョンの『想像だけで素晴らしいんだ』も入っていて、この曲が今PANのライブの中でどう機能してるのかが分かりやすいですよね。そして、『ザ・マジックアワーツアー』ではライブのみならず映画も上映するとのことで、それも新たな試みですね。 これで何か映画の賞でももらえたら…。
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川さん 「そのつもりで撮ってましたけどね(笑)。撮影は1月に4日間やったんですけど、東京ですっごい雪が降った日があって、もうね、街中が凍ってた(笑)。ほとんどの撮影が野外やったんで、“ここで迫真の演技をして、何か賞でももらおうぜ!”みたいな(笑)。みんなそれぐらいのモチベーションでやってましたね。MVも並行して撮ってたんですけど、めっちゃすごい映像が…もうホンマに予定してなかった映像になって、これはこれでいいなぁ、みたいな」
ゴッチ 「すごい味のある映像になったと思います。普通はCGでもいいところで、生の雪がフワッフワァ〜って(笑)」
川さん 「多分ね、あの映像を作ろうと思ったらすっごいお金がかかると思う(笑)。見応えはあると思います」
あんまり頭がよくなり過ぎても面白くないんで
“うわ! やってもうた”みたいなところは、やっぱりなくしたらアカン
――ツアー初日の大阪・味園ユニバース、ファイナルの東京・新宿LOFTに関しては、『春のPAN祭り』としてイベントに盟友を呼んで行うということで。
川さん 「『PAN祭り』はホンマにお祭り感を出したいなって。特に今年はそういうテーマなんで」
ゴッチ 「『PAN祭り』に対する意識を最近メンバーと話して、もっと上の、もっと筋の通ったお祭りにしたいっていうところで、来た方は間違いなく楽しんで帰られるんじゃないかな? 今はメンバー自体もすごくモチベーションが高いので、どこを切っても大丈夫なライブになると思います」
――去年を締めくくるTwitter には、2017年は111本ライブしたと書いてましたけど、20年越えのバンドなのに、今でも相当やってますね。
ゴッチ 「あと、歳を重ねるにつれてライブもちょっと落ち着いていったりするものなのに、僕らはどんどんアグレッシブになって(笑)、それでも意外とうまくやれるようになってきたのかなぁって。ただね、あんまり頭がよくなり過ぎても面白くないんで、“うわ! やってもうた”みたいなところは、やっぱりなくしたらアカンなって」
――最後に、『ザ・マジックアワー』とツアーに向け、それぞれにシメの言葉をもらえたら!
川さん 「『ザ・マジックアワー』はいいことだけじゃなく、思ってることを全部吐き出してやろうと。例えば、“実際、いつまでこんなことが続けられるのか分からん”とかいうことって、言わんでも済むことやからこそ、いろんな人に聴いてもらうときにドキドキしましたね。そこをちゃんと表現できたら絶対に何か感じてくれるやろうなとか、今の俺らはこうっていうことを叫べたらいいなと思って作ったんで、ぜひ聴いてもらいたいですね」
ゴッチ 「僕らのパブリックイメージって多分、“すごく楽しいバンド”っていうのが先行してると思いますけど、『ザ・マジックアワー』とか『想像だけで素晴らしいんだ』とか、ああいうストレートな部分も僕らなので。今年はその2つをさらに上に押し上げていく1年にして、ホンマに向かうところ敵なしになりたい。自信はあるので、ちょっとでも気になった方は、ぜひライブハウスに観に来てほしいなと思います!」
Text by 奥“ボウイ”昌史