昨年、初のフルアルバム『黄金の海であの子に逢えたなら』をリリース以降、全国津々浦々でのライブはもちろん、遂にはお茶の間にも進出! この秋に放送された日本テレビ『行列のできる法律相談所』では、“ひがみソングの女王”としてゲスト出演し話題を呼ぶなど(笑)、最近関取花の周辺がにわかに騒がしい。そんな注目の彼女が初のシングルとなる『君の住む街』は、EXILE、JUN SKY WALKER(S)、ハルカトミユキ、Hey! Say! JUMP、大原櫻子、K、乃木坂46、中島美嘉、Aimerら多岐にわたる現場で手腕を発揮してきた二千花の野村陽一郎のアレンジにより、関取花の過去最大級のポップネスを引き出したタイトル曲に加え、改札前になぜか現れるカップルのひとコマをシニカルな目線で描いた『べつに』、ハリのある歌声とアルペジオが機能する鉄板の『レイミー』と、めくるめくシチュエーションを独自の視点で切り取った3曲を収録。関取花の今後を占う起点の1枚となっている。リリースツアー大阪公演を前に、今作に至る1年の心の機微を語ってもらった。シンガーソングライター稼業は、思ったよりも楽じゃない!?
「たまにエゴサーチとかしてると、最近はどこからどういう噂を聞いてそう思ってくださってるのか分かんないんですけど、“今日、初めて関取花のライブを観に行く。歌はもちろんだが、MCへの期待が6割”みたいなことが書いてあって(笑)、おかしいなと思いながら」
「アルバム自体は今聴いても自分でもすごく気に入ってるんですけど、その頃はまだライブにはちょっと自信がなくて。本当に最後の最後の東京公演くらいで…割と気にせずにというか、自由に歌えてる感覚が出てきたんですけど。あのツアー中はまだ“どうやったら上手に歌えるんだろう?”と思ってたり、声の調子が悪いと、うーん…てなっちゃったりするところがあったんです。あと、それこそミナホとかサーキットイベントにも出させていただいて、“関取花ちゃんのライブがすごいよかった! 涙が出た!”とまでTwitterには書いてあるのに、次のライブには来ないっていう(笑)。バンドさんのライブで踊って楽しかったインパクトに対して、どうしても記憶の面でも負けちゃうというか。“だったらどうしよう?”って考えたときに、喋ったり、もっと自分のキャラを出すとかを込み込みでやってたら、何かバランスがうまく取れてきて。そういう自分との付き合い方がやっと分かった1年でしたね。だから、今はすごくライブが楽しいんですよね」
「ライブで閉じていたものがパカッと開いてきた感覚と同時に、もっと間口の広い曲があってもいいんじゃないかと思えてきて。元々の好みはアイリッシュとか、ちょっとイナタいサウンドが好きなんで、キラキラ感みたいなものをなるだけ出さないようにしていた部分もちょっとあったんです。いかに泥臭く、楽しい感じにできるか、みたいな“田舎の秋の収穫祭”的な音をイメージしてたんですけど(笑)、子供も大人もおじいちゃんもおばあちゃんも、手軽に聴いてすぐに楽しいって分かる感じがもっとあってもいいなって。今回はどうやったら人の耳に留まるかは割と意識しましたね。特にタイトル曲と『べつに』(M-2)はそうですね」
――ライブでいかに自分の記憶を残すかというところから、作品においても意識的にちゃんと届くものをと。
「元々は次のアルバムに向けて曲をたくさん作っていく中で、『君の住む街』(M-1)だけがちょっと毛色が違ってて。1曲だけキラキラしてて、メロディもすごくポップだし、この曲で間口を広げて、次のアルバムでまた…ちょっと収穫祭的な雰囲気も多分あるし(笑)、自分の好きな音楽性に取り込んでいけたらなって、シングルに選びました」
――さっきあえてキラキラを抑えてたと言ってたけど、そこまでしたのはなぜ?
