――攻めの姿勢と言えば、第2弾シングル『ETERNITY』の真っ白なMV含めすごく意外でした。lynch.=ヘヴィでダークなイメージがあるので余計にそう思ったのかもしれません。
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玲央 「MVに僕らは出ていないですからね(笑)」
晁直 「元々は葉月くんも出る予定ではなかったですから。でも、『ETERNITY』は元々lynch.が持っている部分を突き詰めたような曲だと思っているので、僕らメンバー的にはそこまで意外な部分ではないんです」
玲央 「ただ、いろんな曲に散りばめられていた綺麗な、透明感のある要素をギュッと集めてそれだけで押し通したのもあるので、要素としては持っていたけど、ここまで露骨に濃いものとして提示したのは初めてかなと」
――『ETERNITY』の歌詞は深い想いが込められているんですよね?
玲央 「タイトルの由来とかも含めて葉月から説明を受けたんですけど、彼のおじいちゃんが亡くなって、その後、自分がおじいちゃんに対してどう思っていたのか、死というものを目の当たりにしての気持ちの整理という部分を歌にした部分があって。歌詞もそうなんですけど、より悲壮感が出るようにピアノを前面に聴かせたいと言われていたので、僕や特に晁直なんかは、いかに邪魔をしないように、悪目立ちしないようにバックアップするのか、結構戸惑った部分はありましたね。今までは自分の音をちゃんと聴かせることを考えてきたので、下がった上でどう聴かせるかは、ちょっと難しかったですね」
やっぱり“売れる”ということはみんなに支持される
みんなが好きだっていうことなんで、全然悪いことじゃない
――その切なくも美しい『ETERNITY』と、破壊的な『EVOKE』という対照的なシングル2枚からどんなアルバムになるのかと思っていたのですが、lynch.らしさと新しさを感じられるものになっていますね。
晁直 「『EVOKE』と『ETERNITY』を振り幅と考えてもらったら逆に困るなって感じですね。『INTRODUCTION』(M-1)『D.A.R.K.』(M-2)を聴くとダークな作品だと思うかもしれないですけど、2曲目が終わったらまた違う曲がどんどん出てくるので」
玲央 「前作『GALLOWS』(‘14)の対抗馬と考えるのではなくて、別の位置付けで打ち立てられたらバンドにとってもおもしろいかなと思ったので、この曲たちを活かすにはどうしたらいいかだけを考えた結果、多面体のようなアルバムになったのかなと思います」
――確かに多面体というだけあって、『GHOST』(M-5)はまた今までと毛色が違いますよね。
玲央 「葉月からカントリー調の原曲が送られてきて、“ハンバーグが出てくる、ステーキハウスみたいなところでかかっているような感じで”って説明されて(笑)。明徳(b)は“なるべくイナタい音が出るベースを探してきてくれ”って言われて、懇意にしているメーカーさんのところに行って“一番おじさん臭いベースを貸してください”って言ったらしくて(笑)。メーカーさんは“シェイプが? 音が? 何が?”ってなったらしく(笑)」
――葉月さんといい、明徳さんといい、らしいエピソードですね。あと『MOON』(M-13)もこれまでにないキャッチーなもので驚きました。
玲央 「実は『GALLOWS』のタイミングでも収録候補曲としてあったんですけど、当時はアルバム全編で打ち出したい世界観がしっかりと出来上がっていたので、曲順的にも『MOON』を入れる場所がなくて外れたんですよ。今回はこうやって多方面にアプローチするアルバムということで、また活きてきたという。ベスト盤のリリースとかいろんなことを経て、ここまでキャッチーにやり過ぎても自分たちらしさを見失わない自信からもきているんですけどね」
――全体的にサウンドのスケール感も増していますよね。
玲央 「それはホールツアーがあったからかもしれないですね。今までよりも天井の高い広い景色を観られたのが一番大きいかもしれないです。ちょっと話がズレちゃうんですけど、インディーズバンド、とくにパンク系のバンドの傾向として、メンタルなところで“売れてないのがカッコいい”みたいな、“一般受けしたら負け”という反骨の精神があると思うし、少なからずそういったところって誰しも一度は通ると思うんですよ。でも、そうじゃないんですよね。やっぱり“売れる”ということはみんなに支持される、みんなが好きだっていうことなんで、全然悪いことじゃないんですよね。ホールツアーでポピュラリティに対する考え方が一段と深くなったというか。大きい声で名前を呼ばれるのは気持ちいいものですよ」
晁直 「メンバー内でも“いつか武道館でやりたい”という意見もちらっと出てくることがあるので、武道館でやりたいならホールツアーをやるべきなのかなと考えましたけど、僕は最初は反対していたんですよ。でも、やってみたらいわゆる“コンサート”じゃなくて普通にライブをしている感覚だったので、lynch.がやればlynch.のライブになるんだな、みたいな感覚はやり終えてありましたね。案外ライブハウスでやっているときと変わらなかったです」
――なぜホールツアーに反対だったのですか?
