今年、結成20周年を迎えたBUGY CRAXONE(ブージークラクション)。それを祝しリリースされた、新曲とライブでもおなじみの楽曲の新録音を含む結成20年の後半10年の記録とも言えるベスト盤『ミラクル』は、“ウィーアー ブージークラクション/スペルはヒッチャカメッチャカ”と、自身を高らかに歌い上げる『ブルーでイージー、そんでつよいよ』(M-1)を筆頭に、誰の日々にもある喜怒哀楽を綴ったブージーならではのロックンロールが心地よく鳴り響く。現在開催中の『ミラクルなツアー』に加え、秋には結成20周年記念の渋谷クアトロワンマン『100パーセント ナイス!』を行うこともすでにアナウンスされている。ブージーにとって因縁のクラブクアトロという場所は、’99年にメジャーデビューし、翌年初めてワンマンを行った会場。すずきゆきこ(vo&g)曰く「そのワンマンを経て、バンドとして元気よく飛び出していったというよりは、悔しさの残るライブで。だから20周年の今、自分たちが明るくトライできることは何かと考えて」リベンジ公演を行うことになったとのだという。年齢的には30代と40代の狭間にいて、自然体かつのびのびとロックンロールを鳴らす彼女は、同じ時代の毎日を生きる1人の女性でもある。語る言葉の1つ1つには共感できるポイントがとても多く、しっくりとなじむ。まるでブージーの音楽と同じように。
「ありがとうございます! ただ、本人たち的には日々やることをやっていたら20年経っていたという感じなんですけどね。本当に、結成もデビューも昨日のことのように思えるから」
――ベスト盤『ミラクル』の1曲目『ブルーでイージー、そんでつよいよ』の始まり方がいいですね。最初に“なめんなよ!”と言われているんですが、勢いはありつつも意気がるわけでもなく、ゆるさも見えて。タイトルになっている“ブルーでイージー”はバンド名の由来だったそうで。
「ブルー=悲観的とイージー=楽観的で、そこから発生する音ということで付けたんですけど、だんだんとそういう由来があることが小賢しく感じてきちゃって。だから、あるときから“バンド名に特に理由はないです”とか言ったりして。音の響きから決めたバンド名だったけど、毎日いいことも悪いことも起きちゃうし、クラクションって“危ない”って警告の意味で鳴らすこともあるけど、“列に入れてくれてありがとう”という意味で鳴らすこともある。そうやってどっちの面も持っている人として音楽をやっていこうという意味で付けた名前だったんですよね。20年目を迎えて、こんなヘンテコなバンド名は他にないし、今まで隠してた分、高らかに歌ってもいいんじゃないかなと(笑)」
――曲中で“ぽろぽろと またなみだがでるのは/たいせつなことが2つあるから”と歌われていますが、その2つとは?
「若い頃は、自分の夢=自分の人生でよかったけど、年齢を重ねていくと、例えば家族のことも前より考えるようになったり、現実的なことが出てくる。みんなそれに折り合いを付けながら、自分たちの音楽とか活動の仕方をそれぞれのバンドが模索していると思うし、私も今まさにそういう年齢に入っているので。大事なことをどうやって両方とも抱えながら活動していくか、生きていくのか。うちはおかげさまで両親が元気だから私もこうしてバンドをやっていますけど、もしパタリと倒れてしまったら地元に戻ることも考えなきゃいけないだろうなとか、そういうことがどんどん起きてくると思うんですね。そこをナシにしながら“ロックだぜ”、“夢を追い続けるぜ”というのは、このバンドでやることではないかなと思い始めて。みんなの人生もそうだし、同世代の普通にお勤めしている友達の話とか暮らしぶりを見ていて、そう思うことがたくさんあるので。自分が書くのはそこかなと思ってるんですね」
――今の話って次の『ぶるぶるぶるー』(M-2)にも通じるところがありますね。“将来の不安でわたしたちは ときどきだまっちゃう”の一節に、自分だけじゃないんだとホッとできる人が、いっぱいいるんだろうなと思います。
「みんな何かを心配せざるを得ない空気というか、能天気じゃいられない空気がありますよね。普通に暮らすことに今のところ差し迫った恐怖はない安全な国なのに、なぜか将来がどうなるんだろうという不安要素が多いし、テレビを見てても、その不安や心配を煽るような番組が多い気がして。別に将来のためだけに生きているわけじゃないけど、“今この瞬間だけでいいんだぜ”と言えるほど若くもないし、そういう年齢を今どう生きていくのか。多少寄り道したり、呑気でいたりしちゃダメですかねぇ…みたいな気持ちでいるし、そう歌ってますね(笑)」
――まさに、ブルーでイージーですよね。
自分が20代ではなくなっていくっていう変化が圧倒的に大きかった
――『ミラクル』を聴いていて思ったのは、年齢を重ねるとその分歌えることが増えて、歌がどんどん深く広くなっていくんだなぁって。
