細分化するシーンにおいて、“歌モノ”と呼ばれるメロディと言葉ありきの音楽が、“王道”と称される大衆のド真ん中を射抜くアーティストが、いつしかオルタナティブな存在になっているという現代に、そんな音楽に心を動かされ人生を変えられたミュージシャンは、いったいどう戦えばいいのだろう? そんな命題にココロオークションが出した1つの回答が、メジャー3作目となるミニアルバム『夏の夜の夢(なつのよのゆめ)』である。YouTubeの累計再生回数が300万回を超える夏の短編小説MVシリーズ『蝉時雨』(‘14)『夏の幻』(‘14)『雨音』(‘15)に加え、その続編となる4話目『線香花火』を収録。さらには、京都・笠置町を舞台にした青春短編映画『笠置ROCK!』のために書き下ろした『景色の花束』や、意欲的なアレンジが施された新曲『なみだ』にアンプラグド・セッションのカバー音源と、自らの武器とスタンスを明示した全7曲は、彼らの苦悩と葛藤をろ過したような高純度で鳴り響いている。『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017』『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO』『RUSH BALL 2017』等に出演を果たした夏を超え、『夏の終わりを探しに行こう』と銘打たれたリリースツアーもまさに終盤。ソングライティングを担う粟子真行(vo&g)と大野裕司(b)に、ココロオークションが今改めて伝えたい景色を語ってもらった。
バンドを再構築するにあたって
僕が今まで積み上げてきたものを全部分解したんで
何もない状態になってしまった
――前作『CINEMA』(’17)以降の日々はどうだった? 個人的には6月の『GLICO LIVE "NEXT”』のライブがすごくよくて、目に見える変化が感じられたなと思ったけど。
大野(b)「それまでの期間は、どっちかって言うと環境の変化に伴った意識の変化やったんですけど、今年はもっと単純に、“じゃあライブで具体的にどうするのか?”みたいなところまでメンバーとちゃんと話し合って。やっぱり今までは、自分たちの何を鍛えればいいのかが分かってなかった部分があって、こういう音楽のジャンルで、どういうお客さんが目の前にいて、どういう場所に出て行って、何を刺すのか? 僕らみたいないわゆる“歌モノ”が、ライブキッズとか洋楽ばっかり聴くような人にも耳を傾けてもらうには、どうしたらいいのか? その共通言語はやっぱり“リズム”やなと。どんなジャンルの、どんな言語の音楽でも、思わず身体が動くような“グルーヴ”があったら聴いてもらえる。いわゆる“王道”と言われるジャンルをやるなら、そこはもう絶対にクリアしておかないと。それこそ『GLICO LIVE "NEXT”』はCHAIとパノラマパナマタウンっていう全然ジャンルが違うバンドとやりましたけど、好き/嫌いは一旦置いといて、“何だかんだ言ってよかったね”って言わせるためには、そこにグルーヴがないとまず引き寄せられないっていう話になって、とにかくそこを鍛えるっていう」
ココロオークション…写真左より、井川聡(ds)、大野裕司(b)、粟子真行(vo&g)、テンメイ(g)。‘11年、本格的に活動をスタート。関西最大のコンテスト『eo Music Try 2011』にてグランプリを受賞。’12年3月には1stミニアルバム『TICKET』を、同年9月には大阪マラソンの応援ソングに選ばれたiTunes限定1stシングル『ヒカリ』をリリース。『見放題2012』、『MINAMI WHEEL 2012』等サーキットイベントでも入場規制がかかる盛り上がりを見せ、FM802主催の『若草山MUSIC FESTIVAL』のOAにも抜擢。’13年3月には2ndミニアルバム『深海燈』を、10月には2ndシングル『夢ノ在リ処』をリリース。同世代のバンドと『宇宙フェス』を服部緑地野外音楽堂にてスタートさせ、大阪福島2nd LINEでの初ワンマンライブはソールドアウトを記録。14年4月にリリースした3rdミニアルバム『七色のダイス』は、初の全国流通盤ながらタワーレコードのバイヤーがプッシュする“タワレコメン”に選出。同年10月には4thミニアルバム『ヘッドフォンミュージック』をリリース。『見放題2014』をもって前ギタリストが脱退。’15年は、4月に3rdシングル『ターニグデイ/プリズム』、9月に1stフルアルバム『Relight』をリリース。東京、名古屋、広島にてワンマンライブを開催。’16年1月にはサポートギターのテンメイが正式加入。4月にミニアルバム『CANVAS』にてメジャーデビュー。以降も『RUSH BALL 2016』『金沢百万石音楽祭-ミリオンロックフェス2016』『COUNTDOWN JAPAN 16/17』『RADIO CRAZY』『MERRY ROCK PARADE』など全国のフェスに出演を果たし、’17年1月11日に2ndミニアルバム『CINEMA』を、8月2日には早くも3rdミニアルバム『夏の夜の夢』をリリース。この夏も『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017』『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO』『RUSH BALL 2017』ほかに出演。
「ココロオークションってインドアというかヤワで色白なイメージやのに(笑)夏の曲が多いのは謎でしたけど、今回のインタビューでその理由が分かりましたね。そして、映像との相性がいいと言われる音楽は他にもありますが、彼らの音楽は楽曲として独立していながら、サントラのような“近さ”がある。映像と一緒になったときに確変するパワーを持っている音楽だなと、改めて思いましたね。彼らがメジャーで出してきた作品の中で最もらしくていい作品になったんじゃないかな。MVで点を線にしてきた彼らが、インタビューでも触れた『GLICO LIVE “NEXT”』のライブでついに感じさせてくれた、“あれ? ちょっと何とかなるかもしれないぞ”という、今までにはなかった何かが起こるんじゃないか感(笑)。あの胸騒ぎが本当だったという未来に期待して、彼らをこれからも見守っていきたいと思います」