玲央 「反対というか、後ろ向きだった感じだよね?」
晁直 「でも1回やって、全然前向きになりましたよ(笑)」
本当に周りの雑音が聞こえなくなったというか、それにめげなくなった
――『BEAST』(M-9)は来春公開の映画『復讐したい』の主題歌になっています。
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玲央 「これはアルバムのリード曲でもあり、一般の方と一緒にコーラスをしたんです。Twitterでの『EVOKE』MV拡散キャンペーンに抽選で当選した方と、普段コーラスをやらない晁直とかも一緒に交じって歌ったので、これはこれでレアかな。参加した方にはすごく喜んでもらえたので、次回以降もこういった機会があれば是非やっていけたらと」
――そういうコーラスの試みだったり、今作は本当にいろいろなことに挑戦していますね。
玲央 「バンドとして年齢を重ねることでこだわっていたこと、今まで頑なに拒んでいたようなことが、くだらなく思えてきて。ちょっと安っぽい言葉になっちゃうんですけど、lynch.としても世界がどんどん広がっている感覚があるんですよ。やってみないと分からないことがいっぱいあるし、そういったことにチャレンジする姿勢は攻めに見えるだろうから、そうすることで自分たち自身も常に何かを発信する存在でありたいなと思っています」
晁直 「僕は『EXODUS-EP』(‘13)くらいからドラムの重心を下に置くようになって、そこからは作品ごとにドラムの音を突き詰めていく作業の繰り返しなので、特別チャレンジしたことはあまりないんですけど、こういうヘヴィな音楽ってミックスがすごく難しいらしくて。録りの段階からしっかり一音一音を叩いてくれと改めて言われて、音数も多いし、全パートが前に出る勢いがあるから、逆にアレンジをシンプルにしたのはありますね」
玲央 「自由度は広がったかもしれないです。“こうあるべきだ”という鎧がなくなって、裸で戦えるようになった。でも、それって続けてきたからこその自信で、だからこそいろんなことが出来るようになってきたし、ブレない自信もあります。いきなりバッと鎧を脱ぐというよりも、重いから1つ1つ外していったら、割とそれでも戦えるなっていう、そういうノリですかね(笑)。やっと自由になれた気がします」
――そうなれたのは前作『GALLOWS』を作り上げたことが大きかったりします?
玲央 「おぼろげにあった求められていることを形にしようと、コンセプチュアルな尖ったダークな作品を作ったんですけど、それが本当にメンバーの予想以上の高評価を得て。自分たちの感覚は間違ってなかったと思えたから、周りを気にしなくなったという(笑)。“ラウド系と呼ばれるシーンはこうあるべきだ”とか、“そういったバンドと一緒にやるにはこうならなきゃ”とか、そういうのはもうどうでもいいなって。メイクも表現としてしているわけだし、ジーパン、Tシャツのバンド群の中にいきなり黒い服で飛び込むだけでも個性だと思うし、本当に周りの雑音が聞こえなくなったというか、聞こえてはいるけど、それにめげなくなった。ヘンに突っ張っていたから、もっと自分たちがオープンになればいいだけのことだったなって、ちょっと反省するところもあるんですよ(笑)」
――前作が高評価を受けたことで、今作を作る難しさはなかったですか?