「それは自分でも思いますね。怒髪天の増子(直純・vo)さんが前に、“歳を取ってバンドやってていいことは、歌えることがどんどん増えることだ”と言われて、まさにそうだなって。ただ、それは自分の中でタガを外せば、ということですよね。自分の中で“ロックはこういうものだ”とか、あるべき形を決めていなければ、自分は自分の歌を歌うんだという気持ちでさえいれば、どんどん増えていくんじゃないかな。私自身も、多分そこを超えるのにかかった時間が、今回のベスト盤に収録している10年だったのかなって。自分が20代ではなくなっていくっていう変化が圧倒的に大きかったんですね。まず自分の身体が変わっていくし、20代のときにカッコいいと思えたことがそうじゃなくなって。例えば、以前はカート・コバーンをカッコいいと思ってたけど、今はあんなに有能で素直な青年が自殺してしまったことをかわいそうに思ってしまう。今の日本だと“自己責任”という言葉が流行りで、カートもそう言われてしまうのかもしれないけど、もっとセーフティネットが張り巡らされている場所はたくさんあったはずなのにって。これは母性の域の話だと思うんですけどね(笑)」
――確かにそうかもしれません(笑)。
「30代前半は、そうやって自分がこれまでよしとしてきたことに対する考え方が変わっていくことに、たじろいでいた時期もあって。自分がこれまで作ってきてみんなに応援してもらってきた音楽と、これから自分が作っていく音楽の差に、どういうふうに向き合って折り合いをつけていいか分からなくて。自分もわがままに音楽を聴くので、“このバンド、何か変わっちゃったな”と思うバンドもいたし、その気持ちがすごく分かるから、“変わってよかった”と思えるように変化しなきゃいけない。そういう変な気負いみたいなものもあったし、どうやったら受け入れてもらえるんだろうとか、そういうことを考えた時期もありました。けど、道が続いていく以上、少しずつ変化していくことに抗わなくなったというか。そういう私たちの変化に“もうブージーは聴けないや”と思った人もいると思うけど、逆に“何かいいじゃん”と思ってくれた人や、“この変化はアリかな”と思った人もいるでしょうし。そういう空気も感じながら、バンド人生を続けていくことを決めてきた10年でしたね」
――すずきさんは名前の表記をひらがなに変えられて、歌詞にもひらがなを使う機会が増えましたよね。かな文字で書かれた歌詞は見ていてとてもやわらかく感じますが、歌詞の言葉の端々には、そこにたどり着くまでにいろんな葛藤を超えてきたんだろうなと思わせるものもあって。
「そうかもしれませんね。そういうときに怒髪天とか先輩が近くにいてくれたのはとてもありがたかったし、そういう方たちを見ていて、“こうじゃなきゃダメ”よりも“何でもアリ”にしていく方が、うんとカッコいいんじゃないかなって思ったんで。そもそも自分が最初に好きになったのは男性のロックバンドだったから、同級生のメンバーで組んだような、世代も性別も一緒で20代ぐらいの元気なバンドを見ると羨ましかったりもするし、素直にカッコいいなと思う。けど、私が今できることはそれじゃないし、そうすることが得意な世代がやるのが一番美しいと思うんですね。それを素直に受け入れられたことも大きかったですね。だから変な若作りがないってことですね(笑)。そういうことをやっているうちは、バンドはダメかもしれない」
――ブージーの曲を聴いていると、自分が変わっていくことや、生きていく上でぶつかること、全部がロックンロールになるんだなと改めて思いました。
「昔から、“自分の歌を歌う”という姿勢は変わってないんですが、若い頃は感受性が豊かだから、“生活”よりも“生きる”ことにフォーカスしやすかったというか。けど今は、“生きる=暮らす”だと思うし、日々どうやって気分よく過ごすかだと思うんですね。自分のことだけに集中していればよかった20代を終えて、今の私の年齢は一般的には子育てとか、社会では上の世代と下の世代をつないでいく役目のある年代だと思うので。その中で書いていく内容、取り上げるものが少し変わったのかもしれないですね」
福利厚生がしっかりしているバンドになりたい(笑)」
――今回のベストには『Come on』(M-4)や『FAST』(M-5)など、5曲の新録曲がありますが選曲はどうやって?
「まずは“今でもライブでやっていること”。あと、当時の音源は今の4人で録ってなかったんですね。過去の曲を聴いていて、そのときの声とか音というものがあるなと改めて思って。それはCDが存在する1つの大事な意味だと思ったんです。曲や自分が成長して今できることが増えるのと同じように、今ではもうできないことがある。だったら、今できることをせっかくだから残しておきたい。どの曲もアレンジはほとんど変わってないのは、作ったときに曲としての正解は出ていたということだし、ライブでやり続けているということは、その都度何かしら成長があったということ。曲も私たちもそうやってライブを重ねる中で育てられてきて、その途上の今の姿をまた収めたいなと」
――これだけ年代の違う曲があっても、まるでオリジナルアルバムを聴いているみたいに感じるのは、曲が普遍的であるからなのかなぁと思ったんです。
「メロディや曲の持っている空気感に、私たちらしさがあるんでしょうね。ベスト盤=集大成とかまとめになりそうですけど、どの曲もライブでやっている曲だし、リアルタイムな曲を収録できたことがよかったなって。そもそもこの20周年は、メンバーにとってもバンドにとってもいいステップというか、“またこれから面白いことができたらいいよね”という気持ちで迎えたい20周年だったから、このアルバムが生き生きしたものになってるのは、そういう気持ちがきちんと音楽に表れているからなんでしょうね」
――元々1つのことを続けるのは得意な方ですか?
