昨年メジャーデビュー30周年を越え、SIONから2年ぶりのオリジナルアルバム『今さらヒーローになれやしないが』が届いた。ここ近年の作品の中でも、藤井一彦(THE GROOVERS)、細海魚(HEATWAVE)のアレンジメントが抜群に機能した最新作は、老いも弱さも飲み込んで前進するSIONの現在地を投影。57年の人生を巡りたぐり寄せた言葉の数々は、相も変わらず聴く者に生きる力をくれるかのようだ。そこで、現在は今年を締めくくるアコースティックツアーの真っ只中、記録的な豪雨を回避し奇跡的に開催されたこの夏の日比谷野音ライブを完全収録したDVD 『SION-YAON 2017 with THE MOGAMI~After The Hard Rain~』のリリースも控えるSIONにインタビュー。 “疲れてるのは生きてる証/疲れたって言わないのは生きていく意地さ”(『今さらヒーローになれやしないが』)。 今日もまた、SIONの歌に奮い立たされる――。
――昨年はメジャーデビュー30周年ベスト『30th milestone』(‘16)のリリースなどがありましたが、アニバーサリーイヤーを終えて何か感じるものはありましたか?
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「いや、やることは一緒ですからねぇ。けど、感謝ですよ、やっぱり。結局、30周年をインディーズデビューも含めて2回やることになって、どっちにしても“おめでとう”って言ってくれる人がまだいることに、毎年野音でライブができることに感謝ですよ。だって、歌を書くことなんて誰にも頼まれてないからね。歌わなきゃ生きていけないからやってるんだけど、それを聴いてくれて、いろいろと感想をくれる人がいる。30年っていうのは1つの区切りではあるけれど、去年も俺は『Naked Tracks』(※SIONが1人で自宅録音する音源シリーズ、会場限定販売)は、新しい歌は出してるのよ。ずーっと俺は止まらずに来てるから。もう止まったら…死ぬの?(笑)」
――前回のインタビュー でSIONさんに、“もう音楽を辞めてやる!って思ったことはないですか?”って聞いたら、“辞めるときは、天に召されるときだから(笑)”って。
「アハハハハ!(笑) でもさ、いまだに人の気持ちってほら、一定じゃないじゃん? 1週間に1回、1ヵ月に1回ぐらい、景色が変わるぐらいに“どうしたん?”っていうことがある。だけど、上がらんとしょうがないじゃん?」
――そうですね…そこにずっといても、自分が苦しいだけですから。
「その救いのひと言って、全然関係ないほんの1通のメールだったりとか、買い物に行って“ありがとうございました”ってすごく丁寧に言ってくれたこととか、その瞬間にもう…昔から小さい喜びを拾い上げて生きてるから。救いはね、結構そういうところにあるんだよ。そりゃあね、“100万枚売れました”とかならアレだけどさ(笑)、そういうことはないわけだから。ふと、“あれ? いい感じだ。何か元気出るわ”ってなる。結局、そこでしか…やっぱりねぇ〜もう求人もないもんね、中卒の57歳じゃどこも(笑)」
――もし自分が働いてる職場にSIONさんが応募してきたらビビるなぁ(笑)。
「アハハハハ!(爆笑)」
――そんなことより歌ってください!って履歴書突き返しますよ(笑)。ただ、今言ったような些細な幸せというか、ちょっとしたひと言で救われるみたいなことは、今回のアルバムにもまさにあって。SIONさんが日々それを拾い上げて歌にするように、僕らもSIONさんのアルバムを聴く度に、そこに込められた言葉に生かされるというか。ただ、いつもなら野音ワンマンの前にリリースされますけど、今回はアナログ盤のリリースもあって時期がずれて。