晁直 「多分、考えてないと思います(笑)。大半の曲を葉月くんが作っているんですけど、やっぱり『GALLOWS』を意識せざるを得ない部分はあったと思うんですけど、出来上がったものを聴いたら、前作とはまた次元の違う、また別の位置にある作品になっていたから、これはこれですごいことだなと」
玲央 「本人も『GALLOWS』を意識して作り始めたけど、途中でどうでもよくなってきたと言っていたので(笑)。勝負するのはそこじゃないっていう。作品としてどうだという相対評価じゃなくて、絶対評価の部分でおもしろいものを作ろうという、ただそれだけですね。ちょっと悟りの境地みたいですけど。10年経って悟りました(笑)」
ライブハウスにこだわってやってきたバンドがホールを経て
またライブハウスでやることがどういったことなのか
――その最新作に伴うツアーがありますが、珍しい会場もありますね。
玲央 「いろんなところで待ってくれている人に、ちゃんと観せたいなと思って。滋賀は前回のツアーでもやっていましたけど。ちょっと諸事情があって(笑)」
――それはもしや、釣りが関係しているのでは…?(笑)
晁直 「メンバー3人(晁直、葉月、明徳)から始まって周りに飛び火し始めて、今はスタッフ含め、半数以上が釣りをしていますからね(笑)」
玲央 「今や釣りをやっていないのが僕と悠介(g)とマネージャーだけですもん。みんなが楽しそうにしている会話とか、車内で流してる釣りのDVDとかを観て興味を持ち、やってみたらおもしろいってどんどんやり出して。みんな彼(晁直)に釣られたんですよ(笑)」
――関西は滋賀の他、大阪なんばHatchがありますが、ここでのワンマンは初ですか?
玲央 「イベントではありますけど、ワンマンとしては初めてですね。前回、BIGCATがソールドアウトして観られなかった人がいることも踏まえてのHatchだったりします。昔はソールドアウトにこだわっていたけど、今はそれがどうでもよくなってきて。もちろんたくさん入ってくれるとありがたいんですけど、やっぱり観たい人全員がライブを観られる環境を作るのがベストだと思うんです。会場の大きさにほぼほぼ近いところに収まるのが一番美しいと思うので、そこを見極める感覚も常にアンテナを張っておきたいなって。本当に物事の真理を見られるようになったというか、体裁を気にしなくなったというか。それが強みなのかなとも思っているので」
――その感覚は経験がもたらしたものですか?
玲央 「去年1年やってきた中でやっと見えてきたものもあるので。自分が何を欲していて、何を求められているのかが明白に、リンクして見えるようになってきました。こういうものを提供したら喜んでもらえる、ちょっとしたサプライズになるだろうとか、割とその辺の感覚はついてきたかなと思います。これを読んでくれている若いバンドの子がいたら、“せめて10年続けたら何か変わるよ”って声を大にして言いたいですね」
――最後にツアーへの意気込みも聞かせてください。
晁直 「今回は、お客さんを意識して作曲した曲が結構多いので、本当にアルバムを聴き込んで来てもらいたいなって。皆さんが参加出来る場所がいっぱいあるので、ちょっと僕らも期待しつつ楽しみにしています。lynch.って見た目が怖いから敬遠される部分が絶対にあると思うんですけど(笑)、曲はキャッチーさに重きを置いているので聴きやすさには実は自信があるんですよ。だから、見た目で判断せずに一度曲を聴いてもらえたらなと思います」
玲央 「ホールツアーで経験したことも踏まえて、今までよりももうちょっと大きなスケール感をこちら側から出していきたいなと思っています。ライブハウスにこだわってやってきたバンドがホールを経て、またライブハウスでやることがどういったことなのかを、自分自身もちゃんと理解した上でみんなにアプローチ出来たら、また1つ僕らの武器にもなるだろうし、観に来ている人たちも今までと違う景色が観られるだろうし。そういったところを意識しながら、ツアーファイナルの東京ドームシティホールでもっと大きくなりたいなと思います」
Text by 金子裕希