井上ヤスオバーガー、植田真梨恵、丸本莉子、近藤晃央、
片平里菜、指田フミヤ、大石昌良、そして大柴広己!
シンガーソングライターによるマイク1本弾き語り野外フェス
『SSW15』を振り返るプレイバックレポート【前編】
シンガーソングライターによるマイク1本の弾き語り野外フェス『SSW』。’14年の初開催時よりandymori解散直後の小山田壮平が出演するなど話題を呼んだ同フェスは、“旅するシンガーソングライター”こと大柴広己の主催のもとスタート。ソロアーティストはもちろん、バンドのフロントマンとしての顔も持つ面々など、多くのシンガーソングライターが出演する『SSW』は、’15年には日程を2DAYSに拡大。サブステージのラインナップにはSNSによる他薦及び自薦を取り入れるなど、オーディエンスの声を活かした意欲的な試みも行われ、昨年は総勢29組が熱いライブを繰り広げた。そこで、今年も10月29日(土)・30日(日)大阪城音楽堂にていよいよ開催される『SSW16』を前に、昨年の模様を振り返るプレイバックレポートを前後編のフルボリュームでお届け。SSW=シンガーソングライターの決意と覚悟とグッドメロディが大阪野音の大空に高らかに鳴り響いた、あの2日間の興奮が蘇る! まずは1年越しの“約束”を果たした初日の模様をレポート!!
晴天。いやド晴天。雲1つない青空のもと、開場と同時に1人また1人と大阪城音楽堂にオーディエンスが集まっていく。そんな野音の大きなステージ上には、マイク1本。そのとっておきのステージに、Tシャツにジーンズ、そして『SSW』のロゴが貼り付いたハットをかぶり颯爽と現れたのは、初日の、そして『SSW』のオープニングを飾るゲスト、
井上ヤスオバーガー! 関西のシンガーソングライターの代表格と言える彼の経験値が活きまくるいつもの軽妙なトークで、会場のハートを掴むのに時間はかからない。「残念ながら今日は大石(昌良)くんも大柴広己も、この後出てくるかは分かりません(笑)。もっとフィナーレみたいに! ここで力を使い果たすみたいに!」と煽りつつ、さすがのステージを積み上げていく。
続いて、「めっちゃ晴れてよかったです。俺のおかげです(笑)。みんなそうやってSNSでつぶやいたら、全部お気に入りに入れるから」と(笑)、この青空に捧げたのは『ココロの旗』。グッと胸に沁みるメロディを会場いっぱいに行き渡らせたかと思えば、「大柴が19の頃に出会って、いつの間にか俺が後輩みたいになって、いろいろと教えてもらってます、生き方とか(笑)」なんて最後までサービス精神旺盛な彼が、ラストにステージに残していったのは、その名も『シンガーソングライター』。歌い手としての日々と覚悟を刻み付けたこの曲は、彼がなぜこの2日間のオープニングゲストを務めたかを、如実に証明していたかのようだった。
そしていよいよ、メインステージのトップバッターを務める
植田真梨恵が登場! メジャーデビュー以降の躍進目覚ましい彼女は、しょっぱなから強さと鋭さをコーティングする独自の声の響きで、会場のどこにいても胸に突き刺さる歌声を披露。「晴れてよかったですね」なんて会場をねぎらいながら、自身もこのステージに立てる喜びを存分に感じているよう。が、ここでちょっとしたアクシデントが。
「久しぶりに弦が切れちゃいました。裏にはいっぱいギターがあると思うんですけど、誰か…私のことを好きな誰か…(笑)」なんてキュートなおねだりズルい(笑)。その声に応えた主宰の大柴広己が自身のギターを手渡すと、「これ大柴さんの匂いがする(笑)」なんて微笑ましい一幕も。MCでは大柴との10代後半での出会いを語りつつ、「弾き語りをずっとやっていたら、いろんな再会があるなと」と、共演者と、会場のお客さんの顔を感慨深く眺める彼女。ここで自身のギターの弦が張り直され戻ってきたものの、「こんな機会、滅多にないから…いいかな?」とその鳴りに惚れた彼女はそのまま継投。
「この後も、たくさんたくさん素敵な歌を作って歌う人が出てきます。私は15歳の頃に福岡から出てきて、ホントに自分に曲なんか書けるのかな?っていうところから始まって…みんなの寂しいときに、みんなの傍にある音楽であればいいなと思います」
最後に歌い上げた『わかんないのはいやだ』まで全5曲、若くして積んできたキャリアと、初の野音というこれからと。彼女のシンガーソングライター人生が交差した美しい瞬間だった。
冒頭のアカペラから会場の空気を一瞬にして束ねたのは、広島出身のシンガーソングライター、