「全っ然ダメですね。バンドぐらいしか続いてないです(笑)」
――ここから先、改めてこの4人でどういうバンドになっていきたいですか?
「福利厚生がしっかりしているバンドになりたい(笑)」
――すごい! いろんなバンドに話を聞く機会がありますが、初めて耳にする抱負です(笑)。
「いい大人がわざわざ集まってやっているわけから、まずはみんなが元気で楽しくないと意味がなくて。そのためには健康が大事だし、みんなの家族も大事だし、ロックバンドだからってそこを隠すんじゃなくて、何かあったときにちゃんとテーブルの上に乗っけて話をしていくのが健やかな証だと思うんですよね。1人1人が何かを抱え過ぎたりすることがないように、風通しがよく福利厚生がしっかりしたバンドになりたい。誰かが調子が悪いときは頑張れる人がやればいいじゃんとか、カバーし合っていけるような環境がいいなと思うんですよね」
――今の時代、働き方も音楽の楽しみ方もいろいろあって、バンドも1つの団体として個々のやり方があるのが自然なのかもしれませんね。
「そう。いろんなことが楽しい方が=バンドも絶対楽しいはずで。取り扱ってるものがそれぞれの人生なわけだから、そこに変なストイックさはいらないというか。それよりも健全な方がいいし、みんなが力を合わせていろんなことを育める方がいいんじゃないかなって。バンドも1つの企業や団体としてまるで社訓のように(笑)、そういう心持ちでいることはいいことだと思うんですよね」
――4人全員がバンドを楽しめている雰囲気が伝わってきます。
「お察しの通り、のんきな4人なんで、目新しいことをやろうとは思わないけど、のびのびと得意なことを伸ばしていけたらいいなと思うんですね。バンド内での役割も1人1人が少しずつ分かってきて、ヤマダ(ヨウイチ・ds)がアレを頑張ってるんだったら私はコレとか、旭(司・b)くんは短気だったけど、あんまり怒らなくなったなとか(笑)」
――それで言うと、近作のMVは笈川(司・g)さんが作られてるんですよね。
「笈川くんはどんどん写真が上手くなっていて、MVも彼が1人でコツコツ頑張って、誰にも想像できないことを創造してる。だから、それに応えられる私なりのことをやろうとか、そういうふうにバンド内で刺激し合っています」
20年もバンドが続いたというだけで、充分ミラクル
――現在は『ミラクルなツアー』の真っ最中ですが、アルバムもツアーも“ミラクル”というタイトルが素敵です。
「たくさん口にする機会があるから、おめでたい言葉がいいかなって。私たちとしては、いろいろあったにも関わらず20年もバンドが続いたというだけで、充分ミラクルじゃないかという気持ちもあって。ミラクルって何かドーンと派手で大きなイメージもあって、昔の自分だったら付けなかったタイトルだと思うんですけど、自分なりにそういうことも消化できるようになったんだと思う。イメージが定着している言葉とか催しでも、自分たちならではのやり方でやっていくことが楽しいし、そうすることにやりがいを感じてます」
――何気ない日常が一瞬キラッと輝く、そんな感じがブージーの言うミラクルなのかなという印象です。キラッとする瞬間が1日に1つあればそれだけでハッピーだし、たくさんあってもいいし、それがない日もあるし。
「“人生は山あり谷あり”と言いますけど、圧倒的に平らな道の方が多いと思うし、山とか谷を平坦にすることが正解なんじゃなくて、どんな道でも、サヴァイブしながらいかに元気に生きていくか。その脚力を身につけるために、平らな道をどれだけ楽しく歩いていけるのか。そういう毎日の中で鳴っている音楽だったらいいなと思いますね」
――そういう毎日を生きていくために、傍らにあってほしい音楽でもあると思います。
「この10年で、自分の性別が“女”だということを理解したのも、自分の中では大きかったですね。別に男勝りなことがやりたかったわけじゃないけど、その気持ちも強かったし、何しろ生意気で、他のメンバーが男だったこともあって、歌詞の主語を“僕”にしていたこともあって。けど、男性とか女性に関係なく、人としての歌を歌ってるんだという意識ではあったし、だったら女である自分発信の歌詞である方が、しっくりくるわけですよね。そこに腹をくくったというか。同性で同世代のメンバーで組んだバンドが一番カッコいいと思うけど、それには“敵わない”と素直に思えたことも大きかったかもしれない。自分はそういうバンドはできなかったけど、そこではできないことが今のブージーではできてるんだと思う。おかげさまで無事に20周年が迎えられてよかったなっていうのと、ベスト盤を聴いていると、バンドも自分も成長できたと思うし、そういう変化って誰にでもあると思うんですよね。なので、聴いてくれる人のいろんな場面にお役立ていただけたらと思うし、またみんなにライブで会えたらいいなと思います」
Text by 梶原有紀子