“後ろに歩くように俺はできていない”
くじけそうなとき、今日もSIONのメッセージと歌声に鼓舞される
絆と時代を刻んだ2年ぶりのアルバム
『不揃いのステップ』インタビュー&動画コメント
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’85年に自主制作盤『新宿の片隅で』で衝撃的にシーンに現れて以来、SIONのメッセージとそのハスキーな歌声に、リスナー、オーディエンス、時にはアーティスト…いったいどれだけの人々が助けられたことだろう。あれから29年、SIONの2年ぶりのオリジナルアルバム『不揃いのステップ』が届いた。藤井一彦(THE GROOVERS)、井上富雄(THE ROOSTERS)、細海魚(HEATWAVE)ら気心知れた戦友たちをアレンジャーに迎えた今作は、這いつくばってでも前に向かおうとする力と、背中をそっと押す優しさと強さに満ちている。“後ろに歩くように俺はできていない/今を行くだけだ たとえ誰より遅くとも”(『後ろに歩くように俺はできていない』)、“投げ出さず生きている それだけで勝ちさ/食いしばり生きている それだけで勝ちさ”(『胸を張れ』)、“お前を信じてる 俺の仲間だから”(『お前を信じてる』)…。必ずしも報われはしない世の中で、聴く者に再び立ち上がる力をくれるSIONのメッセージ。インタビュー中に飛び交うSIONの言葉の1つ1つに、いまだに音楽を楽しむ少年の面影を見た。
こんなに歌をずっと書いてたかどうか分かんないですね
――関西でSIONさんの取材が出来るなんて…。
「いやいやいや、どこにでも行きますけど(笑)。キャンペーン・ボーイは2年ぶりかな?」
――それこそ前作『Kind of Mind』(‘12)から2年ということですけど、この2年間はSIONさんにとってどういう時間だったと思いますか?
「個人的にはあんまり代わり映えしないんですけどねぇ、ずーっと。1枚アルバムを作ったら、またツアーがあったりして。年が明けても正月ボケのままずーっといるから、“おい、このままじゃ人間のクズだろ? しっかりせな”って歌を書き出しますね、だいたい。だから大抵、自分を叱る歌が多いですよね(笑)。それが出来てくると、『Naked Tracks』(※SIONが1人で自宅録音する音源シリーズ、会場限定販売)の方に内職みたいな感じで1人で録音を始めて。それが出来ると、“この曲はバンドでやったらどんな感じになるかな?”ってメンバーと一緒にやることをちょっと考え出したり。もうここ何年ずっとこの繰り返しですね」
――なるほど。逆にSIONさんほどのキャリアがあると、どういったモチベーションで曲書いたり、制作に気持ちが傾いていくのかなと思ったんですけど。
「4年に1枚とかならいいんだけど、そんなに動かなかったら、俺はもう人として機能しないんじゃないかな?(笑) 外に出て、“いやぁ~元気か?”とか“今日は寒いね”とか、人と普通に話したりするためには、何かを形にしてないと俺がダメみたいで。笑って人と会うためには俺は、歌を書いてなきゃダメみたい」
――近年のSIONさんの活動的には、まずパイロット的に自宅録音盤の『Naked Tracks』が出て、翌年スタジオレコーディングのオリジナルアルバムが出てっていう流れがあって。
「昔レコード会社をクビになったときに、さてどうするか?と。さっき言った話じゃないけど、このまま何もしないんじゃ、俺はダメになる。すぐにリリースとかを考えないで、出来ることをやろうって。音楽を始めたのもギター1本だし、ギター1本で形になるいい歌は、いざバンドが付けばもっとよくなるっていうのは、昔からあったんで。まぁギター1本って言ってもあんまり上手く弾けないもんだから、上3弦、下3弦ずつ弾いて1本のギターに見せかけたりしてね(笑)。ちょうどそれをやっている時期に、オヤジさんがもう天国に行くって聞かされて。あんまり会ったことのないオヤジさんだけど、当時の俺ぐらいの頃の(両親)夫婦の写真をジャケットにしたアルバムを病院に届けてあげようっていうのが、『Naked Tracks』が始まったキッカケですね」
――いろんなタイミングとか運命みたいなものがSIONさんに作らせたところもありますね。逆にその頃メジャーの契約が続いてたら、作ってなかったかもしれない。
「ないですね。そしたらこんなに歌をずっと書いてたかどうか分かんないですね」
――SIONさんのブログを見ていたら、アップした写真にMacBookが写っていたり、ZIGGYの森重(樹一)さんとの『場所』(‘06)の制作現場でも、SIONさんのデモテープが打ち込みで結構キッチリ作られていて森重さんが驚いたというエピソードがあったり、その辺は意外な感じがしますね。