「俺はLPサイズで育ったから、やっぱり大きいっていいよね?(笑) 昔、デザイナーとかカメラマンが、CDになったときにみんな泣きよったもんね。“このサイズでどうしろっつーんだ?”って。その後のMDなんか、“もうヤメてくれぇ〜!!”っていう小ささ(笑)。ただ、かつて福山(雅治)のプロデューサーだった人から聞いたんだけど、19の子と話してたら“音楽って買うんですか?”って言われちゃったって。俺は膝から崩れ落ちそうになったね(笑)。もうそこまでいってるのかって。当時の俺にとってはやっぱり2500円とか2000円のLPって高いから、頑張って金を貯めて買って、擦り切れるほど聴く。だからもう何曲目で傷が入ってるのかも分かる。1曲目と4曲目しかよくなくても、とりあえず全部聴くじゃん?(笑) もう…俺たちぐらいが最後なのかな? ジャケットとかにこだわりがあるのは。俺も結構iTunesで買ってたりはするけど、ただやっぱりね、何か持っておきたいんだな、まだ」
1つも諦めてないんで
――今作は近年で一番音楽的な変化というか、アレンジ面での新しさを感じました。藤井一彦(g)さん、細海魚(key)さんの色が最も出てるというか、躊躇せずにチャレンジしてる感じが。
「うん。『Naked Tracks』でもう自分の元を作ってるから、どうしてくれてもいいよっていうのはある。それまでは時々“これは違う”って言ったりしてたんで。今はもうね、昔、マーク・リボーとかニューヨークの人たちとやったときと同じ感覚かな。例えば、一彦に“頼むな”って言った瞬間にもう」
――委ねてるというか。
「そう! でも、“だいたいアニキの歌は間奏も少なくてずーっと続くことが多い。間奏だと思ってもすぐにハープを吹き出すから休め!”って言われて、“思いやりブリッジ”を入れてくれたりしてね(笑)。一彦の50周年イベント(『藤井一彦 生誕半世紀大感謝祭 KAZ'S HALF CENTURY BLUES SHOW』)もすごかったよ〜。小っちゃいライブハウスに佐野元春さんから石橋凌ちゃんから、PANTAさんから…俺が最後までいたら絶対に大変なことになるから一番最初に1曲だけ歌って帰ってきたよ(笑)」
――あと、今回は “老いと向き合う”じゃないですけど、作曲中に今までで一番精神の浮き沈みがあったとか。
「長い更年期だからねぇ〜(笑)。やっぱりね、歳を取るのは嬉しくないよ。1つも嬉しくないんだけど、だからってどうにもならないんだから。止まらない老人力と幼児化ね(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「それを楽しむようにしてる。俺はよく“40代、50代は楽しいぜ〜”って周りで言ってるのを聞いて、“嘘つけ!”って思ってたの。絶対にそんなわけねぇよ! そんな気力も体力もないし。デビュー前はね、もう会場が壊れるぐらいに暴れるライブだったの(笑)。30過ぎてちょっと静かめの音楽をやるようになったら、“あぁ〜SIONも終わったな”みたいな話になって、“よし、40なったらまたモヒカンにしてバキバキにやってやる!”って言って、実際にやったのよ。そしたら身体があちこち痛い!(笑)」
(一同爆笑)
「でも、気持ちはよかったよ。40を過ぎて、人生を残りから数えた方が早いぞってなってから…もうどこかまで戻ってやり直すわけにはいかないわけだから。そしたら立てる場所を居心地よくするのか、ボロ雑巾1枚になっても違うことをするのか(笑)」
――とは言いつつ、『今さらヒーローになれやしないが』(M-10)って口に出すようなヤツは、実際は諦めてない。
「そう! 絶対諦めてない。そこなのよ。1つも諦めてないんで(笑)」
――いやでもこの曲の、“疲れてるのは生きてる証/疲れたって言わないのは生きていく意地さ”っていうのはもう…さすがです、やっぱり。
「かわいそうだよね、俺とライブしてる魚とか一彦は。ステージでいろいろやらされて楽屋に帰ってきても、“疲れた〜”とか言えない(笑)」
――アハハ!(笑) いや~この2行は本当に人生訓というか、焚き付けられますね。あと、『デジャビュのあやとり』(M-6)も『ひとり綱引き』(M-5)も、これだけ言葉が氾濫してる世の中なのに初めて聞く言葉の組み合わせで、まさにそれだなっていう発見がある。こういう発想ってフッと思い浮かぶんですか?