丸本莉子だ。朗らかで包容力のある歌声は、女性ならではの強みであり、彼女ならではの凄みを感じさせる。ここで、「大阪の広島の共通点と言えば、野球がアツいということですが(笑)、この曲を聴けばゴキゲンになるという噂で、皆さんもそうなってきたら歌ってください!」と始まったのは、広島カープの中崎翔太選手の登場曲にも起用されている『ご機嫌ベイベー★』。かと思えば、女子のリアルな日常をコミカル&キュートに綴ったこの曲から一転、男女の別れをシリアスに描いた『愛した人』と、ソングライターとしての振り幅と手腕をしっかりと見せ付ける。
そして、「昨日は遠足みたいに楽しみ過ぎて眠れなかった」と笑いつつ(MCすらええ声)、高校生の頃に作ったという『コトバ』を。色褪せることなきタイムレスな楽曲に心地よく引き込まれながら、最後は『心のカタチ』を披露。
「私は音楽でみんなが笑顔になると、これからも信じて歌っていくんで」
深みのある歌声とシンガーソングライターとしての決意表明は、しっかりと大阪城音楽堂に鳴り響いた。
サウンドチェックで主宰の大柴広己の名曲『さよならミッドナイト』を披露し、いきなり会場を沸かせたのは
近藤晃央。「さっき歌ったのは僕の曲じゃないんですけど(笑)、今年も歌わせてもらいます。最近、あの曲の歌詞が“テーブルの上に缶ビールと近藤♪”って聴こえるんですよ(本当はコンドーム!(笑))」と、歌声のみならずMCも絶好調。「気持ちいい時間帯に寝てしまわないように、ムダな話をちょくちょく挟み込んでいこうかなと」と笑わせつつも、いざ歌い出せば圧倒的な歌声とリズミカルなカッティングに瞬時に乗せられ引き込まれる。会場から巻き起こったクラップに思わず「いいね~森のリバーブが効いてるよ」と漏らすグッドヴァイブなシチュエーションも心地いい。
「“シンガーソングライターのシーンを作る”、そのシーンって何だろうって考えてたんですけど…僕が思うシーンは、単純に1人の歌い手が思うことを嘘がない言葉に乗せて、それを続けていけは、勝手に後からついてくるのかもしれないなって。今日は改めて頑張らないといけないなと思ったし、みんなにこういうシーンを作った当事者であって欲しいんです。そのきっかけを作った大柴さんは偉いと思うし、そこに僕らも力を注がないとなと思う。一緒にシーンを作っていきましょう」
できるかできないかじゃなくて、やりたいと思うことを、信じて続けること。飾らない言葉でその決意とシンガーソングライターとしての存在感を、存分に感じさせたステージだった。
「ここに帰ってこれてとても嬉しいです。今日はこんな立派な場所で歌わせてもらってますが、ちょっと前までは路上ライブをしていました。そのときのことを思って作った曲です」
自身の原点とも言える『CROSS ROAD』でそのライブをスタートさせたのは、四番手となる
片平里菜。「大阪の皆さん、歌は好きですか? 聴いてるだけじゃつまんなくない? この曲でみんなで歌いたいと思うから、ちょっと待っててね」と、可憐なワンピース姿とは裏腹に迫力のある歌声で圧倒した『BAD GIRL』では、会場を巻き込んでのコール&レスポンスも! 「こういうギターと歌だけの音楽って、優しい気持ちになるよね。大事なことに気付かされるなって思います」と会場のムードと自分を重ね合わせつつも、一筋縄ではいかない女心を綴った『女の子は泣かない』を披露するなど、“ギタ女”と称される女性シンガーソングライターの枠組など軽々と凌駕する才能と歌声、時折見せる歳相応の女性としてのキュートさでオーディエンスを魅了していく。
そして最後は、「いつまでも音楽が、歌が鳴り響いてる場所だったらいいなと思います」と、生声生ギターのアンプラグドで『最高の仕打ち』を披露! マイク1本弾き語りフェスのそのマイクすら使わぬパフォーマンスは、まさにこの日のハイライト。その場にいる全ての人の心に響いたことは、ステージを去る彼女を包んだ拍手の大きさと優しさがしっかりと示していた。
「夕暮れに会う時間帯の曲を」と『オレンジ』で始まったのは、この日唯一のピアノ弾き語りでの参戦となった、初出演の
指田フミヤだ。楽曲の切なさ成分をブーストするかのようなダイナミックなピアノの旋律が新鮮に響く。
一転、「ライブでいつも聞くんですけど、鉄道マニアの方いますか? 僕がそうなんですけど、僕は阪急電車の2000系、阪急マルーンっていう電車が大好きなんですよ。あれ…? 僕はみんなの心を乱しても、ダイヤは乱さないからね?(笑) 自慢じゃないけどこれで『タモリ倶楽部』に出たから(笑)」と、MCでは思いのほかざっくばらんな一面を垣間見せ(笑)、これにはオーディエンスも思わずリラックス。