「何となく勝手な自分のイメージなんですけど、どうしても“ギター抱えて歌ってる女の子”ってなると、“ギタ女”的な括りにまとめられちゃうのに抵抗があったというか。もちろんその市場もちゃんと狙わなきゃいけないとは思うんですけど…うーん、何かそこをちょっと意識的に避けてた部分はありますね」
――なのに『君の住む街』は、書いたときから得も言われぬキラキラ感があったと。最初から手応えもあった?
「最初は、自分でもいい曲だなと思ったんですけど、でも私がやらなくてもいいなって。ふてくされ気味に“いや、いい曲できましたけど?”みたいな感じもちょっとありました(笑)。ただ、アレンジャーさんを入れるのは絶対にやってみたかったことの1つだったので。結果的にはめちゃめちゃよかったんですけど、ここ最近のタイトル曲が弾き語りでグッと聴かせる曲が多かったので、今までやってきたことと全く違うものになったらどうしようっていう抵抗は、ちょっとありましたね」
――せっかく自分から開いた曲が出てきたのに、それはそれで不安、みたいな。“関取花も魂売ったよな”って(笑)。
「あ! そうですそうです! もうまさに! あぁ~それですそれです!(笑) 魂売った感(笑)」
“もっと楽しんでやればいいんだ”って改めて教えてくれた
――そういうこともあってか『君の住む街』は、まぁアレンジでここまで印象が変わるもんなやなって。“あれ? 何か売れそうな曲やん”って思ったもん(笑)。
「アハハ!(笑) ホントそうなんですよね。自分が普段聴く音楽もフレーズを決めずに弾いてる感じのソロだったりリフが好きだったりもしたんで、今までもバンドサウンドはあっても統率を誰かが取るというよりはセッション的な感じで。だから自分にはない引き出し、作り方でしたね。『君の住む街』と他の曲を並べて見ても、もう波形が全然違う。アレンジだけじゃなくて、音の造りとかバランスも全部違うんだなって」
――今作のアレンジャーに二千花の野村陽一郎さんを選定した理由は何かあった?
「とりあえずTSUTAYAに行って、気になるアレンジの曲のクレジットを全部メモして、みたいな。その中に自分の思い描いてるキラキラ感と近いなと思った曲があって、それを手掛けていたのが野村さんで。年齢も若くて共通の知り合いのミュージシャンとかも多かったので」
――ちなみに、そのいいなと思った曲は何?
「星羅ちゃんの『ラブレターのかわりにこの詩を。』(‘10)ですね。星羅ちゃんは今アコースティックギターで弾き語りをやってて、それを観てすごいなと思って。音楽の趣味も合うし、彼女がメジャーでやってたときのサウンドってどんな感じだったんだろう?って純粋に興味が湧いて見つけましたね。その後、野村さんがwacciとかのアレンジをやってる曲も聴いて、老若男女に受けるポップ感だなって」
――かつ、オーダー的には“魂売った感がないようにしてください”と(笑)。
「実際に会う前から、“多分やり過ぎない方がいいよね?”って言われて、“はい”と(笑)。歌のディレクションも結構していただいて、コーラスも入れて。コーラスは最近はほとんど入れてなかったので」
――それが新鮮でした。本人が歌ってるのかな?って思うぐらい。