「アハハハ(笑)。森重はそういうの苦手なんだよね。昔、あいつとツアーを一緒に廻ったとき、2人でスターバックスの前で“お前買える?”、“買えないっす…”、“俺も買えない”みたいなことがあって(笑)。それが1年後に会ったときにはあいつが、“俺、スタバで買えるようになりましたよ!”、“あ、負けた…”って。そういう話もありました(笑)」
――2人ともかなりの歌い手にも関わらず、スタバが買えないって(笑)。
「昨日も、名古屋駅の待合室に小っちゃいスターバックスがあって。ここなら買えるかもしれないとか思いながらも、素通りして(笑)」
(一同笑)
――SIONさんはまだ買えないのが続いてるんですか?(笑)
「買えない(笑)。何かあそこに立ったらいろいろ言われるんやろ? コーヒー飲みたいだけなのにいっぱい聞かれて…ヤダヤダ(笑)」
――(笑)。それはさておき、SIONさんがPCに強いっていうのは、意外な一面だなと思いました。
「パソコンはもう、かなり前からですね。SE/30っていうMacの初期のやつが昔の事務所に3つあったから、1つぐらいなくても分からんやろうって取って、そこに本を並べて帰ったんだけど(笑)」
(一同爆笑)
「次の朝すぐ電話がかかってきて、“お前何考えてんだ!? すぐ持ってこい!”って(笑)」
――そこに本を置いとくところが、何かかわいいですね~(笑)。
ぶつからなかったんですよ、不思議なことに1曲も
――今回の『不揃いのステップ』に向けて、どういった作品にしようとか、『Naked Tracks』からの選曲の指針は何かあったりしたんですか?
「藤井一彦(g・THE GROOVERS)と、細海魚(key・HEATWAVE)と、井上富雄(b・THE ROOSTERS)。これまでも何曲かアレンジしてもらったことがあったんだけど、去年の野音(『SION-YAON 2013 with THE MOGAMI』)が終わってすぐぐらいに3人にNakedを渡して。“この中でアレンジ出来そうな曲ってあるかな?”って聞いたら、“これとこれなら”みたいな返事がそれぞれからあって。それがね、ぶつからなかったんですよ、不思議なことに1曲も。それと書き足した曲と、(レーベルのSION担当が)“昔のNakedでとても好きな曲がある”って言うから、“そう? そんなに好きなら、もうしょうがないか…同い年やし”って入れて(笑)」
――今までの流れだと、前年に出したNakedの中から選ばれた曲がオリジナルアルバムに入る流れじゃないですか。だけど、『不揃いのステップ』(M-3)は違って(『Naked Tracks 4~同じ空の下、違う屋根の下で~』(‘11)収録)、しかもタイトル曲って何でだろう?って思ってたんですよ(笑)。でも、前作には入らなかったわけですよね?
「そのときは言えんかったみたいやね(笑)」
(一同笑)
――(笑)。だからだったんですね。
「でも、『不揃いのステップ』は作った場所にじーっとしてる曲じゃないから、入れられたんですね。曲によってはもう何年もその場所にいた歌っていうのがやっぱあるんで。Nakedの1枚目に入れた、それこそ“船を降りた俺の親父は/うまく陸を歩けなかった”(『暦』)っていう歌は、もうその場所から動かせないような歌だったから」
――そうやってNakedから入る曲が選ばれ、実際にアルバムに肉付けしていくわけですけど、やっていくく中で何か新たな発見とかってあったりするもんですか?
「まずは、それぞれのアレンジャーがこの曲を選んだのか!?っていうのが、ビックリで。予想してたのと違った。出来上がってくる音は、細海魚はもうほとんど1人でやっちゃったりもするんだけど、いやもう…あいつの宇宙ですね。藤井一彦はもうどうやったらこんな大きい声でコーラス出来るんだろう?ってぐらいに張り切ってくんの。井上は適当で(笑)、九州な感じ。それがやっぱり実際の演奏になったりすると、これまたおもしろいですね」
――三者三様ですね。あと、SIONさんのチームは、すごく絆が見えるというか。
「いやぁ~楽しいですね。ありがたいですよ。昔、THE MOGAMI (松田文/池畑潤二(THE ROOSTERS、HEATWAVE、DAD MOM GODetc)/井上富雄/細海魚/藤井一彦)の連中で焼き鳥屋に入ったとき、“お客さん、何本にしましょう?”って聞かれて、“俺たち仲良いから1本でいいよ!”とか訳分からんこと言い出したりね(笑)」
――ブログにアップされたレコーディング風景を見ても、今でも音楽をするのが楽しいのが伝わってきました。
「今の場所にたどり着くために各々がミュージシャンとして苦しんで弾いたり叩いたりっていうのはあるけど、作品を良くしようと思ってる集まりだから。楽しいですよ、ホント」
(2014年4月 8日更新)
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