続く2曲では、心のガードを解除した初見のお客さんも積極的にコール&レスポンスに参加するなど、確かな実力と人を巻き込む人間力を早々に発揮。“100年に1人の癒しの声”と評される歌声、ドラマティックでソウルフルなナンバーの数々を聴かせ、「最後はここにいる皆さんにダイレクトに言葉伝わるように、“生きる”ということをテーマにした曲を歌います」と『花になれ』を。MCでふと語った「今日は運命の出会いだと思ってますんで」という彼の言葉が、真実味をもって響いたオーディエンスはどれだけ多かったことだろう。
何でしょう、この安心感は。サウンドチェックから、1曲目が始まる前のライブの楽しみ方指南から、今日イチの盛り上がりをハジき出したのが
大石昌良(Sound Schedule)だ。本物さながらのボイス・トランペットとロングスキャットにアコギのタッピングまで…。縦横無尽に魅せていくその様は、冒頭で彼が“弾き語りショー”と称したのも納得のエンタテインメント。リズミカルでシアトリカルな『幻想アンダーグラウンド』、メロウでソウルフルな『トライアングル』でも、ボーカル、ソングライティング、ギタープレイetc…全てのチャンネル=才能をフルドライブさせて“弾き語りの限界”に挑戦していく。
そして、何より圧巻だったのが「音楽をやる上で一番大切なことをこの曲に教えてもらった」と語る、『耳の聞こえなくなった恋人とそのうたうたい』。突発性難聴に陥った、一番傍にいる1人に届かないもどかしさを歌ったこの曲は、スキルを越えた“何か”が宿る音楽というものの、得も言われぬ衝動を形にした楽曲だ。
「僕は僕のハートをみんなにお届けして終わりたいと思います。僕のドキュメントです、聴いてください」
最後に奏でたその感動の名曲は、彼がこの日他のアーティストのライブを観て感じた、「シンガーソングライターの歌にはその答えがあると思う」と感じた“一番大切なこと”が、しっかりと封じ込められていた。
「ただいま! 去年の約束を果たしに、帰ってきました。シンガーソングライターなんて生き物はろくでなしばっかりなんです。そのろくでなしが素晴らしいんです。そんなシンガーソングライターたちに」と、イーグルスの『デスぺラード』(ならず者)のオリジナル日本語詞カバーからスタートしたのは、『SSW』の主宰にして真打・
大柴広己! 「最高のろくでなしたちに拍手!」となだれ込んだ『コノユビトマレ』では、存分に場をあたためた先の大石昌良に感謝の意を述べつつ、「本当に集まってくれて嬉しいです。去年このステージで“来年もやります”と約束して、去年も来てくれたみんなの顔、結構覚えてるよ(笑)。力いっぱい歌っていきますんでよろしく!」と、日々を生きる全ての人をそっと勇気付ける『誰かのために働けば』を届ける。
「俺だってサマソニとか、ライジングサンとか、出たかったですよ。でも、10年経っても誰も呼ばないんですよ。だから自分でフェスやったった! みんな来てくれてありがとう!! みんなの顔を見ていると、うっすらだったインクが濃くなっていくような…そんな気持ちです。“シンガーソングライターの音楽が世界を変える”って、誰より思ってるから、それを支えてくれる人たちが、シンガーソングライターが集まってくれるんだと思います。世界中探しても、こんなフェスないからね。こんな大きなステージにマイク1本しかないねんで!? これからも、自分の信じたことをやり続けて、自分の好きな音楽を好きでいてください」
そんなMCの後に、まだ大柴自身がレコード会社に所属していた時代、“歌詞を変えろ”と言われ、それでも想いを曲げなかった、曲げられなかった、曰くつきの名曲『さよならミッドナイト』がグッと心に響く。「自分が音楽で感動したから、音楽で感動させたいんです。人はいつだってやり直せるんです。自分が青春だって思ったら、青春なんです」と、夢と挫折とそれでも続いていく東京の日々を歌う『すばらしい日々』を経て、遂に最後の曲へ…。
「こんな楽しいフェス、明日もあるんですよ?(笑) ライブは生モノですから、二度と同じ歌はないんです。ウソは跳ね返ってくるし、自分が本当に思ってないことは伝わらない。だからライブが好きだし、俺、『SSW』がめっちゃ好きなんです! 明日は明日で、また違う景色で観られるでしょう。今日はどうもありがとうございました!」
ラストは長らく歌い続けながらずっと音源化されていなかった名曲『ひだまりの花』を。主宰自らの手でしっかりと2日目へバトンを渡した、大柴広己のステージだった。
そして、鳴り止まない拍手に応えて再び現れた大柴は、「伝えたいことは全部伝えたんで、歌いたい欲が全然ないわ(笑)」と笑い、出演者をステージへと呼び込む。盛大な拍手に見送られたエンディングで、初日は幕を閉じた。
Text by 奥“ボウイ”昌史
Photo by 田浦ボン/キシノユイ
(2016年10月27日更新)
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