「そうなんですよ。最初は“ストリングスとかの方がいいのかな?”とも思ったんですけど、やり過ぎ感が出ちゃうからコーラスを重ねたんです。あと、自分では歌詞に沿って歌ってるつもりだったんですけど、いざレコーディングとなるとやっぱり“上手に歌おう”とかそういうことをいまだに思っちゃってたみたいで。“もっと楽しんでやればいいんだ”って改めて教えてくれたというか。メロディに歌詞を乗せるリズムだったり、今まで意識してなくてできていなかったこともそうだし、アレンジャーさんがいるとガチガチに緊張しちゃうのかなと思ってたけど、むしろこの曲の歌入れが終わってから、他の曲のレコーディングがもう楽しくて。今までと全然感覚も違いましたね」
――1曲だけど、今後にもすごく波及するようないい影響を。
「本っ当に本当に、いい影響をいただきました」
“あんた本当に言ってることもやってることも
学生時代と変わらないね”って(笑)
――あと、『君の住む街』の歌詞の世界はどういう発想から生まれたのかなと。
「自分でもよく分からないけど何かちょっと会いたくなる、みたいな“恋の始まりの始まり”ぐらいの気持ちを歌いたくて。今の年齢で言う“あ、好きかも?”みたいな感覚、小っちゃい頃で言う“何してんだろう? あの辺をウロウロしたら会えるかな?”みたいな気持ちを、“恋”とか“好き”という言葉を使わないで歌にしたいなと思って書きました。でも、今回のシングルに『べつに』が入ってたからよかったのもあったと思いますね」
――確かに両A面でもよさそうな曲で。なぜなら『べつに』のMVの方が10万回以上多く再生されてるから(笑)。いつの間にか関取花は、“ひがみソングの女王”みたいなキャッチフレーズが付くポジションを獲得してますけど。
「ありがたいです。この歳で女王になれると思ってなかったな~(笑)。高校の友達にいじられますから。“あ! 女王じゃん!”って(笑)」
――これは関取花のブログとかも含めた世界観に近くて、いち個人としてのパーソナルな目線だったり、『さらばコットンガール』(‘15)みたいなシニカルな曲の流れよね。
「最初は、Aメロとかの言葉の羅列は、もうちょっと身近な人や物事に対して“べつに”っていう内容だったんですよ。ちょっとキツい言葉をキャッチーで軽やかなサウンドに乗せようかなって。でも、せっかくこれだけフックがある歌詞が出てきたんだったら、この軽い感じだからこそ言える、いろんな人に共感してもらえるような“あるある”の方が、それこそ間口が広がるかなと思って。結構悩んで書きましたね」
――改札の前でキスをする人もいれば、ケンカする人もいる。彼氏がめっちゃ怒ってて彼女がじっとうつむいて聞いてるみたいな。あれってホンマ謎の光景よね? 周りにめっちゃ人もいるのに、なぜここで今?っていう(笑) すごくコミカルな曲ですけど、これぞ関取花にしか書けない曲ですよね。
「それこそ高校の友達とかがこの曲を聴いて、“あんた本当に言ってることもやってることも学生時代と変わらないね”って(笑)。“うちらひがんでばっかだったもんね。ありがとう、言葉にしてくれて”っていうLINEが来ました(笑)」
――アハハハハ!(笑) でも本当に、ポロッと言ったひと言を黙って曲にされるんじゃないかという不安が、関取花と話してるとあるよね?(笑) あとは、逆にどんな人なら好きになるのかな?って思いました。
「あぁ~好きになる人ですか? サバイバル能力がありそうな人が好きです!」
(一同爆笑)
――何からサヴァイブするんだ(笑)。すぐにへこたれない感じがいいのかな?