「俺はもうここ20年ぐらいはずーっと曲が先で、詞はそれに乗せたり乗せなかったり、全く意識しなかったり、ワァ〜ッと書いたら後から見ることがもうほとんどないんだけど。まぁ昔から1人遊びが多かったからじゃないの? ずーっと山と川と、基地での生活が長かったから(笑)」
――想像を巡らすことが自分の中でスタンダードになってる。
「うん。何かね…カッコよくキメてやろうっていう時期はもう過ぎたと思ってるから。最近は取材を受けても言うもんね、“太字になるようなこと1つも言えないよ?”って(笑)。自分で書いてても“これ、キメようと思ったな”とか感じるとちょっとイヤな時期があって、わざとやわらかい、もしかしたらカッコ悪くなる響きにしたりとか…学がないのがいいのかもしれないよ?(笑)」
――『洒落た日々から遠く離れて』(M-2)の“洒落た日々”っていう表現もいいよなぁ。
「遠く離れてなかったらもっといいんだけどねぇ~(笑)。遠く離れちゃってるから、残念祭りだよね、もう(笑)」
あの頃見た景色がやっぱり、いつでも役に立つ
――『Hello~大切な記憶~』(M-9)もそうですけど、SIONさんが『Naked Tracks』で一番ミニマムな形で作ったものから、ここまで曲が壮大に、ドラマチックになるのかと、アレンジの力をすごく感じましたね。
「最後のひと言にいくまでに長〜いの(=間奏)があるでしょ? あれも最初は一彦に、“その間に池端(潤二・ds)さんも井上(富雄・b)も楽屋でおれるやん。タバコ吸えるやん”とか話すぐらい(笑)、長ぇなぁ〜って言ってたんだよね。去年アコースティックでも演ったんだけど、繰り返しをちょっと減らしてレコーディングしようってなったら、“やっぱりアニキ、この回数が欲しいんです”って言われて。そしたら何かね、見えてきたんだよね。じいちゃんとの話から現実に飛んでくるその間の物語が、6歳ぐらいから30年分ぐらいをあいつは間奏でやったのかなって」
――“大切な記憶”とあるように、SIONさんがこういう思い出を綴るのも、一聴して大事な歌だと感じます。
「何かね、もう田舎がなくなってるから、完全に1人になったから。俺の田舎って言ったら、庭でじいちゃんと手作りの縁台に座って、夕日を見たことが全てになってるのよ。だから美化し過ぎてるのかもしれないけど、全部本当のことで。漫画みたいだぜ? 本当にデカいんだから田舎の夕日は。そして、小川で2人でずーっとスイカを冷やしてね。不思議な土地でさぁ、息子が嫁をもらうと年寄りは離れの長屋みたいなところに暮らすんよね。俺はそこでいつも足を挟んで寝てもらってたの。それが俺の大事な大事な故郷なんだよね」
――それをこのタイミングで曲にしようと思った出来事があったんですか?
「まぁ…家族とずーっと仲良くできたり、支え合っていけたらそれが一番だけど。人生なかなかサザエさん一家ばかりじゃないからね(笑)」
――気になったのが『追っつかない』(M-8)で、いつもだったら最後に絶対フックアップするというか、牙をむいて終わるじゃないですか。この曲はそのまま終わっていくのが。
「いや~頑張れんときもあるよ。あらららって。だから『追っつかない』んだよ!(笑)」
――なるほど!(笑) 今作にSIONさんの新しい一面とかちょっとした変化を感じるのは、もしかして30周年という区切りもどこかで作用してるのかなとか、いろいろ思いました。
「どうだろうねぇ…やっぱり暮らしは30代中盤までが一番安定してたよ。生きてりゃ1年に10曲ぐらい歌はできるし、それをレコーディングして出したらいいんだもん。1人で暴れてただけで、生活自体は保証されてるようなもんだったから。そんなふうにズルズルしてる間は、今はもう何がよかったのか忘れたけどずっと街に出てたからね。あの頃会った連中はもう死んだか顔も見たくないようなヤツばっかりだったけど(笑)。そこからはちょっと漫画みたいな暮らしぶりになってるけど(笑)。でもやっぱりね、文才がないから自分が見てきたことじゃないと歌はできないんだよ。どこかでね、見てるんだよ、きっと。あの頃見た景色がやっぱり、いつでも役に立つ。そういう意味では、昔書いてた歌より40を過ぎての歌の方が面白いかもね。何か…常に危機感がある」
――12月には一彦さんと魚さんとのアコースティックツアーもありますけど、今年も野音を終えて、今のライブの感じって何かまた変わったりします?
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「ん〜年々身体がキツくなるけど、ライブが終わった後のビールは年々美味くなる。この前も野音が終わって楽屋に戻って、みんなとプリン体カットじゃないビールをプシュッと開けて呑む(笑)。本当にたまらんのよ! その後、外でちょっと身内と乾杯するのもうんまい。やっぱりね、年々求めるものは高くなるし、ということは今回もそうだけど、一彦と魚の2人はもっと苦しくなるんだよ。でも、“疲れた”って言っちゃいけない(笑)」
――それが“生きていく意地”ですもんね。あれだな、今度は“痛い”って言ったらダメな歌を書かなきゃ(笑)。
(一同爆笑)
「困ったなぁ〜。うーん、絶対書かん!(笑)」
――SIONさんのニューアルバムが聴ける、こうやって話が聞けるのが、1つの人生のリトマス試験紙みたいな感覚もあります。作品が出ればSIONさんが、みんなが、会う理由ができるというか。
「これからもぎゃんばりますよ! 気をしっかり持ってね(笑)」
Text by 奥“ボウイ”昌史