「人に流されなさそうな人というか。けど、頑固者過ぎても社会の中でサヴァイブできないじゃないですか?(笑) そのバランス感覚で言うと、やっぱり極楽とんぼの加藤浩次さんとかはカッコいいなって思うんですよ。朝のテレビ番組の司会を10年やってるのに、かと思えば熱い感じで極楽とんぼの単独ライブを敢行しちゃうし。オドオドしてない人が好きなんだと思う。男っぽい人が好きですね。細い人とかはあんまり」
――この曲は関取花のある種真骨頂ですね。MVの絵もかわいいし、キャスティングにもすごい悪意を感じるし(笑)。この曲がきっかけで、遂にはテレビ番組『行列のできる法律相談所』にも出ましたね。
「元々番組のプロデューサーさんが、結構前から娘さんと一緒によくライブを観に来てくださっていて、曲聴いたりYouTubeを見たりブログを読んだりしてくれて、ナレーションとかの仕事をくださるようになったんです。その流れでたまたまライブで新曲としてこの曲をやったら、やっぱりテレビ業界の方なので体感で尺とかも分かるから、“キャッチーだし、時間もちょうどいいし、これはおもしろいよ!”って言ってくださって。他にも、こんなひがみっぽい曲を歌う子が理想の結婚観を語る、みたいな番組のコメンテーターとして出させていただいたり(笑)」
――いや~そう考えると、音楽を続けてるといろんなことがあるね。
「もう本当にそういうことばっかりで。だからその期待を絶対に裏切れないし、良くも悪くもちゃんとおもしろいものを提供しないと、音楽もそうだし、テレビなんてましてやどんどん流れていっちゃう世界じゃないですか。音楽ばっかりやってると、そういうお茶の間の感覚を忘れちゃったりもするんで。それこそ間口の広い曲を書こうと思ったのも、こういう流れがあってっていうのは、すごくありましたね。いろんな勉強になりました」
――もう1曲の『レイミー』(M-3)は、本当に聴いていて心地いい、声の特性が活きた曲で。これは“レイミー”って誰なん?って聞いたら誰かは分からんけど名前です、みたいなシリーズよね?(笑)
「そうなんですよ(笑)。これは『愛しのローレンス』(‘15)パターンですね。これは割と私っぽい感じというか、手癖で弾いてるアルペジオとかからできるパターンなんで、口ずさんで気持ちいい言葉が多分『レイミー』で、すんなりメロディと歌詞ができた感じですね。そこからスタッフさんの提案を受けて何回か歌詞を書き直したりしてみたんですけど、結果、この曲は私らしい感じで残しました。この2曲の並びの後にこういう曲が入ってる方が、いいバランスになるんじゃないかなと思って」
ライブになった瞬間に入るスイッチみたいなものが、明らかにできたなって
――東阪でリリースツアーもあって、大阪公演は梅田Shangri-Laで行われます。今年はライブが多い1年でしたね。
「去年アルバムをリリースして、いろんなところでライブもさせていただいて。バンドセットでやったのは、ワンマンとかサンフジンズと対バンしたときとか大きいライブだったんですけど、メンバーはレコーディングも一緒にやったメンバーなんで、去年よりも意思疎通もできて仲良くもなってるし、ライブをものすごく楽しくやる人たちなので、それはすっごい勉強になって刺激ももらって。いいチームでできていると思うので、またさらに濃い感じになるんじゃないかなぁ(笑)」
――’16年を振り返ってどういう1年でした?
「いい意味で前のアルバムの余韻を引きずりつつ、明らかに心が軽くなった感じはします。何か不思議な巡り合わせというか、テレビの件とかもそうなんですけど、新しい友達ができたり、ライブでもプライベートでも、あらゆる意味で本当に自分との付き合い方を知った1年でした。ただ、実際に付き合う相手だけいないっていう(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「あと、ライブになった瞬間に入るスイッチみたいなものが、明らかにできたなって。すんごい不機嫌で、直前まで“ハァ!?”みたいなときでも、ステージに上がったらイケるマインドは手に入れたかな(笑)」
――今年1年でライブの在り方も掴んでいって、人となりも追いついてきた感じやね。もう全てが揃ってきてるから、来年はいいことあるかもね。
「ヤバい! 結婚かなぁ?(笑)」
――アハハハハ!(笑) いきなり!?(笑)
「子供を抱いて“奥さん(=筆者)久しぶり~♪”って(笑)」
――“リリースしました~”って(笑)。
「アハハハハ!(笑) もうホント、想像妊娠以外ありえない!(笑)」
――徐々に関取花の音楽が広がっているのを肌で感じるので、今後も楽しみにしてます!
「はい! ありがとうございました~!」
Text by 奥“ボウイ”昌史